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神代 コウ

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偽りの理解

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 普段の持ち方とは違っていたイルは、本来の力で天臣の攻撃を受け止めることができず、大きく後方へと吹き飛ばされる。勢いを殺す為、黒刀を地面に突き刺す。

 ステージ上に大きな亀裂が入ったかのように、一直線の傷跡が残る。刀ごとへし折ってやるつもりで吹き飛ばした筈の天臣だったが、なかなかイルを黒い靄の広がるステージ上から、引き離すことが出来ない。

 せめて、黒い靄の無いところにまでイルを移動させられれば、少しは天臣達に有利になる筈。如何にイルと靄を切り離すかが、勝利の鍵になる。

 「今のは・・・ちと、危なかったか?」

 珍しく焦りの様子を見せたイル。折角ここまで後退させたのだ。このチャンスをモノにせんと、天臣はすかさず黒刀を突き刺しブレーキを掛けたイルの元へ、急接近する。

 息を吐かせぬ程畳み掛けてくる天臣に、思わずイルから舌打ちが漏れる。すぐ側にまで迫った天臣に、イルは突き刺していた黒刀を自ら蹴ってへし折ると、それを天臣目掛けて投げつける。

 イルの行動の一つ一つに、一々黒い靄が発生する。黒刀をへし折った時に、折れた部分から靄が散り投げた手元からも靄が発生していた。

 そして、投擲された折れた黒刀を抜刀で弾く天臣。当然、その際にも黒い靄は飛び散る。僅かに視界がボヤけるのもお構いなしに、天臣はイルの元へ突っ込んでいき、抜いた刀を返す。

 距離を取ろうと後退するイルに、追いついた天臣の刃が向けられる。再び靄の中から新しい黒刀を引き抜いたイルは、その場で足を止めて天臣の一撃を迎え打つ。

 火花を散らしてぶつかり合う二人の刀。またしても激しい鍔迫り合いが始まる。

 「友紀を何処へ連れて行った!?一体、誰に会わせている!?」

 「何だぁ?あの女の付き人なのに、心当たりすらないのか?なら、まだあの女はお前に心を許していないという訳だな?」

 「何・・・?」

 当然、友紀は天臣を信頼していないことはなかった。しかし、なぎさのことを詳しく語ることはしなかったのだ。当時の彼女は、思い出に甘え弱い自分を他人に見せることを望んでいなかった。

 心が過去を振り返れば、今歩み続けている足が止まってしまうような気がしていたのだ。故に、天臣に詳しくその存在を話さなかった。

 一方なぎさの方は、イルが一方的に彼女の過去を見ていた為、その過去や彼女の受けてきた仕打ち、そしてなぎさがアイドルを目指していたということも、友紀に後ろめたさを感じていることも知っていた。

 その感情が、次第に嫉妬や妬み変わっていく様子も。

 「アンタはあの女の過去を聞こうとしなかったのかい?心の奥底で抱えているものや、その支えとなっているものを、知ろうとはしなかったのかい?」

 「彼女は弱みを見せるような人ではなかった。自分が本当は弱く、脆いことも知っている・・・。だからこそ、それを表に表すようなことはしなかった」

 「それはアンタの勝手な妄想で、そうあって欲しいというエゴなんじゃないのかい?」

 「違うッ!俺は・・・」

 天臣の中に迷いが生じていた。友紀の過去を詮索しないことが、彼女の為であり今の上昇志向を保つ為には必要なことだと思っていた。

 だがそれは、本当に彼女の為だったのだろうか。彼女を支えていたつもりで、本当は寄り添っているつもりになっていただけではないのか。

 彼女のメンタルを保つことが天臣の仕事であり、彼女にとっても自分にとってもそうすることが互いの為でもあった。

 友紀が立ち止まらないようにサポートするのが、マネージャーとしての自分の仕事。言い換えれば、彼女が立ち止まらぬよう監視し、心配や不安事があればそれを意識させないように目を逸らさせることが、天臣の役割だったのではないか。

 思い返せば、天臣は友紀の表面上のことしか知らない。事務所が持っている彼女のデータと、連れ添ってきたことで見てきたこと、感じたことがあたかも彼女の全てかのように。

 本当は、自分のことについてあまり喋らない彼女に、不安を抱いていたのかもしれない。本当は信頼されていないのではないか。本当はイルの言う通り、心を許してくれていないのではないか。

 不安を掻き消すようにがむしゃらであったのは、天臣自身も同じだった。故に、彼女自身から自分のことを話してくれるのを、彼はずっと待っていた。

 「迷っているな?心当たりがあるんだろ」

 「ッ・・・そんなものは無い。俺を惑わし、油断を誘おうとしても無駄だぞ」

 イルの刀を弾き、鍔迫り合いを終わらせた天臣は追撃の一撃を放つ。だがイルはそれを軽々と避けて見せた。完全に間合いを把握された動きで、全く隙も無駄もない。

 言葉とは裏腹に、彼の刀にはその心が映し出されていた。

 天臣の一撃を躱したイルは、その動きを利用しながらカウンターとなる突きを放つ。だがそれは、天臣の身体を捉えるには些か甘い一撃。迷いはあれど、それを避けきれぬ天臣ではなかった。

 が、それは天臣を避けさせる為の囮の一撃。突き出した刀を起点に男は一歩前へ踏み出し、そのまま刀を天臣の方へと薙ぎ払う。
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