887 / 1,646
オルレラ一日目
しおりを挟む
窓の外から聞こえてくる鳥の囀りで目を覚ます。陽の光が部屋へ差し込み、暖かな空気と明るさが瞼の裏からでも確認できる。
ソファーに寝ていたツクヨの顔に、窓からの日差しが差し掛かると、その眩しさで彼は身体を起こした。
重たい瞼をゆっくりと開きながら、ミア達の寝ている寝室の方へ視線を送る。扉は寝る前に確認した時と変化がない。
エディ邸に泊めさせてもらった記憶はあるが、ミア達が起きているのか、今が何時なのかなど、先ずは状況を確かめる為に重たい身体を起こして、寝室の方へと向かうツクヨ。
足音に気をつけながら覗き込むと、二人はまだベッドで寝ていた。窓はカーテンが閉められ、ツクヨのいた広間よりもまだ暗い。起こしては悪いと気を使ったツクヨは、そのまま音を立てずに寝室を後にし、借りていた部屋から屋敷の廊下へと出る。
夜の時に通った廊下とは違い、何処からか食器の音だろうか、生活音も聞こえていた。エディや使用人、それに昨夜は遅くて面会する事のなかった彼の妻や娘もいるはず。
先ずは挨拶や泊めてもらったことに対するお礼も兼ねて、顔を出しに行こうと一階へ降りる階段へと向かう。
するとその途中、廊下の奥の角から曲がって来た人物が視界に入る。それはこの屋敷の持ち主であるエディと、同じくらいの年齢の女性だった。恐らくこの人がエディの妻なのだろう。
そこで初めてツクヨ達の存在を知ったであろうことを考え、すぐに自分が何者であるか、昨夜旦那のエディとのやり取りを説明しようと、その女性の元へ向かうツクヨ。
「おはようございます。私は・・・」
しかし、どうやら彼女は事情を既に誰かから聞いていたらしく、驚きや慌てるといった様子もなく、上品な返しで対応された。
「あら、ごきげんよう。話は主人から伺っているわ。丁度朝食の準備が出来たから、挨拶も兼ねてお呼びしようと思っていたのよ」
休める場所を提供してくれただけでなく、朝食まで用意してくれたエディ夫妻に感謝しつつ、共にミア達を呼びにツクヨは部屋まで戻る。
彼女はパウラといい、エディと共に交易の仕事をしながら暮らしているのだという。地方の村で生まれた彼女は、頻繁に仕事で訪れていたエディと出会う。
そして、人の出入りは多いものの、大きな事件や危険もないこの街で、静かな日々を送っていた。
パウラの昔話を聴きながら部屋へ着いた二人。まだ寝ているミアを起こしてくると言い、パウラを部屋の外で待たせ、急ぎ二人のいる寝室へ向かうツクヨ。
だが、既にミアは起きており、洗面所の方から水の音が聞こえてくるので、顔でも洗っているのかと、ツクヨは扉をノックしエディの奥さんが朝食の準備が出来ていることを知らせに来てくれたと、これまでの経緯を説明した。
ミアはすぐに行くと返事をした為、ツクヨはまだ姿の見えないツバキを探しに寝室の方へと向かう。すると彼は、まだ気持ち良さそうにベッドの上で横になっていた。
初めは強引に起こして連れて行こうと思っていたが、そのあまりにも気持ち良さそうな寝顔を見て、その小さな身体に蓄積された疲れを思うと、ツクヨを思いとどまらせた。
パウラにはまだ寝ていたと伝え、遅れ部屋から出てきたミアと共に、ツバキを残して食卓へと三人で向かった。
「おはよう。昨晩はよく眠れたかい?」
既に食卓についていたエディが、読んでいた新聞を机に置き、ミア達に語りかける。エディ夫妻は、ここにいる間はこの家を自分の部屋のように使ってくれて構わないと言ってくれた。
二人はその厚意に甘え、次の馬車が来るまでの間、お世話になることにした。
ただ、このままタダで面倒を見てもらうのも悪いと思い、自分達にできることはないかと話をする。
そこでミア達が冒険者であることを知ったエディは、この街にある冒険者ギルドのことを説明した。
国と国とを繋ぐ道の途中に位置するこの街は、“オルレラ“と呼ばれており、近隣諸国からの依頼も来ているのだという。
腕に自身のあった二人は、そこでの稼ぎで泊めてもらった礼をしようと決める。そして朝食を終えた後、エディに案内されて街のギルドへとやって来た二人は、そこでいくつかのクエストを受けていくことになる。
内容はこれと言って難しいものはなかった。クエストの内容や報酬を吟味して、ミアとツクヨはそれぞれいくつかの依頼をこなしていく。
その中で、ツクヨは戦闘をメインにした依頼をこなし、ミアは報酬の珍しいアイテムを目当てに依頼を受けていった。
戦闘を行うということもあり、ツクヨの依頼は度々オルレラの外で行われ、近くのダンジョンや商業人の馬車が通る道中のモンスター退治などが多く、ミアの依頼は、街中でのお使いや錬金術を活かしたものが多かった。
こうして二人は街の者達との交流を深め、瞬く間に一日が過ぎていった。
人の出入りが多い街と言われてはいるものの、毎日のように他国からの馬車がやって来るというものでもないのか、その日はミア達の目指すアークシティ方面へ向かう馬車は現れなかった。
仕方なく今日の分の稼ぎを手に、二人は再びエディ夫妻の屋敷へと戻ってくる。お礼なんかいいとエディは言ってくれたが、それでは二人の気が収まらないと、一部の金銭とアイテムを屋敷の収益へと加えた。
オルレラにやって来てから、忙しくはあったが穏やかな一日を過ごしたミア達は、再び昨夜のようにエディの貸してくれた一室で時を過ごす。
この時、ミアとツクヨは深く気にもとめていなかったが、ツバキが起きている姿を二人は目にしていなかった。
ソファーに寝ていたツクヨの顔に、窓からの日差しが差し掛かると、その眩しさで彼は身体を起こした。
重たい瞼をゆっくりと開きながら、ミア達の寝ている寝室の方へ視線を送る。扉は寝る前に確認した時と変化がない。
エディ邸に泊めさせてもらった記憶はあるが、ミア達が起きているのか、今が何時なのかなど、先ずは状況を確かめる為に重たい身体を起こして、寝室の方へと向かうツクヨ。
足音に気をつけながら覗き込むと、二人はまだベッドで寝ていた。窓はカーテンが閉められ、ツクヨのいた広間よりもまだ暗い。起こしては悪いと気を使ったツクヨは、そのまま音を立てずに寝室を後にし、借りていた部屋から屋敷の廊下へと出る。
夜の時に通った廊下とは違い、何処からか食器の音だろうか、生活音も聞こえていた。エディや使用人、それに昨夜は遅くて面会する事のなかった彼の妻や娘もいるはず。
先ずは挨拶や泊めてもらったことに対するお礼も兼ねて、顔を出しに行こうと一階へ降りる階段へと向かう。
するとその途中、廊下の奥の角から曲がって来た人物が視界に入る。それはこの屋敷の持ち主であるエディと、同じくらいの年齢の女性だった。恐らくこの人がエディの妻なのだろう。
そこで初めてツクヨ達の存在を知ったであろうことを考え、すぐに自分が何者であるか、昨夜旦那のエディとのやり取りを説明しようと、その女性の元へ向かうツクヨ。
「おはようございます。私は・・・」
しかし、どうやら彼女は事情を既に誰かから聞いていたらしく、驚きや慌てるといった様子もなく、上品な返しで対応された。
「あら、ごきげんよう。話は主人から伺っているわ。丁度朝食の準備が出来たから、挨拶も兼ねてお呼びしようと思っていたのよ」
休める場所を提供してくれただけでなく、朝食まで用意してくれたエディ夫妻に感謝しつつ、共にミア達を呼びにツクヨは部屋まで戻る。
彼女はパウラといい、エディと共に交易の仕事をしながら暮らしているのだという。地方の村で生まれた彼女は、頻繁に仕事で訪れていたエディと出会う。
そして、人の出入りは多いものの、大きな事件や危険もないこの街で、静かな日々を送っていた。
パウラの昔話を聴きながら部屋へ着いた二人。まだ寝ているミアを起こしてくると言い、パウラを部屋の外で待たせ、急ぎ二人のいる寝室へ向かうツクヨ。
だが、既にミアは起きており、洗面所の方から水の音が聞こえてくるので、顔でも洗っているのかと、ツクヨは扉をノックしエディの奥さんが朝食の準備が出来ていることを知らせに来てくれたと、これまでの経緯を説明した。
ミアはすぐに行くと返事をした為、ツクヨはまだ姿の見えないツバキを探しに寝室の方へと向かう。すると彼は、まだ気持ち良さそうにベッドの上で横になっていた。
初めは強引に起こして連れて行こうと思っていたが、そのあまりにも気持ち良さそうな寝顔を見て、その小さな身体に蓄積された疲れを思うと、ツクヨを思いとどまらせた。
パウラにはまだ寝ていたと伝え、遅れ部屋から出てきたミアと共に、ツバキを残して食卓へと三人で向かった。
「おはよう。昨晩はよく眠れたかい?」
既に食卓についていたエディが、読んでいた新聞を机に置き、ミア達に語りかける。エディ夫妻は、ここにいる間はこの家を自分の部屋のように使ってくれて構わないと言ってくれた。
二人はその厚意に甘え、次の馬車が来るまでの間、お世話になることにした。
ただ、このままタダで面倒を見てもらうのも悪いと思い、自分達にできることはないかと話をする。
そこでミア達が冒険者であることを知ったエディは、この街にある冒険者ギルドのことを説明した。
国と国とを繋ぐ道の途中に位置するこの街は、“オルレラ“と呼ばれており、近隣諸国からの依頼も来ているのだという。
腕に自身のあった二人は、そこでの稼ぎで泊めてもらった礼をしようと決める。そして朝食を終えた後、エディに案内されて街のギルドへとやって来た二人は、そこでいくつかのクエストを受けていくことになる。
内容はこれと言って難しいものはなかった。クエストの内容や報酬を吟味して、ミアとツクヨはそれぞれいくつかの依頼をこなしていく。
その中で、ツクヨは戦闘をメインにした依頼をこなし、ミアは報酬の珍しいアイテムを目当てに依頼を受けていった。
戦闘を行うということもあり、ツクヨの依頼は度々オルレラの外で行われ、近くのダンジョンや商業人の馬車が通る道中のモンスター退治などが多く、ミアの依頼は、街中でのお使いや錬金術を活かしたものが多かった。
こうして二人は街の者達との交流を深め、瞬く間に一日が過ぎていった。
人の出入りが多い街と言われてはいるものの、毎日のように他国からの馬車がやって来るというものでもないのか、その日はミア達の目指すアークシティ方面へ向かう馬車は現れなかった。
仕方なく今日の分の稼ぎを手に、二人は再びエディ夫妻の屋敷へと戻ってくる。お礼なんかいいとエディは言ってくれたが、それでは二人の気が収まらないと、一部の金銭とアイテムを屋敷の収益へと加えた。
オルレラにやって来てから、忙しくはあったが穏やかな一日を過ごしたミア達は、再び昨夜のようにエディの貸してくれた一室で時を過ごす。
この時、ミアとツクヨは深く気にもとめていなかったが、ツバキが起きている姿を二人は目にしていなかった。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる