World of Fantasia

神代 コウ

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もう一つの世界では

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 白獅に諭され、大事な事を思い出したシンは、犠牲の上に成り立つ成功を戒める教訓を胸に、白獅との通信を終える。

 データ化に関する謎はアサシンギルドの白獅らに任せ、今はグラン・ヴァーグで行われたレース以降離れてしまっていたWoFの世界へ戻ることにした。

 しかし、突然戻っても今何をしているか分からないミア達を驚かしかねないと考えたシンは、まず彼女らからの返事を待ってから戻ることにした。

 以前、メッセージを送った時は返信がなかった。向こうでも動きがあったのだろうか。

 現実世界で暫く時間を費やしてしまっていた分、ミア達も全く動かずゴールの港街でずっと待っているとも考えづらい。

 向こう側の世界へ戻る際は、仲間達の元へ自動的にログインできるようだが、少しくらいは事情を把握しておく必要がありそうだ。

 もう一度ミア宛にメッセージを作り、再度送信するシン。フィアーズから与えられた休暇中に、彼女から返事は来るだろうか。

 もし返事がなかった際はどうするべきか。取り敢えずはイヅツらの計画を進める為、より多くの仲間を引き入れるのが最善か。

 別の事を考えている内に、意外なことに今度は返事が早く返ってきた。

 《随分長いこと戻ってたな。こっちは今、情報が集まるっていう新しい都市に着いたところだ。忙しいのならこっちはこっちで進めるが・・・》

 メッセージを見たシンは、あまり寂しがっていない文面にやや不満を抱えつつも、許された時間の間は、やはり長い時間と旅を共にしたミア達と共に居たいという気持ちがあった。

 どうやら新しい都市へ着いたということで、少しは彼女らに着いていけるタイミングだろうと、すぐにWoFへ戻ると伝え、詳しい話は後にしてWoFの世界へアクセスする。





 シンがレースの閉会式後に現実世界へ戻った後、ミアは酒に溺れ泥酔し、それをツクヨが宿へと連れて帰る。ウィリアム・ダンピアという世界一の造船技師の元を離れたツバキは、彼らとは違う宿で一夜を過ごす。

 そして翌朝、彼らはシンが現実世界へ戻っている間に、自分達でレースの目玉アイテムとして道中に隠されていた、現実世界へのポータルという異形のアイテムを提供したスポンサーで在る、黒いコートの男について調べることにした。

 木造の宿屋の床を歩く靴の音が、徐々に大きくなる。そして扉をノックする音でミアは目を覚ました。

 「・・・いってぇ~・・・頭が割れる・・・」

 「大丈夫かい?ミア。君、相当飲んでたからねぇ~。何かあったの?」

 扉を開けてコーヒーの入ったカップと、水の入ったガラスのコップを持ったツクヨが入ってきた。ベッドの側にある机に水の入ったコップを置くと、もう片方の手に持ったカップに息を吹きかけながら、窓際の椅子に座るツクヨ。

 「別に?何もない・・・。それよりシンの奴は?何か聞いてる?」

 「誰かから貰ったものが故障したとかで、現実の世界の方へ戻ったんでしょ?」

 「それはアタシも聞いた。いつ戻ってくるとかさ」

 「それは言ってなかったかなぁ?もしかしたら暫く掛かるんじゃない?」

 酒に酔っていたミアは、前日の夜にシンと話していた内容をあまり覚えていなかった。ただ、少し感傷的になっていた彼女は、シンがそのまま現実に戻ってしまうのではないかと、心のどこかで心配していた。

 彼はミア達と違い、現実世界へ戻ってアサシンギルドという繋がりを作って戻ってきている。詳しい話は聞かなかったが、彼も向こう側から何か役割を与えられているのではないか。

 彼が覚醒者達に起きている異変について、意欲的に調べる理由がミアには分からなかったのだ。現実世界で苦悩してきた彼らは、そのまま苦しい世界にいるよりも、幻想の世界の中で生きられる今に満足している部分が、どこかしらにある。

 ミアもその内の一人だった。

 うんざりする現実よりは、自分の好きな世界で命を落とす方が当時よりも何倍もマシと考えていた。故に現実世界に戻ることをあまり快く思っていない節がある。

 「どうするんだ?シンの追ってた、黒いコートの奴を追うか?」

 「ここは港街だ。君が寝ている間に、少しお店の人と話してきたんだ。どうやらレースのゴールになっているこの街は、“ホープ・コースト“と呼ばれているらしい」

 「ホープ・・・希望の海岸だろ?そんな名前の街もあったな。それで?」

 「それでって、君ねぇ・・・。私はこの世界が初めてなんだ。もっと話してくれてもいいんじゃないかい?」

 ツクヨは元々、WoFを遊んでいた訳ではなかった。なので、シンやミアに比べて世界観や街、知識の面で本当に異世界へ来たような新鮮な気持ちで旅をしていた。

 この港街が“ホープ・コースト“ということも知らず、街でその話を聞いた時、なんとお洒落な名前なのかと目を輝かせていた。それを知らないであろうミアに話した結果がこれでは、彼の喜びがわざとらしく感じてしまうほどだった。
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