World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
832 / 1,646

特別な存在

しおりを挟む
 蒼空との手合わせで学んだイルは、不可解で不気味な能力を扱うシンに警戒心を持つ。深追いは禁物と、一旦天臣への追撃を止め距離をとる。

 「数が多いと、迂闊に飛び込めなくていけねぇよなぁ・・・」

 身を引いたイルを取り囲むようにして対峙するシン達三人。悠然と立ち尽くす男からは異様な雰囲気が漂っている。追い詰められているのは相手の筈。それなのに何処か、捉えることのできないような、そんな予感が三人の脳裏に過ぎり、足が前に出ずにいた。

 「学んだようだな。さっきよりも慎重じゃないか」

 「多勢に無勢だからね・・・。少しはアンタのアドバイスに従っておこうと思っただけさ」

 「友紀はどこだ・・・」

 落ち着きを取り戻した天臣が、再び刀の切先を向けて友紀の行くへについて問う。先程は飄々と流されてしまったが、どうやらあまりのんびりしていると彼女の身に危険が迫るような言い方をしていた。

 「なに、ちょっとある人物に会ってもらってるだけさ」

 「ある人物・・・?誰だ、それは」

 「彼女にとって所縁のある人物だよ。それも・・・彼女にとって大切で、重要な・・・ね?」

 アイドル岡垣友紀にとって所縁のある人物。シンには何のことか全く分からず、蒼空にとっては色々と想像させられるものだった。

 彼女が下積みを経て、デビューしてからのファンだった蒼空。彼女のファンの殆どが、今の彼と同じだろう。

 元々アイドルには興味があり、新人が現れたということで一度は目にしてみたものの、当時の彼女はそこまで他のアイドル達から抜きん出た輝きを持っている訳ではなかった。

 だが、ファンとの交流の中で垣間見える彼女の、一人一人に対して丁寧な対応など、何処か応援したくなるような素朴さが妙なファンを焚き付けた。

 そんな彼女に所縁のある人物だとすれば、事務所の先輩や番組の大御所、またはスタッフや天臣のような身近な関係者なのだろうかと、考えればいくらでも候補に上がるような人物が想像つく。

 しかし、最も近くでアイドルとしての岡垣友紀を見てきた天臣には、他の誰もが知り得ないとある人物の存在が脳裏に過ぎる。

 彼女が落ち込んだ時や挫けそうになった時、仕切りに彼女の口から聞かされていた、昔共にアイドルを目指していた親友の名前、“片桐なぎさ“の存在だった。

 「彼女が・・・来ているのか?」

 天臣がなぎさのことを知っているとは思わなかったイルは、少し驚いた表情を見せた。だが、なぎさから友紀のマネージャーの話など聞いたことのなかったイル。

 これまで復讐に明け暮れていた彼女に、天臣と接触する時間などなかった。なぎさも友紀のことは特別扱いをしており、すぐに彼女と接触することは避けていた。

 今回、なぎさが友紀の元を訪れたのは、果たすべき復讐を終え、彼女に残る大きな因縁が友紀だけになった事と、友紀にとって特別な公演だったからだった。要するに、これ以上ないほどタイミングと条件がマッチしていたのだ。

 「ふ~ん・・・彼女から話を聞いていたのかな?流石はマネージャーさんだ。信頼されてるんだねぇ~」

 「彼女?彼女って、誰なんだ?天臣さん」

 「・・・まだ日の目を見る前の彼女を、支えていたものだ・・・。だが、それが何故この男と・・・?」

 「それは俺が語ることではないな。俺はあくまで彼女の望みを叶えたまで。後は邪魔されないよう、アンタらみたいな奴らから、彼女を守るだけだ」

 話を終えた後、イルが何か仕掛けようというのか、腰を曲げて前屈みになり身体を丸めると、その身体から溢れ出すように黒い靄が発生し、下へ流れていく。

 靄を扱うということは、イル自身の能力を用いた攻撃、或いはバフのような自らの有利な状況を作るスキルを使用しようとしているに違いない。

 イルが天臣の攻撃を避けるのは、靄を使っている時。そして、攻撃をもろともせず悠然と向かってきたり、身を引いたりする時に見せる不可解な瞬間移動の能力。それを使う時は、靄との併用はなかった。

 攻撃を当てるチャンスがあるとするならば、イルが靄を身に纏ったり使っている時だ。しかし、それもまだ確定事項ではない。あくまで今までの様子から伺える、可能性の一つに過ぎない。

 未だ未知の部分の多いイルの能力の中に、無策で飛び込んでいくのは危険すぎる。

 蒼空の能力であれば、靄を散らせることは可能だが、果たしてそれが正解かどうか分からない。

 イルは身体の周りに靄を溜め込むように集めると、それを一気に吐き出すように解き放つ。

 「さぁ!俺達の舞台はこれからが見せ場だッ!存分に楽しんでくれよ!?」

 男を中心に放たれた靄は、会場を埋め尽くさんとする勢いで周囲を飲み込んでいき、シン達は黒い煙の中に飲み込まれてしまったかのように、視界を奪われてしまう。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

処理中です...