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神代 コウ

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同志のその後

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 時は遡り、シンと朱影が下水道で分かれた頃のこと。

 シンの囮のおかげで、大型のモンスターと一対一で戦うことのできた朱影は、見事にこれを撃破。シンとの合流は、当初の目的地であった電力施設で果たそうと、一足先に向かった。

 しかし、施設への入り口付近で暫く待った朱影の元に、白獅から連絡が入る。彼は下水道内にて、窮地を敵対組織の者に救われ、スパイとしてそのまま相手側の組織へ潜り込む経緯となったことを知る。

 その際に得た敵対組織の計画と戦力を考慮し、電力の復旧への関与から手を引くことを決断する。

 白獅は朱影に、瑜那と宵命の両名を連れ、東京から撤退するように命じる。初め朱影はその命令に抵抗していたが、アサシンギルドの情報漏洩や仲間の命の事を話に出されると、反撃の機会を惜しみながらもそれを承諾。

 電力施設から離れ、瑜那と宵命の元へ戻ろうとした時、施設周辺を担当していたフィアーズの幹部の一人に見つかってしまう。

 朱影の前に現れたのは、スーツ姿をしたサラリーマン風の容姿をした、ごく一般的な風貌をした何の変哲もない一人の男だった。

 この世界に慣れている朱影ですら、その男を見た時、現実世界の住人かと見間違うほど世界に溶け込んでいた。

 路地を駆け、周囲を警戒しながら仲間の元を目指していた朱影は、この停電の最中、動揺することもなく堂々と歩道を歩いているその男に、少しばかりの違和感を感じながらも、万が一にも気配を悟られぬよう速度を落とし、気づかれぬようゆっくり歩いた。

 しかし、歩いてくる男とすれ違ったその後、男は朱影に声をかけた。

 こちらの姿が見えているとは思わなかった朱影は、男の声に驚きすぐさま飛び退き武器を構える。

 「変わった風貌だな。この世界の者ではないな?」

 「・・・・・」

 適当に声を発しているだけかもしれない。朱影は警戒しながらも、一度男の言葉を無視し様子を見る。

 「見えているよ、お前に言っているんだ。知っているんだろ?お前も私も、この世界の者ではないこと。異世界の異物であることを・・・」

 「あぁ?・・・しらねぇなぁ、誰だテメェ?」

 白を切る朱影の態度に、男は何を思ってか鼻で笑い顔を一度下へ向けると、次に朱影へ向けた男の顔は鋭い眼光を放ち、彼の心臓の鼓動を乱した。

 「白を切っても無駄だ。お前は何者だ?何をしにここまで来た?」

 「質問ばかりだな。一つ良いことを教えてやるぜ。相手に何者か尋ねる時は、先に自ら名乗るのがこの世界の礼節らしいぜ?」

 男が答えるとは思わなかったが、このまま大人しく見逃してくれるとも思えなかった為、出来るだけの情報を引き出してやろうと、探りを入れる朱影。

 しかし、男の見せる余裕の態度から口を滑らせるかと思われていたが、容易く素性を明かすほど簡単ではなかった。

 「そうか、自ら喋る気はないようだな・・・」

 敵意を向けて一歩踏み出してきた男に対し、朱影は手にした槍を逆手に持ち、矛先を地面に向けそのまま突き刺すと、お得意のスキルを発動させようとした。

 だがその直後、男は妙な言葉を口にする。それは自信の現れなのか、何かのスキルによるものなのか。その直後に発動した朱影のスキル、地面から無数の槍が男目がけて飛び出す攻撃は、期待していた結果を得るには至らなかった。

 「“お前の槍は、私には当たらないよ“」

 アスファルトを突き破り、様々な種類の槍が男の方へ向かって突き出していく。しかし、圧倒的な数を誇って男を取り囲んだ朱影の槍は、一本も男に命中することなく、まるで槍自身が男を避けたとでも言わんばかりに的を外した。

 「ッ・・・!?」

 攻撃するという目的を終えた槍は、次々に光の粒子となって消えていった。足元にあった一本の槍を引き抜いて、何かを探るように眺める男は、その槍から朱影のいた世界の素性を探ろうとした。

 「何本か近しい世代の代物があるようだが、これで特定することは出来ないか・・・。武器から推測されることを警戒しているのか?なかなか用心深いじゃないか」

 確実に男を狙ったはずが、全て外れてしまうという衝撃的な光景を目にして、内心朱影は動揺していたが、男に隙を見せぬよう上手くそれを隠したまま、次なる攻撃のために新たな槍をその手に生み出す。

 「ごちゃごちゃうるせぇんだよ。まぐれでイキってんなよ、スカし野朗ッ!」

 朱影は手にした槍を、下水道の戦いで大型モンスターに見せた時のような、強烈な投擲で男を仕留めんと撃ち放つ。強靭な放出に槍は雷を纏うほど、勢いよく放たれた槍は確実に男の身体を狙っている。

 軌道は確実に命中する進路を辿っている。しかし、命中するかと思われた途端、槍の軌道が僅かにズレ、男の身体の横を通り過ぎていった。あまりにも不自然な移動に、朱影の疑問はその表情に表れていた。

 「不思議そうな顔だな。言っただろ?“お前の槍は当たらない“と」

 「どうなってやがる!?狙いは正確だった筈・・・」

 「“狙い“はな。だが、何事も結果は確実ではないだろ?」

 朱影に異常はない。命中率を下げられたり、状態異常をかけられた形跡は一切なかった。彼が攻撃を外す要因は、彼自身ではなく相手の男にあるとしか思えなかった。

 近づいてくる男に対し、朱影はその後もいくつもの攻撃を試みるが、男に傷一つつけることができなかった。
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