World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
896 / 1,646

曖昧な記憶への疑念

しおりを挟む
 クエストは滞りなく進み、集まった冒険者達は大きな怪我もなく、順調にモンスターの数を減らしていった。

 ツクヨは地上のモンスターの討伐に励み、それなりの功績を挙げながら無茶押し内容に且つ、苦戦する者に手を貸していた。集まった者達の中には、報酬を生活の糧にしようと、多少無茶をする者達も幾らかいる。

 当然の事と言えば当然かもしれないが、ユーザーの感覚とこの世界の住人の感覚では、クエストに対する意気込みに大きな違いがある場合が多い。

 特に若い冒険者や、女子供に多く見られる。様々な事情を抱える彼らに、他人が危険だからやめろと言う義理もなければ権利もないだろう。

 大人数による討伐隊を組むクエストでは、そういった者達でも活躍することが出来る。それに、ある程度の力を持つ人間は、苦戦している者や苦悩する者を前にすると、助けたくなるものだろう。

 それは純粋な良心でもあれば、力の誇示や優越感など、様々な要因がある。ただ、即席の部隊においてそういった関係を築くのは決して悪いことではない。

 例えそれに不満を抱いていようと、部隊が一時的なものであれば、互いに相手の心理を利用し合い、プラスの方向へ運ぶからだ。これが長期的な関係ともなると、話は大きく変わってる。

 積み上げられた不満や不平は、志や目的を同じくして集まった組織を分断したり、崩壊させる大きな要因になってしまうからだ。

 冒険者ギルドの面々の活躍のおかげで、大穴の周りにいたモンスターが掃討され、鉄骨や機材の撤去を担当する作業員達が、続々と穴の周りに集まり作業を開始し始める。

 「モンスターは粗方いなくなったが、気は抜くなよ?我々の任務は、彼らの作業を邪魔させないことだ。常に周囲へ気を配り、見つけ次第討伐してくれ!特に地上のモンスターを相手にする者達は、現場の大穴の方にも気を張り巡らせてくれ」

 一時的な休息を得る冒険者ギルドの面々。ルーカスに言われた通り、周囲への警戒は怠っていない。索敵に優れたクラスの者が中心となり、即席で集まった部隊の割には、良いチームワークが築けているようだ。

 すると、今回のクエストの為に持ち込んだ荷物の中から、アタッシュケースのような物を持って来たルーカスは、中に収められている機械のような物を使い、何やら一人他の者達とは違った作業をし始めた。

 気になったツクヨは彼の元へ足を運ぶと、アタッシュケースの中の機械へ目を向ける。

 「これは・・・?」

 「ん?あぁ、これか。これはモンスターの出現を探知出来るという機械“らしい“。ギルド内で最近発見された物で、何度か試験を行い有用であることが証明されたら、実践投与という運びになっているんだ」

 機材の中に組み込まれたモニターの中には、レーダーのように円の波紋が広がり、僅かに小さな反応を示しているように見える。

 「“らしい“ってことは、ギルドで作られた物じゃないってことですか?」

 「あぁ、街にあるジャンク屋で、先日ギルドの者が譲り受けた物だそうだ。そこの店主とは仲良くさせてもらっていてな。“イクセン“って奴なんだが、これがまた器用な奴でな。こいつもそのイクセンって奴が、ガラクタの山から直した物なんだ」

 エディ邸でミアがジャンク屋へ向かうことを聞いていたツクヨは、そこで彼女が向かったジャンク屋にはギルドマスターであるルーカスと顔見知りであることを知り、ミアの身を案じていた彼の不安を取り除いた。

 どうやらジャンク屋の主人は、機械の修理を得意としているようで、ミアの錬金術とは何かと相性が良さそうであると考えていたツクヨは、ふとある疑問を抱いた。

 街の外に空いた大穴は整備しに来るのに、自分達の住んでいる街のガラクタの山と呼ばれる場所は、撤去しないのかと。

 勿論、街の外の大穴を放置する訳にもいかないのは確かであり、物流が生き通らなくなるのも、街としてはマイナスでしかない為、優先度が高くなるのも分かるのだが。

 それにしても、自宅の掃除もやらずに近所の町内の清掃に向かうだろうか。

 「そういえば、街にそんな“ガラクタの山“と呼ばれてるような場所があるのに、どうしてそこは撤去されてないんですか?」

 ツクヨは率直に、ルーカスへ疑問を投げかけると、彼からは奇妙な回答が返ってきたのだ。

 「それが、俺も物心がついた頃からあのままだったんだ。親屋周りの者達に聞いてみても、みんな大体同じ答えだった。・・・?言われてみれば、確かに妙だな・・・」

 これ以上ルーカスの作業を邪魔しては悪いと思ったツクヨは、彼に色々なことに応えてくれたお礼を伝えると、その場を後にし他の者達にも、先程の件について何人かに尋ねてみた。

 しかし、返ってくる答えはルーカスと同じく、昔からオルレラに住む冒険者達はずっとある物だと思っているようで、外部の冒険者に至ってはツクヨと同じく、全く知らないのだという。

 深く考えることでもないのかもしれないが、この街の者達は妙に記憶が曖昧な部分があるのではないか。

 そして、この時のツクヨは気が付いていないが、彼やミアの記憶にも異変が現れ始めていた。普通ならおかしいと思うことを、疑問に思わなくなっているのだ。

 その代表例として、彼らはエディ邸に来てからというものの、眠ったまま一度も目を覚さないツバキの状態に、全く疑問を抱かなくなっていたのだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

処理中です...