World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
918 / 1,646

オルレラの記憶障害

しおりを挟む
 その後もツクヨは、他の冒険者や作業員達にそのことを伏せたまま、ニコラの言う通り本来この大穴へ来た目的とは違った、穴を埋める作業の護衛というクエストをこなしていく。

 つい先ほどまで掘り返していた穴を埋めるという行動に、誰も違和感を覚える事なく事は順調に進んでいった。辺りも暗くなり、その日の作業が終了となった後、冒険者達はそのままオルレラのギルドへと戻り解散となる流れだったのだが、ツクヨはルーカスに少し寄りたい所があると言い、帰路につく一行から離脱した。

 すぐに合流することを条件にこれを承諾したルーカス。これもツクヨが真面目にクエストをこなした事により彼の信頼を得られるようになった結果と言える。

 そうまでしてツクヨが寄りたかった場所というのは、他でもない大穴の調査を行う為に設けられた、仮設の作業場だった。彼らがクエストをこなしている間に、モンスターに襲われ惨状となっていた作業場は既に元通りに修復されており、何事もなかったかのように機能しているようだった。

 様子を見に来たツクヨは、近くを通りかかった作業場の護衛をしている者に話を聞くことにした。伺ったのは、修復士のニコラに関する事だった。

 しかし彼は既に仕事を終えたようで、作業場を後にしていた。他の調査のために訪れていた作業員達も撤退を始め、数日後にはここも解体となる予定だという。

 そこそこの大所帯での作業の割には、随分と早い切り上げのように感じたが、何を調査しているのか、調査にどれくらいかかるものなのか詳しく知らないツクヨにとって、それはさして大きな問題ではなかった。

 ニコラがその場を去った事を知ったツクヨは、それ以上の詮索をする訳でもなく、ルーカスと約束した通り、帰路に着く彼らの元へと戻っていった。

 一行がオルレラのギルドへ到着すると、冒険者達に今日の分の報酬が支払われた。ツクヨもギルドから報酬を受け取り、ルーカスへ挨拶をしてからツバキのいるエディ邸へと帰る。

 ツクヨを最初に迎えたのは、エディ邸で働く使用人だった。それは、エディがもうじき帰ってくるであろうツクヨとミアを迎える為の指示だったのだそうだ。

 使用人の男は、ツクヨ達がオルレラに着いてエディ邸を訪れた時からずっと一緒にいた。しかし、色々と調べることがあり、彼自身について話を聞く時間がなかったツクヨは、ニコラの元であった異変を話す前に、雑談がてら使用人の男とも話をする。

 如何やら彼も、このオルレラに流れ着いた後、エディ夫妻に拾われ使用人として働かないかと話を持ちかけられたのだそうだ。

 それまでの経緯や自分が何者であるかなどの記憶が混濁としていた彼は、‘オーバン“と呼ばれていた記憶だけを頼りに、エディ邸で働きながらゆっくりと情報を集め、記憶の整理を行なっているのだという。

 彼の話を聞きツクヨが感じたのは、彼もまた記憶に異変が生じた被害者の一人なのかもしれないということ。いや、それどころか彼だけではなく、このオルレラの街全体が、記憶に何らかの障害を受けている可能性すら感じていた。

 エディ邸で働く使用人がオーバンという名の流れ者である事と、彼もまた記憶の障害を受けているのではないかという事を感じたツクヨは、話を切り上げエディ夫妻の元へ向かい、夕食の準備を手伝うことになった。

 その後、ミアが帰宅してからはいつもと同じだった。エディ夫妻と共に食卓を囲み、他愛のない会話をしながら談笑し合い、何気ない時間を過ごした後に彼ている部屋へと戻っていった。

 だが、これまでの日々と違うのは、ミアと共に部屋へ帰ってきてからだった。ツクヨは、その日あった事をミアに全て話した。

 クエストの途中で強力なモンスターと戦った事や、そのモンスターが生まれた経緯、そして修復士のニコラの事や彼のクラスである錬金術で生み出された精霊の事まで、細かいところまで疑問に感じたことは全て話し尽くした。

 すると彼女も、今日はいつもと違ったことが起きたと話し始める。突然の耳鳴りと共に、自分の目的やこれまでの行動があやふやになり、ジャンク屋にいたイクセンという人物と会った時に、まるで初めてではないような感覚に陥ったことなど、彼女も記憶に障害を受けているようだった。

 「そうか、君もだったのか・・・。しかし何故、今になってこんな事が?私の会ったニコラという男が、何か関係しているのか・・・」

 「さぁ、如何だろうな・・・。それなら何故、遠く離れたアタシにまで影響が及んだのか、気になるところだな」

 彼女の言うように、ツクヨがクエストを行なっていた大穴は、オルレラの近郊とはいえ、街からは距離が離れている。もしこれが誰かの仕業とするならば、その範囲はあまりに大きいように思える。

 それこそ、聖都でシュトラールが行なっていたような、都市全体に及ぶほどの術式や魔力量を誇っていることになる。それほど大きいとは言えないこの街に、そんな怪物じみた人物がいるなどとは、とても考えたくないものだ。

 「それに、そのニコラって男がもし本当に元凶なら、そいつが離れていった事で何かしらの変化がある筈だ。アタシらが受けている状況を見る為にも、少し様子見をした方がいいかもしれないな・・・」

 一体誰が何の為にやっているのか、或いはこの地特有の現象なのか。いずれにせよこちらから何かアクションを起こすことができない以上、様子を伺うしかない二人は、未だ眠りについたままのツバキの様子を見つつ、新たに生まれた謎についても調べていくことになった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

処理中です...