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情報と囮り役
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緑色のレインコートの少年を見送った後、彼から聞いた情報を手掛かりにツバキは、彼らに先生と呼ばれる人物を探しに行く。
しかし、施設内は一本道にはなっておらず、通路の両脇に幾つも部屋が分かれている、まるで蟻の巣のような複雑な構造をしていた。建物そのものでも、十分迷ってしまうほど大きなものだったが、道が狭くなり見通しが悪くなった分、地下はそれよりも更に迷いやすい。
そして何より、通路や部屋の中を探索していると、不意に壁や天井をすり抜けてやって来るソウルリーパーとの遭遇率が増えてきていた。
倒す必要のあるものだけ倒し先に進むツバキだったが、戦闘を行えば物音がたち他のモンスターを引き寄せてしまう。素早く仕留める事を心がけ、倒した後は即座に物陰へ姿を隠して対処していたツバキだったが、徐々に魔石の残量に不安を覚え始める。
「クソ・・・この調子じゃ埒が明かない。一旦戻るべきか・・・?」
魔石を持ち運べる量には限りがある。地下の研究施設には多くの魔石が残っていたが、その全てを持ち出した訳ではない。それに、僅かではあるが幾つもある部屋の中には、装置に繋がれた魔石や空っぽになった魔石が放置され、再び魔力を蓄え始めている物も幾つか拾える。
奥に進むにつれ、各方向から幾つかの戦闘音らしきものが聞こえてくる。未だ見ぬレインコートの子供達が、ツバキの知らないところで今もモンスターの気を引くために戦ってくれているのだろうか。
「おいおい、無茶してねぇといいが・・・。いや待てよ?」
そこでふと彼が思いついたのは、地下施設でチリジリになっている子供達に合い、モンスターの気を引く為に動いてもらうか、彼らには悪いが情報と引き換えに消えてもらうかという判断をするというものだった。
緑のレインコートの少年が教えてくれたように、彼らは望んでここに残っている。そして、ツバキが会ってきた子供達の中には、自ら進んでフードを外し、ツバキに情報を与える選択をした者が何人かいた。
そして消えはするものの、彼らは消滅するという訳ではなく、意識がこの空間から解放され、あるべきところへ戻るということも分かって来た。
彼らがツバキに手を貸す理由は分からないが、少なくとも無理矢理消し去るという事にはならない以上、ツバキ自身の心も少しは軽くなる。
「よし、片っ端から助けて回るか!」
ツバキは一時目的を変更し、地下施設にいる子供達を探し、助け出すことにした。移動には細心の注意を払い、モンスターに気付かれず物音を立てないように移動しながら、戦闘音らしき音のする方へ向かう。
音が大きくなるにつれ、彷徨うモンスターとの遭遇率も減ってきていた。恐らくは、より大きな音のする方へモンスター達も引き寄せられているのだろう。
そうなるとやはり、子供達への負担がますます心配になってくる。早る気持ちを抑えつつも、椿は最初の戦地へと辿り着く。
するとそこには、彼が予想していた通り最悪の状況が広がっていた。
青いレインコートの子供が必死に逃げ回りながら、複数のソウルリーパーに追われていた。既にレインコートもボロボロで、このままでは何も聞けないまま消されてしまう。
彼らの力と知識無くして、この異様なオルレラの街からは脱出出来ない。早急な救出を要求される状況の中、ツバキは再び足のガジェットを起動させ、青いレインコートの子供とすれ違うように、後方のモンスターへ攻撃を仕掛ける。
勢いよく駆け出したツバキは、逃げる子供に迫り来る複数のソウルリーパーへ、まるで剣技の一閃のように鋭い高速の蹴りを放つ。
だが発動が早過ぎたのか、モンスターが射程範囲に入る前に、ツバキの蹴りは空振りに終わる。その様子に臆せず突っ込んでくるモンスター達。しかし、ツバキの放った攻撃の効果は、その後遅れてやって来たのだ。
「氷結旋脚・・・」
蹴りの勢いを殺す為に回転しながら止まるツバキへ、モンスター達がその鋭い爪を振り翳す。すると、モンスターの爪がツバキの首を刎ねようとしたところでピタリと止まる。
モンスター達はツバキの起こした白く冷たい風に当てられ、そのまま凍結して固まっていたのだ。
今の内にと、逃げていた青いレインコートの子供の元へ駆けつけるツバキ。
「大丈夫か!?」
子供は小さく何度も頷いていた。彼の身体は小さく震えている。如何に戦う力があろうと、その身体や精神はまだ子供なのだ。戦闘に慣れていなければ、命を狙ってくる相手に恐怖を覚えるのも当然の事だ。
ツバキは緑のレインコートの少年が言っていた事を思い出す。彼らが先生と言って慕う人物は、彼らに“感情“というものを与えたらしい。つまり、この施設へ届けられた時には、彼らには感情というものが存在していなかったのだろう。
そしてその身体には、身に余るほどの強力な魔力と魔法が習得されている。これではまるで、“死を恐れない殺戮人形“と同じだ。
つまり、ここにいるレインコートの子供達を送り付けてきたところでは、彼らのような子供の兵器のようなものを作る施設があるのかもしれない。或いはその実験段階、研究段階にあるのか。
いずれにせよ、感情があるからこそ、今ツバキの目の前にいる子供は恐怖に身を震わせている。上手くは喋れないようだが、レインコートを着ている状態でも、彼らには意識があり感情もある事が分かる。
すると、ツバキに助けられた青いレインコートの少年は、ピンクや緑のコートの子供達と同じように、自らフードを外そうとした。
思わずその手を止めるツバキ。
「うっ・・・!!」
気持ちでは整理出来ていても、やはり同じくらいの歳の子供達が目の前で消えていく様は、彼の中に躊躇いを残していた。このまま彼から情報を聞き出すべきか。それとも、魔石の魔力を分け与え、例え囚われの身であろうとも、自分が彼らの先生を見つけて救い出すまでの間、生きる囮りになってもらうのか。
どちらも今のツバキにとって、そして最終的に彼らにとっても重要な存在であるのは間違いない。全ての子供達から情報を聞いたところで、ツバキ一人ではこの場を乗り切る事は出来ない。
この空間から抜け出すことも出来なければ、彼らを救うことも出来ない。ツバキに情報を与え、帰るべき場所に帰る方が、彼らにとってこの恐怖から解放する事に繋がるのかもしれない。
それでも・・・。
ツバキは自分の胸を服の上から強く握り締め、苦渋の決断を彼に言い渡す。
「・・・すまない。みんなを助ける為、もう少し戦えるか・・・?」
青いレインコートの子供の身体は、ゆっくりその震えを止めて、フードにかけていた手を離す。そしてツバキの支えを借り、自らの足で立ち上がると、ゆっくり首を縦に振った。
「・・・ガンバル・・・ミンナヲ・・・タスケテ・・・」
しかし、施設内は一本道にはなっておらず、通路の両脇に幾つも部屋が分かれている、まるで蟻の巣のような複雑な構造をしていた。建物そのものでも、十分迷ってしまうほど大きなものだったが、道が狭くなり見通しが悪くなった分、地下はそれよりも更に迷いやすい。
そして何より、通路や部屋の中を探索していると、不意に壁や天井をすり抜けてやって来るソウルリーパーとの遭遇率が増えてきていた。
倒す必要のあるものだけ倒し先に進むツバキだったが、戦闘を行えば物音がたち他のモンスターを引き寄せてしまう。素早く仕留める事を心がけ、倒した後は即座に物陰へ姿を隠して対処していたツバキだったが、徐々に魔石の残量に不安を覚え始める。
「クソ・・・この調子じゃ埒が明かない。一旦戻るべきか・・・?」
魔石を持ち運べる量には限りがある。地下の研究施設には多くの魔石が残っていたが、その全てを持ち出した訳ではない。それに、僅かではあるが幾つもある部屋の中には、装置に繋がれた魔石や空っぽになった魔石が放置され、再び魔力を蓄え始めている物も幾つか拾える。
奥に進むにつれ、各方向から幾つかの戦闘音らしきものが聞こえてくる。未だ見ぬレインコートの子供達が、ツバキの知らないところで今もモンスターの気を引くために戦ってくれているのだろうか。
「おいおい、無茶してねぇといいが・・・。いや待てよ?」
そこでふと彼が思いついたのは、地下施設でチリジリになっている子供達に合い、モンスターの気を引く為に動いてもらうか、彼らには悪いが情報と引き換えに消えてもらうかという判断をするというものだった。
緑のレインコートの少年が教えてくれたように、彼らは望んでここに残っている。そして、ツバキが会ってきた子供達の中には、自ら進んでフードを外し、ツバキに情報を与える選択をした者が何人かいた。
そして消えはするものの、彼らは消滅するという訳ではなく、意識がこの空間から解放され、あるべきところへ戻るということも分かって来た。
彼らがツバキに手を貸す理由は分からないが、少なくとも無理矢理消し去るという事にはならない以上、ツバキ自身の心も少しは軽くなる。
「よし、片っ端から助けて回るか!」
ツバキは一時目的を変更し、地下施設にいる子供達を探し、助け出すことにした。移動には細心の注意を払い、モンスターに気付かれず物音を立てないように移動しながら、戦闘音らしき音のする方へ向かう。
音が大きくなるにつれ、彷徨うモンスターとの遭遇率も減ってきていた。恐らくは、より大きな音のする方へモンスター達も引き寄せられているのだろう。
そうなるとやはり、子供達への負担がますます心配になってくる。早る気持ちを抑えつつも、椿は最初の戦地へと辿り着く。
するとそこには、彼が予想していた通り最悪の状況が広がっていた。
青いレインコートの子供が必死に逃げ回りながら、複数のソウルリーパーに追われていた。既にレインコートもボロボロで、このままでは何も聞けないまま消されてしまう。
彼らの力と知識無くして、この異様なオルレラの街からは脱出出来ない。早急な救出を要求される状況の中、ツバキは再び足のガジェットを起動させ、青いレインコートの子供とすれ違うように、後方のモンスターへ攻撃を仕掛ける。
勢いよく駆け出したツバキは、逃げる子供に迫り来る複数のソウルリーパーへ、まるで剣技の一閃のように鋭い高速の蹴りを放つ。
だが発動が早過ぎたのか、モンスターが射程範囲に入る前に、ツバキの蹴りは空振りに終わる。その様子に臆せず突っ込んでくるモンスター達。しかし、ツバキの放った攻撃の効果は、その後遅れてやって来たのだ。
「氷結旋脚・・・」
蹴りの勢いを殺す為に回転しながら止まるツバキへ、モンスター達がその鋭い爪を振り翳す。すると、モンスターの爪がツバキの首を刎ねようとしたところでピタリと止まる。
モンスター達はツバキの起こした白く冷たい風に当てられ、そのまま凍結して固まっていたのだ。
今の内にと、逃げていた青いレインコートの子供の元へ駆けつけるツバキ。
「大丈夫か!?」
子供は小さく何度も頷いていた。彼の身体は小さく震えている。如何に戦う力があろうと、その身体や精神はまだ子供なのだ。戦闘に慣れていなければ、命を狙ってくる相手に恐怖を覚えるのも当然の事だ。
ツバキは緑のレインコートの少年が言っていた事を思い出す。彼らが先生と言って慕う人物は、彼らに“感情“というものを与えたらしい。つまり、この施設へ届けられた時には、彼らには感情というものが存在していなかったのだろう。
そしてその身体には、身に余るほどの強力な魔力と魔法が習得されている。これではまるで、“死を恐れない殺戮人形“と同じだ。
つまり、ここにいるレインコートの子供達を送り付けてきたところでは、彼らのような子供の兵器のようなものを作る施設があるのかもしれない。或いはその実験段階、研究段階にあるのか。
いずれにせよ、感情があるからこそ、今ツバキの目の前にいる子供は恐怖に身を震わせている。上手くは喋れないようだが、レインコートを着ている状態でも、彼らには意識があり感情もある事が分かる。
すると、ツバキに助けられた青いレインコートの少年は、ピンクや緑のコートの子供達と同じように、自らフードを外そうとした。
思わずその手を止めるツバキ。
「うっ・・・!!」
気持ちでは整理出来ていても、やはり同じくらいの歳の子供達が目の前で消えていく様は、彼の中に躊躇いを残していた。このまま彼から情報を聞き出すべきか。それとも、魔石の魔力を分け与え、例え囚われの身であろうとも、自分が彼らの先生を見つけて救い出すまでの間、生きる囮りになってもらうのか。
どちらも今のツバキにとって、そして最終的に彼らにとっても重要な存在であるのは間違いない。全ての子供達から情報を聞いたところで、ツバキ一人ではこの場を乗り切る事は出来ない。
この空間から抜け出すことも出来なければ、彼らを救うことも出来ない。ツバキに情報を与え、帰るべき場所に帰る方が、彼らにとってこの恐怖から解放する事に繋がるのかもしれない。
それでも・・・。
ツバキは自分の胸を服の上から強く握り締め、苦渋の決断を彼に言い渡す。
「・・・すまない。みんなを助ける為、もう少し戦えるか・・・?」
青いレインコートの子供の身体は、ゆっくりその震えを止めて、フードにかけていた手を離す。そしてツバキの支えを借り、自らの足で立ち上がると、ゆっくり首を縦に振った。
「・・・ガンバル・・・ミンナヲ・・・タスケテ・・・」
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