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曖昧な記憶への疑念
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クエストは滞りなく進み、集まった冒険者達は大きな怪我もなく、順調にモンスターの数を減らしていった。
ツクヨは地上のモンスターの討伐に励み、それなりの功績を挙げながら無茶押し内容に且つ、苦戦する者に手を貸していた。集まった者達の中には、報酬を生活の糧にしようと、多少無茶をする者達も幾らかいる。
当然の事と言えば当然かもしれないが、ユーザーの感覚とこの世界の住人の感覚では、クエストに対する意気込みに大きな違いがある場合が多い。
特に若い冒険者や、女子供に多く見られる。様々な事情を抱える彼らに、他人が危険だからやめろと言う義理もなければ権利もないだろう。
大人数による討伐隊を組むクエストでは、そういった者達でも活躍することが出来る。それに、ある程度の力を持つ人間は、苦戦している者や苦悩する者を前にすると、助けたくなるものだろう。
それは純粋な良心でもあれば、力の誇示や優越感など、様々な要因がある。ただ、即席の部隊においてそういった関係を築くのは決して悪いことではない。
例えそれに不満を抱いていようと、部隊が一時的なものであれば、互いに相手の心理を利用し合い、プラスの方向へ運ぶからだ。これが長期的な関係ともなると、話は大きく変わってる。
積み上げられた不満や不平は、志や目的を同じくして集まった組織を分断したり、崩壊させる大きな要因になってしまうからだ。
冒険者ギルドの面々の活躍のおかげで、大穴の周りにいたモンスターが掃討され、鉄骨や機材の撤去を担当する作業員達が、続々と穴の周りに集まり作業を開始し始める。
「モンスターは粗方いなくなったが、気は抜くなよ?我々の任務は、彼らの作業を邪魔させないことだ。常に周囲へ気を配り、見つけ次第討伐してくれ!特に地上のモンスターを相手にする者達は、現場の大穴の方にも気を張り巡らせてくれ」
一時的な休息を得る冒険者ギルドの面々。ルーカスに言われた通り、周囲への警戒は怠っていない。索敵に優れたクラスの者が中心となり、即席で集まった部隊の割には、良いチームワークが築けているようだ。
すると、今回のクエストの為に持ち込んだ荷物の中から、アタッシュケースのような物を持って来たルーカスは、中に収められている機械のような物を使い、何やら一人他の者達とは違った作業をし始めた。
気になったツクヨは彼の元へ足を運ぶと、アタッシュケースの中の機械へ目を向ける。
「これは・・・?」
「ん?あぁ、これか。これはモンスターの出現を探知出来るという機械“らしい“。ギルド内で最近発見された物で、何度か試験を行い有用であることが証明されたら、実践投与という運びになっているんだ」
機材の中に組み込まれたモニターの中には、レーダーのように円の波紋が広がり、僅かに小さな反応を示しているように見える。
「“らしい“ってことは、ギルドで作られた物じゃないってことですか?」
「あぁ、街にあるジャンク屋で、先日ギルドの者が譲り受けた物だそうだ。そこの店主とは仲良くさせてもらっていてな。“イクセン“って奴なんだが、これがまた器用な奴でな。こいつもそのイクセンって奴が、ガラクタの山から直した物なんだ」
エディ邸でミアがジャンク屋へ向かうことを聞いていたツクヨは、そこで彼女が向かったジャンク屋にはギルドマスターであるルーカスと顔見知りであることを知り、ミアの身を案じていた彼の不安を取り除いた。
どうやらジャンク屋の主人は、機械の修理を得意としているようで、ミアの錬金術とは何かと相性が良さそうであると考えていたツクヨは、ふとある疑問を抱いた。
街の外に空いた大穴は整備しに来るのに、自分達の住んでいる街のガラクタの山と呼ばれる場所は、撤去しないのかと。
勿論、街の外の大穴を放置する訳にもいかないのは確かであり、物流が生き通らなくなるのも、街としてはマイナスでしかない為、優先度が高くなるのも分かるのだが。
それにしても、自宅の掃除もやらずに近所の町内の清掃に向かうだろうか。
「そういえば、街にそんな“ガラクタの山“と呼ばれてるような場所があるのに、どうしてそこは撤去されてないんですか?」
ツクヨは率直に、ルーカスへ疑問を投げかけると、彼からは奇妙な回答が返ってきたのだ。
「それが、俺も物心がついた頃からあのままだったんだ。親屋周りの者達に聞いてみても、みんな大体同じ答えだった。・・・?言われてみれば、確かに妙だな・・・」
これ以上ルーカスの作業を邪魔しては悪いと思ったツクヨは、彼に色々なことに応えてくれたお礼を伝えると、その場を後にし他の者達にも、先程の件について何人かに尋ねてみた。
しかし、返ってくる答えはルーカスと同じく、昔からオルレラに住む冒険者達はずっとある物だと思っているようで、外部の冒険者に至ってはツクヨと同じく、全く知らないのだという。
深く考えることでもないのかもしれないが、この街の者達は妙に記憶が曖昧な部分があるのではないか。
そして、この時のツクヨは気が付いていないが、彼やミアの記憶にも異変が現れ始めていた。普通ならおかしいと思うことを、疑問に思わなくなっているのだ。
その代表例として、彼らはエディ邸に来てからというものの、眠ったまま一度も目を覚さないツバキの状態に、全く疑問を抱かなくなっていたのだ。
ツクヨは地上のモンスターの討伐に励み、それなりの功績を挙げながら無茶押し内容に且つ、苦戦する者に手を貸していた。集まった者達の中には、報酬を生活の糧にしようと、多少無茶をする者達も幾らかいる。
当然の事と言えば当然かもしれないが、ユーザーの感覚とこの世界の住人の感覚では、クエストに対する意気込みに大きな違いがある場合が多い。
特に若い冒険者や、女子供に多く見られる。様々な事情を抱える彼らに、他人が危険だからやめろと言う義理もなければ権利もないだろう。
大人数による討伐隊を組むクエストでは、そういった者達でも活躍することが出来る。それに、ある程度の力を持つ人間は、苦戦している者や苦悩する者を前にすると、助けたくなるものだろう。
それは純粋な良心でもあれば、力の誇示や優越感など、様々な要因がある。ただ、即席の部隊においてそういった関係を築くのは決して悪いことではない。
例えそれに不満を抱いていようと、部隊が一時的なものであれば、互いに相手の心理を利用し合い、プラスの方向へ運ぶからだ。これが長期的な関係ともなると、話は大きく変わってる。
積み上げられた不満や不平は、志や目的を同じくして集まった組織を分断したり、崩壊させる大きな要因になってしまうからだ。
冒険者ギルドの面々の活躍のおかげで、大穴の周りにいたモンスターが掃討され、鉄骨や機材の撤去を担当する作業員達が、続々と穴の周りに集まり作業を開始し始める。
「モンスターは粗方いなくなったが、気は抜くなよ?我々の任務は、彼らの作業を邪魔させないことだ。常に周囲へ気を配り、見つけ次第討伐してくれ!特に地上のモンスターを相手にする者達は、現場の大穴の方にも気を張り巡らせてくれ」
一時的な休息を得る冒険者ギルドの面々。ルーカスに言われた通り、周囲への警戒は怠っていない。索敵に優れたクラスの者が中心となり、即席で集まった部隊の割には、良いチームワークが築けているようだ。
すると、今回のクエストの為に持ち込んだ荷物の中から、アタッシュケースのような物を持って来たルーカスは、中に収められている機械のような物を使い、何やら一人他の者達とは違った作業をし始めた。
気になったツクヨは彼の元へ足を運ぶと、アタッシュケースの中の機械へ目を向ける。
「これは・・・?」
「ん?あぁ、これか。これはモンスターの出現を探知出来るという機械“らしい“。ギルド内で最近発見された物で、何度か試験を行い有用であることが証明されたら、実践投与という運びになっているんだ」
機材の中に組み込まれたモニターの中には、レーダーのように円の波紋が広がり、僅かに小さな反応を示しているように見える。
「“らしい“ってことは、ギルドで作られた物じゃないってことですか?」
「あぁ、街にあるジャンク屋で、先日ギルドの者が譲り受けた物だそうだ。そこの店主とは仲良くさせてもらっていてな。“イクセン“って奴なんだが、これがまた器用な奴でな。こいつもそのイクセンって奴が、ガラクタの山から直した物なんだ」
エディ邸でミアがジャンク屋へ向かうことを聞いていたツクヨは、そこで彼女が向かったジャンク屋にはギルドマスターであるルーカスと顔見知りであることを知り、ミアの身を案じていた彼の不安を取り除いた。
どうやらジャンク屋の主人は、機械の修理を得意としているようで、ミアの錬金術とは何かと相性が良さそうであると考えていたツクヨは、ふとある疑問を抱いた。
街の外に空いた大穴は整備しに来るのに、自分達の住んでいる街のガラクタの山と呼ばれる場所は、撤去しないのかと。
勿論、街の外の大穴を放置する訳にもいかないのは確かであり、物流が生き通らなくなるのも、街としてはマイナスでしかない為、優先度が高くなるのも分かるのだが。
それにしても、自宅の掃除もやらずに近所の町内の清掃に向かうだろうか。
「そういえば、街にそんな“ガラクタの山“と呼ばれてるような場所があるのに、どうしてそこは撤去されてないんですか?」
ツクヨは率直に、ルーカスへ疑問を投げかけると、彼からは奇妙な回答が返ってきたのだ。
「それが、俺も物心がついた頃からあのままだったんだ。親屋周りの者達に聞いてみても、みんな大体同じ答えだった。・・・?言われてみれば、確かに妙だな・・・」
これ以上ルーカスの作業を邪魔しては悪いと思ったツクヨは、彼に色々なことに応えてくれたお礼を伝えると、その場を後にし他の者達にも、先程の件について何人かに尋ねてみた。
しかし、返ってくる答えはルーカスと同じく、昔からオルレラに住む冒険者達はずっとある物だと思っているようで、外部の冒険者に至ってはツクヨと同じく、全く知らないのだという。
深く考えることでもないのかもしれないが、この街の者達は妙に記憶が曖昧な部分があるのではないか。
そして、この時のツクヨは気が付いていないが、彼やミアの記憶にも異変が現れ始めていた。普通ならおかしいと思うことを、疑問に思わなくなっているのだ。
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