796 / 1,646
蒼空との合流
しおりを挟む
車窓から文字通り、赤いレンガでできた建物が見えてくる。シンとにぃなは大通りで車を降りると、救援要請のあった一号館へと向かって歩き出す。
「蒼空って人、もう来てるのかな?どんな人だろう」
「文面からは真面目そうな印象を受けたけど・・・なんで急に?」
「ウチらのチームに入ってくれるかなぁ~って・・・」
フィアーズに身を置いているWoFユーザーは少なくない。そこで満足している者もいれば、出世を狙おうと、任務に励む者もいる。
その中には当然、抜け出したいと思っている者達もいる訳だが、上の者に気に入られようと、誰が上層部の内通者をやっているのか分からない状況で、無闇に勧誘は出来ない。
ある程度信頼できるくらいの絆は築かなくてはならない。その点で言えば、真面目そうに見えるというのは、逆に上層部への忠誠心が厚いとも取れる。果たして蒼空はどちらなのか。
一号館の内部は、二人がおうぞうしていたものよりも広く、一階は主にショップフロアとなっていた。様々な横浜の土産が並び、やはり名所と上がるほどのところ。人が多く混雑していた。
「倉庫っていうほど倉庫っぽくなかった・・・?」
「そりゃぁ明治の終わりの頃に作られたものが、そのままの用途で使われるなんてことはないでしょ。当時では最新鋭の倉庫として出来たらしいよ?」
行ったことはないと言ったはずのにぃなが、妙に詳しげに説明していた。シンが思っていた以上に、もしかして彼女は博識なのだろうか。これまでの言動や行動に違和感を感じ、何かを一心に見ている姿を見て、シンは彼女の手元を覗き込む。
すると、その手には3D表示される電子パンフレットの端末があった。
「なぁんだ、妙に詳しいと思ったら・・・」
「何よ!敵城視察は基本中の基本でしょ!?」
敵城ではないと思うが、これから恐らく彼らが迎えるであろう何かとの戦闘において、地形や建物の形状を把握しておくに越したことはない。
それに、ホールと言われてもこの広さだ。実際にはどの辺りなのか、シンとにぃなには詳しく分からない。
蒼空の提示してきた待ち合わせ場所は、一号館の三階にあるホールとだけ伝えられていたが、三階にはレストランやカフェ、お洒落なバルコニーでの食事を行えるところなど、お店も入っている。大きなホールが一つ設けられているというようではないようだった。
二人は店内を見て回りたい気持ちを抑えながら、三階への階段を上がっていく。すると、待ち合わせの場所らしきホールへと出る。そこにはライブの準備をしているのだろうか、多くの同じ格好をした人達が機材の点検をしていた。
「ここがホールか・・・」
「ライブの準備だぁ!確かもうすぐって書いてあったもんねぇ」
周囲をゆっくり見渡し、内部構造を確かめるシンの目に、一際目立つ場違いな格好で椅子に腰掛け、準備の様子を見守る人物のシルエットが入ってくる。
静かににぃなの肩を叩き、その人物のいる方を指差す。すると彼女は静かに頷き、両サイドに設けられた階段を左右に分かれ上がっていく。
そして、先に目があった方のシンがその人物に問いかけた。
「アンタが蒼空、で間違いない・・・よな?」
すると男は立ち上がり、待っていたとばかりに両腕を広げ彼を歓迎した。
「おぉ!よく救援に駆けつけてくれた!そうとも、僕が“蒼空“だ。よろしく、シン」
思っていたよりも友好的に接してくる彼に戸惑いつつも、シンは蒼空と求められるままに握手を交わす。そして、反対側から近づいていたにぃなへ視線で合図を送り小さく頷くと、その様子を見た蒼空が彼女の方を振り返る。
「それじゃぁ貴方がにぃなさん?僕は蒼空、よろしく」
同じように握手を求め、手を差し出す蒼空。しかし、何故か彼女はその手を取らず、何処か表面上の笑みを浮かべて自己紹介を返した。スキンシップを好まないタイプなのかと思った蒼空は、その手を引っ込める。
「救援・・・という割には随分と落ち着いてるな?」
「あぁ、今はね・・・。座って、まずは状況を説明するよ」
そう言って二人を、今よりも見晴らしのいい上の席へと案内する蒼空。ホールの観客席の中でも、最後部の席へとやってくると蒼空は中央辺りに腰掛け、二人にも適当に座ってもらうよう指示する。
シンは蒼空との間に一つ席を空けて座り、にぃなはシンよりの別の段で腰掛ける。何故彼女が蒼空との距離を取るのか少し妙にも感じたが、全く気にしない様子で話を始めようとする蒼空に、耳を傾けた。
「蒼空って人、もう来てるのかな?どんな人だろう」
「文面からは真面目そうな印象を受けたけど・・・なんで急に?」
「ウチらのチームに入ってくれるかなぁ~って・・・」
フィアーズに身を置いているWoFユーザーは少なくない。そこで満足している者もいれば、出世を狙おうと、任務に励む者もいる。
その中には当然、抜け出したいと思っている者達もいる訳だが、上の者に気に入られようと、誰が上層部の内通者をやっているのか分からない状況で、無闇に勧誘は出来ない。
ある程度信頼できるくらいの絆は築かなくてはならない。その点で言えば、真面目そうに見えるというのは、逆に上層部への忠誠心が厚いとも取れる。果たして蒼空はどちらなのか。
一号館の内部は、二人がおうぞうしていたものよりも広く、一階は主にショップフロアとなっていた。様々な横浜の土産が並び、やはり名所と上がるほどのところ。人が多く混雑していた。
「倉庫っていうほど倉庫っぽくなかった・・・?」
「そりゃぁ明治の終わりの頃に作られたものが、そのままの用途で使われるなんてことはないでしょ。当時では最新鋭の倉庫として出来たらしいよ?」
行ったことはないと言ったはずのにぃなが、妙に詳しげに説明していた。シンが思っていた以上に、もしかして彼女は博識なのだろうか。これまでの言動や行動に違和感を感じ、何かを一心に見ている姿を見て、シンは彼女の手元を覗き込む。
すると、その手には3D表示される電子パンフレットの端末があった。
「なぁんだ、妙に詳しいと思ったら・・・」
「何よ!敵城視察は基本中の基本でしょ!?」
敵城ではないと思うが、これから恐らく彼らが迎えるであろう何かとの戦闘において、地形や建物の形状を把握しておくに越したことはない。
それに、ホールと言われてもこの広さだ。実際にはどの辺りなのか、シンとにぃなには詳しく分からない。
蒼空の提示してきた待ち合わせ場所は、一号館の三階にあるホールとだけ伝えられていたが、三階にはレストランやカフェ、お洒落なバルコニーでの食事を行えるところなど、お店も入っている。大きなホールが一つ設けられているというようではないようだった。
二人は店内を見て回りたい気持ちを抑えながら、三階への階段を上がっていく。すると、待ち合わせの場所らしきホールへと出る。そこにはライブの準備をしているのだろうか、多くの同じ格好をした人達が機材の点検をしていた。
「ここがホールか・・・」
「ライブの準備だぁ!確かもうすぐって書いてあったもんねぇ」
周囲をゆっくり見渡し、内部構造を確かめるシンの目に、一際目立つ場違いな格好で椅子に腰掛け、準備の様子を見守る人物のシルエットが入ってくる。
静かににぃなの肩を叩き、その人物のいる方を指差す。すると彼女は静かに頷き、両サイドに設けられた階段を左右に分かれ上がっていく。
そして、先に目があった方のシンがその人物に問いかけた。
「アンタが蒼空、で間違いない・・・よな?」
すると男は立ち上がり、待っていたとばかりに両腕を広げ彼を歓迎した。
「おぉ!よく救援に駆けつけてくれた!そうとも、僕が“蒼空“だ。よろしく、シン」
思っていたよりも友好的に接してくる彼に戸惑いつつも、シンは蒼空と求められるままに握手を交わす。そして、反対側から近づいていたにぃなへ視線で合図を送り小さく頷くと、その様子を見た蒼空が彼女の方を振り返る。
「それじゃぁ貴方がにぃなさん?僕は蒼空、よろしく」
同じように握手を求め、手を差し出す蒼空。しかし、何故か彼女はその手を取らず、何処か表面上の笑みを浮かべて自己紹介を返した。スキンシップを好まないタイプなのかと思った蒼空は、その手を引っ込める。
「救援・・・という割には随分と落ち着いてるな?」
「あぁ、今はね・・・。座って、まずは状況を説明するよ」
そう言って二人を、今よりも見晴らしのいい上の席へと案内する蒼空。ホールの観客席の中でも、最後部の席へとやってくると蒼空は中央辺りに腰掛け、二人にも適当に座ってもらうよう指示する。
シンは蒼空との間に一つ席を空けて座り、にぃなはシンよりの別の段で腰掛ける。何故彼女が蒼空との距離を取るのか少し妙にも感じたが、全く気にしない様子で話を始めようとする蒼空に、耳を傾けた。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる