789 / 1,646
イーラ・ノマド
しおりを挟む
男達の一人がノートパソコンを開き、アプリを起動し何かのコードを打ち込む。すると画面に、人の顔のようなものが映し出される。
「デューン、元気してたぁ?ちょっと頼まれ事なんだけどぉ?」
「あぁ、お前らん家のカメラから見てたよ」
「じゃぁどんな状況か、もうお分かり?」
「おうよ!アイツを足止めすりゃぁいいんだろ?」
「いいねぇ~イケてる!んじゃ、大丈夫そうだったらこっちから連絡するわ。そっちも片付いたら連絡頂戴なぁ~」
「了解!ちったぁ楽しめんのかなぁ~?」
それだけ言い残すと、ディスプレイから姿を消した“デューン“と呼ばれる男。その後、男達はノートパソコンを閉じて大通りに出ると、堂々と無人タクシーを拾い何処かへと走り去って行った。
その頃、男達の部屋の中で周辺機器へコードを繋ぎ、ウイルスを流し込んで情報を引き抜こうとしていたイヅツだったが、どうやらNAというハッカー集団に関するデータや足跡になりそうなものは、全て抜き出された後だった。
「クソッ・・・!何処にもデータが見当たらない・・・。持ち出されちまったか?なら、直接奴らを追うまでだ」
イヅツはスマートフォンを取り出すと、忍び寄った際に男達に仕掛けたGPSを起動し、どこへ行ったかを確認する。画面に表示されていたのは、狭い路地裏にて点滅する二つの反応。
だが、奇妙なことにそれらの反応は移動せずにそこに止まっていたのだ。
「あぁ?動いてねぇ・・・」
明らかに不自然な反応に、罠である可能性や気づかれてしまったのかと考えている内に、今度はイヅツの背後に忍び寄る影が近づいていた。
「アイツらなら、もう行っちまったよ。今時、そんなしょっぺぇ玩具で追跡なんか出来るかよ」
何処からともなく聞こえてくる男の声。部屋中を見渡してもその姿はないが、確かに何者かが室内に入り込んでいる。
「誰だ、コソコソしてないで姿を表したらどうだ?」
イヅツの問いに大きな声で笑い出す男。すると何故か、言われた通り素直に姿を表す。そしてその男の周りには、室内にも関わらず砂塵のような風が舞い上がる。
「誰だって聞かれて答える馬鹿がいるかよ。けど俺、そういうド直球なの好きだから応えちゃうぜ?」
何処から入り込んだのか、砂が集まり大人一人分がすっぽりと入るくらいの塊を作ると、その中から一人の男が現れた。その所業や姿から、明らかに現実世界の人間ではないことが分かる。
問題はそれが、WoFのユーザーであるのか、はたまた別の者であるのかだ。
「俺の名は“デューン“。訳あってアイツらに協力してる者さ」
「お前、この世界の人間か?」
「この世界?・・・あぁ、違う違う。俺ぁ流れモンでねぇ。この世界の連中には、“イーラ・ノマド“って呼ばれてる」
デューンと名乗る男の言葉に、イヅツは聞き覚えがない単語があった。一応この世界の人間ではあるが、“イーラ・ノマド“などという言葉は聞いたことがなかった。
「イーラ・ノマド・・・?」
「よくわかんねぇが、どうやら流れ者って意味で使われてるらしい。別に時代を流れてる訳じゃぁねぇんだけどな。気付いたら見知らぬ世界にいたって訳ぇ~」
イヅツは直感で分かった。このデューンという男は、スペクターやランゲージらと同じく、異世界からやって来た者なのだと。ただ違うのは、組織に属しているか否かだけ。
「何故ハッカー集団に与している?」
「何故ってそりゃぁ、利用価値があるからだろ。それにアイツら、俺の力を見せたらすげぇ喜んでてよぉ!この世界のことを色々と教えてくれたぜ」
この世界のことを何もしらない自分に、様々なことを教えてくれた恩を返すという意味で与しているのか。しかし、利用価値という言葉から恩などを感じるようなタイプではないように思える。
「お前は自分の世界に戻りたいとは思わないのか?」
「あぁ?別に思わねぇよ。俺のいた世界は、クソどうでもいい肥溜めみてぇな世界だったからな。俺にしちゃぁこっちの世界の方が、ずっと居心地がいいぜぇ?」
同じだ。やはりどの世界にも、自分の存在する世界を窮屈に思う人間というものはいるのだ。異世界の者達からすれば、シンやミア、ツクヨのように現実世界で酷い目に遭ってきたこの世界でも、快適に思えるのだろう。
それはこの世界の縮図や、この世界に無い力を引き継いできているからこそ思えることなのかもしれない。
例えるなら、モンスターと戦えるような力もなく異世界へ放り込まれ、何も分からないところでその身一つで暮らしていけるだろうか。
戦闘センスやステータスなど、それはゲームから与えられている力に過ぎない。実際は剣を振るう才能や弓を引く才能など、スポーツと同じように持って生まれたものと、個々の努力で成長できる器には限りがある。
それこそモンスターを倒して生計を成り立たせようとするということは、戦争に行って人を殺して稼ぐのとそう変わらないのかもしれない。
生身の状態でいつ死んでもおかしくない世界に放り込まれて、そんな世界で希望や興奮に胸躍らせる人間が一体どれだけいるのだろうか。
側から見れば、それは異端者であるに違いない。イヅツの前にいる男は、そういった類の人間であるのだ。
「最後に聞くが、俺はさっきの奴らが所属するハッカー集団について知りたい。誰かを殺そうだとか、組織を破壊しようなどとは思わない。ただ知りたいだけだ。・・・お前はそれを邪魔しに来たのか?」
「そういうことになるなぁ。俺はアイツらにアンタを食い止めるよう言われてる。難しい事は抜きにして、簡潔に言ってやるぜ。俺はお前と戦いに来た“敵“だ。和解や交渉に応じる気はねぇ。それは俺の雇い主次第だからよぉ!」
そう言ってデューンは、素早い踏み込みと共にイヅツへと殴りかかって来た。
「デューン、元気してたぁ?ちょっと頼まれ事なんだけどぉ?」
「あぁ、お前らん家のカメラから見てたよ」
「じゃぁどんな状況か、もうお分かり?」
「おうよ!アイツを足止めすりゃぁいいんだろ?」
「いいねぇ~イケてる!んじゃ、大丈夫そうだったらこっちから連絡するわ。そっちも片付いたら連絡頂戴なぁ~」
「了解!ちったぁ楽しめんのかなぁ~?」
それだけ言い残すと、ディスプレイから姿を消した“デューン“と呼ばれる男。その後、男達はノートパソコンを閉じて大通りに出ると、堂々と無人タクシーを拾い何処かへと走り去って行った。
その頃、男達の部屋の中で周辺機器へコードを繋ぎ、ウイルスを流し込んで情報を引き抜こうとしていたイヅツだったが、どうやらNAというハッカー集団に関するデータや足跡になりそうなものは、全て抜き出された後だった。
「クソッ・・・!何処にもデータが見当たらない・・・。持ち出されちまったか?なら、直接奴らを追うまでだ」
イヅツはスマートフォンを取り出すと、忍び寄った際に男達に仕掛けたGPSを起動し、どこへ行ったかを確認する。画面に表示されていたのは、狭い路地裏にて点滅する二つの反応。
だが、奇妙なことにそれらの反応は移動せずにそこに止まっていたのだ。
「あぁ?動いてねぇ・・・」
明らかに不自然な反応に、罠である可能性や気づかれてしまったのかと考えている内に、今度はイヅツの背後に忍び寄る影が近づいていた。
「アイツらなら、もう行っちまったよ。今時、そんなしょっぺぇ玩具で追跡なんか出来るかよ」
何処からともなく聞こえてくる男の声。部屋中を見渡してもその姿はないが、確かに何者かが室内に入り込んでいる。
「誰だ、コソコソしてないで姿を表したらどうだ?」
イヅツの問いに大きな声で笑い出す男。すると何故か、言われた通り素直に姿を表す。そしてその男の周りには、室内にも関わらず砂塵のような風が舞い上がる。
「誰だって聞かれて答える馬鹿がいるかよ。けど俺、そういうド直球なの好きだから応えちゃうぜ?」
何処から入り込んだのか、砂が集まり大人一人分がすっぽりと入るくらいの塊を作ると、その中から一人の男が現れた。その所業や姿から、明らかに現実世界の人間ではないことが分かる。
問題はそれが、WoFのユーザーであるのか、はたまた別の者であるのかだ。
「俺の名は“デューン“。訳あってアイツらに協力してる者さ」
「お前、この世界の人間か?」
「この世界?・・・あぁ、違う違う。俺ぁ流れモンでねぇ。この世界の連中には、“イーラ・ノマド“って呼ばれてる」
デューンと名乗る男の言葉に、イヅツは聞き覚えがない単語があった。一応この世界の人間ではあるが、“イーラ・ノマド“などという言葉は聞いたことがなかった。
「イーラ・ノマド・・・?」
「よくわかんねぇが、どうやら流れ者って意味で使われてるらしい。別に時代を流れてる訳じゃぁねぇんだけどな。気付いたら見知らぬ世界にいたって訳ぇ~」
イヅツは直感で分かった。このデューンという男は、スペクターやランゲージらと同じく、異世界からやって来た者なのだと。ただ違うのは、組織に属しているか否かだけ。
「何故ハッカー集団に与している?」
「何故ってそりゃぁ、利用価値があるからだろ。それにアイツら、俺の力を見せたらすげぇ喜んでてよぉ!この世界のことを色々と教えてくれたぜ」
この世界のことを何もしらない自分に、様々なことを教えてくれた恩を返すという意味で与しているのか。しかし、利用価値という言葉から恩などを感じるようなタイプではないように思える。
「お前は自分の世界に戻りたいとは思わないのか?」
「あぁ?別に思わねぇよ。俺のいた世界は、クソどうでもいい肥溜めみてぇな世界だったからな。俺にしちゃぁこっちの世界の方が、ずっと居心地がいいぜぇ?」
同じだ。やはりどの世界にも、自分の存在する世界を窮屈に思う人間というものはいるのだ。異世界の者達からすれば、シンやミア、ツクヨのように現実世界で酷い目に遭ってきたこの世界でも、快適に思えるのだろう。
それはこの世界の縮図や、この世界に無い力を引き継いできているからこそ思えることなのかもしれない。
例えるなら、モンスターと戦えるような力もなく異世界へ放り込まれ、何も分からないところでその身一つで暮らしていけるだろうか。
戦闘センスやステータスなど、それはゲームから与えられている力に過ぎない。実際は剣を振るう才能や弓を引く才能など、スポーツと同じように持って生まれたものと、個々の努力で成長できる器には限りがある。
それこそモンスターを倒して生計を成り立たせようとするということは、戦争に行って人を殺して稼ぐのとそう変わらないのかもしれない。
生身の状態でいつ死んでもおかしくない世界に放り込まれて、そんな世界で希望や興奮に胸躍らせる人間が一体どれだけいるのだろうか。
側から見れば、それは異端者であるに違いない。イヅツの前にいる男は、そういった類の人間であるのだ。
「最後に聞くが、俺はさっきの奴らが所属するハッカー集団について知りたい。誰かを殺そうだとか、組織を破壊しようなどとは思わない。ただ知りたいだけだ。・・・お前はそれを邪魔しに来たのか?」
「そういうことになるなぁ。俺はアイツらにアンタを食い止めるよう言われてる。難しい事は抜きにして、簡潔に言ってやるぜ。俺はお前と戦いに来た“敵“だ。和解や交渉に応じる気はねぇ。それは俺の雇い主次第だからよぉ!」
そう言ってデューンは、素早い踏み込みと共にイヅツへと殴りかかって来た。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる