780 / 1,646
治療薬の取得と食い違い
しおりを挟む
「おい、アンタ・・大丈夫か?」
そっと男の方を揺らすが、返事はない。鎧の損傷が激しく、至る所から中の様子が伺える。何かが食い込んだような跡や切れたような傷跡など、見るからに痛々しい。
すぐにシンは、自身の持ち物を調べるが彼を治療できるような物や回復に使えるアイテムを持っていない。
仕方がなく、彼の口元に手を近づけ呼吸をしているかどうか、身体をを見て呼吸による動きが見られるかどうかを確認する。すると、僅かではあるが彼の身体は呼吸しているように動いている。
「そんなすぐに死なない・・・よな?」
モンスターや異世界の人物が現実世界へ転移して来ているのだ、他にも物や装置などが転移して来ていてもおかしくないのではと考えたシンは、その場を離れ少しでも彼の回復に使えそうな薬草を探す。
「・・・ダメだ。どれが使えそうな物なのか分からない・・・。何だよ・・・生き物は転移してこれるのに自然のものは無いってのかよっ・・・!」
四つん這いになり、必死に周囲の草木を調べるも、WoFで見たことがあるような薬草の類は見当たらなかった。それに現実で薬味や薬として使えるような植物の知識もないシンには、傷ついた彼に施せるようなことは何もなかったのだ。
シンが諦めずに探していると、スキルで捕獲していた変異種のウルフが、何やら声を発しようとしていた。この個体は、先程辿々しいものではあったものの人の言葉を話していた。
何か伝えたいことでもあるのだろうかと、シンはスキルを調整し、牙を押さえ込んでいた影の拘束を解いてみる。すると、シンの予想通り変異種のウルフには既に敵意はなく、彼に何か伝えようとしていた。
「ワタシ・・・ワカル・・・クサ・・・ワカル・・・」
「本当か!?すまない、すぐに解くから待ってくれ!」
ウルフの言葉に対し、シンは何の疑いも持たなかった。正確には疑っている余裕がなかったというべきだろう。手の施しようがない中で、差し伸べられた手を彼は迷わず掴もうとしたのだ。
だが、言葉が扱えるということは、言葉の使い方も知っているということだ。その証拠に、シンとの会話が成り立っている。それが拘束を解く為の芝居の可能性もあっただろう。
果たして、変異種にそこまでの知性があるのか。それもこれも、シンがウルフの拘束を解けば分かることだ。
しかし、そんな心配などする必要がないほど、変異種のウルフは暴れることなく、周囲の草木の中へ入り匂いを辿って幾つかの植物の前で、シンの方を何度も振り向き必死に鼻で突いていた。
「コレ・・・ツブス・・・キズグチ・・・アテル」
「こ・・・これか?何かの実のようだけど・・・?」
シンはウルフに指示されるがまま、同じような黒っぽい実を集めた。彼の集めていたものは椿の種らしく、油分の多い植物の種は潰して煮ることで油を抽出することができ、古来よりその油を傷口に塗ることで止血効果が得られていたのだという。
しかし、この場で用意できるものには限りがある。近場に煮込めるような道具もなければ綺麗な水もない。そこでウルフは、自身に掛けていたスキルをシンの集めてきた潰した椿の実に掛け、油を抽出する。
それをシンがヨモギの葉に乗せ、鎧の男の傷口へと塗っていった。すると、まるでWoF内で回復アイテムを使ったかのような緑色の光と共に、傷口が塞がったのだ。
これは、WoF内でもある僅かな回復量のアイテムの、“薬草“と同じ効能を得ていたのだ。
「傷口が塞がったッ・・・!よし、もっとだ!もっと集めよう!」
要領を掴んだことで、最初よりもスムーズに収穫することが出来た。同じく椿の実を掻き集め、数枚のヨモギの葉と共にウルフの元へと持っていく。それをウルフがスキルにより油分を抽出し、傷口へと塗っていく。
特に出血の激しい箇所や、大きく皮膚の裂けた箇所を中心に治療していき、鎧の男の表情もどこか穏やかになってきた。
そしてある程度治療を終えた頃、鎧の男は意識を取り戻し目を覚ます。
「うっ・・・ってぇ・・・。ここは・・・ッアンタは!?」
「待てッ!敵じゃない。アナベルさんに言われてアンタを助けに来た。どうだ?動けそうか?」
シンの姿を見て身構えるも、その口から語られた人物の名を聞いて安堵した鎧の男は、彼の言われた通り身体を動かそうと試みる。多少辿々しくはあるが、何とか立ち上がることは出来た。
そこへ、薬草を探していたウルフが口いっぱいに草を咥えて戻ってくる。
と、突然鎧の男が武器を構え、刃をウルフの方へと向けたのだ。
「おい離れろッ!こいつは他のモンスター共と違う!」
鎧の男の治療に協力いてくれたウルフは、確かに他の個体とは明らかに違っていた。だが、シンと会話が出来たり交戦的ではないことから、鎧の男の味方だとばかりに思っていた。
だが、鎧の男の方はそうは思っていなかったのだ。状況が把握できないシンは、命の恩人でもあるウルフに刃を向ける鎧の男を説得しようとする。
「待ってくれ!どういう事だ?アンタとこのウルフは、仲間じゃないのか?」
「仲間だって!?アナベルさんのモンスターならともかく、こいつは俺と“目覚めたユーザー“を襲った張本人だぞッ!?」
鎧の男が言っている事と、シンが共に彼の治療を行った変異種のウルフが行った行動が噛み合わない。
何故、変異種のウルフは鎧の男を守るように寄り添っていたのか。何故襲っていた筈の男の治療を手伝ってくれたのか。何故今、男とモンスターは対立しているのか・・・。
しかし、一つだけシンの中ではっきりしていた事は、この変異種のウルフは生かしておかねばならないという事だけだった。
そっと男の方を揺らすが、返事はない。鎧の損傷が激しく、至る所から中の様子が伺える。何かが食い込んだような跡や切れたような傷跡など、見るからに痛々しい。
すぐにシンは、自身の持ち物を調べるが彼を治療できるような物や回復に使えるアイテムを持っていない。
仕方がなく、彼の口元に手を近づけ呼吸をしているかどうか、身体をを見て呼吸による動きが見られるかどうかを確認する。すると、僅かではあるが彼の身体は呼吸しているように動いている。
「そんなすぐに死なない・・・よな?」
モンスターや異世界の人物が現実世界へ転移して来ているのだ、他にも物や装置などが転移して来ていてもおかしくないのではと考えたシンは、その場を離れ少しでも彼の回復に使えそうな薬草を探す。
「・・・ダメだ。どれが使えそうな物なのか分からない・・・。何だよ・・・生き物は転移してこれるのに自然のものは無いってのかよっ・・・!」
四つん這いになり、必死に周囲の草木を調べるも、WoFで見たことがあるような薬草の類は見当たらなかった。それに現実で薬味や薬として使えるような植物の知識もないシンには、傷ついた彼に施せるようなことは何もなかったのだ。
シンが諦めずに探していると、スキルで捕獲していた変異種のウルフが、何やら声を発しようとしていた。この個体は、先程辿々しいものではあったものの人の言葉を話していた。
何か伝えたいことでもあるのだろうかと、シンはスキルを調整し、牙を押さえ込んでいた影の拘束を解いてみる。すると、シンの予想通り変異種のウルフには既に敵意はなく、彼に何か伝えようとしていた。
「ワタシ・・・ワカル・・・クサ・・・ワカル・・・」
「本当か!?すまない、すぐに解くから待ってくれ!」
ウルフの言葉に対し、シンは何の疑いも持たなかった。正確には疑っている余裕がなかったというべきだろう。手の施しようがない中で、差し伸べられた手を彼は迷わず掴もうとしたのだ。
だが、言葉が扱えるということは、言葉の使い方も知っているということだ。その証拠に、シンとの会話が成り立っている。それが拘束を解く為の芝居の可能性もあっただろう。
果たして、変異種にそこまでの知性があるのか。それもこれも、シンがウルフの拘束を解けば分かることだ。
しかし、そんな心配などする必要がないほど、変異種のウルフは暴れることなく、周囲の草木の中へ入り匂いを辿って幾つかの植物の前で、シンの方を何度も振り向き必死に鼻で突いていた。
「コレ・・・ツブス・・・キズグチ・・・アテル」
「こ・・・これか?何かの実のようだけど・・・?」
シンはウルフに指示されるがまま、同じような黒っぽい実を集めた。彼の集めていたものは椿の種らしく、油分の多い植物の種は潰して煮ることで油を抽出することができ、古来よりその油を傷口に塗ることで止血効果が得られていたのだという。
しかし、この場で用意できるものには限りがある。近場に煮込めるような道具もなければ綺麗な水もない。そこでウルフは、自身に掛けていたスキルをシンの集めてきた潰した椿の実に掛け、油を抽出する。
それをシンがヨモギの葉に乗せ、鎧の男の傷口へと塗っていった。すると、まるでWoF内で回復アイテムを使ったかのような緑色の光と共に、傷口が塞がったのだ。
これは、WoF内でもある僅かな回復量のアイテムの、“薬草“と同じ効能を得ていたのだ。
「傷口が塞がったッ・・・!よし、もっとだ!もっと集めよう!」
要領を掴んだことで、最初よりもスムーズに収穫することが出来た。同じく椿の実を掻き集め、数枚のヨモギの葉と共にウルフの元へと持っていく。それをウルフがスキルにより油分を抽出し、傷口へと塗っていく。
特に出血の激しい箇所や、大きく皮膚の裂けた箇所を中心に治療していき、鎧の男の表情もどこか穏やかになってきた。
そしてある程度治療を終えた頃、鎧の男は意識を取り戻し目を覚ます。
「うっ・・・ってぇ・・・。ここは・・・ッアンタは!?」
「待てッ!敵じゃない。アナベルさんに言われてアンタを助けに来た。どうだ?動けそうか?」
シンの姿を見て身構えるも、その口から語られた人物の名を聞いて安堵した鎧の男は、彼の言われた通り身体を動かそうと試みる。多少辿々しくはあるが、何とか立ち上がることは出来た。
そこへ、薬草を探していたウルフが口いっぱいに草を咥えて戻ってくる。
と、突然鎧の男が武器を構え、刃をウルフの方へと向けたのだ。
「おい離れろッ!こいつは他のモンスター共と違う!」
鎧の男の治療に協力いてくれたウルフは、確かに他の個体とは明らかに違っていた。だが、シンと会話が出来たり交戦的ではないことから、鎧の男の味方だとばかりに思っていた。
だが、鎧の男の方はそうは思っていなかったのだ。状況が把握できないシンは、命の恩人でもあるウルフに刃を向ける鎧の男を説得しようとする。
「待ってくれ!どういう事だ?アンタとこのウルフは、仲間じゃないのか?」
「仲間だって!?アナベルさんのモンスターならともかく、こいつは俺と“目覚めたユーザー“を襲った張本人だぞッ!?」
鎧の男が言っている事と、シンが共に彼の治療を行った変異種のウルフが行った行動が噛み合わない。
何故、変異種のウルフは鎧の男を守るように寄り添っていたのか。何故襲っていた筈の男の治療を手伝ってくれたのか。何故今、男とモンスターは対立しているのか・・・。
しかし、一つだけシンの中ではっきりしていた事は、この変異種のウルフは生かしておかねばならないという事だけだった。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる