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一人用のプラン
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彼が始めに話したのは、横浜の赤レンガ倉庫周辺に住み着いていたモンスターについてだった。どうやら彼が到着した時には既に、異変に目覚めたばかりのWoFユーザーを狙うモンスターの襲撃は、あちこちで起きていたようだ。
シンの予想していた通り、蒼空も繁華街へやって来れば騒動や新たな情報を手に入れられるかと思い、与えられた調査範囲を離れ重点的に状況を観察していたのだという。
助けられたWoFユーザーは数名。しかし、粗方の事情を説明するも、俄には信じ難いといった様子で、各々自分の生活へと戻っていったのだという。
当然キャラクターの投影方法も教えようとしたが、話の途中でおかしな奴と思われたのか、白い目で見られ立ち去られることの方が多かったという。
無理もない。突然、非現実的なことを真剣に語られても、すぐにそんなことを信じろという方が無理がある。例えそれが、命の危機を感じさせるものだったとしても、今のこの国の技術力ならそういった新たな詐欺なのではないかと疑われてしまう。
「こういった反応は少なくないから何度も経験してるけど、助けたのにそんな変人扱いされたら、流石に気が滅入るよ・・・。けど、目の前で死なれるのも気分が悪いからね、仕方がないさ」
見るからに、セントラルの人間の反応にやさぐれている様子が窺えた。しかしそれでも、人を助けようと単身で戦っていたのかと思うと、蒼空という人物は人間ができているように思えてくる。
そんな話を側から聞いていたにぃなは、特に反応を示すこともなく、ただ会場の準備をしているスタッフ達の方から顔を動かさなかった。
「そうか。それで?救援を出したってことは、何かあったんだろ?」
シンが話しの本筋へ触れようと問いかけると何故か一瞬、蒼空の視線が泳いだように見えた。
「あぁ~・・・そう、それで僕はここに拠点を構えて調査をしていたんだけど、それからというものモンスターを見かける機会が多くなってきてね。やはり人が集まる場所には、寄ってきやすいんだろう。このままでは動きが取れなくなってしまうと思ってね。それに・・・」
そう言って正面を向き直す蒼空。その視線の先には、これから行われるというアイドルのライブに向けて準備をするスタッフ達がいた。
「それにもうすぐここで、有名なアイドルのライブが開かれるんだ。そうなれば確実に周囲に集まってきているモンスター達が乗り込んでくるだろう。こんなところでもし、覚醒者が多数見つかり襲われたりでもしたら大変だろ?」
「まぁ、それはそうだな。WoFのユーザーをなるべく確保するのも、上の連中にとって大事なことのようだし・・・」
「だろ?でも僕一人でこんな繁華街を守り抜くのは不可能だ。だからなるべく多くの助けが必要だったんだけど・・・。どうやら救援に応じて来れたのは、君達だけだったみたいだ・・・。やっぱりフィアーズには、チームワークなんて言葉は似合わないな」
苦笑いを浮かべる蒼空だったが、徒党を組まないようにするのも、フィアーズのやり方なのだ。反逆者の集団を作らないためにも、WoFユーザーの中に上層部のスパイが居たっておかしくはない。
「頭数は集まらなかったが、僕達でなんとかするしかない・・・」
「ライブの開催までにはまだ時間がある。他にも呼びかけられるだけ呼びかけてみよう」
流石にこれだけの範囲を三人だけで守るのは、とてもではないが良策とは言えない。ならば人が大勢いるのを逆手に取り、何人か異変に目覚めたWoFユーザーを見つけられないだろうかと、シンは考えていた。
しかし、その思惑を知ってか知らずか、すぐに蒼空が現実を叩きつけるかのようなことをシンに語り始める。
「彼らの重い腰は上がらないよ・・・。それに覚醒者を探そうとしても、それは難しいと思う。そもそも、僕達のように異常な事態におかれる人間は、そうそう見つかるものでもないんだ。その上で、わざわざ危険な仕事を引き受けてくれるかと言われると・・・分かるだろ?」
「だが流石に三人では・・・」
すると、それまで心配させるようなことばかり言っていた彼が、何の根拠もない期待を仄めかせるようなことを口にする。
「僕に考えがある。最悪、誰も集まらなかった時のプランだ。ライブ中とその前後くらいなら何とか・・・」
「何なんだ?そのプランって」
「それは・・・」
彼が内容を話そうとしたところで、ホール会場に一人のスタッフの声が響き渡る。
「友紀さん、入られまーす!」
その声を聞き、蒼空の眉が上がり目が大きく開き、視線は声のした方へと向いた。シンも、岡垣友紀というアイドルがどんな人物なのか。広告の映像で見た彼女とは違う、本来の岡垣友紀という人間を確かめる。
実際に見る彼女は、有名人らしくサングラスや帽子で顔を隠すような格好で現れた。シンが想像していた有名人の裏側というのは、客や先方の前では理想像をオン、マネージャーや裏方には普段の様子が垣間見えるオフの姿と、きっちり切り替えている人間のイメージを持っていた。
故に、そのサングラスをかけた姿から、態度のでかい印象を受けたのだが、彼女はホールに入るや否や、開口一番ハッキリとした大きな声で挨拶をし、自分の足で各機材を調整するスタッフ達の元を訪れ、頭を下げて再度挨拶して回るという、まるで新人アイドルを連想させるような行動を見せたのだ。
「彼女はその・・・この界隈では有名・・・なんだよな?」
「あぁ、驚いたか?意外だろ?」
「有名アイドルなんて言うから、もっとふんぞり返ってるのかと思った・・・」
シンの想像する有名アイドル像を聞いて、思わず笑いだす蒼空。シンのこういった界隈に全く興味がないであろうことが、言わずもながら露呈した瞬間だった。
「君はアイドルを何だと思ってるんだ。まぁでも、彼女は特に変わってるかもしれないな・・・」
「え・・・?」
「彼女は、ファンの人達や自分を支えてくれるスタッフの人達への配慮が凄いんだ。それが彼女の魅力の一つでもある」
なるほど好感を持たれるような人だと、率直に思ったシン。だが、人の本質とは気の知れた少数の人前でこそ表れるもの。
過去の友人から受けた仕打ちが、すぐに人を信用しない用心深さをシンに根付かせていた。
シンの予想していた通り、蒼空も繁華街へやって来れば騒動や新たな情報を手に入れられるかと思い、与えられた調査範囲を離れ重点的に状況を観察していたのだという。
助けられたWoFユーザーは数名。しかし、粗方の事情を説明するも、俄には信じ難いといった様子で、各々自分の生活へと戻っていったのだという。
当然キャラクターの投影方法も教えようとしたが、話の途中でおかしな奴と思われたのか、白い目で見られ立ち去られることの方が多かったという。
無理もない。突然、非現実的なことを真剣に語られても、すぐにそんなことを信じろという方が無理がある。例えそれが、命の危機を感じさせるものだったとしても、今のこの国の技術力ならそういった新たな詐欺なのではないかと疑われてしまう。
「こういった反応は少なくないから何度も経験してるけど、助けたのにそんな変人扱いされたら、流石に気が滅入るよ・・・。けど、目の前で死なれるのも気分が悪いからね、仕方がないさ」
見るからに、セントラルの人間の反応にやさぐれている様子が窺えた。しかしそれでも、人を助けようと単身で戦っていたのかと思うと、蒼空という人物は人間ができているように思えてくる。
そんな話を側から聞いていたにぃなは、特に反応を示すこともなく、ただ会場の準備をしているスタッフ達の方から顔を動かさなかった。
「そうか。それで?救援を出したってことは、何かあったんだろ?」
シンが話しの本筋へ触れようと問いかけると何故か一瞬、蒼空の視線が泳いだように見えた。
「あぁ~・・・そう、それで僕はここに拠点を構えて調査をしていたんだけど、それからというものモンスターを見かける機会が多くなってきてね。やはり人が集まる場所には、寄ってきやすいんだろう。このままでは動きが取れなくなってしまうと思ってね。それに・・・」
そう言って正面を向き直す蒼空。その視線の先には、これから行われるというアイドルのライブに向けて準備をするスタッフ達がいた。
「それにもうすぐここで、有名なアイドルのライブが開かれるんだ。そうなれば確実に周囲に集まってきているモンスター達が乗り込んでくるだろう。こんなところでもし、覚醒者が多数見つかり襲われたりでもしたら大変だろ?」
「まぁ、それはそうだな。WoFのユーザーをなるべく確保するのも、上の連中にとって大事なことのようだし・・・」
「だろ?でも僕一人でこんな繁華街を守り抜くのは不可能だ。だからなるべく多くの助けが必要だったんだけど・・・。どうやら救援に応じて来れたのは、君達だけだったみたいだ・・・。やっぱりフィアーズには、チームワークなんて言葉は似合わないな」
苦笑いを浮かべる蒼空だったが、徒党を組まないようにするのも、フィアーズのやり方なのだ。反逆者の集団を作らないためにも、WoFユーザーの中に上層部のスパイが居たっておかしくはない。
「頭数は集まらなかったが、僕達でなんとかするしかない・・・」
「ライブの開催までにはまだ時間がある。他にも呼びかけられるだけ呼びかけてみよう」
流石にこれだけの範囲を三人だけで守るのは、とてもではないが良策とは言えない。ならば人が大勢いるのを逆手に取り、何人か異変に目覚めたWoFユーザーを見つけられないだろうかと、シンは考えていた。
しかし、その思惑を知ってか知らずか、すぐに蒼空が現実を叩きつけるかのようなことをシンに語り始める。
「彼らの重い腰は上がらないよ・・・。それに覚醒者を探そうとしても、それは難しいと思う。そもそも、僕達のように異常な事態におかれる人間は、そうそう見つかるものでもないんだ。その上で、わざわざ危険な仕事を引き受けてくれるかと言われると・・・分かるだろ?」
「だが流石に三人では・・・」
すると、それまで心配させるようなことばかり言っていた彼が、何の根拠もない期待を仄めかせるようなことを口にする。
「僕に考えがある。最悪、誰も集まらなかった時のプランだ。ライブ中とその前後くらいなら何とか・・・」
「何なんだ?そのプランって」
「それは・・・」
彼が内容を話そうとしたところで、ホール会場に一人のスタッフの声が響き渡る。
「友紀さん、入られまーす!」
その声を聞き、蒼空の眉が上がり目が大きく開き、視線は声のした方へと向いた。シンも、岡垣友紀というアイドルがどんな人物なのか。広告の映像で見た彼女とは違う、本来の岡垣友紀という人間を確かめる。
実際に見る彼女は、有名人らしくサングラスや帽子で顔を隠すような格好で現れた。シンが想像していた有名人の裏側というのは、客や先方の前では理想像をオン、マネージャーや裏方には普段の様子が垣間見えるオフの姿と、きっちり切り替えている人間のイメージを持っていた。
故に、そのサングラスをかけた姿から、態度のでかい印象を受けたのだが、彼女はホールに入るや否や、開口一番ハッキリとした大きな声で挨拶をし、自分の足で各機材を調整するスタッフ達の元を訪れ、頭を下げて再度挨拶して回るという、まるで新人アイドルを連想させるような行動を見せたのだ。
「彼女はその・・・この界隈では有名・・・なんだよな?」
「あぁ、驚いたか?意外だろ?」
「有名アイドルなんて言うから、もっとふんぞり返ってるのかと思った・・・」
シンの想像する有名アイドル像を聞いて、思わず笑いだす蒼空。シンのこういった界隈に全く興味がないであろうことが、言わずもながら露呈した瞬間だった。
「君はアイドルを何だと思ってるんだ。まぁでも、彼女は特に変わってるかもしれないな・・・」
「え・・・?」
「彼女は、ファンの人達や自分を支えてくれるスタッフの人達への配慮が凄いんだ。それが彼女の魅力の一つでもある」
なるほど好感を持たれるような人だと、率直に思ったシン。だが、人の本質とは気の知れた少数の人前でこそ表れるもの。
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