World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
873 / 1,646

演義のその後

しおりを挟む
 なぎさが身を投げた後、シンと天臣は負傷した友紀を連れてランドマークタワーを降りた。イルに気付かれぬ為に置いてきた、MAROの式神は消えずに彼らの帰りを待っており、三人を乗せてその場を後にした。

 目的は当然、友紀の傷を癒せる人物であるにぃなの元へ、彼女を連れ帰ること。赤レンガ倉庫周辺で行われていた、イルの門から解き放たれたモンスターと実験によって変異した変異種達との戦闘は、粗方沈静化していた。

 まだMAROの式神と思われる紙の怪物とモンスターが争う現場は、幾つかの場所で行われていた。シンは最期ににぃな達と別れた場所を目指していた。

 すると、上空を移動する自身の式神を見つけたMAROが、彼らの存在に気付き合流。にぃならが友紀のステージで、変異して強力となったモンスター達と戦っているのを聞き、すぐに加勢しに向かう。

 建物内では既に戦闘は終了しており、にぃなによる治療及び回復を受けていた蒼空は、消えることなくその姿を現世に残したままだった。これほどの重傷者を回復させた経験が無いと語ったにぃなは、この状態が生きているのかどうか判断がつかないと言った。

 しかし、どういう形であれその姿が消えていないということは、蒼空は生きていると言っていいのではないだろうか。現実世界にやってきた者も、モンスター達と同じように、死せる時は消えていく。そこに例外はないように感じた。

 これもイルが残した最期の証明と言えるだろう。

 シン達が運んできた友紀の姿を見て驚愕する一同。様々な質問が彼らに投げかけられたが、何よりも優先すべきは友紀の回復だと、天臣はにぃなに彼女の治療を依頼。

 蒼空に比べれば回復の見込みは十分にある。それを聞いた天臣は、全身の力が抜けたかのように崩れ落ち、何度もにぃなに感謝の言葉を述べていた。そこからも、彼にとって彼女が如何に大切な存在であったのかが窺える。

 それは男女間にある恋愛的なものではなく、まるで自分の子の身を案じるような暖かなもののように、シンは感じていた。

 にぃなの治療と回復を受け、間もなく目を覚ました友紀。起きて早々に、彼女はここがどこなのかよりも先に、なぎさがどうなったのかを天臣に尋ねた。

 この後のライブのことを考えると、本当のことを彼女に伝えるべきか悩んでいた天臣に、友紀は力強い目で答える。私なら大丈夫。どんなことがあろうと、ファンの人達をがっかりはさせないと。

 彼女の決意に、天臣は友紀が気を失ってからの出来事と、その後になぎさが口にしたことを彼女に伝え、あの場から身を投げたことを包み隠さず伝えた。

 なぎさの姿がなかったことから、ある程度の予想はしていたと語る友紀。しかし、実際に真実を聞かされると、彼女が身構えていた以上のショックと消失感が押し寄せてきた。

 しかし、そこは流石と言ったところ。彼女はその場で泣くことも放心状態になることもなく、全てを受け止めた上で、シン達に感謝の言葉を送った。

 その後暫くして、外でモンスターの残党を狩っていたMAROが帰還し、イルとなぎさによる、ライブ襲撃を防ぎ切った役者が揃う。

 天臣は、自称親衛隊の三人にこれまでのライブやイベントで起きていた襲撃の感謝と、知っていながら手伝うことが出来なかったことについて謝罪した。

 当然、謝礼や恩を着せる為にやっていた訳ではない峰闇達は、これで暫くは友紀のライブやイベントが落ち着くであろうことを知って安堵する。

 傷の癒えた友紀と天臣は、その後間も無くライブ会場に流れる演出が終了する前に会場へと戻る。そしてシン達も、これで漸くゆっくり友紀のライブが楽しめると、修復された座席へと戻っていった。

 ライブは何事もなかったかのように進み、彼らの活躍によりファン達に危害が及ぶこともなく無事に終了した。感動で涙を流す者や、ライブの余韻に浸りながら満足そうに会場を後にする人々。

 会場の片付けを始めるスタッフに関係者達。最後に友紀と天臣がWoFの姿に身を包み、もう一度シン達の元へとやって来た。

 「今回の件、これ以上ないほど皆さんには感謝しています。この御恩を忘れることはないでしょう」

 「私からも感謝します。加えて、、これまで皆さんに頼り切ってしまっていたことを謝罪します」

 頭を下げる二人に、憧れのアイドルと親しくなれたことに感動する親衛隊の三人は、言葉にならないほどの感動が身体から漏れ出している。

 「仕方ありませんよ。お二人は・・・特に友紀さんの方は有名人ですから。混乱を避ける為には、必要な判断だったかと思います」

 彼らに代わり、シンが口を開く。だが、今回の一件で友紀と天臣がWoFユーザーであり、尚且つシン達と同じく覚醒者であることがわかった。今後は親衛隊の三人と協力しながら、ファンの間で彼らも勢力を拡大していくことだろう。

 「蒼空さんのことは心配ですが・・・」

 「えぇ、彼の活躍無くして、これ程の被害で収まることはなかったと思います。彼が無事であることを祈ります」

 「きっと大丈夫だと思いますよ。天臣さんも目にした通り、もし彼が命を落としていたのなら、あの男のように消えてしまっていることでしょうし・・・」

 シンの言葉に、その場にいた誰もが心の内で思っただろう。自分達がWoFの姿のまま死を迎えた時、一体どうなってしまうのか。

 現実世界のように、ただ死を迎えるだけなのか。それとも、イルが最期に口にしたように帰るべき場所へと帰れるのだろうか。ならば覚醒者である彼らの帰るべき場所とはどこなのだろうか。

 きっとその問題の答えは、死という概念と同じように、その時を迎えた者にしかわからないことだろう。シンとにぃなは、蒼空の身体を一度フィアーズの元へ送り届けることにした。

 「重ねて、今回の件では大変お世話になりました。何か力になれる事があれば言ってくださいね」

 「あぁ。何かあれば私に連絡してくれ。時期にもよるが、協力できる事があればすぐに駆けつけよう」

 「まぁ、ユッキーや天臣さんは奥の手だな。フットワークの軽さなら俺達の方が手を貸しやすい。何にせよ、俺達は修羅場を乗り越えた仲間だ。やばい事があったら協力していこうぜ!」

 蒼空が繋いだ彼らとの繋がりは、いずれきっとシン達の大きな力となるだろう。プレジャーフォレストに続き、新たな協力者を得ることに成功したシンとにぃな。

 イルから入手した情報を手土産に、彼らは一度フィアーズの元へと帰還する。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

処理中です...