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神代 コウ

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許されざる行い

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 次々零れ落ちる涙を拭うなぎさへと歩みよる友紀。彼女はそれを拒もうと後退りするが、友紀の手がそれを逃すまいと抱きしめる。耳元から聞こえる友紀の声は、そんななぎさの姿を見て涙ぐんでいるのか、か細く震えていた。

 「良かった・・・。貴方はまだ、“人の為に涙を流せる“優しい心を持っていたようね・・・」

 「そんな・・・そんな事っ・・・!」

 自分の中に、まだ良心が残っているということを認めたくないのか、必死に否定しようとするなぎさの様子からは、恥ずかしいところを見られたくなく誤魔化すかのようなあどけなさが伺えた。

 「ううん、隠さないで。もっと早くにこうしていれば良かった・・・。そうすれば私達、もっと強く生きられたかも知れないのに・・・。ごめんね・・・ごめんね・・・なぎさ・・・」

 彼女の言う通り、なぎさも意地にならずにもっと友紀を頼っていれば、孤立することもなく夢を諦めずに、同じ舞台へと立つ未来が用意されていたのかも知れない。

 どうしてあの時の自分は、先にアイドルの道へと踏み出した友紀に嫉妬し、劣等感を抱いてしまったのか。その選択が、まさかこんな未来に辿り着くなど、誰が想像できようか。

 「うっ・・・アタシ・・・。私も・・・何でこんな・・・。いっぱい・・・いっぱい!取り返しのつかない事をっ・・・」

 もし人が感情をコントロール出来るのだとしたら、後悔なんてものは人生において無くなるものなのだろうか。

 後悔は必ず気づいた時にやって来る。

 それはまるで、未来への道を歩く自分の影のようにピッタリと、くっ付いて離れない。どんな人であれ、あの時あぁしてれば、こうしていればと思う瞬間は必ずある。

 未来の果てに過去を振り返るのは、感情のある人間にのみ許された行為の一つ。今の自分が成功していようが失敗していようが、後悔を背負って生きていくことに変わりない。

 だがそれを乗り越え、また前を向いて歩き始めた時、そんな後悔もいい酒の肴となる時が訪れる。何もない平坦な道が、面白みのある人生だったと、最期の時に言えるだろうか。

 苦しい時もあれば、幸福な時もある。逆も然りで、それはいつ訪れるものか分からず、どこまで行けば抜け出せるのかも分からない。

 時にはその途中で、道を踏み外してしまう者もいるだろう。自ら歩くことを辞めてしまう者もいるだろう。

 しかし、そんな彼らの歩んで来た軌跡は、それを見てきた者達によって新たな景色へと導かれていく。

 孤独ではそれがなくなってしまう。周りに何もなくなれば、その者が生きてきた物語は消失し、永遠に失われることになる。

 なぎさが周囲の者から孤立し、自分への卑劣な行為や誹謗中傷をし、追い詰めて来た者達に地獄を味わわせる行いは、決して許される事ではなく清算出来るものではない。

 だが、それは人が定めた人の理であり、正解か誤りだったのかなど、本来誰にも咎めることは出来ない。

 なぎさを追い詰めた人間が行った行為は、例え悪意がなくても到底許されるものではない。人の法で裁けぬと言うのなら、一体その者らは誰によって裁かれるのか。

 彼女の前に現れた異世界からの使者イルは、まさにそんな彼女の無念や行き場のない怒りを果たす、そんな存在だった。

 全てを失い、全てに絶望していた彼女が生きていくには、そんな存在に頼る他なかったのだ。

 「今はどうしたらいいのかなんて分からない・・・。それにこれからの事も・・・。でも、もうこんなことは辞めて。今は私がいる、貴方は一人じゃないんだから・・・」

 友紀の言葉に心が揺らぐなぎさ。もしも、本当にやり直せるのだとしたら。許されるのだとしたら、また輝いていたあの時みたいに、今度は親友の姿に憧れて、同じ舞台を目指したい。

 しかし、彼女の行いは決して許されることはなかった。

 それはまるで、純白の衣に染み付いた汚れのように、彼女の過ちを忘れられないほど心の中に刻み込み、思い出させる存在がいるから・・・。

 二人が過去の過ちや後悔を懺悔し、互いに支え合えるようになった所に、大きな荷物が降ろされたかのような音と共に、ソレは姿を現した。

 何事かと、音のした方へ視線を向ける二人。その先にいたのは、それまでの飄々とした態度で悠然と戦場にいた筈の、イルだった。
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