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多少の犠牲
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丁度白獅へ聞こうとしていた、イルの持っていた情報の解析状況なのだが、突然その全てが消失してしまったのだと言う。
どう言う訳か聞くため、シンはテュルプ・オーブから白獅へ通信を入れた。通常の通信では、フィアーズに感づかれてしまう。
会話を聞かれる事も避けたかったシンは、そのまま施設を出て行った。
「・・・白獅か?メッセージを見たよ。どういう事?イルの情報が消失したって・・・」
「漸くひと段落ついたようだな、シン。それがこっちでもさっぱりでな・・・。お前に言われた通りイルって奴の情報を見てたら、データ化ってやつの情報が出てきたよ。けど、解析し終わる前に突然データが飛んじまったんだ・・・。そっちで何かあったか?」
白獅から状況を聞いたシンは、もう一度白獅から来たメッセージを確認する。そしてそのメッセージを受信した時間を調べてみると、丁度シン達がランドマークタワーの屋上についた頃と一致していたのだ。
そこから考えられる可能性は、イルの生死によるもの。つまり、イルが消滅したと同時に、彼の情報が消えてしまったのではないかということだ。
「俺達はアンタに情報を送った後、イルを追って横浜のランドマークタワーへ向かった。その屋上で奴との決着をつけたんだけど・・・」
「なるほど。こっちでデータが消失した頃、丁度そっちでイルって奴が死んだのか」
「あぁ、そうだ。もしかして・・・」
イルは狂人だったが狡猾でもあった。瀕死の状態で自身の容態や使えるスキルの状況を正しく見極め、蒼空の一撃を躱し、天臣の襲撃から逃れなぎさの身体を使って友紀を殺そうとしていた。
ウイルスによって低速化させられていたデータ化の能力を、最大限に活かして戦い方を工夫していた。そんな事まで出来た男が、自分の死と同時に情報を抹消するようプログラムしていても、何らおかしくはない。
「自分が死んだら、情報が消失するよう仕組んでいたとかはないか?自分の身体をデータ化出来た男だ、そこまで準備していたとしてもおかしくないと思うんだけど・・・」
「どうだろうな。こっちの機材にハッキングを受けた形跡やウイルスによる攻撃はなかったぞ。だから妙ではあるんだ。なら、どうやって情報を消したんだってな?」
イルがどこまでデータ化の性質を理解し利用していたのか。それも今となっては調べようのない事となってしまった。現実世界の機材やソフトに、何の痕跡も残さず自分の情報だけを綺麗に消し去ることが本当に可能なのか。
「だが、何も分からなかったという訳じゃぁない」
「何か解析出来たのか?」
データが消失したとはいえ、アサシンギルドはデータの一部を解析していたようだ。それがデータ化のことなのか、イル自身のことなのか。或いは、異世界からやって来る仕組みについてなのか。
「あぁ、上手くいけばコイツがやってたような、“データ化“が俺達も可能になるかもしれない」
「本当か!?だがそれは・・・」
「そうだ、この世界の人間を巻き込む結果になる。我々としても、何も知らぬ者達を巻き込むのは気がひけるからな・・・」
イルのデータ化は、シン達がWoFのキャラクターデータを自身の身体に反映させているように、この世界の人間の肉体を借り、自身の能力や姿をその借り物の肉体に反映させる事が出来たり、回線を使った高速移動などが出来る。
全てのデータを解析できたところで、それを実際に確かめてみないことには、理解することすら出来ない。別の被検体で成功したところで、それを扱う者で実際に臨床実験をしないことには証明できのと同じように。
「そうか・・・全てが無駄にならなくてよかったよ」
「そうだな。経過は以上だ、また何かあれば連絡する」
「了解」
話すべきことを話終え、通信を切ろうとしたシンを白獅が呼び止める。他に何か伝え忘れたことでもあったのだろうか。しかし、彼の口から出たのはそんな業務的なものではなかった。
「あれからどうだ?潜入捜査の方は。危険だったら戻って来てもいいんだぞ?」
「危険であるのは、どこにいても同じだと思う・・・。それはフィアーズに潜入してからつくづく思う。きっと何も知らなかったとしても、こうやって巻き込まれていくんだろうなって場面を、何回も見てきた・・・」
「思い返せば、普通の人間であるお前に随分と無理をさせて来てしまったと思ってな・・・。結局綺麗事を並べたところで、やってる事はこの世界における悪事と何ら変わらない・・・」
「仕方がないと思うしかないと思う。俺だって逆の立場なら、元の世界や生活に戻りたいと思うだろうし、その為なら多少の犠牲だって・・・」
多少の犠牲といったところで、シンは言葉に詰まる。その多少の犠牲が、その人にとっては全てなのだと思った時、誰かの救いは他の誰かにとっての最期なのかもしれない。
みんな知らず知らずの内に、自分の為だけに他人の何かを犠牲にしている。それは無意識の悪事であり、人の罪なのではないだろうか。
それは生活の中に染み込んでおり、例えば誰かが電車で椅子に座れば、他の誰か一人は座れなくなる。買い物で最後の一つを買えば、他の必要とする誰かが買えなくなる。
そして、誰かを楽しませる為に誰かの話題で盛り上がれば、その誰かは不幸になる。その時シンの脳裏に過ったのは、自分を貶めた友人の姿だった。彼もまた、自分の学校生活の為に選んだ犠牲がシンだっただけなのかもしれない。
犠牲に選ばれたのは偶然か意図的かは分からない。だが犠牲になった者には、それが理解できるものではなく理不尽に思うに違いない。
自分の中にも、自分が嫌っていた人間の思想と同じものがあるのだと思った時、シンの胸の奥が内側から叩かれているかのように苦しくなった。
「仕方のない犠牲・・・か。だがやはり、何も得ていない者が負う犠牲にしてはあまりに重い。我々アサシンはそういったものを許容しない。負うべきは負うべき者にこそ在るべきだ。犠牲を出せば必ず己に返ってくる。それだけは忘れるな・・・」
白獅の言葉が胸に刺さる。無意識に軽く考えていたのかもしれない。自分さえよければと。だがそれでは、恨んでいたものや憎んでいたものと何も変わらない。いつか必ず報いを受けることになる。
シンが憧れたアサシンは、そういった他人に自分の罪を負わせるような者に、正しき裁きと仲裁を与える、謂わば義賊のような心情を持っていた筈。
どう言う訳か聞くため、シンはテュルプ・オーブから白獅へ通信を入れた。通常の通信では、フィアーズに感づかれてしまう。
会話を聞かれる事も避けたかったシンは、そのまま施設を出て行った。
「・・・白獅か?メッセージを見たよ。どういう事?イルの情報が消失したって・・・」
「漸くひと段落ついたようだな、シン。それがこっちでもさっぱりでな・・・。お前に言われた通りイルって奴の情報を見てたら、データ化ってやつの情報が出てきたよ。けど、解析し終わる前に突然データが飛んじまったんだ・・・。そっちで何かあったか?」
白獅から状況を聞いたシンは、もう一度白獅から来たメッセージを確認する。そしてそのメッセージを受信した時間を調べてみると、丁度シン達がランドマークタワーの屋上についた頃と一致していたのだ。
そこから考えられる可能性は、イルの生死によるもの。つまり、イルが消滅したと同時に、彼の情報が消えてしまったのではないかということだ。
「俺達はアンタに情報を送った後、イルを追って横浜のランドマークタワーへ向かった。その屋上で奴との決着をつけたんだけど・・・」
「なるほど。こっちでデータが消失した頃、丁度そっちでイルって奴が死んだのか」
「あぁ、そうだ。もしかして・・・」
イルは狂人だったが狡猾でもあった。瀕死の状態で自身の容態や使えるスキルの状況を正しく見極め、蒼空の一撃を躱し、天臣の襲撃から逃れなぎさの身体を使って友紀を殺そうとしていた。
ウイルスによって低速化させられていたデータ化の能力を、最大限に活かして戦い方を工夫していた。そんな事まで出来た男が、自分の死と同時に情報を抹消するようプログラムしていても、何らおかしくはない。
「自分が死んだら、情報が消失するよう仕組んでいたとかはないか?自分の身体をデータ化出来た男だ、そこまで準備していたとしてもおかしくないと思うんだけど・・・」
「どうだろうな。こっちの機材にハッキングを受けた形跡やウイルスによる攻撃はなかったぞ。だから妙ではあるんだ。なら、どうやって情報を消したんだってな?」
イルがどこまでデータ化の性質を理解し利用していたのか。それも今となっては調べようのない事となってしまった。現実世界の機材やソフトに、何の痕跡も残さず自分の情報だけを綺麗に消し去ることが本当に可能なのか。
「だが、何も分からなかったという訳じゃぁない」
「何か解析出来たのか?」
データが消失したとはいえ、アサシンギルドはデータの一部を解析していたようだ。それがデータ化のことなのか、イル自身のことなのか。或いは、異世界からやって来る仕組みについてなのか。
「あぁ、上手くいけばコイツがやってたような、“データ化“が俺達も可能になるかもしれない」
「本当か!?だがそれは・・・」
「そうだ、この世界の人間を巻き込む結果になる。我々としても、何も知らぬ者達を巻き込むのは気がひけるからな・・・」
イルのデータ化は、シン達がWoFのキャラクターデータを自身の身体に反映させているように、この世界の人間の肉体を借り、自身の能力や姿をその借り物の肉体に反映させる事が出来たり、回線を使った高速移動などが出来る。
全てのデータを解析できたところで、それを実際に確かめてみないことには、理解することすら出来ない。別の被検体で成功したところで、それを扱う者で実際に臨床実験をしないことには証明できのと同じように。
「そうか・・・全てが無駄にならなくてよかったよ」
「そうだな。経過は以上だ、また何かあれば連絡する」
「了解」
話すべきことを話終え、通信を切ろうとしたシンを白獅が呼び止める。他に何か伝え忘れたことでもあったのだろうか。しかし、彼の口から出たのはそんな業務的なものではなかった。
「あれからどうだ?潜入捜査の方は。危険だったら戻って来てもいいんだぞ?」
「危険であるのは、どこにいても同じだと思う・・・。それはフィアーズに潜入してからつくづく思う。きっと何も知らなかったとしても、こうやって巻き込まれていくんだろうなって場面を、何回も見てきた・・・」
「思い返せば、普通の人間であるお前に随分と無理をさせて来てしまったと思ってな・・・。結局綺麗事を並べたところで、やってる事はこの世界における悪事と何ら変わらない・・・」
「仕方がないと思うしかないと思う。俺だって逆の立場なら、元の世界や生活に戻りたいと思うだろうし、その為なら多少の犠牲だって・・・」
多少の犠牲といったところで、シンは言葉に詰まる。その多少の犠牲が、その人にとっては全てなのだと思った時、誰かの救いは他の誰かにとっての最期なのかもしれない。
みんな知らず知らずの内に、自分の為だけに他人の何かを犠牲にしている。それは無意識の悪事であり、人の罪なのではないだろうか。
それは生活の中に染み込んでおり、例えば誰かが電車で椅子に座れば、他の誰か一人は座れなくなる。買い物で最後の一つを買えば、他の必要とする誰かが買えなくなる。
そして、誰かを楽しませる為に誰かの話題で盛り上がれば、その誰かは不幸になる。その時シンの脳裏に過ったのは、自分を貶めた友人の姿だった。彼もまた、自分の学校生活の為に選んだ犠牲がシンだっただけなのかもしれない。
犠牲に選ばれたのは偶然か意図的かは分からない。だが犠牲になった者には、それが理解できるものではなく理不尽に思うに違いない。
自分の中にも、自分が嫌っていた人間の思想と同じものがあるのだと思った時、シンの胸の奥が内側から叩かれているかのように苦しくなった。
「仕方のない犠牲・・・か。だがやはり、何も得ていない者が負う犠牲にしてはあまりに重い。我々アサシンはそういったものを許容しない。負うべきは負うべき者にこそ在るべきだ。犠牲を出せば必ず己に返ってくる。それだけは忘れるな・・・」
白獅の言葉が胸に刺さる。無意識に軽く考えていたのかもしれない。自分さえよければと。だがそれでは、恨んでいたものや憎んでいたものと何も変わらない。いつか必ず報いを受けることになる。
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