870 / 1,646
残ったモノ
しおりを挟む
消えゆく身体を見たシンは、ふと我に帰り急ぎその遺体に触れる。そして白獅から貰った眼で、出来る限りの情報を引き出そうと試みた。
記憶の中で探ったのは、あくまでデータ化という能力を身に付けるまでの過程に過ぎない。この男が一体どうやってデータ化を成していたのか。その原理を知りたかったのだ。
もしデータ化という能力が解明されれば、異世界から来た者達、つまりフィアーズやアサシンギルド、そしてイルのような何処にも属さないイーラ・ノマド達。
彼らの移動能力が大幅に強化されるほか、現実世界への直接的な干渉が可能になる。これにより彼らは、人間の肉体という入れ物を手に入れることが出來る。
それによるメリットやデメリットはまだ深く解明されていないが、シン達覚醒者と殆ど同じ事が出来るようになるということだ。
そしてイルとの戦いの中で得た大きな情報として、データ化中の彼らの身体にはハッキングが有効であるということだ。
アサシンギルドの者達はともかく、フィアーズの幹部連中がデータ化をモノにすれば、一体何をしでかすか分かったものではない。ただでさえ人体実験をしているような連中だ。きっと良くない事に使われるだろう。
だが、組織の規模も技術力も、シン達が知る中で最も力を持っているのはフィアーズを置いて他にいない。彼らの技術力を利用することが、謎を解明する為に最も早い近道となる。
対抗できる手段として、アサシンギルドにはどこでどうやって作られたのか分からない、イルのデータ化能力を低下させたウイルスがある。もしそれが更に改良され効果を上げたのなら、彼らにとってデータ化はメリットではなくデメリットにもなり得ることになる。
だが、肝心のイルの遺体からは有力になりそうな情報は得られなかった。それでも得られた小さな情報をかき集め、オーブを通じ白獅の元へ可能な限り情報を送った。
次第にイルの身体は触れられなくなるほど透過していき、最期にはチリも残さず消え去ってしまった。
情報の整理を終え、シンが遺体のあった場所から立ち上がり、仲間達の元へ天臣と友紀を連れ帰る為、歩み寄る。
なぎさの身体を乗っ取ったイルによって負傷を負わされてしまった友紀だったが、急所は外れており一命は取り留めていた。だが重症であることには代わりない。
大きな傷を抱えたまま元の姿へと戻った時、彼らの身体への影響はどうなるのか。興味はなくもないが、とても試してみようという気にはなれない。
それに、恐らく良い影響はないだろう。アイドルである友紀が怪我をしたともなれば、活動に大きな影響が出る。ファンもきっと心配し、騒ぎ立てるだろう。シン達にとっても、そのような状況になるのは望ましくないのだ。
彼女のように有名人が、異世界の者や異形のモノが見える覚醒者であることが知れれば、また狙ってくる者がいないとも限らない。出来るだけ回復した状態で彼女を元の身体へ戻さなくては。
その為にも、早く彼女をにぃなと引き合わせなければならない。
しかし、ふとシンが当たりを見渡すと、ランドマークタワーの屋上には彼を含め三人の姿しか確認できなかった。友紀を刺したなぎさは、一体どこへ行ってしまったのか。
そして、天臣がイルと思い斬り殺した人間の遺体もまた、血痕もろとも綺麗さっぱり消えていたのだ。いくらイルが現実世界に干渉できるようになっていたからとはいえ、人が死ねば原状修復でどうにかなるものではない筈。
東京へシン達がやって来た際、朱影がバイクを拝借した時に一人、現実世界の人間を巻き込み怪我をさせている。
その時は、修復の力により違和感が無いよう、事故という形で収まり、高速道路で起きた惨事も車の衝突事故ということで済まされていた。
もしあの時、バイクの持ち主が死んでいたら、事故死という形で片付けられていたのだろうか。ならば今回は、どういう形で現実世界へ影響がでるのか。考え出せば分からないことが山のように出てくる。
今の自分達が置かれている状況や、何故現実の世界でWoFのキャラクターとなり戦えているのか。如何に自分達が、不確かなものに頼り切っているのかを思い知らされる。
すると、天臣の抱える友紀が僅かに意識を取り戻し始める。
「ぁっ・・・あれ・・・?私・・・」
「友紀ッ!よかった・・・意識が・・・!」
「大丈夫・・・ちょっとびっくりして・・・意識が・・・」
「喋らなくていい。すぐに何とかしてやるからな」
小さく頷く彼女は、天臣の見せる表情に安心したのか、再びその瞼を閉じ眠りについた。友紀が目を閉じたのを確認すると、天臣は周囲を見渡しシンを探す。
「君の友人の中に、ヒーラーのクラスがいると聞いた。その人の元へ彼女を連れて行ってはもらえないだろうか・・・」
言われるまでもなく、シンもそのつもりだった。にぃなという仲間が、赤レンガ倉庫近く、つまりライブ会場付近に待機していることを伝え、彼女に今から怪我人を連れて行くと連絡を取る。
安心した天臣がほっと胸を撫で下ろしていると、視界の端に屋上の縁に立つ人影のようなものが映る。彼がすぐにその人影へピントを合わせると、そこには生気を失ったように立つなぎさの姿があった。
記憶の中で探ったのは、あくまでデータ化という能力を身に付けるまでの過程に過ぎない。この男が一体どうやってデータ化を成していたのか。その原理を知りたかったのだ。
もしデータ化という能力が解明されれば、異世界から来た者達、つまりフィアーズやアサシンギルド、そしてイルのような何処にも属さないイーラ・ノマド達。
彼らの移動能力が大幅に強化されるほか、現実世界への直接的な干渉が可能になる。これにより彼らは、人間の肉体という入れ物を手に入れることが出來る。
それによるメリットやデメリットはまだ深く解明されていないが、シン達覚醒者と殆ど同じ事が出来るようになるということだ。
そしてイルとの戦いの中で得た大きな情報として、データ化中の彼らの身体にはハッキングが有効であるということだ。
アサシンギルドの者達はともかく、フィアーズの幹部連中がデータ化をモノにすれば、一体何をしでかすか分かったものではない。ただでさえ人体実験をしているような連中だ。きっと良くない事に使われるだろう。
だが、組織の規模も技術力も、シン達が知る中で最も力を持っているのはフィアーズを置いて他にいない。彼らの技術力を利用することが、謎を解明する為に最も早い近道となる。
対抗できる手段として、アサシンギルドにはどこでどうやって作られたのか分からない、イルのデータ化能力を低下させたウイルスがある。もしそれが更に改良され効果を上げたのなら、彼らにとってデータ化はメリットではなくデメリットにもなり得ることになる。
だが、肝心のイルの遺体からは有力になりそうな情報は得られなかった。それでも得られた小さな情報をかき集め、オーブを通じ白獅の元へ可能な限り情報を送った。
次第にイルの身体は触れられなくなるほど透過していき、最期にはチリも残さず消え去ってしまった。
情報の整理を終え、シンが遺体のあった場所から立ち上がり、仲間達の元へ天臣と友紀を連れ帰る為、歩み寄る。
なぎさの身体を乗っ取ったイルによって負傷を負わされてしまった友紀だったが、急所は外れており一命は取り留めていた。だが重症であることには代わりない。
大きな傷を抱えたまま元の姿へと戻った時、彼らの身体への影響はどうなるのか。興味はなくもないが、とても試してみようという気にはなれない。
それに、恐らく良い影響はないだろう。アイドルである友紀が怪我をしたともなれば、活動に大きな影響が出る。ファンもきっと心配し、騒ぎ立てるだろう。シン達にとっても、そのような状況になるのは望ましくないのだ。
彼女のように有名人が、異世界の者や異形のモノが見える覚醒者であることが知れれば、また狙ってくる者がいないとも限らない。出来るだけ回復した状態で彼女を元の身体へ戻さなくては。
その為にも、早く彼女をにぃなと引き合わせなければならない。
しかし、ふとシンが当たりを見渡すと、ランドマークタワーの屋上には彼を含め三人の姿しか確認できなかった。友紀を刺したなぎさは、一体どこへ行ってしまったのか。
そして、天臣がイルと思い斬り殺した人間の遺体もまた、血痕もろとも綺麗さっぱり消えていたのだ。いくらイルが現実世界に干渉できるようになっていたからとはいえ、人が死ねば原状修復でどうにかなるものではない筈。
東京へシン達がやって来た際、朱影がバイクを拝借した時に一人、現実世界の人間を巻き込み怪我をさせている。
その時は、修復の力により違和感が無いよう、事故という形で収まり、高速道路で起きた惨事も車の衝突事故ということで済まされていた。
もしあの時、バイクの持ち主が死んでいたら、事故死という形で片付けられていたのだろうか。ならば今回は、どういう形で現実世界へ影響がでるのか。考え出せば分からないことが山のように出てくる。
今の自分達が置かれている状況や、何故現実の世界でWoFのキャラクターとなり戦えているのか。如何に自分達が、不確かなものに頼り切っているのかを思い知らされる。
すると、天臣の抱える友紀が僅かに意識を取り戻し始める。
「ぁっ・・・あれ・・・?私・・・」
「友紀ッ!よかった・・・意識が・・・!」
「大丈夫・・・ちょっとびっくりして・・・意識が・・・」
「喋らなくていい。すぐに何とかしてやるからな」
小さく頷く彼女は、天臣の見せる表情に安心したのか、再びその瞼を閉じ眠りについた。友紀が目を閉じたのを確認すると、天臣は周囲を見渡しシンを探す。
「君の友人の中に、ヒーラーのクラスがいると聞いた。その人の元へ彼女を連れて行ってはもらえないだろうか・・・」
言われるまでもなく、シンもそのつもりだった。にぃなという仲間が、赤レンガ倉庫近く、つまりライブ会場付近に待機していることを伝え、彼女に今から怪我人を連れて行くと連絡を取る。
安心した天臣がほっと胸を撫で下ろしていると、視界の端に屋上の縁に立つ人影のようなものが映る。彼がすぐにその人影へピントを合わせると、そこには生気を失ったように立つなぎさの姿があった。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる