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新たな目的地
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ミアの帰りを外で待っていたツクヨ。しかし、その横にもう一人何者かのシルエットがあった。日本人にしては高身長な彼の横に並ぶと、さらに際立つその身長差。
近づくに連れ見えてきたその人物とは、共に大海原を渡り、レースで結果を残す最大の要因となった物を作り出したツバキの姿だった。二人がミアに気づき、こちらへと歩いてくる。
「お前ら仲間なんだろぉ?信用してねぇのかよ、ミア」
「何のことだ?」
突然嫌味を言うかのように絡んできたツバキ。最初彼女は何のことを言っているのか分からなかったが、ミアが外出した理由を聞いたツバキが、ミアを揶揄っていたのだ。
「朝、話した件だよ。ほら、誰もあの人物のことを覚えてなかったって言うあの・・・」
「あぁ、そうだったな。確かにツクヨの言う通りだった。街の連中もキングんとこの幹部も、誰も黒いコートの奴を見てねぇってよ・・・どうなってんだ?」
二人の会話を聞いていたツバキが、その件について自分の見解を語る。
「ツクヨからも聞いたけどよ、俺もそんな奴見てねぇぜ?いくらスポンサーだからって、そこまで謎に包まれた人物を公の場で語らせるかねぇ?」
少年の言葉に顔を見合わせるミアとツクヨ。やはりこの世界の人間には、開会式に現れた黒いコートの男の記憶がなくなっているように思える。
全ての人間がそうか確かめる術はないが、ツバキやジャウカーンという身近な存在で、レースの当事者でもある彼らが知らないというのだ。他を当たっても大抵は同じ返事になっていたことだろう。
黒いコートの男は、WoFユーザーであるミア達の記憶にしか残っていない。奴が覚醒者である彼らと、何らかの関係があるのは確かだ。
幸か不幸か、レースの開会式の様子は一部の回線で中継されていた。グラン・ヴァーグやホープ・コーストでなくても、他の街にこの中継を見た者がいて、黒いコートの男を目撃した記憶のある人物がいれば、それはミア達と同じWoFのユーザーであるか、何らかの関係者であることは確定となった。
「あの映像は中継されてたろ?なら、当分はそれを見た奴の中に、アタシらと同じく奴を見たという人物を探すのが、旅の目的になりそうだな」
「そうだね・・・。もしそれを知っている者がいれば、私達と同じ境遇にある者でもある。もしかしたら、いい協力関係になれるかもしれないしね?」
「何だぁ?まだ見間違いって認めねぇのか?それなら情報が集まる街を目指すのがいいだろ。この辺で言うと・・・“アークシティ“か?」
ツバキの口から、新たな場所の名前が提示された。彼の話では、どうやらそこは電子工学が発展した街で、情報の流通が多く、ミア達の暮らす現実世界の街並みを連想させるような技術がある街だという。
それを聞いてミアも、何となく嘗てのWoFの記憶を辿り、そんな街もあったかと思い出した。
「なるほど、確かにそこなら情報が集まりそうだし、中継を見ていた人間も多いかもしれない」
「なぁ、ミア。その“アークシティ“ってどんなとこなんだ?君達と違って私は・・・」
「あぁ~・・・簡単に言えば、現実世界みたいなところだよ。ファンタジー色の薄い科学の街って感じかな?」
ミアの分かり易い例えのお陰で、WoFのことを何も知らないツクヨでも、そのアークシティと呼ばれる街がどんなところであるのか、ある程度の想像がついた。
「正式には、“アーティフィシャル・アーク“って街なんだけど、その呼び方を嫌う人も多いんだ。だから“AA“とか“A2“、“アークシティ“や“エレクトロシティ“なんて言う呼び方の多い街でも有名なんだ」
「嫌うって・・・どうして?」
「アークってのは、ノアの箱舟から来てる名だ。箱舟ってのは神話に登場する神聖なモンだろ?それを人工的に作って神に近づこうっていう不届な行いを象徴するかのような名前に、嫌う人や良くないと思う人が多いって訳だ」
技術の発展は、人間の生活を豊かする。しかしその反面、自然環境には悪影響を及ぼし、資源を食い潰す良くないものと考える人間は少なくない。そういった者達からすれば、技術の発展を助長するような街とその名前に、悪い印象を持つ人も多い。
「でもそれって、そんなに悪いことなのかなぁ?」
「まぁ、考え方の違いだろ?アタシらの使う魔法ってのも、この世界じゃ当たり前のように使えるものかもしれねぇけど、誰でも扱えるものじゃない。クラスによって使えないように、その辺の人達がポンポン使えるものでもないんだ。それを技術力で再現しようってんだろ?」
「俺も反対だね!そんな思想の為に技術の進化を止めようってのは馬鹿げてる。資源を食わないエネルギーだってあるんだ。日光や風を利用したものや、人間やモンスターを動力にしたエネルギーだってある。何も資源を消費するだけじゃない、ちゃんと自分達で作って賄えるものだってあるんだからよ~」
「それよりもアタシらは、黒いコートの奴だ。そんじゃぁ次の目的地はアークシティってことで」
「ここからだと結構な距離になる。準備はちゃんと整えておけよ?二人とも」
当たり前のように着いて来ようとしているツバキに、思わず顔を見合わせるミア達。
「お前、着いて来る気か?」
「いいのか?ウィリアムさんのところに戻らなくて」
「おいおい!言ったろ!?俺ぁあのジジイを超える造船技師になるんだ。その為に世界中の技術や材料を、自分の目で見て回り、五感で感じる必要がある。あそこにいても、ジジイの真似事は出来ても超えることは出来ねぇよ」
少年の割に随分と肝が据わっている。ミアやツクヨの暮らしていた現実世界では、彼くらいの年頃の者が旅に出るなど考えられない事だった。これも世界観の違いが生み出すものなのだろうか。
「それよりよぉ・・・アイツがいねぇようだけど、いいのか?」
「え?」
「シンだよ、シン!どこ行っちまったんだ?」
二人は思い出したかのように、目を丸くして驚く。彼が現実世界に戻っているのはいい。戻って来ても、おそらくパーティを組んでいるミア達の側に帰って来られる筈だ。
だが、何も知らぬツバキにそれをどうやって説明したものかと、二人は頭を悩ませた。
近づくに連れ見えてきたその人物とは、共に大海原を渡り、レースで結果を残す最大の要因となった物を作り出したツバキの姿だった。二人がミアに気づき、こちらへと歩いてくる。
「お前ら仲間なんだろぉ?信用してねぇのかよ、ミア」
「何のことだ?」
突然嫌味を言うかのように絡んできたツバキ。最初彼女は何のことを言っているのか分からなかったが、ミアが外出した理由を聞いたツバキが、ミアを揶揄っていたのだ。
「朝、話した件だよ。ほら、誰もあの人物のことを覚えてなかったって言うあの・・・」
「あぁ、そうだったな。確かにツクヨの言う通りだった。街の連中もキングんとこの幹部も、誰も黒いコートの奴を見てねぇってよ・・・どうなってんだ?」
二人の会話を聞いていたツバキが、その件について自分の見解を語る。
「ツクヨからも聞いたけどよ、俺もそんな奴見てねぇぜ?いくらスポンサーだからって、そこまで謎に包まれた人物を公の場で語らせるかねぇ?」
少年の言葉に顔を見合わせるミアとツクヨ。やはりこの世界の人間には、開会式に現れた黒いコートの男の記憶がなくなっているように思える。
全ての人間がそうか確かめる術はないが、ツバキやジャウカーンという身近な存在で、レースの当事者でもある彼らが知らないというのだ。他を当たっても大抵は同じ返事になっていたことだろう。
黒いコートの男は、WoFユーザーであるミア達の記憶にしか残っていない。奴が覚醒者である彼らと、何らかの関係があるのは確かだ。
幸か不幸か、レースの開会式の様子は一部の回線で中継されていた。グラン・ヴァーグやホープ・コーストでなくても、他の街にこの中継を見た者がいて、黒いコートの男を目撃した記憶のある人物がいれば、それはミア達と同じWoFのユーザーであるか、何らかの関係者であることは確定となった。
「あの映像は中継されてたろ?なら、当分はそれを見た奴の中に、アタシらと同じく奴を見たという人物を探すのが、旅の目的になりそうだな」
「そうだね・・・。もしそれを知っている者がいれば、私達と同じ境遇にある者でもある。もしかしたら、いい協力関係になれるかもしれないしね?」
「何だぁ?まだ見間違いって認めねぇのか?それなら情報が集まる街を目指すのがいいだろ。この辺で言うと・・・“アークシティ“か?」
ツバキの口から、新たな場所の名前が提示された。彼の話では、どうやらそこは電子工学が発展した街で、情報の流通が多く、ミア達の暮らす現実世界の街並みを連想させるような技術がある街だという。
それを聞いてミアも、何となく嘗てのWoFの記憶を辿り、そんな街もあったかと思い出した。
「なるほど、確かにそこなら情報が集まりそうだし、中継を見ていた人間も多いかもしれない」
「なぁ、ミア。その“アークシティ“ってどんなとこなんだ?君達と違って私は・・・」
「あぁ~・・・簡単に言えば、現実世界みたいなところだよ。ファンタジー色の薄い科学の街って感じかな?」
ミアの分かり易い例えのお陰で、WoFのことを何も知らないツクヨでも、そのアークシティと呼ばれる街がどんなところであるのか、ある程度の想像がついた。
「正式には、“アーティフィシャル・アーク“って街なんだけど、その呼び方を嫌う人も多いんだ。だから“AA“とか“A2“、“アークシティ“や“エレクトロシティ“なんて言う呼び方の多い街でも有名なんだ」
「嫌うって・・・どうして?」
「アークってのは、ノアの箱舟から来てる名だ。箱舟ってのは神話に登場する神聖なモンだろ?それを人工的に作って神に近づこうっていう不届な行いを象徴するかのような名前に、嫌う人や良くないと思う人が多いって訳だ」
技術の発展は、人間の生活を豊かする。しかしその反面、自然環境には悪影響を及ぼし、資源を食い潰す良くないものと考える人間は少なくない。そういった者達からすれば、技術の発展を助長するような街とその名前に、悪い印象を持つ人も多い。
「でもそれって、そんなに悪いことなのかなぁ?」
「まぁ、考え方の違いだろ?アタシらの使う魔法ってのも、この世界じゃ当たり前のように使えるものかもしれねぇけど、誰でも扱えるものじゃない。クラスによって使えないように、その辺の人達がポンポン使えるものでもないんだ。それを技術力で再現しようってんだろ?」
「俺も反対だね!そんな思想の為に技術の進化を止めようってのは馬鹿げてる。資源を食わないエネルギーだってあるんだ。日光や風を利用したものや、人間やモンスターを動力にしたエネルギーだってある。何も資源を消費するだけじゃない、ちゃんと自分達で作って賄えるものだってあるんだからよ~」
「それよりもアタシらは、黒いコートの奴だ。そんじゃぁ次の目的地はアークシティってことで」
「ここからだと結構な距離になる。準備はちゃんと整えておけよ?二人とも」
当たり前のように着いて来ようとしているツバキに、思わず顔を見合わせるミア達。
「お前、着いて来る気か?」
「いいのか?ウィリアムさんのところに戻らなくて」
「おいおい!言ったろ!?俺ぁあのジジイを超える造船技師になるんだ。その為に世界中の技術や材料を、自分の目で見て回り、五感で感じる必要がある。あそこにいても、ジジイの真似事は出来ても超えることは出来ねぇよ」
少年の割に随分と肝が据わっている。ミアやツクヨの暮らしていた現実世界では、彼くらいの年頃の者が旅に出るなど考えられない事だった。これも世界観の違いが生み出すものなのだろうか。
「それよりよぉ・・・アイツがいねぇようだけど、いいのか?」
「え?」
「シンだよ、シン!どこ行っちまったんだ?」
二人は思い出したかのように、目を丸くして驚く。彼が現実世界に戻っているのはいい。戻って来ても、おそらくパーティを組んでいるミア達の側に帰って来られる筈だ。
だが、何も知らぬツバキにそれをどうやって説明したものかと、二人は頭を悩ませた。
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