World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
839 / 1,646

アサシンのマルウェア

しおりを挟む
 しかし、彼らの持つデバイスではイルのデータを攻撃することは出来ないのだという。

 MAROがハッキングを齧っているというのも、彼のスマホにインストールされているアプリの中に、使用されているネットワークにアクセスされた痕跡を、外部のデバイスである彼のスマホに発信させることのできる、“スパイウェア”という、マルウェアを使用して調べるということしか出来ないからだった。

 マルウェアとは、シン達の世界に蔓延るハッカー集団が用いる、最もポピュラーな手法で、悪意あるプログラムやソフトウェアの総称のことを“マルウェア“と呼んでいる。

 つまり、MAROのスマホから特定の地域や場所のネットワークにアクセスし、周辺の無線LANにそのネットワークにアクセスしたデバイス等の情報をMAROのスマホに発信する、ウイルスを送り込むことでイルの痕跡を探し出そうとしていた。

 そして、暫く画面と睨み合いをしていたMAROが、届いた情報の中から異様な痕跡を発見する。他のデータとは明らかに形式の違うもので、見たこともないことから一目瞭然だったらしい。

 「あった!多分これだろう。見たこともない形式のコンピュータ言語だ・・・」

 「見たこともない?知らなかったという可能性は?」

 「どうだろうな。ハッカー達は常に新しい攻撃手段を模索してるらしい。俺の知らない内に、こんな言語が生まれていたとしても不思議じゃないが・・・」

 「何かそのデータに、ウイルスを送り込んだり攻撃したりは?」

 「ダメだ。これ以上のことは俺のスマホでは出来ない。そもそも、そういったプログラムやソフトウェアを俺は持ってない。つまり、足跡は見つけられても、それ以上のことは何も出来ないってところだ・・・」

 結果的には手詰まりといった状況だった。

 最初に説明された通り、MAROにハッキングでイルを攻撃することは出来なかった。イルが通ったであろうネットワーク上の痕跡自体は見つけられても、ただそれを見ていることしか出来なかった。

 それどころか、その後彼のスマホの画面に映し出された情報の中で、ある変化が起こり始めた。

 「なっ何だコレッ・・・!?」

 「どうした?」

 MAROが黙って自分のスマホの画面を、シンに見やすいように傾ける。だがそういった事に詳しくないシンには、何が起こっているのかさっぱりだった。そこにあったのは、ローマ字の羅列が仕切りなく変化していき、徐々に消えていくという画面だけだった。

 「何だ?何が起こってる?」

 「痕跡が消えてるんだ・・・。恐らく時間差で消えていくようにプログラムされているのかも知れない・・・」

 「奴もプログラムに詳しいのか!?」

 「分からない。もしかしたら本当に勝手に消えていく仕組みなのかも知れないし、アンタのいう通り詳しいのかも知れない」

 このままではイルの残した唯一の痕跡が消えてしまう。シンが何らかの情報を掴んだことを察したイルは、恐らくもうデータ化による移動を使わないだろう。

 「どうすればいい!?これが消えたら、もう奴を追えないかも知れないんだ!」

 「さっきも言ったろ!?何も出来ない!ここまでだ・・・。そいつを直接倒すしかない」

 ここにいる全員でかかれば、イルを倒せるだろうか。瀕死にまで追い込めば、或いはもう一度データ化による逃走を図るかも知れない。そこから奴を追うことも出来なくはないが、その為にはネット上でイルを攻撃する手段が必要になる。

 痕跡が自動で消えることが分かった以上、イルが遠くへ逃げれば逃げるほど、物理的にシン達が彼を追うことが出来なくなってしまう。

 そんな時、シンも知り得なかった未知なる情報を掴んでいたイル。彼の情報を調べてもらう為にデータを送っていたアサシンギルドの白獅から返事が来た。

 如何やらシンの目に埋め込まれたテュルプ・オーブから音声データを抽出しており、少し前からシン達の会話を聞いていたようだった。

 シンがオーブを通して見ている景色に、文字の羅列が浮かび上がる。そこには、アサシンギルド内で作られたハッキング用のソフトの中に、ネットワーク上のデータを攻撃できるプログラムが仕込まれたアプリがあるのだという。

 それをシンの身体に反映されているキャラクターデータを通じて、彼のスマホから発信することが出来るのだという。

 「信用できる人から、ウイルスが送れるって返事が来た・・・」

 「ウイルス?何だ、ハッカーの知り合いが居たのか。如何して先に言わない?」

 「今、知ったんだ。その人物がそんなものを持ってるなんて・・・」

 「まぁ良かったじゃないか。奴の痕跡が消える前に、さっさとやっちまおう!」

 シンは白獅から送られてくる指示通りにスマホを取り出すと、何をするわけでもなく、ただその目に埋め込まれたオーブで画面を見続けるだけだった。

 暫くすると、彼の手に持つスマホが勝手に動き出し、次々に画面が切り替わりながら、何が起きているのか分からないまま、その経過を見送った。

 すると白獅から、新たなメッセージが送られてくる。内容はこうだった。

 今、シンのスマホをアサシンギルドで作られたマルウェア、“フィダー“を使って遠隔操作し、イルの残した痕跡を辿って本体に向け、ウイルスを送り込んだと。

 現状何も変化はないが、次にイルがデータ化し移動を開始しようとした時に、大量のデータや処理要請を送りつける“DoS攻撃“が開始されるらしい。

 それにより過剰な負荷をかけられたイルの身体には、一体何が起きるのかまでは不明だが、少なくともデータ化している状態だと、多大なデメリットを抱えることになるらしい。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

テンプレを無視する異世界生活

ss
ファンタジー
主人公の如月 翔(きさらぎ しょう)は1度見聞きしたものを完璧に覚えるIQ200を超える大天才。 そんな彼が勇者召喚により異世界へ。 だが、翔には何のスキルもなかった。 翔は異世界で過ごしていくうちに異世界の真実を解き明かしていく。 これは、そんなスキルなしの大天才が行く異世界生活である.......... hotランキング2位にランクイン 人気ランキング3位にランクイン ファンタジーで2位にランクイン ※しばらくは0時、6時、12時、6時の4本投稿にしようと思います。 ※コメントが多すぎて処理しきれなくなった時は一時的に閉鎖する場合があります。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...