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イルを咥えて逃げていった魔物は、赤レンガ倉庫からランドマークタワーの方へと走り去って行ったのを、天臣が見ていた。あくまで方角であり、イルがランドマークタワーへ向かったかどうかは確かではない。
それでも、高所から眺めれば何かしらの痕跡が辿れるかも知れない。イルの身体は天臣との戦闘で、多くの傷を負い出血している。
戦闘の間、イルが自分のスキルによる回復手段を持っていないのは確かだ。互いに瀕死の状態にまでなるほど戦い、その後靄の檻から飛び出してきた蒼空とケイルを相手にする余裕があるなら、途中で回復を挟んでいてもおかしくない。
しかし、イルはそのまま蒼空との戦闘を続行し、死ぬかもしれないという程追い詰められていた。恐らく今も、傷は癒えていない筈。
ならば、その血痕が道中、滴っていた筈だ。
「本当にあの男は、ランドマークタワーへ?」
「方角はそうだ。それに・・・ほら、見てみろ。奴の血痕に違いない。傷を癒す手段を持ち合わせていないんだろう」
「しかし、わざわざ目立つ上に逃げ場のない高所へ行くのか?」
シンの疑問は最もだった。いくら変異したモンスターと共にいるとはいえ、男を咥えて逃げたのは、空を飛べるような翼を持つ魔物ではない。
あれ程の高所から飛び降りれば、モンスターといえどタタでは済まないだろう。
だが、天臣には確信に近いものがあった。
イルと対峙した時に、彼はこう言った。友紀を連れ去ったのは、とある人物に合わせる為だと。それなら人通りの多い場所や、周囲の様子を確認できない狭い路地などは避ける筈。
見晴らしがよく、退路を確保しやすいであろう場所。そう考えた時、この赤レンガ倉庫周辺で最も高い、ランドマークタワーが妥当だと判断した。
「奴は友紀を拐い、誰かに会わせると言った・・・。私の予想に過ぎないが、恐らくこの横浜を一望できる場所じゃぁないかと、そう考えた」
「俺達に追跡に特化したクラスの者はいない・・・。あくまで情報と痕跡で追うしかないんだ。なら、見晴らしのいい所っていうのは、俺達にとっても丁度いいのかもしれない・・・」
二人を乗せたMAROの式神は、イルが向かったであろうランドマークタワーの近くにまでやって来た。
そこでシンは、一度対峙した男の気配を察知する。間違いなくそれは、赤レンガ倉庫のステージ上で感じたものと同じものだった。
「ッ・・・!いるぞ、屋上だ!奴の気配がする」
「待て!直接飛んで向かうのはマズイ。空を移動するのはここまでだ。何とか屋上へ、気配を悟られずに上がる方法を考えなければ・・・」
重傷の男に、誰かと共にあの高所から逃げ去るだけの体力が残っているだろうか。式神に乗って上空から強襲を仕掛ける方が、素早く事を済ませられるのではないか。そう思ったシンは、天臣にこのまま仕掛けようと提案するが、彼はそれを承諾しなかった。
いや、出来なかった。そこには恐らく友紀がおり、イルの言う会わせたい人物と共にいる筈。こちらの接近に気づかれれば、人質にされかねない。
それならまだいいが、最悪の場合彼女を殺しかねない。わざわざ友紀のライブやイベント会場へ、手塩にかけたモンスターを送り込んでくるような男だ。最終的な目的は、恐らく友紀の殺害だろう。
「駄目だ・・・。友紀の身の安全が第一だ。あくまで不意を突く形が理想何だ・・・」
「まさか・・・奴は彼女を殺すつもりなのか?」
「可能性は十分にある。その会わせたい人物の目的は分からないが、姿を見せたということは、奴の嫌がらせもこれで最後にするつもりだろう。そうなれば、わざわざ自分の姿を晒した標的を生かしておく理由もない」
「・・・分かった。屋上へ登る方法については、俺に考えがある。だが、協力が必要だ・・・」
「勿論、私にできる事であれば何でもするさ」
二人は力強く頷き、式神をランドマークタワー付近の地上へと降下させ、そこからは徒歩で移動することにした。
建物内への侵入は、覚醒者である二人であれば容易なことだった。警備やセキュリティーに引っかかる事もなく壁を透過し、監視の手薄なところへ移動すると、シンはそこで天臣を待機させる。
「上の様子を見てくる。貴方はここで待機していてくれ」
「待機?ここでか?警戒するにしても、もう少し上がってからでも・・・。時間が無いんだぞ?」
「言っただろ?上がる方法については考えがある。それに、そこまで用意周到な奴が、追って来るであろう者達の接近に備えていないとは考えづらいだろ?」
「万全を期す・・・という訳か。ならば君の、その“考え“というのに賭けてみよう」
天臣はシンに言われた通り一階で待機し、その間にシンは気配を消して上を目指して上がっていく。
だが、天臣のいう通りあまりのんびりもしていられない。ある程度階層を飛ばして進んでいくと、シンは自身の影のスキルで、移動ポータルもどきのトンネルを作り出す。
そして待機させていた天臣の場所へ繋ぐと、自ら移動し彼の元へと戻る。
「とりあえず安全な上層階まで繋いである。この影の中へ入ってくれ」
「これは・・・?」
「移動ポータルのようなものだ。ここと別の場所を繋いである。これで奴の警戒の目を掻い潜りながら進める」
無闇に駆け上がって行くよりも、アサシンの気配を消した探索とこの移動方法があれば、安全に時間を掛けずに進むことができる。建物や狭い場所での潜入や捜索は、シンのクラスと相性が抜群だった。
それでも、高所から眺めれば何かしらの痕跡が辿れるかも知れない。イルの身体は天臣との戦闘で、多くの傷を負い出血している。
戦闘の間、イルが自分のスキルによる回復手段を持っていないのは確かだ。互いに瀕死の状態にまでなるほど戦い、その後靄の檻から飛び出してきた蒼空とケイルを相手にする余裕があるなら、途中で回復を挟んでいてもおかしくない。
しかし、イルはそのまま蒼空との戦闘を続行し、死ぬかもしれないという程追い詰められていた。恐らく今も、傷は癒えていない筈。
ならば、その血痕が道中、滴っていた筈だ。
「本当にあの男は、ランドマークタワーへ?」
「方角はそうだ。それに・・・ほら、見てみろ。奴の血痕に違いない。傷を癒す手段を持ち合わせていないんだろう」
「しかし、わざわざ目立つ上に逃げ場のない高所へ行くのか?」
シンの疑問は最もだった。いくら変異したモンスターと共にいるとはいえ、男を咥えて逃げたのは、空を飛べるような翼を持つ魔物ではない。
あれ程の高所から飛び降りれば、モンスターといえどタタでは済まないだろう。
だが、天臣には確信に近いものがあった。
イルと対峙した時に、彼はこう言った。友紀を連れ去ったのは、とある人物に合わせる為だと。それなら人通りの多い場所や、周囲の様子を確認できない狭い路地などは避ける筈。
見晴らしがよく、退路を確保しやすいであろう場所。そう考えた時、この赤レンガ倉庫周辺で最も高い、ランドマークタワーが妥当だと判断した。
「奴は友紀を拐い、誰かに会わせると言った・・・。私の予想に過ぎないが、恐らくこの横浜を一望できる場所じゃぁないかと、そう考えた」
「俺達に追跡に特化したクラスの者はいない・・・。あくまで情報と痕跡で追うしかないんだ。なら、見晴らしのいい所っていうのは、俺達にとっても丁度いいのかもしれない・・・」
二人を乗せたMAROの式神は、イルが向かったであろうランドマークタワーの近くにまでやって来た。
そこでシンは、一度対峙した男の気配を察知する。間違いなくそれは、赤レンガ倉庫のステージ上で感じたものと同じものだった。
「ッ・・・!いるぞ、屋上だ!奴の気配がする」
「待て!直接飛んで向かうのはマズイ。空を移動するのはここまでだ。何とか屋上へ、気配を悟られずに上がる方法を考えなければ・・・」
重傷の男に、誰かと共にあの高所から逃げ去るだけの体力が残っているだろうか。式神に乗って上空から強襲を仕掛ける方が、素早く事を済ませられるのではないか。そう思ったシンは、天臣にこのまま仕掛けようと提案するが、彼はそれを承諾しなかった。
いや、出来なかった。そこには恐らく友紀がおり、イルの言う会わせたい人物と共にいる筈。こちらの接近に気づかれれば、人質にされかねない。
それならまだいいが、最悪の場合彼女を殺しかねない。わざわざ友紀のライブやイベント会場へ、手塩にかけたモンスターを送り込んでくるような男だ。最終的な目的は、恐らく友紀の殺害だろう。
「駄目だ・・・。友紀の身の安全が第一だ。あくまで不意を突く形が理想何だ・・・」
「まさか・・・奴は彼女を殺すつもりなのか?」
「可能性は十分にある。その会わせたい人物の目的は分からないが、姿を見せたということは、奴の嫌がらせもこれで最後にするつもりだろう。そうなれば、わざわざ自分の姿を晒した標的を生かしておく理由もない」
「・・・分かった。屋上へ登る方法については、俺に考えがある。だが、協力が必要だ・・・」
「勿論、私にできる事であれば何でもするさ」
二人は力強く頷き、式神をランドマークタワー付近の地上へと降下させ、そこからは徒歩で移動することにした。
建物内への侵入は、覚醒者である二人であれば容易なことだった。警備やセキュリティーに引っかかる事もなく壁を透過し、監視の手薄なところへ移動すると、シンはそこで天臣を待機させる。
「上の様子を見てくる。貴方はここで待機していてくれ」
「待機?ここでか?警戒するにしても、もう少し上がってからでも・・・。時間が無いんだぞ?」
「言っただろ?上がる方法については考えがある。それに、そこまで用意周到な奴が、追って来るであろう者達の接近に備えていないとは考えづらいだろ?」
「万全を期す・・・という訳か。ならば君の、その“考え“というのに賭けてみよう」
天臣はシンに言われた通り一階で待機し、その間にシンは気配を消して上を目指して上がっていく。
だが、天臣のいう通りあまりのんびりもしていられない。ある程度階層を飛ばして進んでいくと、シンは自身の影のスキルで、移動ポータルもどきのトンネルを作り出す。
そして待機させていた天臣の場所へ繋ぐと、自ら移動し彼の元へと戻る。
「とりあえず安全な上層階まで繋いである。この影の中へ入ってくれ」
「これは・・・?」
「移動ポータルのようなものだ。ここと別の場所を繋いである。これで奴の警戒の目を掻い潜りながら進める」
無闇に駆け上がって行くよりも、アサシンの気配を消した探索とこの移動方法があれば、安全に時間を掛けずに進むことができる。建物や狭い場所での潜入や捜索は、シンのクラスと相性が抜群だった。
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