World of Fantasia

神代 コウ

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魔物のパーティー編成

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 背筋が凍りつくような鋭い一撃が、シンの頬を掠めていく。生暖かいものが伝うのを感じ、それまで問題なく乗り越えられそうだった障害が、急激にその本性を表したかのようにシンの精神に重い一撃を与える。

 リザード種のモンスターは、ファンタジーもののゲームや物語では割とポピュラーな存在であり、WoFでの立ち位置的には然程危険なモンスターではなかった。

 故にシンも、彼らを前にした時に数で押されていようとも、何とか乗り切れるくらいの感覚でいたのは間違いない。その際、少女やにぃなに危険が及ぶかもしれないという点はあったが。

 しかし、群れの中に武装したリザードを目にした時、シンの心の中に暗雲が立ち込めた。そしてその予感は、望まぬ形でシンの前に現実のものとして現れる。

 異様な雰囲気を放っていたリザード兵のボスは、シンの戦う姿を見てスキルの特徴を学習し、自身の影の中にシンの影が入り込むのを見ると、それを罠として使い彼を誘い出したのだ。

 WoF内で戦うリザード種とは、明らかに違う動き。それどころか、種に限らずモンスター全体として見ても、まず遭遇したことのない戦い方だった。

 相手の行動を見てパターンを探り、弱点や隙を突いて攻撃する。これではまるでユーザー同士の対戦、所謂対人戦さながらだ。

 有象無象のリザード兵と戦う少女を支援しつつ、視界の端にその光景を捉えたにぃなも、完全に背後を取ったシンの攻撃が命中するものだとばかり思っていた。

 異変に巻き込まれてからの現実世界での戦闘経験が多い彼女であっても、そのリザードの長の動きは異常に見えた。

 「ッ!?・・・ただ外しただけだよね・・・?だって、相手はただのモンスターだよ!?」

 「どうしたの?急に」

 目の前の戦闘に必死の少女の視界には、その異常な光景は映っていなかった。彼女も彼女で、他に気を回しているような余裕はなかった。

 戦闘自体は大分スムーズにこなせるようになってきたものの、相手の数が多く持久戦に持ち込まれると、流石に攻撃を受け始めてきてしまっていた。

 今はまだ、にぃなの補助魔法による支援を受けていられるが、それもいつまで続くか分からない。

 リザードのボスの一撃を何とか躱したシンは、急遽距離を取り相手の動きを観察する。スキルを先読みし、攻撃へと転じたのは偶然か否か。本当に同じ手は通用しないのか。

 そしてシンは、再びリザードのボスの死角にある影を用いて、今度は投擲用の武器をその中へ放り込む。

 考えを悟られぬよう、取り巻きの相手をするフリをしながら、投擲のモーションすら見せないように細心の注意を払い、ナイフを放つ。

 しかし、リザードのボスはその場でぐるりと旋回し、手にしている大柄の武器である戟で軽々と弾き飛ばしていった。

 「間違いない・・・。アイツ、俺のスキルをッ・・・!」

 二度目の攻撃を難なく捌いたことで、シンの中でリザードのボスが影のスキルの性質を理解していることは確定した。これにより、背後からの接近や不意打ちの有効性は失われたと考えた方がいいだろう。

 だが、シンにとっての影は何も物体の移動を可能とすることだけではない。次に彼が試みたのは、影による拘束だったのだ。

 周囲の取り巻きを利用し、軽く刃を交えながら影を忍ばせつつ、投擲による攻撃でボスの気を外らせる。その内、リザードのボスはシンの投擲を弾くのに、武器を用いることすらなくなり、腕に装着された小手を使い軽々しく防いで見せる。

 本来、ここまで攻撃に対する耐性が高いモンスターではないが、シンにとってもその投擲が本命ではない。周囲のリザード兵に対し、十分に自身の影を忍ばせることに成功したシンは、取り巻きの隙を突いて、リザードのボスに近接戦闘を仕掛ける。

 手にした短剣にグッと力を込め、シンの接近に身構えるボスに向かって、刃を振るう。当然、相手は攻撃を避けるか弾くかしようと動きを見せる。

 その瞬間、周囲のリザード兵に忍ばせた影からそれぞれ一本ずつ鎖のように影が伸びると、ボスの影に繋がり急激にその動きを鈍らせた。

 シンの振るった短剣の刃は、武装したボスの装甲が薄い部分であり、同時に弱点でもある首を切り裂いた。重い一撃を喰らい、蹌踉めくリザード種のボスだったが、膝を曲げるには至らなかった。

 ここが人間とモンスターの大きな違いだった。相手が人間であれば、首を切られるということは、死にも繋がる致命的な一撃となっていたことだろう。

 種族による生き物としての生命力の違いか、それともモンスターという異形の者に掛かる補正のせいかは分からない。

 弱点部位であっても、ある程度くらいの高いボスモンスターや、何かしら重要な役割を持つモンスターは、即死に対する耐性を持っている。それはWoFのゲーム内でも同じであり、現実の世界でもそれが適応されている可能性が高いのを示唆しているようだった。

 首元を押さえ、体勢を立て直したリザードのボスは、その後方に隊列を構える杖のようなものを持ったリザード兵に視線を送る。

 すると、数体のリザード兵はそれぞれ違った色の光を発しながら、恐らくは魔法の詠唱を唱える。それにより、ボスの受けた傷は治癒され、シンが繋いだ影の鎖も解除されてしまった。
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