World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
922 / 1,646

隠し通路と秘密の部屋

しおりを挟む
 ツバキは青いレインコートの少年に手持ちの魔石を与えると、彼の魔力は補充されフラついていた身体は、先程のモンスターから逃げていた時よりもしっかりとしたものになっていた。

 全快とまではいかないが、囮りを引き受けるだけの魔力を得た少年は、ツバキに言われた通り、モンスターの気を引く行動にでる。

 ツバキの攻撃により氷漬けになった三体のソウルリーパーの氷像の方へ駆け寄ると、それに向かって思いっきり体当たりをして見せる。少年の身体と比べるとだいぶ大きなその氷像は、少年から受けた衝撃で傾き、ドミノ倒しのように倒れていく。

 そして床に当たったところで、氷漬けのモンスターはガラスのように大きな音を立てて砕け散る。モンスターがやって来る前に、ツバキは彼の覚悟を目の当たりにし、自分もくよくよしていられないと、ネガティブな感情を置き去りにし、物陰に隠れる。

 周囲を見渡し、モンスターの気配を探すレインコートの少年。間も無くして、氷像が割れる音を聞きつけたモンスター達が、様々な方角から集まり出した。

 壁をすり抜けてやって来たモンスターが、隠れていたツバキの頭上を鬼の形相で駆け抜けていく。集まったモンスターの注意を、少年が集めた時が行動に移る合図。

 ツバキは通り過ぎたモンスターが向かう、青いレインコートの少年の方を振り返る。集まり方に斑がある為か、少年はしばらくの間、いち早く集まったモンスターの相手をして時間を稼ぐ。

 魔石のおかげで回復した魔力をふんだんに使い、最初の数体の内は順調に撃退していく。一体ずつ相手にしている時は余裕のあった少年も、魔法の発動に手惑い二体目三体目と姿を現すモンスターに、魔法を中断して移動を開始する。

 だが、誘い出されたモンスターの数は、ついに片手で収まる数を超え始め、逃げていた少年の正面の壁からも姿を現す。咄嗟の事態に、少年は足を止めてこれまでとは違ったタイプの魔法を発動する。

 それは身を守る為の魔法だったのか、攻撃魔法よりも発動が早く、半円形の光の障壁が少年の周りに展開される。

 迫り来るモンスター達は障壁に衝突し、立ち往生を食らう。だがそれも束の間。モンスター達はすぐに少年の展開した光の壁に攻撃を開始。まるで雨のように振り下ろされるモンスターの鋭い爪が、光の壁を打ちつける。

 何度も打ち込まれた箇所は徐々にひび割れていき、破壊されてしまうのも時間の問題だろう。だがこれこそ、ツバキの待ち望んでいたチャンスだった。

 囮りの少年を守る障壁の破壊に躍起になるモンスター達の隙を突き、ツバキは気付かれぬ内に少年を置き去りにし、部屋を後にする。ツバキは振り返ることもなく駆けていく。

 歳の変わらぬ少年が、恐怖に足を震わせながらもツバキや仲間達、そして彼らの慕う先生の為に耐えているのだ。彼らを救う手段は、一刻も早く他の仲間や先生と呼ばれる人物を解放すること。

 ツバキは最後に、餞別代わりに魔石を少年の足元へ滑らせるように投げ込んだ。少年が稼いだ時間のおかげで、難なく部屋を抜ける事ができたツバキは、そのまま通路を走り、奥の部屋を目指す。

 「待ってろよ、すぐに助けてやるから・・・。それにしても、なんて数の部屋だ。だが、彼らの魔力は魔石の反応で分かるようになった。少なくともこれで、彼らを探すことは出来る。少しでも彼の負担を減らす為に、別の囮り役を増やすか。それとも、先生って奴の居場所の情報を聞き出すか・・・」

 ここの匙加減は非常に重要で、失敗も許されない。難しい判断を迫られながらも、ツバキは魔石の反応を頼りに他のレインコートの子供達を見つけ、囮り役と情報源とで分けて割り振り、地下施設の何処かに囚われているという先生と呼ばれる人物を探す。

 道中で見つけた子供達の情報から、ツバキは幾つもある部屋の一つで、他の部屋とも然程変わり映えのしない、資料室の一つへと足を踏み入れる。

 ツバキが地下施設に到達し、青いレインコートを着た少年と別れてから出会った子供達から得た先生の居場所に関する情報を整理すると・・・。

 ・先生と呼ばれる人物は、とある一室にある隠し部屋から繋がる“先生の研究室“に居る。隠し部屋の場所は、一部の子供達しか知らずその存在事態知らない子供も多い。

 ・隠し部屋があるという部屋は、本が沢山ある部屋である。そこに収納されている、壁と隣接した本棚の本を正しい順番に入れ替え、特定の順番で特定の回数押し込んでいくと、その道は開かれる。

 ・隠し通路を抜けた先にある研究室に入るには、特定の内容の“本“が一冊必要になる。その本の内容は、子供に読み聞かせるような“童話“の本であること。童話の本であれば、国やストーリーのジャンルは問わない。

 「こんな研究施設に童話の本って・・・どういう事だ?彼らに読んであげてた本って事なのか・・・?」

 知れば知るほど悍ましい実験や研究をしていたことが浮き彫りとなってくるこの施設で、全く関係のないと思われる童話を題材とした本が鍵となるのが、不自然に思えて仕方がなかったツバキ。

 彼のいう通り、ここには多くの感情を持たない子供達が送り込まれていたようだ。そんな彼らに“心“を持たせる為に、先生と呼ばれていた人物が用いた物だったのだろうか。

 いくら考えても理解の及ばぬことに困惑しながらも、ツバキはレインコートの子供達が、その身を賭して残した情報を信じ、辿り着いた本棚の多くある部屋で、手順通りに作業を行なっていくと、子供達が口にしていた通り、地下施設の更に奥へと通じる通路が現れる。

 「これか・・・。待ってろよ。すぐに済ませて来るから・・・」

 囮としてモンスターの注意を引く為に、わざと大きな物音を立てて派手に戦うレインコートの子供達の音に振り返るツバキ。彼らに無理強いをしてしまった事と、彼らの覚悟を無駄にしない為にも、ツバキは先生の研究室へと向かう。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...