World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
779 / 1,646

二度目の変異種

しおりを挟む
 音を立てぬように奥へと進んでいくと、何やら小さく話す人の声のようなものが耳に入ってきた。何を話しているのか、思わず呼吸を止めて聞き入るも、音が小さい上にボソボソと喋っている為、全くと言っていいほど分からなかった。

 風に揺さぶられる枝や葉っぱの音だけを近くに感じ、遠くからはリゾートへ訪れている多くの人の楽しそうな声や、アトラクションによる絶叫が薄っすらと聞こえてくる。

 こういう時にこそ、シンのクラスの真骨頂。相手はこちらの接近には気付いていない。だが、シンだけが相手側の声の音を感知している。声のする方角と高さからして、相手は地上で話していることだけは分かった。

 「喋り声ということは・・・人か・・・?コウやアナベルさんの仲間か、新たに目覚めたユーザーか・・・」

 シンは静かに跳躍すると、太い木の枝へと飛び乗り、器用に枝を伝って身を隠しながら声のする方へと近づいていく。

 徐々に聞こえてくる声が大きくなっていき、何を話しているのか分かった時、シンはまるで悍しいものでも見ているかのような衝撃を受けた。

 「タス・・・ケテ・・・。モド・・・リ・・・タイ・・・」

 シンが声のする場所へ到着すると、そこには怪我をして気を失う鎧姿の男が倒れており、一匹のウルフ種のモンスターがその男の破損した鎧のところに牙を引っ掛けて、小さく引っ張っていたのだ。

 「何だよ・・・どういう状況だ?こりゃぁ・・・」

 すると、そこにいたモンスターはシンの匂いに気が付いたのか、噛んでいた男の腕を離し倒れる男とシンの間に立ちはだかり、牙を向けて威嚇をし始めた。既に気付かれてしまったとあらば、隠れている理由もないと木の枝から飛び降りるシン。

 「ダメ・・・ダメ・・・タスケル・・・!」

 表情とは見合わない言葉を発するモンスターに、シンは手に武器を持っていないことを証明するかのように両手を開いて前に出す。そして、言葉が理解できるかも分からない相手に向けて、説得を試みた。

 「おっ落ち着け!傷付けたりしないって。ただ声がしたから来ただけなんだ。・・・その男、死んでるのか?」

 地面を滑らせるように、すり足で倒れる男へ近づこうとすると、ウルフは男に危害を加えようとしているのだと勘違いしているのか、見慣れた光を身に纏いシンへと飛びかかる。

 その光は、シン達WoFのユーザーが使うスキルの時に発生するエフェクトとそっくりだった。それを見たシンは、ある事を確信する。それはあの変異種のリザードのように特殊な能力を持った個体である事だった。

 「チッ・・・!やるしかないのかッ!?」

 攻撃体勢に入るモンスターを見て、仕方がなく武器を取り出そうと動いた瞬間、シンの身体に強烈な何かがぶつかって来た。それは目にも止まらぬ刹那の一瞬。不意打ちを喰らってしまったシンは、もろに攻撃を受けてしまい、大きく後方へ吹き飛ばされていった。

 「うッ・・・!何だ!?この速さはッ・・・!」

 シンへと衝突して来たのは、モンスターそのものだった。さっきまでいた場所にモンスターの姿はない。あの距離から、アサシンのクラスであるシンの目から逃れたというのだろうか。

 敵の目を欺くことやほどのスピードには自信があった。当然、力でも魔力でも、他のクラスに劣るアサシンは、そのトリッキーさや俊敏さ、特異なスキルで相手を凌駕する。

 その鋭い眼光は、相手の動きを観察し先を読み、攻撃の終着点を予想し避ける。そんな肥えた目であっても、モンスターの動きを捉えることが出来なかった。一体何が起きたのか、シンには理解できなかった。

 ウルフはシンを吹き飛ばした後大きく飛び退き、再び光に身を包み始めていた。それは先程と同じ、淡い緑色を帯びた光。これはにぃなのスキルによく似ている。

 「ウルフ種のモンスターにこんなことがッ・・・。やはりあの時のリザードと同じ、変異種・・・なのか?」

 シンがまだ膝を地面につけないのを見て、変異種のウルフは再び戦闘態勢に入る。次こそ見逃さないと意気込むシンは、スキルを発動し迎えうつ準備をする。

 そして再び、目にも止まらぬ速さで変異種のウルフが一瞬にして姿を消す。と、思った瞬間、シンの身体に再び衝撃と痛みが走る。

 しかし、今度のシンはやられるだけではなかった。既に発動していた影のスキルが、自身からモンスターの影へと入り込み、その動きを止めていた。

 「何度もやられっぱなしじゃないんだ・・・ぜ!」

 「グルルル・・・!」

 影による拘束をしてもなを、動きそうなほど全身に力を込めて振り解こうとする変異種のウルフ。このままでは、シンの拘束が解かれ再び動き出してしまう。

 「おいおいッ・・・!自力で振り解こうってのか!?」

 急ぎスキルを重ねて動きを封じるシン。漸く手足の一本も動かなくなったウルフは、恐い顔でシンを睨み剥き出しの牙を向けていた。それを尻目に、シンは倒れる鎧姿の男へと近づく。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

処理中です...