762 / 1,646
魔物のパーティー編成
しおりを挟む
背筋が凍りつくような鋭い一撃が、シンの頬を掠めていく。生暖かいものが伝うのを感じ、それまで問題なく乗り越えられそうだった障害が、急激にその本性を表したかのようにシンの精神に重い一撃を与える。
リザード種のモンスターは、ファンタジーもののゲームや物語では割とポピュラーな存在であり、WoFでの立ち位置的には然程危険なモンスターではなかった。
故にシンも、彼らを前にした時に数で押されていようとも、何とか乗り切れるくらいの感覚でいたのは間違いない。その際、少女やにぃなに危険が及ぶかもしれないという点はあったが。
しかし、群れの中に武装したリザードを目にした時、シンの心の中に暗雲が立ち込めた。そしてその予感は、望まぬ形でシンの前に現実のものとして現れる。
異様な雰囲気を放っていたリザード兵のボスは、シンの戦う姿を見てスキルの特徴を学習し、自身の影の中にシンの影が入り込むのを見ると、それを罠として使い彼を誘い出したのだ。
WoF内で戦うリザード種とは、明らかに違う動き。それどころか、種に限らずモンスター全体として見ても、まず遭遇したことのない戦い方だった。
相手の行動を見てパターンを探り、弱点や隙を突いて攻撃する。これではまるでユーザー同士の対戦、所謂対人戦さながらだ。
有象無象のリザード兵と戦う少女を支援しつつ、視界の端にその光景を捉えたにぃなも、完全に背後を取ったシンの攻撃が命中するものだとばかり思っていた。
異変に巻き込まれてからの現実世界での戦闘経験が多い彼女であっても、そのリザードの長の動きは異常に見えた。
「ッ!?・・・ただ外しただけだよね・・・?だって、相手はただのモンスターだよ!?」
「どうしたの?急に」
目の前の戦闘に必死の少女の視界には、その異常な光景は映っていなかった。彼女も彼女で、他に気を回しているような余裕はなかった。
戦闘自体は大分スムーズにこなせるようになってきたものの、相手の数が多く持久戦に持ち込まれると、流石に攻撃を受け始めてきてしまっていた。
今はまだ、にぃなの補助魔法による支援を受けていられるが、それもいつまで続くか分からない。
リザードのボスの一撃を何とか躱したシンは、急遽距離を取り相手の動きを観察する。スキルを先読みし、攻撃へと転じたのは偶然か否か。本当に同じ手は通用しないのか。
そしてシンは、再びリザードのボスの死角にある影を用いて、今度は投擲用の武器をその中へ放り込む。
考えを悟られぬよう、取り巻きの相手をするフリをしながら、投擲のモーションすら見せないように細心の注意を払い、ナイフを放つ。
しかし、リザードのボスはその場でぐるりと旋回し、手にしている大柄の武器である戟で軽々と弾き飛ばしていった。
「間違いない・・・。アイツ、俺のスキルをッ・・・!」
二度目の攻撃を難なく捌いたことで、シンの中でリザードのボスが影のスキルの性質を理解していることは確定した。これにより、背後からの接近や不意打ちの有効性は失われたと考えた方がいいだろう。
だが、シンにとっての影は何も物体の移動を可能とすることだけではない。次に彼が試みたのは、影による拘束だったのだ。
周囲の取り巻きを利用し、軽く刃を交えながら影を忍ばせつつ、投擲による攻撃でボスの気を外らせる。その内、リザードのボスはシンの投擲を弾くのに、武器を用いることすらなくなり、腕に装着された小手を使い軽々しく防いで見せる。
本来、ここまで攻撃に対する耐性が高いモンスターではないが、シンにとってもその投擲が本命ではない。周囲のリザード兵に対し、十分に自身の影を忍ばせることに成功したシンは、取り巻きの隙を突いて、リザードのボスに近接戦闘を仕掛ける。
手にした短剣にグッと力を込め、シンの接近に身構えるボスに向かって、刃を振るう。当然、相手は攻撃を避けるか弾くかしようと動きを見せる。
その瞬間、周囲のリザード兵に忍ばせた影からそれぞれ一本ずつ鎖のように影が伸びると、ボスの影に繋がり急激にその動きを鈍らせた。
シンの振るった短剣の刃は、武装したボスの装甲が薄い部分であり、同時に弱点でもある首を切り裂いた。重い一撃を喰らい、蹌踉めくリザード種のボスだったが、膝を曲げるには至らなかった。
ここが人間とモンスターの大きな違いだった。相手が人間であれば、首を切られるということは、死にも繋がる致命的な一撃となっていたことだろう。
種族による生き物としての生命力の違いか、それともモンスターという異形の者に掛かる補正のせいかは分からない。
弱点部位であっても、ある程度くらいの高いボスモンスターや、何かしら重要な役割を持つモンスターは、即死に対する耐性を持っている。それはWoFのゲーム内でも同じであり、現実の世界でもそれが適応されている可能性が高いのを示唆しているようだった。
首元を押さえ、体勢を立て直したリザードのボスは、その後方に隊列を構える杖のようなものを持ったリザード兵に視線を送る。
すると、数体のリザード兵はそれぞれ違った色の光を発しながら、恐らくは魔法の詠唱を唱える。それにより、ボスの受けた傷は治癒され、シンが繋いだ影の鎖も解除されてしまった。
リザード種のモンスターは、ファンタジーもののゲームや物語では割とポピュラーな存在であり、WoFでの立ち位置的には然程危険なモンスターではなかった。
故にシンも、彼らを前にした時に数で押されていようとも、何とか乗り切れるくらいの感覚でいたのは間違いない。その際、少女やにぃなに危険が及ぶかもしれないという点はあったが。
しかし、群れの中に武装したリザードを目にした時、シンの心の中に暗雲が立ち込めた。そしてその予感は、望まぬ形でシンの前に現実のものとして現れる。
異様な雰囲気を放っていたリザード兵のボスは、シンの戦う姿を見てスキルの特徴を学習し、自身の影の中にシンの影が入り込むのを見ると、それを罠として使い彼を誘い出したのだ。
WoF内で戦うリザード種とは、明らかに違う動き。それどころか、種に限らずモンスター全体として見ても、まず遭遇したことのない戦い方だった。
相手の行動を見てパターンを探り、弱点や隙を突いて攻撃する。これではまるでユーザー同士の対戦、所謂対人戦さながらだ。
有象無象のリザード兵と戦う少女を支援しつつ、視界の端にその光景を捉えたにぃなも、完全に背後を取ったシンの攻撃が命中するものだとばかり思っていた。
異変に巻き込まれてからの現実世界での戦闘経験が多い彼女であっても、そのリザードの長の動きは異常に見えた。
「ッ!?・・・ただ外しただけだよね・・・?だって、相手はただのモンスターだよ!?」
「どうしたの?急に」
目の前の戦闘に必死の少女の視界には、その異常な光景は映っていなかった。彼女も彼女で、他に気を回しているような余裕はなかった。
戦闘自体は大分スムーズにこなせるようになってきたものの、相手の数が多く持久戦に持ち込まれると、流石に攻撃を受け始めてきてしまっていた。
今はまだ、にぃなの補助魔法による支援を受けていられるが、それもいつまで続くか分からない。
リザードのボスの一撃を何とか躱したシンは、急遽距離を取り相手の動きを観察する。スキルを先読みし、攻撃へと転じたのは偶然か否か。本当に同じ手は通用しないのか。
そしてシンは、再びリザードのボスの死角にある影を用いて、今度は投擲用の武器をその中へ放り込む。
考えを悟られぬよう、取り巻きの相手をするフリをしながら、投擲のモーションすら見せないように細心の注意を払い、ナイフを放つ。
しかし、リザードのボスはその場でぐるりと旋回し、手にしている大柄の武器である戟で軽々と弾き飛ばしていった。
「間違いない・・・。アイツ、俺のスキルをッ・・・!」
二度目の攻撃を難なく捌いたことで、シンの中でリザードのボスが影のスキルの性質を理解していることは確定した。これにより、背後からの接近や不意打ちの有効性は失われたと考えた方がいいだろう。
だが、シンにとっての影は何も物体の移動を可能とすることだけではない。次に彼が試みたのは、影による拘束だったのだ。
周囲の取り巻きを利用し、軽く刃を交えながら影を忍ばせつつ、投擲による攻撃でボスの気を外らせる。その内、リザードのボスはシンの投擲を弾くのに、武器を用いることすらなくなり、腕に装着された小手を使い軽々しく防いで見せる。
本来、ここまで攻撃に対する耐性が高いモンスターではないが、シンにとってもその投擲が本命ではない。周囲のリザード兵に対し、十分に自身の影を忍ばせることに成功したシンは、取り巻きの隙を突いて、リザードのボスに近接戦闘を仕掛ける。
手にした短剣にグッと力を込め、シンの接近に身構えるボスに向かって、刃を振るう。当然、相手は攻撃を避けるか弾くかしようと動きを見せる。
その瞬間、周囲のリザード兵に忍ばせた影からそれぞれ一本ずつ鎖のように影が伸びると、ボスの影に繋がり急激にその動きを鈍らせた。
シンの振るった短剣の刃は、武装したボスの装甲が薄い部分であり、同時に弱点でもある首を切り裂いた。重い一撃を喰らい、蹌踉めくリザード種のボスだったが、膝を曲げるには至らなかった。
ここが人間とモンスターの大きな違いだった。相手が人間であれば、首を切られるということは、死にも繋がる致命的な一撃となっていたことだろう。
種族による生き物としての生命力の違いか、それともモンスターという異形の者に掛かる補正のせいかは分からない。
弱点部位であっても、ある程度くらいの高いボスモンスターや、何かしら重要な役割を持つモンスターは、即死に対する耐性を持っている。それはWoFのゲーム内でも同じであり、現実の世界でもそれが適応されている可能性が高いのを示唆しているようだった。
首元を押さえ、体勢を立て直したリザードのボスは、その後方に隊列を構える杖のようなものを持ったリザード兵に視線を送る。
すると、数体のリザード兵はそれぞれ違った色の光を発しながら、恐らくは魔法の詠唱を唱える。それにより、ボスの受けた傷は治癒され、シンが繋いだ影の鎖も解除されてしまった。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる