899 / 1,646
雨の中の隠れんぼ
しおりを挟む
雨の降るオルレラの街。人が居なくなってしまう怪異に巻き込まれているツバキは、凍える程の寒気に苛まれながらも、漸くこの街で見つけた自分以外の存在を追いかけた。
その末に辿り着いた建物で、黒いレインコートを渡される。それはツバキを襲っていた寒気を抑える効果があり、真面に動けなかった雨の街の中でも、自由に動ける不思議な代物だった。
コートをツバキに渡したのは、同じく様々な色のレインコートに身を包んだ、言語に違和感を残す子供達だった。
他に現状について手掛かりのなかったツバキは、コートをくれた子供達を探すべく、雨の降り頻る誰もいないオルレラの街を探して周り、一人目の子供をとある民家で追い詰める。
言葉が伝わっているのかも分からぬ様子の子供に、街がどうなってしまったのかを尋ねようとしたところ、子供の被っていたフードが取れてしまう。
すると、レインコートを着ていた子供の中身は半透明だったのだ。光に晒された子供の姿は、光の砂となって消えてしまい、ツバキの問いに対し新たな謎を残したまま居なくなってしまった。
子供のいなくなったその場に、彼が着ていた赤いレインコートが虚しく残される。ツバキはそれを拾い上げ、他の子供達を探しに、再び雨の降るオルレラの街へと出て行った。
「先生・・・?帰りたい場所を忘れるなって・・・。俺、どうなっちまったんだよ・・・」
ツバキの前で消えた赤いレインコートを着ていた少年が残した言葉。今はそれだけが、ツバキに与えられた情報だけが現状を把握する為のヒントであり、ミア達の元へ戻る為の手掛かりだった。
他のレインコートを着た子供達も、恐らく何かを知っているのだろう。だが、最初の少年のように、彼らはコートを脱ぐと消えてしまうのかも知れない。
しかし、コートを脱ぐことでしか彼らと言葉を交わす術が、現状見当たらないのも事実。彼らは会話が出来ないものの、単語だけで何とか思いを伝えようと表現している。
何とか彼らを消すことなく会話をする方法はないか。このままでは、次に子供を見つけてもまた同じ結果になり兼ねない。
消えてしまった少年がどこへ行ってしまったのかは分からない。もしかしたら死んだのではなく、何処かへ戻っていった可能性だってある。その証拠に、少年は最初、“戻らないと“と言っていた。
「消えたのは死んだんじゃなくて、何処かへ戻ったのか・・・?」
少年が消えてしまった事に自責の念を抱いていたツバキは、落ち込んでいてもしょうがないと、必死に可能性という名の理由を探し、気持ちを保とうとしていた。
目的もなく雨の降る街中を歩いていると、暫く姿を見なかった子供達の足跡らしきものが、土に残されているのに気がつく。
「これは・・・」
足跡を目線で追って顔を上げると、そこにはミア達とオルレラの街に来た時には目に付かなかった、大きな建物が建っていた。
そこは他の建物と違い、民家や屋敷といった外観ではなく、何かの施設のようなものだった。これだけ大きな建物の中で子供達を探すのは骨が折れそうだと思いつつも、何かの施設であれば手掛かりとなる物が見つかるかもしれない。
期待を持ちつつも、ツバキはフードを深く被り建物の中へと足を踏み入れていく。
入り口は自動ドアだったのだろうが、動力が切れているようで今は動いていない。僅かな隙間に身体を通して入り込むと、中は真っ暗で外の雨の音も届かぬ程の静けさに覆われていた。
「マジか・・・。こんな中探すのか?・・・こ、怖くねぇぞ・・・怖くねぇぞッ・・・!」
施設内は、言うなれば真っ暗な廃墟の病院とも同じ雰囲気を醸し出している。ツバキの呼吸や足音だけが、異様なほど大きな音で内部に響いているように感じる。
自分の居場所を知らせながら進むようで、もし何かが潜んでいたら一方的に感知される不利な状況。不気味な雰囲気が、ツバキの脳内で嫌な想像ばかりさせる。
静まりかえる建物内を隈なく探す為、先ずは一階の部屋を一つ一つ巡って行く。最初に入ったのはカウンターの奥にある事務室だろうか。荒らされたように幾つかの書類やファイルが、床に散乱している。
埃を被ったファイルを持ち上げ、表を手で払うとそこから見えてきた文字をツバキは口にした。
「・・・オルレラ・・・研究所・・・?」
この時のツバキはまだ知らないが、彼が辿り着いたこの施設こそ、ミアの探すジャンク屋で見た映像に映っていた研究施設だった。
その末に辿り着いた建物で、黒いレインコートを渡される。それはツバキを襲っていた寒気を抑える効果があり、真面に動けなかった雨の街の中でも、自由に動ける不思議な代物だった。
コートをツバキに渡したのは、同じく様々な色のレインコートに身を包んだ、言語に違和感を残す子供達だった。
他に現状について手掛かりのなかったツバキは、コートをくれた子供達を探すべく、雨の降り頻る誰もいないオルレラの街を探して周り、一人目の子供をとある民家で追い詰める。
言葉が伝わっているのかも分からぬ様子の子供に、街がどうなってしまったのかを尋ねようとしたところ、子供の被っていたフードが取れてしまう。
すると、レインコートを着ていた子供の中身は半透明だったのだ。光に晒された子供の姿は、光の砂となって消えてしまい、ツバキの問いに対し新たな謎を残したまま居なくなってしまった。
子供のいなくなったその場に、彼が着ていた赤いレインコートが虚しく残される。ツバキはそれを拾い上げ、他の子供達を探しに、再び雨の降るオルレラの街へと出て行った。
「先生・・・?帰りたい場所を忘れるなって・・・。俺、どうなっちまったんだよ・・・」
ツバキの前で消えた赤いレインコートを着ていた少年が残した言葉。今はそれだけが、ツバキに与えられた情報だけが現状を把握する為のヒントであり、ミア達の元へ戻る為の手掛かりだった。
他のレインコートを着た子供達も、恐らく何かを知っているのだろう。だが、最初の少年のように、彼らはコートを脱ぐと消えてしまうのかも知れない。
しかし、コートを脱ぐことでしか彼らと言葉を交わす術が、現状見当たらないのも事実。彼らは会話が出来ないものの、単語だけで何とか思いを伝えようと表現している。
何とか彼らを消すことなく会話をする方法はないか。このままでは、次に子供を見つけてもまた同じ結果になり兼ねない。
消えてしまった少年がどこへ行ってしまったのかは分からない。もしかしたら死んだのではなく、何処かへ戻っていった可能性だってある。その証拠に、少年は最初、“戻らないと“と言っていた。
「消えたのは死んだんじゃなくて、何処かへ戻ったのか・・・?」
少年が消えてしまった事に自責の念を抱いていたツバキは、落ち込んでいてもしょうがないと、必死に可能性という名の理由を探し、気持ちを保とうとしていた。
目的もなく雨の降る街中を歩いていると、暫く姿を見なかった子供達の足跡らしきものが、土に残されているのに気がつく。
「これは・・・」
足跡を目線で追って顔を上げると、そこにはミア達とオルレラの街に来た時には目に付かなかった、大きな建物が建っていた。
そこは他の建物と違い、民家や屋敷といった外観ではなく、何かの施設のようなものだった。これだけ大きな建物の中で子供達を探すのは骨が折れそうだと思いつつも、何かの施設であれば手掛かりとなる物が見つかるかもしれない。
期待を持ちつつも、ツバキはフードを深く被り建物の中へと足を踏み入れていく。
入り口は自動ドアだったのだろうが、動力が切れているようで今は動いていない。僅かな隙間に身体を通して入り込むと、中は真っ暗で外の雨の音も届かぬ程の静けさに覆われていた。
「マジか・・・。こんな中探すのか?・・・こ、怖くねぇぞ・・・怖くねぇぞッ・・・!」
施設内は、言うなれば真っ暗な廃墟の病院とも同じ雰囲気を醸し出している。ツバキの呼吸や足音だけが、異様なほど大きな音で内部に響いているように感じる。
自分の居場所を知らせながら進むようで、もし何かが潜んでいたら一方的に感知される不利な状況。不気味な雰囲気が、ツバキの脳内で嫌な想像ばかりさせる。
静まりかえる建物内を隈なく探す為、先ずは一階の部屋を一つ一つ巡って行く。最初に入ったのはカウンターの奥にある事務室だろうか。荒らされたように幾つかの書類やファイルが、床に散乱している。
埃を被ったファイルを持ち上げ、表を手で払うとそこから見えてきた文字をツバキは口にした。
「・・・オルレラ・・・研究所・・・?」
この時のツバキはまだ知らないが、彼が辿り着いたこの施設こそ、ミアの探すジャンク屋で見た映像に映っていた研究施設だった。
0
お気に入りに追加
305
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…


【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる