747 / 1,646
アサシンの脱出術
しおりを挟む
次の足場となる屋上に飛び移ると、朱影は自身の攻撃がどのような結果をもたらしたのか確認しようと振り返る。
だが、彼が消えゆく爆煙に視線を送るよりも先に、ランゲージが朱影のいる建物の屋上に既に到着していた。
その気配を感じ取った朱影はゆっくりと振り返りながら、楽しみを取っておく子供のような表情で男の顔色を伺う。
「何だよ。しっかり当たってるじゃぁねぇか、俺の槍がよぉ~。それとも、それも破片が飛んだだけだって言うのか?」
「・・・やけに口数が増えたじゃないか。これしきの戦果がそんなに嬉しいのか?」
まるで立場が逆転したようだった。逃げることも攻撃することも出来なかった筈の朱影は勝機を見出し、追い詰めていた筈のランゲージには焦燥の色が伺える。
ランゲージは、心のどこかで薄々自身の能力が朱影に見透かされているのではないかと、焦り出していた。実際にはその能力の全てを理解した訳ではないが、一つの可能性を導き出していた。
恐らくランゲージという男の能力には、強力が故に制限のようなものが存在する。そしてそれは、言葉による状況の固定化ではなく、発動数には限度があるということだ。
つまり物や人に対し、能力による効果を掛けられる数に限りがあるということだ。無制限に対象を縛り付けることが出来るのなら、朱影は今頃手も足も出せない状況にされているに違いない。
そうなっていないという事は、出来ない状況下にあるのか、そもそも能力の効果や数に制限があるということになる。
朱影の投げた槍により擦り傷を負ったランゲージを見て、彼は自身の攻撃が当たるようになったのではないかと推測したのだった。
「あぁ、嬉しいねぇ!マジックの種を明かされて、悔しがる面を拝むのは気持ちがいい!」
「馬鹿を言え。これで勝った気になっているのなら、それは大きな勘違いだ。二度目はない、“お前の槍は私には当たらん“。これは絶対だ!」
漸く本性を表したかと、口角を上げて笑う朱影。そして間髪入れずに彼は、再び異形の槍を次々に出現させてランゲージへと斬りかかる。
男の宣言通り、朱影の激しい攻撃を紙一重で避けて見せる。だが、その猛攻の最中にも彼の次なる一手の準備は進んでいたのだ。彼は近距離戦の最中、何故かその異形の槍を途中で投擲していたのだ。
投げはなった後は、再び同じ槍を手に取り数回近接攻撃を仕掛け投擲する。
依然として朱影の攻撃は当たることはなかったが、ランゲージも彼のその動きに不自然さを感じ始めたが、その時には既に手遅れだった。
投げられた異形の槍は、二人のいる屋上を含め周囲の建物へと突き刺さっており、消えずにそのまま残っていたのだ。
そして準備を整え終えた朱影は、跳躍でランゲージの攻撃を躱した後、着地と同時に地面に手をつき蹲る。
「“最後に“手土産ができてよかったぜ・・・」
「ッ・・・何のことだ?」
「テメェらのような奴らがいると知れただけでも、今回は収穫があったって訳だッ!」
すると朱影の影を中心に、周囲へ複数の真っ黒な影が瞬時に伸びていった。どこへ向かったのかまでは、ランゲージにも確認出来なかったが、直後に周囲で大きな爆発が起こる。
すぐに目の前の朱影へ蹴りを放つが、彼は更に低い位置へと沈んでおり、ランゲージの足は空を切る。よく見ると、朱影の身体はまるで底なしの沼に沈むかのように影の中へと入り込んでいたのだ。
周囲の状況を確認しようと、忙しなく首を回すランゲージに、朱影は去り際にまるで勝利宣言かの如く、捨て台詞を残していった。
「あばよ、おしゃべりさん。無口で仕事をこなす方が、男はモテるぜ?」
「チッ・・・!逃すかッ!!」
しかし、男の声も束の間。既に朱影の姿は完全に影の中へと沈み、消え去っていた。
「ふん・・・リップサービスというの知らんのか・・・」
周囲の爆発と共に、二人のいた屋上にも、朱影が残した異形の槍が転がっており、最後の爆発を引き起こした。
セントラルシティに鳴り響く、数回に渡る大爆発。彼らと同じ、現実世界へえやって来た異世界の者達やWoFのユーザーには、その轟音と壮絶な光景が見えているが、街を歩く一般人には光の少なくなったただの日常に過ぎない。
この爆発による損壊も、後に現実世界へと反映されるのだろうか。だとすれば、これは大事となるだろう。複数のビルが一斉に崩れるなど、異常事態でしかない。
大規模な爆発と爆煙に飲み込まれたランゲージの行方や詳細は分からない。だが恐らくは生きていることだろう。慌てる様子もなくその場に残り、爆発に巻き込まれたのは諦めたからではなく、朱影に向かって口にした“爆発は効かない“という能力が残っているからだ。
ランゲージもそれ以上、朱影を追うことはなかった。しかし、その口振りからも朱影の始末が目的ではなかったようにも思える。彼が最後に言い残していったように、黙っていれば一方的な戦闘になっていたに違いない。
そうしなかったのは、何らかの目的があるからなのだろう。
その後、東京の街に電力が戻った後、二人の戦いによる損壊は綺麗さっぱりなかった事にされていた。
だが、彼が消えゆく爆煙に視線を送るよりも先に、ランゲージが朱影のいる建物の屋上に既に到着していた。
その気配を感じ取った朱影はゆっくりと振り返りながら、楽しみを取っておく子供のような表情で男の顔色を伺う。
「何だよ。しっかり当たってるじゃぁねぇか、俺の槍がよぉ~。それとも、それも破片が飛んだだけだって言うのか?」
「・・・やけに口数が増えたじゃないか。これしきの戦果がそんなに嬉しいのか?」
まるで立場が逆転したようだった。逃げることも攻撃することも出来なかった筈の朱影は勝機を見出し、追い詰めていた筈のランゲージには焦燥の色が伺える。
ランゲージは、心のどこかで薄々自身の能力が朱影に見透かされているのではないかと、焦り出していた。実際にはその能力の全てを理解した訳ではないが、一つの可能性を導き出していた。
恐らくランゲージという男の能力には、強力が故に制限のようなものが存在する。そしてそれは、言葉による状況の固定化ではなく、発動数には限度があるということだ。
つまり物や人に対し、能力による効果を掛けられる数に限りがあるということだ。無制限に対象を縛り付けることが出来るのなら、朱影は今頃手も足も出せない状況にされているに違いない。
そうなっていないという事は、出来ない状況下にあるのか、そもそも能力の効果や数に制限があるということになる。
朱影の投げた槍により擦り傷を負ったランゲージを見て、彼は自身の攻撃が当たるようになったのではないかと推測したのだった。
「あぁ、嬉しいねぇ!マジックの種を明かされて、悔しがる面を拝むのは気持ちがいい!」
「馬鹿を言え。これで勝った気になっているのなら、それは大きな勘違いだ。二度目はない、“お前の槍は私には当たらん“。これは絶対だ!」
漸く本性を表したかと、口角を上げて笑う朱影。そして間髪入れずに彼は、再び異形の槍を次々に出現させてランゲージへと斬りかかる。
男の宣言通り、朱影の激しい攻撃を紙一重で避けて見せる。だが、その猛攻の最中にも彼の次なる一手の準備は進んでいたのだ。彼は近距離戦の最中、何故かその異形の槍を途中で投擲していたのだ。
投げはなった後は、再び同じ槍を手に取り数回近接攻撃を仕掛け投擲する。
依然として朱影の攻撃は当たることはなかったが、ランゲージも彼のその動きに不自然さを感じ始めたが、その時には既に手遅れだった。
投げられた異形の槍は、二人のいる屋上を含め周囲の建物へと突き刺さっており、消えずにそのまま残っていたのだ。
そして準備を整え終えた朱影は、跳躍でランゲージの攻撃を躱した後、着地と同時に地面に手をつき蹲る。
「“最後に“手土産ができてよかったぜ・・・」
「ッ・・・何のことだ?」
「テメェらのような奴らがいると知れただけでも、今回は収穫があったって訳だッ!」
すると朱影の影を中心に、周囲へ複数の真っ黒な影が瞬時に伸びていった。どこへ向かったのかまでは、ランゲージにも確認出来なかったが、直後に周囲で大きな爆発が起こる。
すぐに目の前の朱影へ蹴りを放つが、彼は更に低い位置へと沈んでおり、ランゲージの足は空を切る。よく見ると、朱影の身体はまるで底なしの沼に沈むかのように影の中へと入り込んでいたのだ。
周囲の状況を確認しようと、忙しなく首を回すランゲージに、朱影は去り際にまるで勝利宣言かの如く、捨て台詞を残していった。
「あばよ、おしゃべりさん。無口で仕事をこなす方が、男はモテるぜ?」
「チッ・・・!逃すかッ!!」
しかし、男の声も束の間。既に朱影の姿は完全に影の中へと沈み、消え去っていた。
「ふん・・・リップサービスというの知らんのか・・・」
周囲の爆発と共に、二人のいた屋上にも、朱影が残した異形の槍が転がっており、最後の爆発を引き起こした。
セントラルシティに鳴り響く、数回に渡る大爆発。彼らと同じ、現実世界へえやって来た異世界の者達やWoFのユーザーには、その轟音と壮絶な光景が見えているが、街を歩く一般人には光の少なくなったただの日常に過ぎない。
この爆発による損壊も、後に現実世界へと反映されるのだろうか。だとすれば、これは大事となるだろう。複数のビルが一斉に崩れるなど、異常事態でしかない。
大規模な爆発と爆煙に飲み込まれたランゲージの行方や詳細は分からない。だが恐らくは生きていることだろう。慌てる様子もなくその場に残り、爆発に巻き込まれたのは諦めたからではなく、朱影に向かって口にした“爆発は効かない“という能力が残っているからだ。
ランゲージもそれ以上、朱影を追うことはなかった。しかし、その口振りからも朱影の始末が目的ではなかったようにも思える。彼が最後に言い残していったように、黙っていれば一方的な戦闘になっていたに違いない。
そうしなかったのは、何らかの目的があるからなのだろう。
その後、東京の街に電力が戻った後、二人の戦いによる損壊は綺麗さっぱりなかった事にされていた。
0
お気に入りに追加
310
あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

転生貴族の異世界無双生活
guju
ファンタジー
神の手違いで死んでしまったと、突如知らされる主人公。
彼は、神から貰った力で生きていくものの、そうそう幸せは続かない。
その世界でできる色々な出来事が、主人公をどう変えて行くのか!
ハーレム弱めです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

【完結】憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと
Debby
ファンタジー
【完結まで投稿済みです】
山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。
好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリスト。
やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。
転移先の条件としては『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。
そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。
更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。
これにはちゃんとした理由がある。必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ない。
もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。
──そして本当に転移してしまった星良は、頼もしい仲間(レアアイテムとモフモフと細マッチョ?)と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。
いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。
理想通りだったり思っていたのとちょっと違ったりするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。
あなたが異世界転移するなら、リストに何を書きますか?
----------
覗いて下さり、ありがとうございます!
10時19時投稿、全話予約投稿済みです。
5話くらいから話が動き出します?
✳(お読み下されば何のマークかはすぐに分かると思いますが)5話から出てくる話のタイトルの★は気にしないでください

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!
べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる