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探り合い
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ステージにシンが到着してから間も無く、彼らの会話に紛れ込むかのように、蒼空と天臣にとってまだ記憶に新しい声が聞こえてくる。
「能力というのとは少し違うな・・・」
突然聞こえた、その場にいた誰のものでもない声に、一同は飛び退くようにその声の元から離れる。
そこには、黒いコートを身に纏った身体から煙のようなものを漂わせる男が立っていた。この男が蒼空達の言っていた“イル“という人物なのだろう。
「いっいつの間に・・・!?」
消えた時と同様に、突然現れたイルに驚く蒼空とは逆に、天臣は間髪入れずに刀を握り、目にも止まらぬ抜刀術で男の首を斬りつけた。暗い会場の中に、機材の光を反射させた鋭い切先が、一陣の閃光のように光の残像を残す。
しかし、天臣の刀が辿った軌跡は確実にイルに当たる距離だったはずなのだが、彼の一振りがもたらした結果は、その凄まじい程鋭く静かな一撃には見合わぬものとなった。
「ッ・・・!?」
「今の俺は、さっきまでの俺の姿とは少し違うんだ。だからアンタ達の攻撃は当たらないよ」
天臣の刀には、何も付着していなかった。何かを斬った痕跡もなく、イルの能力である靄も見当たらない。つまり今の天臣による一撃を、この男は能力を使わずにやり過ごしたことになる。それは文字通り、刀が男の首を擦り抜けたとしか考えられない。
「彼女をどこへやった・・・!?」
「安心しなよ。殺しちゃぁいない。ただ・・・早くしないとどうなっちゃうかなぁ~?」
挑発する男の態度に、天臣の内心は激昂していただろう。それを表に出すことはなかったが、言葉のない彼のその後の行動から、それがヒシヒシと伝わってきた。
イルの言葉を聞くや否や、天臣は先程の攻撃が男の身体を擦り抜けたという光景を確かめるように、そして払拭するように素早い斬撃を何度も男に繰り出した。
あまりの勢いに、シンと蒼空も思わず後退りした。男は依然として動くことはなく、寧ろ両腕を広げ必死に立ち向かう天臣を嘲笑うように、一歩二歩と彼に歩み寄る。
天臣の攻撃はシンと蒼空、双方の視点から見ても確実にイルの身体に当たる角度と距離で間違いない。それなのに彼の殺意の籠った鉄の刃は、まるで空を切るように透過するだけで、先程と何ら変化が見られなかった。
このまま続けても当たるとは思えない。後退りしながらも攻撃の手を緩めず奮っている。
「何度やっても無駄だよ。アンタも分かってんだろぉ~?」
「くッ・・・!」
「天臣さんッ!」
策もなく攻撃を仕掛けるのは無謀だと、思わず蒼空が天臣を静止させるようの声をかける。彼も気が済んだのか、蒼空の声をきっかけに手を止める。すると、その様子を見たイルがこれ見よがしに攻勢へと転じる。
「何だ、もう終わりか?なら今度はこっちの番だ」
イルは天臣の攻撃の手が緩んだのと同時に勢いづくと、何故かそれまで避けることもなかった斬撃を掻い潜り、天臣への接触を図ろうと手を伸ばす。
友紀が連れ去られたところを見るに、この男に触れられるのは危険であると察しがつく。何が何でも触れられまいと、天臣は多少無理をしてでも身体を捻り、イルの魔の手から逃れる。
しかし、それを許さぬようにして、天臣の足元から黒い靄の蔓が伸び、彼の足へと絡みつく。
「しまっ・・・!」
「残念!これで一人・・・」
男の手が天臣の頭を鷲掴みにしようとしたところで、彼の体勢がガクッと下がる。まるで軸にしていた足元の床が、突然崩れ落ちたかのように、天臣の身体がイルの手を避けるようにして下へと落ちる。
「ッ・・・?」
攻撃を仕掛けたイルどころか、体勢を崩し危機を間一髪のところで逃れた天臣ですらも、その突然の出来事に驚いていた。
彼を助けたのはシンのスキルによるものだった。暗い戦場において、シンの影のスキルは非常に目に付きづらく、それこそいつの間に忍び寄っていたのかさえ分からない。
天臣自身の影を使い、彼の重心を乗せていた足を影の中へと引き摺り込んだのだ。僅かに遅れてイルの動きを縛るように、男の影にもシンのスキルが忍び込み拘束する。
何に縛られているのかさえ分からなかったイルだったが、下半身を靄へと変化させて緊急回避する。ここでも男は、避けるのに自身の能力である靄を用いた。
友紀を連れ去った時のように、瞬間移動を用いれば更なる追撃も狙えていた筈。単にそれが男のミスなのか、それとも何かその能力を使えない条件のようなものがあったのだろうか。
既にイルに手の内を知られている天臣と蒼空。そのどちらでもない能力から、これが戦場へ遅れてやって来たもう一人の男、シンの能力であると勘繰られてしまう。
しかしそれは、遅かれ早かれバレる事。今天臣を失うよりかは、遥かにマシだろう。それに、地の利と頭数ではシン達が圧倒的に有利と言える。この事態を会場の外に置いてきた仲間達に知らせれば、イルを追い詰めることができる。
「能力というのとは少し違うな・・・」
突然聞こえた、その場にいた誰のものでもない声に、一同は飛び退くようにその声の元から離れる。
そこには、黒いコートを身に纏った身体から煙のようなものを漂わせる男が立っていた。この男が蒼空達の言っていた“イル“という人物なのだろう。
「いっいつの間に・・・!?」
消えた時と同様に、突然現れたイルに驚く蒼空とは逆に、天臣は間髪入れずに刀を握り、目にも止まらぬ抜刀術で男の首を斬りつけた。暗い会場の中に、機材の光を反射させた鋭い切先が、一陣の閃光のように光の残像を残す。
しかし、天臣の刀が辿った軌跡は確実にイルに当たる距離だったはずなのだが、彼の一振りがもたらした結果は、その凄まじい程鋭く静かな一撃には見合わぬものとなった。
「ッ・・・!?」
「今の俺は、さっきまでの俺の姿とは少し違うんだ。だからアンタ達の攻撃は当たらないよ」
天臣の刀には、何も付着していなかった。何かを斬った痕跡もなく、イルの能力である靄も見当たらない。つまり今の天臣による一撃を、この男は能力を使わずにやり過ごしたことになる。それは文字通り、刀が男の首を擦り抜けたとしか考えられない。
「彼女をどこへやった・・・!?」
「安心しなよ。殺しちゃぁいない。ただ・・・早くしないとどうなっちゃうかなぁ~?」
挑発する男の態度に、天臣の内心は激昂していただろう。それを表に出すことはなかったが、言葉のない彼のその後の行動から、それがヒシヒシと伝わってきた。
イルの言葉を聞くや否や、天臣は先程の攻撃が男の身体を擦り抜けたという光景を確かめるように、そして払拭するように素早い斬撃を何度も男に繰り出した。
あまりの勢いに、シンと蒼空も思わず後退りした。男は依然として動くことはなく、寧ろ両腕を広げ必死に立ち向かう天臣を嘲笑うように、一歩二歩と彼に歩み寄る。
天臣の攻撃はシンと蒼空、双方の視点から見ても確実にイルの身体に当たる角度と距離で間違いない。それなのに彼の殺意の籠った鉄の刃は、まるで空を切るように透過するだけで、先程と何ら変化が見られなかった。
このまま続けても当たるとは思えない。後退りしながらも攻撃の手を緩めず奮っている。
「何度やっても無駄だよ。アンタも分かってんだろぉ~?」
「くッ・・・!」
「天臣さんッ!」
策もなく攻撃を仕掛けるのは無謀だと、思わず蒼空が天臣を静止させるようの声をかける。彼も気が済んだのか、蒼空の声をきっかけに手を止める。すると、その様子を見たイルがこれ見よがしに攻勢へと転じる。
「何だ、もう終わりか?なら今度はこっちの番だ」
イルは天臣の攻撃の手が緩んだのと同時に勢いづくと、何故かそれまで避けることもなかった斬撃を掻い潜り、天臣への接触を図ろうと手を伸ばす。
友紀が連れ去られたところを見るに、この男に触れられるのは危険であると察しがつく。何が何でも触れられまいと、天臣は多少無理をしてでも身体を捻り、イルの魔の手から逃れる。
しかし、それを許さぬようにして、天臣の足元から黒い靄の蔓が伸び、彼の足へと絡みつく。
「しまっ・・・!」
「残念!これで一人・・・」
男の手が天臣の頭を鷲掴みにしようとしたところで、彼の体勢がガクッと下がる。まるで軸にしていた足元の床が、突然崩れ落ちたかのように、天臣の身体がイルの手を避けるようにして下へと落ちる。
「ッ・・・?」
攻撃を仕掛けたイルどころか、体勢を崩し危機を間一髪のところで逃れた天臣ですらも、その突然の出来事に驚いていた。
彼を助けたのはシンのスキルによるものだった。暗い戦場において、シンの影のスキルは非常に目に付きづらく、それこそいつの間に忍び寄っていたのかさえ分からない。
天臣自身の影を使い、彼の重心を乗せていた足を影の中へと引き摺り込んだのだ。僅かに遅れてイルの動きを縛るように、男の影にもシンのスキルが忍び込み拘束する。
何に縛られているのかさえ分からなかったイルだったが、下半身を靄へと変化させて緊急回避する。ここでも男は、避けるのに自身の能力である靄を用いた。
友紀を連れ去った時のように、瞬間移動を用いれば更なる追撃も狙えていた筈。単にそれが男のミスなのか、それとも何かその能力を使えない条件のようなものがあったのだろうか。
既にイルに手の内を知られている天臣と蒼空。そのどちらでもない能力から、これが戦場へ遅れてやって来たもう一人の男、シンの能力であると勘繰られてしまう。
しかしそれは、遅かれ早かれバレる事。今天臣を失うよりかは、遥かにマシだろう。それに、地の利と頭数ではシン達が圧倒的に有利と言える。この事態を会場の外に置いてきた仲間達に知らせれば、イルを追い詰めることができる。
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