World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
778 / 1,646

学習能力の有無

しおりを挟む
 移動し始めたアナベルを追うように、炎で阻まれた道を迂回して彼女とウルフの後を追う敵のウルフ達。上空からは引き続き、アナベルが乗ってきたドラゴンによるブレスが、地上へ降り注いでいた。

 アナベルを乗せた事により、移動能力が低下したウルフは、すぐに後方から迫る追っ手に距離を詰められてしまう。後ろから聞こえて来る足音に首を回し後ろを確認するアナベル。

 「あららぁ?もう追いついて来ちゃうんだぁ」

 するとアナベルは、必死に走るウルフの頭を優しく撫で、ドラゴンの時と同じように指示を出す。

 「君は後ろを気にせず走ってくれ。もう少しの辛抱だよぉ」

 そして彼女は上体を起こし、手のひらを上に向けて片腕を横に伸ばす。すると彼女の方から稲妻のようなものが指先へと走り、その軌道上に小さな雷で出来た槍が数本生成される。

 上半身を捻り後方を向くと、アナベルは追っ手のウルフ達の内一体に向けて人差し指を向ける。

 「ヴォラーレ」

 彼女の言葉を合図に、雷の槍が追っ手のウルフに向けて発射される。その雷槍はまるで雷のような稲光を放ち、一瞬の軌道を見せて音を置き去りにする。

 雷槍は追っ手のウルフの前足に命中し、転倒させた。だが、足が吹き飛んだり切断されるほどの威力はないようで、多少焦げたような痕はあるものの大きな外傷は見受けられなかった。

 しかし転倒したウルフは、すぐに立ちがることは出来ず、その場で足掻いており追っ手を減らすには十分な効果を発揮していた。

 アナベルらを追って来ていたウルフの数だけ用意された雷槍を、彼女は次々に追っ手に撃ち込んでいく。狙いは正確で、見事に全ての追っ手を転倒させる。

 そうこうしている間に、アナベルを乗せたウルフは別の場所で敵と戦う仲間の元へ近づいていた。

 「ご苦労さん。君はこれをお仲間のところへ持っていってやってくれ。頼んだよぉ~」

 アナベルはウルフに回復薬の入った小瓶を括り付けると、背中から飛び降りその跳躍力で敵中のど真ん中へ降り立つ。敵のウルフ達は、それまで狙っていた獲物を後回しにし、現れた一人の人間を標的に定める。

 出方を伺うようにゆっくりと旋回を始め、その鋭い目は決して獲物から離れることはない。狩人に囲まれた彼女も、その中でゆっくりと立ち上がり、今度は手のひらを下に向け前方に片腕を伸ばすと、アナベルの足元で丁度手のひらの真下辺りの地面が徐々に白くなり、燃え盛る炎のように赤いマグマ色へとグラデーションを奏でながら変化し、一本の炎柱を彼女の手のひらへと伸ばしていく。

 「取り囲んで追い詰めたつもりかぃ?・・・さて、これから私の技を魅せてやるからよく見ておきな。アンタらが学習できるか試してやるからさぁ~・・・」

 そう言うとアナベルは、不敵な笑みを浮かべて鋭い眼光を放つ。

 一方、血痕を追っていたシン達は、痕が入っていった雑木林の中へと入り込んでいた。木々の間を飛び回ることは出来ないため、シンはアナベルから授かったドラゴンからおり、徒歩で捜索する事にした。

 「周囲を見て、このエリアから血痕が出ていないか見てきてくれないか?」

 「分かった。その後で地上に降りて合流すればいい?」

 咄嗟の事態に戦闘を行えるシンが地上に降り、にぃなには上空から血痕が雑木林の中から出ていってないかの確認をしてもらうことになった。

 二手に分かれ、それぞれの役割を全うする為に動き出す。

 木々の合間を抜けて走り出すシン。もしコウやアナベルの仲間が襲われているのなら、わざと音を立てる事によりこちらの存在を敵に知らせようとしての事だった。

 そして、ある程度雑木林の中を進むと、少し開けた場所で今まで追って来ていた血痕が途絶えているのを目にする。

 「ここで途絶えてる・・・。誰もいないのか?」

 周囲を見渡し、人や動物の気配を探るも、すぐ側にはそれらしきものは感じなかった。血痕も、途絶えた場所に近づくに連れ、間隔が長くなり量も少なくなっていることに気がつく。

 傷が治り始めたのか、それとも考えたくはないがここで消えるように始末されえてしまったのだろうかと想像するシン。

 しかし、もし彼らを追っていたものがモンスターであれば、そのような巧妙な真似ができるだろうか。この場で殺されてしまったのなら、派手に血が飛び散っていてもおかしくない。

 それなのに、シンが辿り着いた広場は不気味なほど綺麗に痕跡を絶っていたのだった。シンの脳裏に過ったのは、彼らがちょっと前に戦ったリザードの変異種の事だった。

 異様な雰囲気を醸し出す変異種は、他の個体よりも学習能力が高く、こちらの行動やスキルを観察し対策をして来るという、非常に厄介な能力を持っている。

 そして、その変異体は他の個体やモンスターを食すことで、能力の一部を吸収し自分のものにするという、WoFの世界ではみられない生態をしていた。

 なので、例えただのモンスターであり獣であっても、相手を消滅させられるようなスキルを持っていてもおかしくないのでは、という発想に至った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

処理中です...