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息つかぬ手合い
しおりを挟む フィールドの有利を持っているイルが、前に出した足の爪先に重心を乗せる。そして力強く地面を踏み抜くと、周囲の靄を巻き上げながら、目にも止まらぬ速度で天臣の間合いへと飛び込む。
同時に、抜刀術の攻撃範囲に飛び込んできたイルを迎え打つ為に、天臣はその鋭い刀を鞘から引き抜く。
その一瞬は剣術に疎い蒼空とケイルには、とても視認出来る一撃ではなく、天臣とイルが刀をぶつけ合った音で、漸く手合いが始まったことを知るほどだった。
黒い靄に覆われるステージ上に、一瞬だけフラッシュが焚かれたかのように二人の顔を照らす。
力と速度は殆ど互角。再び鍔迫り合いになるのは必至だった。
だが、再びイルの黒刀が地面に引き寄せられる。今度は後ろにいる蒼空の仕業であることが、イルにも視認出来ていた。
男は刀をそこで手放し、天臣を飛び越えるように身を翻し、回転しながら後ろでスキルを使っていた蒼空に向けて、かかと落としを見舞う。
イルの蹴りは蒼空に命中する手前で、突如出現した何処かで見たことのある光の盾に阻まれる。そのままその盾を利用し、飛び上がろうとするイルだったが、盾を蹴り上げた瞬間に男の身体は、まるで無重力空間にいるかのように浮遊し始めた。
視線を下に向けるイル。そこには、今度はイル自身の身体を無重力にする蒼空の姿があった。手を上げて男の方を見上げている。
そこでイルは、背後に何かの気配を感じ、そのまま逆さまになるように背後へ視線を向けると、ケイルが作り出した別の盾を足場に、天臣が既にイルと同じ高さにまで飛び上がっていた。
「空中では避けられまい・・・!」
既に抜刀の構えに入っていた天臣。イルは逆さまの状態で、近くの靄の中から黒刀を引き抜くと、辛うじてそれを受け止める。だが、今回は体勢有利の天臣が押していた。
天臣の全力の抜刀術を受け止めるだけの体勢になかったイルは、その一撃に目の前まで天臣の刃が迫る。
このまま押されては切り崩されてしまう。イルは天臣の周りに幾つかの靄の集合体を集める。
嫌な予感を察した天臣は、咄嗟にイルへの攻撃を中断し弾き飛ばすと、後ろへと飛び退いていった。その直後、靄の中からは先ほどまでとは逆向きの黒刀が、彼を貫かんと飛び出してきたのだ。
辛うじて避け切ったかと安堵する天臣だったが、腕に生暖かいものを感じ、素手でそれを拭ってみると、その手には僅かに血液が付着していた。予感を頼りに、前もって動いていた筈だったのだが、僅かにイルの攻撃の方が早かったようだ。
ほんの擦り傷だったが、先に攻撃を当てたのはイルの方だった。男の口角が僅かに上がったように見える。
だが、そんな余裕を見せたのも束の間。蒼空の頭上にある光の盾の他に、更にイルの上にもう一つの光の盾が出現していた。
ケイルの作り出した二つ目の盾に、蒼空は重力を掛ける。そして、無重力状態だったイルの身体は、突然能力の解除の効果を受け、下の盾の上に落下する。
無防備な体勢で落とされたイルは、僅かに上から迫るもう一つの盾の存在に気づくのが遅れた。慌てて上を見上げた時には、既に目の前まで盾は落下してきていた。
「ブッ潰れろッ・・・!」
衝撃に巻き込まれぬよう、蒼空とケイルが後ろへと飛び退く。と、同時に二つの盾が激しくぶつかり合う音が、周囲へと鳴り響く。
巨大な鐘を鉄の槌で叩いたような、内臓に響くほどの轟音。二つの盾は衝突の衝撃で消滅し、間に挟まれたであろうイルの姿は消えていた。
その代わりに残ったものは、男の特異な能力である黒い靄だけ。それが周囲へ飛散しただけだった。
何処かへ逃れたことだけは、三人にも分かった。これで終わるような相手なら、ここまで苦労はしない。
そして案の定、姿を消したイルは黒い靄に紛れ、音もなくケイルの背後に忍び寄っていた。いち早く気がついたのは、二人と向き合うように立っていた天臣だった。
「後ろだッ!!」
靄の中から、影が掛かったように暗い姿のイルが現れる。
「おせぇんだよッ・・・!」
既に黒刀を振るっていたイルの刃が、ケイルの首に牙を向く。しかし、イルの刃はケイルの首には届かず。その刃は僅かに首を傾けた、ケイルの兜と鎧によって阻まれていた。
「ッ・・・!」
「残念だったな。俺の鎧は瞬時に着脱可能なんだぜぇ?」
「ただの金魚の糞ではなかったという訳か・・・」
「んだぁ!?」
イルの黒刀を小手のついた手で鷲掴みにし、そのまま振り返りながら背後にいるであろうイル目掛けて蹴りを放つ。
ここで意外だったのは、イルが彼の蹴りを肩で受け止めたことだった。これまでのイルの動きを見る限り、靄になって避けるものだと思っていた。
イルはそのままケイルの蹴りを受け止めると、彼の背中を蹴って黒刀を引き抜く。その僅かな隙を逃さぬよう、天臣が二人の影に身を重ねながら近づいてきており、体勢を立て直す前のイルに向けて刃を向ける。
刀を逆手に持ち替え受け止めるイルと、打ち合いになる天臣。
「アンタが一番抜け目ねぇなぁッ!?マネージャーさんよぉ!!」
「褒め言葉として受け取っておこう・・・!」
同時に、抜刀術の攻撃範囲に飛び込んできたイルを迎え打つ為に、天臣はその鋭い刀を鞘から引き抜く。
その一瞬は剣術に疎い蒼空とケイルには、とても視認出来る一撃ではなく、天臣とイルが刀をぶつけ合った音で、漸く手合いが始まったことを知るほどだった。
黒い靄に覆われるステージ上に、一瞬だけフラッシュが焚かれたかのように二人の顔を照らす。
力と速度は殆ど互角。再び鍔迫り合いになるのは必至だった。
だが、再びイルの黒刀が地面に引き寄せられる。今度は後ろにいる蒼空の仕業であることが、イルにも視認出来ていた。
男は刀をそこで手放し、天臣を飛び越えるように身を翻し、回転しながら後ろでスキルを使っていた蒼空に向けて、かかと落としを見舞う。
イルの蹴りは蒼空に命中する手前で、突如出現した何処かで見たことのある光の盾に阻まれる。そのままその盾を利用し、飛び上がろうとするイルだったが、盾を蹴り上げた瞬間に男の身体は、まるで無重力空間にいるかのように浮遊し始めた。
視線を下に向けるイル。そこには、今度はイル自身の身体を無重力にする蒼空の姿があった。手を上げて男の方を見上げている。
そこでイルは、背後に何かの気配を感じ、そのまま逆さまになるように背後へ視線を向けると、ケイルが作り出した別の盾を足場に、天臣が既にイルと同じ高さにまで飛び上がっていた。
「空中では避けられまい・・・!」
既に抜刀の構えに入っていた天臣。イルは逆さまの状態で、近くの靄の中から黒刀を引き抜くと、辛うじてそれを受け止める。だが、今回は体勢有利の天臣が押していた。
天臣の全力の抜刀術を受け止めるだけの体勢になかったイルは、その一撃に目の前まで天臣の刃が迫る。
このまま押されては切り崩されてしまう。イルは天臣の周りに幾つかの靄の集合体を集める。
嫌な予感を察した天臣は、咄嗟にイルへの攻撃を中断し弾き飛ばすと、後ろへと飛び退いていった。その直後、靄の中からは先ほどまでとは逆向きの黒刀が、彼を貫かんと飛び出してきたのだ。
辛うじて避け切ったかと安堵する天臣だったが、腕に生暖かいものを感じ、素手でそれを拭ってみると、その手には僅かに血液が付着していた。予感を頼りに、前もって動いていた筈だったのだが、僅かにイルの攻撃の方が早かったようだ。
ほんの擦り傷だったが、先に攻撃を当てたのはイルの方だった。男の口角が僅かに上がったように見える。
だが、そんな余裕を見せたのも束の間。蒼空の頭上にある光の盾の他に、更にイルの上にもう一つの光の盾が出現していた。
ケイルの作り出した二つ目の盾に、蒼空は重力を掛ける。そして、無重力状態だったイルの身体は、突然能力の解除の効果を受け、下の盾の上に落下する。
無防備な体勢で落とされたイルは、僅かに上から迫るもう一つの盾の存在に気づくのが遅れた。慌てて上を見上げた時には、既に目の前まで盾は落下してきていた。
「ブッ潰れろッ・・・!」
衝撃に巻き込まれぬよう、蒼空とケイルが後ろへと飛び退く。と、同時に二つの盾が激しくぶつかり合う音が、周囲へと鳴り響く。
巨大な鐘を鉄の槌で叩いたような、内臓に響くほどの轟音。二つの盾は衝突の衝撃で消滅し、間に挟まれたであろうイルの姿は消えていた。
その代わりに残ったものは、男の特異な能力である黒い靄だけ。それが周囲へ飛散しただけだった。
何処かへ逃れたことだけは、三人にも分かった。これで終わるような相手なら、ここまで苦労はしない。
そして案の定、姿を消したイルは黒い靄に紛れ、音もなくケイルの背後に忍び寄っていた。いち早く気がついたのは、二人と向き合うように立っていた天臣だった。
「後ろだッ!!」
靄の中から、影が掛かったように暗い姿のイルが現れる。
「おせぇんだよッ・・・!」
既に黒刀を振るっていたイルの刃が、ケイルの首に牙を向く。しかし、イルの刃はケイルの首には届かず。その刃は僅かに首を傾けた、ケイルの兜と鎧によって阻まれていた。
「ッ・・・!」
「残念だったな。俺の鎧は瞬時に着脱可能なんだぜぇ?」
「ただの金魚の糞ではなかったという訳か・・・」
「んだぁ!?」
イルの黒刀を小手のついた手で鷲掴みにし、そのまま振り返りながら背後にいるであろうイル目掛けて蹴りを放つ。
ここで意外だったのは、イルが彼の蹴りを肩で受け止めたことだった。これまでのイルの動きを見る限り、靄になって避けるものだと思っていた。
イルはそのままケイルの蹴りを受け止めると、彼の背中を蹴って黒刀を引き抜く。その僅かな隙を逃さぬよう、天臣が二人の影に身を重ねながら近づいてきており、体勢を立て直す前のイルに向けて刃を向ける。
刀を逆手に持ち替え受け止めるイルと、打ち合いになる天臣。
「アンタが一番抜け目ねぇなぁッ!?マネージャーさんよぉ!!」
「褒め言葉として受け取っておこう・・・!」
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