World of Fantasia

神代 コウ

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ライブの開演

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 彼らが会場へと戻って来た時には、来場者が全員入場を完了していた。閉められる扉をすり抜け会場に入ると、次第に照明が落とされる。

 真っ暗になった会場では、ステージ上の幕に岡垣友紀の過去の軌跡だろうと思われる、映像の数々が流され始めた。

 彼女が辿ったアイドル道を、再度追体験するかのように臨場感ある映像と共に、当時の会場の様子を再現するかのように、4D体験を味わう会場内は歓喜に盛り上がっていた。

 「凄いッ!流石ユッキーのライブだ、期待を裏切らない演出!!間に合ってよかったぁ~」

 会場の熱気に押されるように、マキナも入場早々に盛り上がる。

 「おいおい、凄い盛り上がりだな」

 「当然よ!こんなの見せられて、興奮しない方が難しいわ!あぁ~私も遂に、現地でユッキーを見れるんだぁ~」

 立ち止まり感動した様子で顔を押さえるにぃな。彼女が岡垣友紀というアイドルについて語っていた時には、ここまで感動するものとは思っていなかったシン。彼女も大概、そのアイドルの大ファンだったのだろう。

 「しっかりしてくれよ?俺達の目的。命が掛かってるんだからなぁ?俺らと、そのアイドルの・・・」

 「分かってますよ!目を離す訳ないじゃないですか!」

 「そうよ!生ユッキーを目に焼き付けておかないと!当分の間、瞼の裏に再生されるほどにね!」

 本当に分かっているのか、甚だ疑問だと言う様子で、大きな溜め息をついて肩を落とすシン。二人の腕を掴み、蒼空のいる場所へ向かうため、観客席の階段を上がっていく。

 すると、彼らの到着を待ち侘びていたのか、すぐに登ってくるシン達を見つけた蒼空が立ち上がり、大きくこちらへ手を振っている。

 「お~い!こっちこっちぃ!あれ?お友達?」

 会場から出て行った時には二人だった筈だが、戻って来た彼らの元には蒼空の知らないもう一人の人物の姿があった。神奈川の調査を言い渡されたメンバーのメッセージにはない人物であることから、現地で出会った人物であることは想像できた。

 これから何かが起こるという現場に連れてきたということは、共に戦える仲間ということだろうと推理する蒼空。

 「あぁ、周辺調査をしてる時に出会った覚醒者だ。一通りの戦闘はしてきたから、戦力にはなる筈だ」

 緊張した様子で蒼空にお辞儀をするマキナ。

 「よ・・・よろしくお願いします!」

 「仲間が増えることについては大賛成だ!それとねぇ~、僕からも朗報があるよ?」

 勿体ぶる蒼空の表情は、まるでそれが何か聞いてくれと言わんばかりのドヤ顔をしていた。こっちもこのノリかと、疲れた様子で彼の期待に応えるシン。

 「何だ?その朗報ってやつは・・・」

 蒼空は先程再会を果たした、岡垣友紀の親衛隊である三人の名前とキャラクターデータを彼らに見せる。姿や名前を知らなければ、折角の仲間であっても連携が取れない。

 その為、親衛隊の情報を開示したのと引き換えに、シン達のキャラクター情報も合わせて、峰闇ら三人に送ることの承諾を求める。名前や見た目くらいなら、知られてもマイナスになることはないだろうと、シン達もそれを承諾。

 もし蒼空が何かを企んでいて、その親衛隊が彼の仲間であったのなら、わざわざ情報を開示するメリットがない。

 「彼らとは前回の会場で出会ったんだ。その時一緒に戦った仲だよ」

 「前回?それはアイドルのライブ会場ってことか?」

 「岡垣友紀のライブね!」

 アイドルと抽象的な呼び方をしたシンの言葉を、訂正するように強調する蒼空。前回ということは、やはり蒼空はその岡垣友紀というアイドルに目をつけ、追っているであろうことが伺える。

 だが、何故彼女を追っているのだろうか。何か彼の過去や周辺の関係者と繋がりがあるのだろうか。

 「よし、これでオッケー!彼らに君達の情報を送っておいたよ。一足先にスタンバイしてるから。右翼側に守りの戦闘を得意とする、ディフェンダーのケイル。左翼側には式神を使った物量戦や援護ができる、陰陽師のMARO。それと、高火力を叩き出せる自傷スキル持ちの暗黒騎士、峰闇がそれぞれステージ上や会場を見渡せる位置に陣取ってるから、上手く連携してね」

 興奮冷めやまぬ観客とにぃな達を尻目に、唯一その場の空気に乗り切れないシンが冷静に、にぃなとマキナとの連携を頭の中で組み立てていく。

 そしてステージの映像が一通り流れ終わると、ひと時の静寂の後に女性の歌声が聞こえ始める。すると、会場はこれまで以上の歓声と熱気に包まれる。どうやらこれが岡垣友紀の歌声なのだろう。

 にぃなもマキナも、席を立ち上がりこれまで聞いたことのないような大声で歓声を上げている。

 幕が徐々に上がり、ステージ上に映し出された水の演出により、水面に立つ女性の構図で一曲目が始まった。静かな立ち上がりからの、盛り上がりる曲調で、何かのアニメの主題歌なのだろうか、会場の壁に映し出された映像にはWoFを連想させるファンタジーな風景が流れていた。

 「凄い凝ってるな・・・」

 圧巻の歌声と演出に魅了されていると、その視界の端に蒼空の立ち上がった姿が入ってくる。何かを見つけたのだろうか。必死に声を出し何かを伝えようとしている。

 「どうした!?何がッ・・・」

 心配して彼の方を見てみると、その手にはサイリウムが握られており、誰よりもアイドルのライブを楽しみにしていたかのように熱狂していたのだ。

 「アンタまさか・・・」

 「あっ・・・」

 視線を感じたのか、恥ずかしいところを見られたかのように、顔を赤らめながらゆっくりこちらを振り返る蒼空。

 これで今までの不信感に合点がいったような気がした。彼がシン達を会場から遠ざけたのも、言葉の節々に違和感があったのも、彼がアイドルのユッキーの大ファンであること隠したかったからだった。
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