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反省と罰
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シン達が横浜から蒼空を連れて帰還する少し前。別の任務に当たっていた一人の男が、同じくとある情報を持って施設へ戻ろうとしていた。
しかしその人物は、シン達と同じ施設へ戻る事はなく、近くにある別の基地へ行くよう指示されていた。
情報を持ち帰ろうとしていた人物は、京都のセントラルシティへ向かっていたイヅツだった。そして彼の連絡を受け、京都の基地へ向かうよう指示を出したのは、彼の上官であるスペクターではなく、ランゲージという別の幹部だった。
何故スペクターではなくランゲージが報告を受け取ったのかは不明だが、イヅツにそれを拒否する権利は与えられていない。大人しく彼の指示に従い、シン達の時とは違い、自らの足で京都のフィアーズ基地へ向かったイヅツ。
だが、彼を迎えたのは暖かい歓迎などではなかった。
京都の基地へと足を踏み入れたイヅツは、すぐに内部の異変に気が付いた。
東京の施設とは違い、小さな基地だからとはいえ妙に静かだったのだ。その静けさは、暫く基地内の廊下を歩いても自分の足音が反響するばかりで、人の気配が全くない。
何処かの基地を開け放っているなどという情報は、イヅツの元には届いていない。だが、人がいたであろう痕跡は至る所にある。何か用事があって出払っているのか。
イヅツがそう思い始めたのも束の間。彼がとある一室へ足を踏み入れた途端、突如何者かの気配に気付き振り返ると、そこにいたのは彼からの報告を受けたランゲージだった。
「ッ・・!?」
「よぉ・・・。遅かったな」
いつもながら、気配もなく突然現れるフィアーズの幹部達に驚くイヅツは、基地の異様さについて男に尋ねる。
「妙に静かなところですね。皆さん、出払っているんですか?」
「あぁ、少し用事があってね・・・。少しの間、席を外して貰っている」
「・・・何故、そのような事を・・・?」
彼の質問を聞いていなかったのか無視したのか、ランゲージはそれに応える事なく彼に歩み寄り、彼に課せられていた任務の確認を始めた。
「お前に与えられていた任務は何だった?」
「・・・ハッカー集団、ナイトメア・アポストルの調査です」
「進捗はどうなっている?」
「・・・?報告した通り、奴らにはイーラ・ノマドという異世界からやって来た協力者がおりッ・・・!?」
報告した通りの内容を伝えたイヅツだったが、突如ランゲージは彼に強力な一撃をお見舞いする。
「がはッ・・・!」
「不測の事態が起こるのは仕方のないことだ。それはお前の責任でもなければ失敗でもない・・・。だが、みすみすそれを見逃し、何故お前は呑気に報告などしている?」
「・・・それはッ・・・」
「そう。特殊な能力を持った者がいて、肝心のハッカー達に逃げられた・・・。だが、現地の者に協力を仰げば、跡を追えた筈だ。何故そうしなかった?」
「・・・・・」
イヅツが現地の人間に協力を仰がなかったのは、何も彼らの力を期待していなかったからではない。彼もまたシン達と同じように、フィアーズへ反旗を翻す際の協力者を求めている。
内部の人間にそれを悟られる訳にはいかない。信用に足りる人間、或いは組織に反感を持ち、叛逆の思想を持ち合わせている者にしか協力を仰げない。
そしてランゲージは、そんな彼の妙な動きに気が付いていた。今回の件で、イヅツの妙な行動が露わになれば問い詰めるつもりでいたのだ。まんまとイヅツは、この男の予想通りの行動をしてしまい、誰もいない基地内へと誘われてしまったのだ。
組織を相手にするにあたり、ハッカーの存在も彼らにとって強力な力となる。今回の任務が与えられた時、イヅツはチャンスだと思った。
これを機にハッカー達を味方に引き摺り込めれば、更に戦力を増すことが出来る他、妨害工作も可能となる。何としてもものにしたい一件だったのだが、フィアーズもそれほど甘くはなかったという事だ。
「さて、どうしたものか・・・。これで奴らも警戒を強めてしまう事だろう。最悪の場合、他のチームにも連絡を取りかねないぞ?」
「・・・お言葉ですが、それはないかと・・・」
「・・・何故だ?」
「奴らには余裕がありました。俺も本気で相手にはしていません。妙な奴に狙われた程度には思うでしょうが、警察ほどこちらを警戒する事はないと思います」
「根拠がないだろ?」
「えぇ、確かに・・・。ですが、もう一度コンタクトを取ることは可能だと思います。“敵対“という形は避けて、敢えて見逃しました」
苦し紛れではあったが、決して嘘や間違いは言っていない。イヅツはそこで会ったイーラ・ノマドと言われる異世界からの来訪者、デューンとの別れ際に印象操作を施していた。
向こうもイヅツに興味を示していた事は間違いない。場合によっては、向こうからコンタクトを測ってくる可能性もあり得る。
チャンスはまだあるという事をランゲージに示し、少しでも疑いの目を晴らそうと試みるイヅツ。ランゲージの方も、これ以上大ごとにするつもりはないようだった。
その為にわざわざ基地を空けさせた。もしイヅツの裏切りを公にするのであれば、見せしめに彼を兵隊達の前に晒し処刑していてもおかしくはない。そうしなかった事が、何よりの証拠だろう。
「そうか、でもなぁ・・・」
イヅツの弁明を聞いたランゲージだったが、そのまま男はもう一度イヅツに強烈な蹴りを入れる。
「ぐッ・・・!!」
「痛みを伴わない反省は、反省じゃないんだよ。お前には今回の失敗に対する罰を受けてもらう。そうじゃないと、他の連中に示しがつかねぇだろうがッ・・・!」
誰もいない基地の内部に、思いっきり肉のサンドバックを蹴る音が響き渡る。鳴り響いたのは、一発や二発ではない。
鈍い音はやがて、硬いもの打つような音を交えながら、必死に声を押し殺し、甘んじてランゲージの言う“罰“をただひたすらに受ける男の呻き声が、空洞音のように低く聞こえていた。
しかしその人物は、シン達と同じ施設へ戻る事はなく、近くにある別の基地へ行くよう指示されていた。
情報を持ち帰ろうとしていた人物は、京都のセントラルシティへ向かっていたイヅツだった。そして彼の連絡を受け、京都の基地へ向かうよう指示を出したのは、彼の上官であるスペクターではなく、ランゲージという別の幹部だった。
何故スペクターではなくランゲージが報告を受け取ったのかは不明だが、イヅツにそれを拒否する権利は与えられていない。大人しく彼の指示に従い、シン達の時とは違い、自らの足で京都のフィアーズ基地へ向かったイヅツ。
だが、彼を迎えたのは暖かい歓迎などではなかった。
京都の基地へと足を踏み入れたイヅツは、すぐに内部の異変に気が付いた。
東京の施設とは違い、小さな基地だからとはいえ妙に静かだったのだ。その静けさは、暫く基地内の廊下を歩いても自分の足音が反響するばかりで、人の気配が全くない。
何処かの基地を開け放っているなどという情報は、イヅツの元には届いていない。だが、人がいたであろう痕跡は至る所にある。何か用事があって出払っているのか。
イヅツがそう思い始めたのも束の間。彼がとある一室へ足を踏み入れた途端、突如何者かの気配に気付き振り返ると、そこにいたのは彼からの報告を受けたランゲージだった。
「ッ・・!?」
「よぉ・・・。遅かったな」
いつもながら、気配もなく突然現れるフィアーズの幹部達に驚くイヅツは、基地の異様さについて男に尋ねる。
「妙に静かなところですね。皆さん、出払っているんですか?」
「あぁ、少し用事があってね・・・。少しの間、席を外して貰っている」
「・・・何故、そのような事を・・・?」
彼の質問を聞いていなかったのか無視したのか、ランゲージはそれに応える事なく彼に歩み寄り、彼に課せられていた任務の確認を始めた。
「お前に与えられていた任務は何だった?」
「・・・ハッカー集団、ナイトメア・アポストルの調査です」
「進捗はどうなっている?」
「・・・?報告した通り、奴らにはイーラ・ノマドという異世界からやって来た協力者がおりッ・・・!?」
報告した通りの内容を伝えたイヅツだったが、突如ランゲージは彼に強力な一撃をお見舞いする。
「がはッ・・・!」
「不測の事態が起こるのは仕方のないことだ。それはお前の責任でもなければ失敗でもない・・・。だが、みすみすそれを見逃し、何故お前は呑気に報告などしている?」
「・・・それはッ・・・」
「そう。特殊な能力を持った者がいて、肝心のハッカー達に逃げられた・・・。だが、現地の者に協力を仰げば、跡を追えた筈だ。何故そうしなかった?」
「・・・・・」
イヅツが現地の人間に協力を仰がなかったのは、何も彼らの力を期待していなかったからではない。彼もまたシン達と同じように、フィアーズへ反旗を翻す際の協力者を求めている。
内部の人間にそれを悟られる訳にはいかない。信用に足りる人間、或いは組織に反感を持ち、叛逆の思想を持ち合わせている者にしか協力を仰げない。
そしてランゲージは、そんな彼の妙な動きに気が付いていた。今回の件で、イヅツの妙な行動が露わになれば問い詰めるつもりでいたのだ。まんまとイヅツは、この男の予想通りの行動をしてしまい、誰もいない基地内へと誘われてしまったのだ。
組織を相手にするにあたり、ハッカーの存在も彼らにとって強力な力となる。今回の任務が与えられた時、イヅツはチャンスだと思った。
これを機にハッカー達を味方に引き摺り込めれば、更に戦力を増すことが出来る他、妨害工作も可能となる。何としてもものにしたい一件だったのだが、フィアーズもそれほど甘くはなかったという事だ。
「さて、どうしたものか・・・。これで奴らも警戒を強めてしまう事だろう。最悪の場合、他のチームにも連絡を取りかねないぞ?」
「・・・お言葉ですが、それはないかと・・・」
「・・・何故だ?」
「奴らには余裕がありました。俺も本気で相手にはしていません。妙な奴に狙われた程度には思うでしょうが、警察ほどこちらを警戒する事はないと思います」
「根拠がないだろ?」
「えぇ、確かに・・・。ですが、もう一度コンタクトを取ることは可能だと思います。“敵対“という形は避けて、敢えて見逃しました」
苦し紛れではあったが、決して嘘や間違いは言っていない。イヅツはそこで会ったイーラ・ノマドと言われる異世界からの来訪者、デューンとの別れ際に印象操作を施していた。
向こうもイヅツに興味を示していた事は間違いない。場合によっては、向こうからコンタクトを測ってくる可能性もあり得る。
チャンスはまだあるという事をランゲージに示し、少しでも疑いの目を晴らそうと試みるイヅツ。ランゲージの方も、これ以上大ごとにするつもりはないようだった。
その為にわざわざ基地を空けさせた。もしイヅツの裏切りを公にするのであれば、見せしめに彼を兵隊達の前に晒し処刑していてもおかしくはない。そうしなかった事が、何よりの証拠だろう。
「そうか、でもなぁ・・・」
イヅツの弁明を聞いたランゲージだったが、そのまま男はもう一度イヅツに強烈な蹴りを入れる。
「ぐッ・・・!!」
「痛みを伴わない反省は、反省じゃないんだよ。お前には今回の失敗に対する罰を受けてもらう。そうじゃないと、他の連中に示しがつかねぇだろうがッ・・・!」
誰もいない基地の内部に、思いっきり肉のサンドバックを蹴る音が響き渡る。鳴り響いたのは、一発や二発ではない。
鈍い音はやがて、硬いもの打つような音を交えながら、必死に声を押し殺し、甘んじてランゲージの言う“罰“をただひたすらに受ける男の呻き声が、空洞音のように低く聞こえていた。
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