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カラクリと再会
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会場全体を使った演出により、観客のボルテージは最高潮に達していた。
その裏で、スタッフ達は機材の微調整や、ステージの仕掛けの準備など、裏方の仕事に励んでいた。これも、友紀のライブに来てくれたファンの為。遠路遥々訪れた観客へ、最高の思い出を残していってもらおうと、一丸となって準備を進めてきた。
思いはみんな同じ。無事にこのライブを完走し切ること。全力を尽くしたと、胸を張って言えるようにすること。
「おいッ!そっちはどうだ?終わったらこっちを手伝ってくれ」
「あぁ、もうすぐ終わる!」
「次の映像データの準備出来てる!?」
「大丈夫です!問題ありません!」
「演出よぉく見ておけよ。それと合図、忘れんな!」
「了解っす」
スタッフ間で、インカムを使った確認が忙しなく行われている。会場が映像による演出パートに入っていることにより、ライトは消されより没入間を高める為に、照明が落とされている。
おかげでスタッフ達の動きは、注意深く観察しない限りは然程目立つこともない。今の内にと、ステージの使っていない各種機材のメンテナンスに動き出す。
「よし!こっちはオッケーっと・・・。後は一番奥のやつを・・・ん?」
一人のスタッフが、ステージ傍の機材をチェックしていると、スタッフ用通路に何かが置かれていることに気がつく。真っ暗な中で、それが何なのか直ぐには分からなかったが、触れられる距離に来て漸くそれが何なのかに気づく。
「なッ・・・!おい、大丈夫か!?」
通路にいたのは、一人の人間だった。まるで眠っているのかのように、ピクリとも動かない様子を見て、もしかしたら死んでいるのかという最悪の事態が、スタッフの脳裏に過ぎる。
ステージや会場の演出の邪魔にならないよう、持ち合わせていた小型のペンライトで、通路に倒れていた人間を照らす。
姿格好から見て、どうやら会場のスタッフではないようだった。性別は男性で、二十代後半から三十代くらいの年齢と思われる。ライブに来ていた観客が、道に迷い紛れ込んでしまったのだろうか。
頭部や身体に外傷はない。機材の落下や段差から落ちたという訳ではないようで、命に別状はなさそうなことにスタッフは安堵した。
気は失っているものの、身体には確かに体温があり、呼吸もしていることを確認したスタッフは、周囲を見渡し救助の手を探した。
「おーい、誰か!人が倒れてる!手を貸してくれないか!?」
「どうした?事故か!?」
「いえ、周囲の機材や床に問題はありません。ただ、スタッフの者ではないようで・・・」
「状態はどうだ?何処か怪我をしてるとか、強く打ちつけた様子は?」
「ありません。多分、大丈夫かと・・・」
「しかし、参ったな・・・。スタッフ以外の傷病者となると、ウチの問題になりかねんぞ・・・」
二人のスタッフは取り敢えず、他のスタッフに担架を持って来させると、頭や身体を出来るだけ動かさないように乗せ、簡易的な救護室へと倒れていた男性を運んでいった。
救護室について、男性をベッドの上に寝かせて間も無く、彼は意識を取り戻した。何処か怪我をした箇所はないか、痛い部位はないかと問うと、男性は首を横に振った。
「ここは・・・?俺は一体・・・」
「ここはスタッフ用の救護室です。貴方はステージ近くの、スタッフ用通路で倒れていました。何かそれ以前の記憶は?」
「スタッフ用・・・?ここは何かのイベント会場ですか?」
男性の言葉に、近くにいたスタッフ達は顔を見合わせて驚いた。話によると、男性はどうやら友紀のライブを観に来た観客でもなければ、会場の関係者でもなかった。
それどころか、自分が何故横浜の赤レンガ倉庫に来ているのかさえ分からないのだそうだ。記憶喪失という訳ではない。自分の名前や住所、記憶を失う直前にいた場所までハッキリと答えた。
ただ、直前に彼がいたのは神奈川の横浜ではなく、遠く離れた他県の自宅だったそうだ・・・。
一方、天臣と蒼空の前から、友紀と共に姿を消したイルは、何処かの建物の屋上へとやって来ていた。
イルの黒い靄は、彼女の腕を後ろで拘束し、何処にいるのか分からぬよう目を覆われていた。彼女を転ばせぬよう、丁重に扱うイルの態度に、友紀は内心意外でもあり、その紳士な態度の裏に隠された不気味さを感じ取っていた。
「お待たせ。君のお待ちかねの人物を連れて来たよ。後はお二人で楽しんでおくれよ。久しぶりの再会ってやつをね・・・」
それだけ言い残し、イルは再びその場から姿を消した。彼が友紀を連れて来た場所には、彼女の嘗ての友である、片桐なぎさの姿があった。
「ったく・・・。アイツはいつも遅ぇんだよ・・・」
友紀は彼女の声を聞いて、直ぐにそれが誰なのか分かった。嘗て共にアイドルを目指し、オーディションのスカウトから道を違えた旧友。今も彼女は何処かで、なぎさもアイドルを目指しているのだと心の支えにしていた。
イルが消えたことにより、腕の拘束と目隠しが解除される。その瞳に光を取り込んだ時その目に映ったのは、当時の彼女からは想像もつかない程変わり果てた、なぎさの姿だった。
その裏で、スタッフ達は機材の微調整や、ステージの仕掛けの準備など、裏方の仕事に励んでいた。これも、友紀のライブに来てくれたファンの為。遠路遥々訪れた観客へ、最高の思い出を残していってもらおうと、一丸となって準備を進めてきた。
思いはみんな同じ。無事にこのライブを完走し切ること。全力を尽くしたと、胸を張って言えるようにすること。
「おいッ!そっちはどうだ?終わったらこっちを手伝ってくれ」
「あぁ、もうすぐ終わる!」
「次の映像データの準備出来てる!?」
「大丈夫です!問題ありません!」
「演出よぉく見ておけよ。それと合図、忘れんな!」
「了解っす」
スタッフ間で、インカムを使った確認が忙しなく行われている。会場が映像による演出パートに入っていることにより、ライトは消されより没入間を高める為に、照明が落とされている。
おかげでスタッフ達の動きは、注意深く観察しない限りは然程目立つこともない。今の内にと、ステージの使っていない各種機材のメンテナンスに動き出す。
「よし!こっちはオッケーっと・・・。後は一番奥のやつを・・・ん?」
一人のスタッフが、ステージ傍の機材をチェックしていると、スタッフ用通路に何かが置かれていることに気がつく。真っ暗な中で、それが何なのか直ぐには分からなかったが、触れられる距離に来て漸くそれが何なのかに気づく。
「なッ・・・!おい、大丈夫か!?」
通路にいたのは、一人の人間だった。まるで眠っているのかのように、ピクリとも動かない様子を見て、もしかしたら死んでいるのかという最悪の事態が、スタッフの脳裏に過ぎる。
ステージや会場の演出の邪魔にならないよう、持ち合わせていた小型のペンライトで、通路に倒れていた人間を照らす。
姿格好から見て、どうやら会場のスタッフではないようだった。性別は男性で、二十代後半から三十代くらいの年齢と思われる。ライブに来ていた観客が、道に迷い紛れ込んでしまったのだろうか。
頭部や身体に外傷はない。機材の落下や段差から落ちたという訳ではないようで、命に別状はなさそうなことにスタッフは安堵した。
気は失っているものの、身体には確かに体温があり、呼吸もしていることを確認したスタッフは、周囲を見渡し救助の手を探した。
「おーい、誰か!人が倒れてる!手を貸してくれないか!?」
「どうした?事故か!?」
「いえ、周囲の機材や床に問題はありません。ただ、スタッフの者ではないようで・・・」
「状態はどうだ?何処か怪我をしてるとか、強く打ちつけた様子は?」
「ありません。多分、大丈夫かと・・・」
「しかし、参ったな・・・。スタッフ以外の傷病者となると、ウチの問題になりかねんぞ・・・」
二人のスタッフは取り敢えず、他のスタッフに担架を持って来させると、頭や身体を出来るだけ動かさないように乗せ、簡易的な救護室へと倒れていた男性を運んでいった。
救護室について、男性をベッドの上に寝かせて間も無く、彼は意識を取り戻した。何処か怪我をした箇所はないか、痛い部位はないかと問うと、男性は首を横に振った。
「ここは・・・?俺は一体・・・」
「ここはスタッフ用の救護室です。貴方はステージ近くの、スタッフ用通路で倒れていました。何かそれ以前の記憶は?」
「スタッフ用・・・?ここは何かのイベント会場ですか?」
男性の言葉に、近くにいたスタッフ達は顔を見合わせて驚いた。話によると、男性はどうやら友紀のライブを観に来た観客でもなければ、会場の関係者でもなかった。
それどころか、自分が何故横浜の赤レンガ倉庫に来ているのかさえ分からないのだそうだ。記憶喪失という訳ではない。自分の名前や住所、記憶を失う直前にいた場所までハッキリと答えた。
ただ、直前に彼がいたのは神奈川の横浜ではなく、遠く離れた他県の自宅だったそうだ・・・。
一方、天臣と蒼空の前から、友紀と共に姿を消したイルは、何処かの建物の屋上へとやって来ていた。
イルの黒い靄は、彼女の腕を後ろで拘束し、何処にいるのか分からぬよう目を覆われていた。彼女を転ばせぬよう、丁重に扱うイルの態度に、友紀は内心意外でもあり、その紳士な態度の裏に隠された不気味さを感じ取っていた。
「お待たせ。君のお待ちかねの人物を連れて来たよ。後はお二人で楽しんでおくれよ。久しぶりの再会ってやつをね・・・」
それだけ言い残し、イルは再びその場から姿を消した。彼が友紀を連れて来た場所には、彼女の嘗ての友である、片桐なぎさの姿があった。
「ったく・・・。アイツはいつも遅ぇんだよ・・・」
友紀は彼女の声を聞いて、直ぐにそれが誰なのか分かった。嘗て共にアイドルを目指し、オーディションのスカウトから道を違えた旧友。今も彼女は何処かで、なぎさもアイドルを目指しているのだと心の支えにしていた。
イルが消えたことにより、腕の拘束と目隠しが解除される。その瞳に光を取り込んだ時その目に映ったのは、当時の彼女からは想像もつかない程変わり果てた、なぎさの姿だった。
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