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経験値システム
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一行が乗って来たモンスターを、アナベルがそれぞれの拠点へと帰るよう命令を出す。にぃなを乗せて来たドラゴンは遊園地エリアの方へ、シン達を乗せたウルフはホビーエリアの別の拠点へと走り去っていく。
だが、アナベルを乗せて来た変異種のウルフは別。フィアーズの者達の言い方をするならば、この個体は貴重なサンプル。しかも、リザードの変異種とは違い友好的であるのが何よりも大きな要因である。
このウルフの生態を調べれば、シン達の知り得なかった情報を得ることができる。そこから異変に関する糸口を掴めるかもしれない。
しかし、同時にシンの中には不安もあった。この変異種のウルフを調べたところで、その変異の過程に人の命が使われている可能性がある。
少なくともアナベルの言った、この個体が鎧の男と共に逃げたとい女性を喰ったことによる、見た目の変化が訪れているのは確かだろう。
シン達を小屋へ案内する中、アナベルは変異種のウルフも一緒に中へと連れて行こうとしていた。
「君にも話しておこう。伝わるかは分からないが、分かることだけは理解しておいた方がいいだろうからね。・・・もしかしたら酷な話かもしれないけど・・・」
「ヘイキ・・・ヘイキ・・・」
気持ちが落ち着いてから改めて見ても、この二人のやり取りは異様だった。WoF内でも、NPCと呼ばれるプレイヤーが操作するキャラクターとは別の、AIにより台詞を与えられているモンスターもいるが、それとも違う。
小屋の中は、遊園地エリアで案内されたアナベルの小屋と、ほとんど変わらない作りをしていた。木造の席へ案内され、テーブルに冷たい飲み物が用意される。
「つまらないモノですが・・・」
「空腹や喉の渇きは、俺達には無いんじゃ・・・?」
「でも、味や風味を楽しむことは出来るよぉ?まぁまぁ、難しいことは考えずに・・・」
「トイレ近くならないかな?」
にぃなの言葉に、目を細めて彼女の表情を伺うシン。和ませるつもりで言ったのだろうか。彼女の方が現実世界とデータを反映した身体の違いは、よく分かっている筈だが。
「何その顔・・・冗談だって!」
「ははは!そうそう、その調子!スポーツの前の準備運動と同じだよ。重たい話をする前に、気持ちをほぐしておかないとね!」
アナベルはそう言うが、気持ちに準備運動などというものがあるのだろうか。この時、シンには彼女らの気持ちがよく分からなかった。
「アナベルさん、俺もこんなこと初めてで・・・。こっちの世界にやって来たモンスターは、喋る奴もいるってことですか?」
自分が救おうとしていた人が喰われたと聞かされ、ショックを受けていた鎧の男も移動による束の間と、彼女らの笑い声で少しだけ気持ちが落ち着いてきたようだ。
「私も詳しいことは分からない。これはあくまで私が見たり聞いたりしたことに過ぎないから、それだけは承知しておいてね?」
彼女が勿体ぶるのは、恐らく彼女の中でも口にするのが苦しいからなのだろうか。そうでなければ、わざわざ自宅に招いてまでする話でもない。まして、彼らの身体にとって必要あるのかどうか分からない飲み物を用意するほどに。
「これだけ勿体ぶるってことは・・・何かあったんですね?」
シンの不意に発した言葉に、それまで茶化すような態度をとっていたアナベルが口を噤む。どうやら図星だったようだ。その話が彼女の友人であったのか、或いはただの関係者であったのか、繋がりの深さについて語られなかったが、自由奔放な性格の彼女が心を痛めるくらいの衝撃だったのは確かだろう。
「先にも言ったけど、私はこの身体を手に入れてからいろんなところを転々としながら、半ば旅行のような感覚で旅をしていたんだ。当然、その中では私達と同じようなWoFユーザーと出会ったり、モンスターと戦ったりもした・・・」
アナベルが旅をしたと言うのは、日本の各地だったのだという。シンも確証はなかったが、きっとこの異変に巻き込まれているのは東京だけではないのではないかと思っていた。
そしてその推測は、どうやら正しかったようだ。同じような現象は、日本国全土で起きている。ただ、海外についてはまだ分からない。しかしながら、WoFは世界的にヒットしているゲーム。
日本以外でも、同じようなことが起こっていても不思議ではない。だが、それが騒ぎにならないのは、やはり都合よく事態が捻じ曲げられていると言うことだろう。
実際に、彼らも様々なSNSで調べてみたが、このような異変に関する記事や投稿は見当たらない。そして、自分から発信しようとしても、それは反映されなかったり、エラーで出来なかったりする。
「私達があちらの世界でモンスターを倒したり、クエストをこなすことでレベルや熟練度を上げていくのと同じように、こちらの世界でも経験値というような概念はあるようなんだ」
「うん!それは分かるような気がする。レベルが上がったぁーっていうお知らせみたいなのはないけど、でも前より戦えるようになってたりするから」
「そうだな・・・。初めの頃に比べれば、だいぶ戦えるように・・・。そういえば、こっちの世界だとキャラクターのデータはあるけど、レベルは初期に戻ってるんだよなぁ。使えてた筈のスキルが使えなかったり・・・」
レベルによるクラスチェンジの概念を無視して、シンも上位クラスでありながら初期のレベルまで戻されていた。そのため、WoF内で使えていた筈の強力なスキルが、軒並み使えなかったりいていた。
「それはきっと、新たなスタートを切ったからだと思うんだよねぇ。現にスキルは、戦いやあっちの世界で新たに入手することができる。それも、以前のものとは少し違ったりしたものがねぇ~」
それは経験を積むという過程の違いから生じる差、なのかもしれない。
だが、アナベルを乗せて来た変異種のウルフは別。フィアーズの者達の言い方をするならば、この個体は貴重なサンプル。しかも、リザードの変異種とは違い友好的であるのが何よりも大きな要因である。
このウルフの生態を調べれば、シン達の知り得なかった情報を得ることができる。そこから異変に関する糸口を掴めるかもしれない。
しかし、同時にシンの中には不安もあった。この変異種のウルフを調べたところで、その変異の過程に人の命が使われている可能性がある。
少なくともアナベルの言った、この個体が鎧の男と共に逃げたとい女性を喰ったことによる、見た目の変化が訪れているのは確かだろう。
シン達を小屋へ案内する中、アナベルは変異種のウルフも一緒に中へと連れて行こうとしていた。
「君にも話しておこう。伝わるかは分からないが、分かることだけは理解しておいた方がいいだろうからね。・・・もしかしたら酷な話かもしれないけど・・・」
「ヘイキ・・・ヘイキ・・・」
気持ちが落ち着いてから改めて見ても、この二人のやり取りは異様だった。WoF内でも、NPCと呼ばれるプレイヤーが操作するキャラクターとは別の、AIにより台詞を与えられているモンスターもいるが、それとも違う。
小屋の中は、遊園地エリアで案内されたアナベルの小屋と、ほとんど変わらない作りをしていた。木造の席へ案内され、テーブルに冷たい飲み物が用意される。
「つまらないモノですが・・・」
「空腹や喉の渇きは、俺達には無いんじゃ・・・?」
「でも、味や風味を楽しむことは出来るよぉ?まぁまぁ、難しいことは考えずに・・・」
「トイレ近くならないかな?」
にぃなの言葉に、目を細めて彼女の表情を伺うシン。和ませるつもりで言ったのだろうか。彼女の方が現実世界とデータを反映した身体の違いは、よく分かっている筈だが。
「何その顔・・・冗談だって!」
「ははは!そうそう、その調子!スポーツの前の準備運動と同じだよ。重たい話をする前に、気持ちをほぐしておかないとね!」
アナベルはそう言うが、気持ちに準備運動などというものがあるのだろうか。この時、シンには彼女らの気持ちがよく分からなかった。
「アナベルさん、俺もこんなこと初めてで・・・。こっちの世界にやって来たモンスターは、喋る奴もいるってことですか?」
自分が救おうとしていた人が喰われたと聞かされ、ショックを受けていた鎧の男も移動による束の間と、彼女らの笑い声で少しだけ気持ちが落ち着いてきたようだ。
「私も詳しいことは分からない。これはあくまで私が見たり聞いたりしたことに過ぎないから、それだけは承知しておいてね?」
彼女が勿体ぶるのは、恐らく彼女の中でも口にするのが苦しいからなのだろうか。そうでなければ、わざわざ自宅に招いてまでする話でもない。まして、彼らの身体にとって必要あるのかどうか分からない飲み物を用意するほどに。
「これだけ勿体ぶるってことは・・・何かあったんですね?」
シンの不意に発した言葉に、それまで茶化すような態度をとっていたアナベルが口を噤む。どうやら図星だったようだ。その話が彼女の友人であったのか、或いはただの関係者であったのか、繋がりの深さについて語られなかったが、自由奔放な性格の彼女が心を痛めるくらいの衝撃だったのは確かだろう。
「先にも言ったけど、私はこの身体を手に入れてからいろんなところを転々としながら、半ば旅行のような感覚で旅をしていたんだ。当然、その中では私達と同じようなWoFユーザーと出会ったり、モンスターと戦ったりもした・・・」
アナベルが旅をしたと言うのは、日本の各地だったのだという。シンも確証はなかったが、きっとこの異変に巻き込まれているのは東京だけではないのではないかと思っていた。
そしてその推測は、どうやら正しかったようだ。同じような現象は、日本国全土で起きている。ただ、海外についてはまだ分からない。しかしながら、WoFは世界的にヒットしているゲーム。
日本以外でも、同じようなことが起こっていても不思議ではない。だが、それが騒ぎにならないのは、やはり都合よく事態が捻じ曲げられていると言うことだろう。
実際に、彼らも様々なSNSで調べてみたが、このような異変に関する記事や投稿は見当たらない。そして、自分から発信しようとしても、それは反映されなかったり、エラーで出来なかったりする。
「私達があちらの世界でモンスターを倒したり、クエストをこなすことでレベルや熟練度を上げていくのと同じように、こちらの世界でも経験値というような概念はあるようなんだ」
「うん!それは分かるような気がする。レベルが上がったぁーっていうお知らせみたいなのはないけど、でも前より戦えるようになってたりするから」
「そうだな・・・。初めの頃に比べれば、だいぶ戦えるように・・・。そういえば、こっちの世界だとキャラクターのデータはあるけど、レベルは初期に戻ってるんだよなぁ。使えてた筈のスキルが使えなかったり・・・」
レベルによるクラスチェンジの概念を無視して、シンも上位クラスでありながら初期のレベルまで戻されていた。そのため、WoF内で使えていた筈の強力なスキルが、軒並み使えなかったりいていた。
「それはきっと、新たなスタートを切ったからだと思うんだよねぇ。現にスキルは、戦いやあっちの世界で新たに入手することができる。それも、以前のものとは少し違ったりしたものがねぇ~」
それは経験を積むという過程の違いから生じる差、なのかもしれない。
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