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スパイ疑惑
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挨拶回りをする中、シンは僅かにだが彼女がこちらへ視線を送ったかのように感じた。WoFのキャラクターを投影している以上、一般人には姿が見えない筈なのに。
「彼女は何故ここへ?まだライブじゃないだろ?」
「おいおい、いきなり現場で即ライブってな訳ないだろ?リハーサルや本人調整とかあるんだ。何事にも準備は必要だろ?より良いライブにする為に、自分の目や耳で点検や調整をするのは大事だろ?」
ぐうの音も出ない。即興で行われるライブや公演などもあるのだろうが、わざわざ場所を借りてやるのだ。細心の注意と準備をするのは当然と言えば当然か。
「まだ時間はある。君達もずっとここで待つのは退屈だろ?索敵がてら、周りの建物や周囲の状況を見てきて来れないかい?何かあれば、またこちらから連絡する。・・・戦闘になった時に、周りに何があるのかとか、知ってるのと知らないのでは戦い方も変わってくるだろ?」
「それはまぁ・・・確かに」
「僕達も準備をしよう。僕のことは気にしないで、二人で回っておいで」
それまで口を開かず、大人しく話を聞いていたにぃなが後ろを振り返り、蒼空の提案に賛成する。
「彼もこう言ってるし、行こうシンさん」
「え・・・あ、あぁ。じゃぁちょっと行ってくるよ」
席から立ち上がり、引っ張られるようにシンを連れて行こうとするにぃな。突然どうしたのだろうか。蒼空に会ってからというものの、にぃなの様子が少しおかしい。
彼女なりに、彼の何らかの本質的なものを感じ取っているのだろうか。
思い返してみれば、確かにおかしな点や不自然な点もあった。だが、そこまで警戒するようなものなのかと、シンはにぃなのことが心配になった。本来の彼女の明るさが、まるで押さえつけられているようだ。
「うん!行ってらっしゃい。また後でね」
蒼空の言葉を背中に受けながら、二人は階段を降りホールを後にした。
依然、急足で二階へと向かうにぃなの後を追い、後ろを気にしながら移動するシン。ここまでくれば誰かに聞かれることもないだろうと、シンはにぃなに一体どうしたのかと尋ねる。
「おい!どうしたんだ?さっきから様子が変だぞ?」
彼女は振り返ることもなく、依然足速に階段を降りていく。
「アイツ何か隠してる!重要なことは喋らないで説明するフリばっかりッ・・・!」
「フリ・・・?蒼空について何か知ってるのか?」
すると、彼女は何故か不貞腐れたように言葉を返す。
「知らない!でも何で、他の場所よりも優先してこのライブに集中してるの?横浜には他にも、人の集まる場所はたくさんあるよね?ここに固執する理由が、アイツの説明には無かった」
「聞いてみればよかったじゃないか」
「罠だったらどうするの?」
「罠?」
随分と物騒な言葉が、彼女の口から飛び出した。にぃなは何処から彼のことを疑っていたのだろうか。そもそも、そこまで疑うほどのものだったか。
何が彼女をそこまで警戒させているのか。そこには何か、言えない理由があるように感じる。それこそ、シンが過去の出来事を語りたくないように、彼女にも心に負った何らかの傷があるのかも知れない。
「あまり突っ込んだ質問をしたり、疑うような言動を見せるのは危険だってこと!もし私達がアイツを疑っていることが知れれば、その場で計画を実行したっておかしくないんだよ?」
「計画・・・?蒼空が俺達を嵌めようと、何か企んでるって言うのか?」
「・・・それは、分からない。でも他の人達が一人も来ないって言うのも、おかしいと思わない?だって、調査を命じてるのは組織の連中なんだよ?手助けすることを拒む理由はないと思うけど?」
確かに、彼女の言うことも一理ある。神奈川のエリアの調査を命じられているシン達が、同じ神奈川エリアで起きる問題を、協力して片付けることはフィアーズにとってもマイナスにはならない。
それなのに、誰も横浜には来なかった。そもそも、全体へ向けたメッセージというものも、本当に全体宛に送られたものなのか。それすら疑わしくなってくる。
ならば何故、蒼空はシン達を嵌める必要があるのか。もしやイヅツらと共に組織に謀反を起こそうとしていることが漏れたのだろうか。
考えてみれば、いくらでも理由は出てくる。今思考を巡らせるのは得策ではない。先ずは彼の目的を探らねばならない。もし謀反チームに危険が及ぶことなのならば、ここでその計画を潰しておかなければ、後々大変なことになる。
「外に逃したのがアイツのミスね。おかげで今、私達は自由の身になれた。・・・まぁ他に仲間がいたら、何処かで監視されてるかも知れないけど・・・」
「怖いこと言うなよ・・・。で、どうする?このままとんずらするか?」
「逃げ切れればそれでもいいかも知れないけど・・・。それより、アイツの計画を探った方が私達の今後のためかもね。逆に問いただすことが出来れば、組織に心まで売った危険人物を洗い出せるかも・・・」
ここは一旦、にぃなの案に乗ることにした二人。危険であることには変わりないが、これだけ人が密集するエリアなら、混乱に乗じて逃げ切ることもできるかも知れない。
蒼空に言われた通り、赤レンガ倉庫の一号館を出た二人は、彼から召集が掛かるまで周囲の探索へと向かう。
「彼女は何故ここへ?まだライブじゃないだろ?」
「おいおい、いきなり現場で即ライブってな訳ないだろ?リハーサルや本人調整とかあるんだ。何事にも準備は必要だろ?より良いライブにする為に、自分の目や耳で点検や調整をするのは大事だろ?」
ぐうの音も出ない。即興で行われるライブや公演などもあるのだろうが、わざわざ場所を借りてやるのだ。細心の注意と準備をするのは当然と言えば当然か。
「まだ時間はある。君達もずっとここで待つのは退屈だろ?索敵がてら、周りの建物や周囲の状況を見てきて来れないかい?何かあれば、またこちらから連絡する。・・・戦闘になった時に、周りに何があるのかとか、知ってるのと知らないのでは戦い方も変わってくるだろ?」
「それはまぁ・・・確かに」
「僕達も準備をしよう。僕のことは気にしないで、二人で回っておいで」
それまで口を開かず、大人しく話を聞いていたにぃなが後ろを振り返り、蒼空の提案に賛成する。
「彼もこう言ってるし、行こうシンさん」
「え・・・あ、あぁ。じゃぁちょっと行ってくるよ」
席から立ち上がり、引っ張られるようにシンを連れて行こうとするにぃな。突然どうしたのだろうか。蒼空に会ってからというものの、にぃなの様子が少しおかしい。
彼女なりに、彼の何らかの本質的なものを感じ取っているのだろうか。
思い返してみれば、確かにおかしな点や不自然な点もあった。だが、そこまで警戒するようなものなのかと、シンはにぃなのことが心配になった。本来の彼女の明るさが、まるで押さえつけられているようだ。
「うん!行ってらっしゃい。また後でね」
蒼空の言葉を背中に受けながら、二人は階段を降りホールを後にした。
依然、急足で二階へと向かうにぃなの後を追い、後ろを気にしながら移動するシン。ここまでくれば誰かに聞かれることもないだろうと、シンはにぃなに一体どうしたのかと尋ねる。
「おい!どうしたんだ?さっきから様子が変だぞ?」
彼女は振り返ることもなく、依然足速に階段を降りていく。
「アイツ何か隠してる!重要なことは喋らないで説明するフリばっかりッ・・・!」
「フリ・・・?蒼空について何か知ってるのか?」
すると、彼女は何故か不貞腐れたように言葉を返す。
「知らない!でも何で、他の場所よりも優先してこのライブに集中してるの?横浜には他にも、人の集まる場所はたくさんあるよね?ここに固執する理由が、アイツの説明には無かった」
「聞いてみればよかったじゃないか」
「罠だったらどうするの?」
「罠?」
随分と物騒な言葉が、彼女の口から飛び出した。にぃなは何処から彼のことを疑っていたのだろうか。そもそも、そこまで疑うほどのものだったか。
何が彼女をそこまで警戒させているのか。そこには何か、言えない理由があるように感じる。それこそ、シンが過去の出来事を語りたくないように、彼女にも心に負った何らかの傷があるのかも知れない。
「あまり突っ込んだ質問をしたり、疑うような言動を見せるのは危険だってこと!もし私達がアイツを疑っていることが知れれば、その場で計画を実行したっておかしくないんだよ?」
「計画・・・?蒼空が俺達を嵌めようと、何か企んでるって言うのか?」
「・・・それは、分からない。でも他の人達が一人も来ないって言うのも、おかしいと思わない?だって、調査を命じてるのは組織の連中なんだよ?手助けすることを拒む理由はないと思うけど?」
確かに、彼女の言うことも一理ある。神奈川のエリアの調査を命じられているシン達が、同じ神奈川エリアで起きる問題を、協力して片付けることはフィアーズにとってもマイナスにはならない。
それなのに、誰も横浜には来なかった。そもそも、全体へ向けたメッセージというものも、本当に全体宛に送られたものなのか。それすら疑わしくなってくる。
ならば何故、蒼空はシン達を嵌める必要があるのか。もしやイヅツらと共に組織に謀反を起こそうとしていることが漏れたのだろうか。
考えてみれば、いくらでも理由は出てくる。今思考を巡らせるのは得策ではない。先ずは彼の目的を探らねばならない。もし謀反チームに危険が及ぶことなのならば、ここでその計画を潰しておかなければ、後々大変なことになる。
「外に逃したのがアイツのミスね。おかげで今、私達は自由の身になれた。・・・まぁ他に仲間がいたら、何処かで監視されてるかも知れないけど・・・」
「怖いこと言うなよ・・・。で、どうする?このままとんずらするか?」
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ここは一旦、にぃなの案に乗ることにした二人。危険であることには変わりないが、これだけ人が密集するエリアなら、混乱に乗じて逃げ切ることもできるかも知れない。
蒼空に言われた通り、赤レンガ倉庫の一号館を出た二人は、彼から召集が掛かるまで周囲の探索へと向かう。
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