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包囲網
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彼の話では、その者達は白獅らとは違い友好的ではないようで、WoFのユーザーを捕まえては、モンスターや邪魔をする者達と戦うのを強要するのだという。
自分の置かれている状況と、WoFのキャラクターを自分の身体に反映させることに慣れていないユーザー達は、軒並み彼らに制圧され、協力するか死ぬかの選択を迫られる。
彼らはまるでWoFの上位ユーザーのように強く、手も足も出ないまま彼らの私兵になるしかなかった。
彼らの支配下に加わることで、キャラクターの反映の仕方自体は教授してもらえるものの、実際の戦闘は現地で行うか、余り物の“実験体“と呼ばれるモンスターを使っての、実戦さながらの訓練しかさせてもらえない。
中には、実際の攻撃を受けた痛みと恐怖に耐え切れない者もいたが、彼らは助けようとはしない。ユーザーが死ぬことに何も思っていないようで、死体だけが回収されるのだという。
回収された者達がどうなるのかは、彼らのような末端の兵には知る由もない。ただ、安らかな埋葬や処分をされていないであろうことだけは、何となく皆分かっているのだという。
「何だよそれ・・・。俺はそんな所へは行かないぞ!?」
「お仲間のところへ帰ろうってんだろ?やめておけ、奴らの組織は想像以上に大きく残虐だ。さっきのモンスターだって、WoFにはいなかっただろ?あれだって奴らが何かしたに違いない!その証拠に、奴らがこの下水を通る時は、あんなモンスターは出てこないんだ」
しかし、だからといって白獅らと勝手に別れることも出来ないし、この協力関係は断ち切りたくはない。もし利用されているだけだとしても、少なくとも彼らはシン達WoFのユーザーに危害を加えることはないのだから。
「なら、アンタが俺達と来ないか?彼らに説明すればきっと受け入れて・・・」
シンの申し出の言葉を遮るように、その男は悲しい表情を浮かべて断った。
「無理だよ・・・。私兵になった時点で、俺達の居場所は把握されてる。もし俺がついていけば、アンタとその仲間達の居場所が知られて、ただでは済まないだろう・・・」
「・・・なら、尚更一緒にはいけない」
そういうと、男はシンの腕を掴み命乞いをするかのように訴えかける。
「頼む・・・。アンタは戦えるんだろ?少しでも仲間が必要なんだ。それに・・・」
彼が執拗に勧誘してくるのには、ある理由があった。初めに言った通り、少しでも戦力が必要なのは確かだが、シンのように現実の世界での戦闘を行える者は、そう多くはないのだそうだ。
そもそもキャラクターの反映方法すら知らない者達がほとんどで、何も知らないまま戦地に放り出されても、現代で平和に暮らしてきた彼らに、すぐに対応できるものではない。
それでも徐々に力をつけ、少しづつ同じ境遇にある仲間達を集めていた彼らは、十分な戦力と人数、そして組織の信頼を得たところで脱走を試みようとしているのだと話す。
「今、この東京のセントラルには多くの組織の幹部クラスが集まってる。そいつらに見つかれば、ただでは済まない。アンタが一緒にいた奴・・・。WoFのユーザーなのか?」
「そうじゃないが・・・事情を話せば何か力になれるかも知れない」
「なら今すぐ彼を止めた方がいい。電力の供給を遮断したのは奴らだ。警察や現実に生きる者達の手で復旧させるには、時間がかかる筈だ。それを餌に敵対組織や、邪魔者を炙り出そうとしている・・・。勿論、施設にも幹部の連中がいる。いくらアンタの仲間が強くても、奴らを複数相手にして勝てるほど甘くはないぞ」
罠かも知れないということは、初めから想定されていたことだった。だからこそ隠密で事を成そうとしていた。用心していることには変わりないが、何の因果か相手側の兵から情報を受け取ったシンは、すぐに施設へ向かった朱影へメッセージを送る。
シンの視線がWoFのメニューを開く動きだと察した男は、なるべく面倒ごとが起きる前に引かせたいと焦らせる。
だが、彼らの杞憂も虚しく、既に外では何かしらの動きがあったようだった。
突如聞こえてくる大きな物音。それは地上からのものであるとみて間違いないが、下水道にもハッキリと聞こえてきたということは、朱影が表に出るところを狙われたのではないかと、二人に想像させる。
「今のはッ・・・!?」
「・・・遅かった。いいか?もう一度言う。この下水道も外も、完全に包囲されている。逃げ場なんてない。奴らは電力を復旧させに来た者を、敵対者として始末すると言っていた。もしアンタの仲間を助けにいけば、俺達の身も危ない。だが、俺についてくれば、アンタだけなら救える」
そんな事を言われても、シンにはどうするべきか即断するほどの余裕はなかった。朱影からの返事は返ってこない。そこで考えたのは、一度白獅に現状の報告と、今後の動きについて指示を仰ぐと言うものだった。
実際、この男の話がどこまで信用できるものなのかも分からない。だが、必死に訴えかけてくる様子からは、とても嘘をついているようには思えなかった。
しかし、シンは現実の世界で過去に、信じていた友人から裏切られ孤立し、自堕落の毎日を過ごすようになってしまった。人を信用するということに、臆病になっていた。
「もう一人、連絡を取りたい人物がいる。遠距離になるが、メッセージを送っても?」
「WoFのメッセージ機能なら、奴らに検知されることはないから大丈夫だ。俺達もそれで連絡を取り合っているからな」
WoFのメッセージ機能は、彼らにのみ使える通信機能だが、アサシンギルドはシン達らWoFのユーザーの協力を得て、同じようなシステムを仲間内のみで構築し使用している。
無論、外部からのハッキング対策もされており、暗号を知らなければその一切を盗み見ることは不可能。そのやり取りは、当事者同士にしか権限が与えられず、他者が抜き取ることも難しいのだという。
そしてシンは、それを使い今後どうするべきか。自分と仲間の命運を白獅に委ねる選択を取ったのだ。
自分の置かれている状況と、WoFのキャラクターを自分の身体に反映させることに慣れていないユーザー達は、軒並み彼らに制圧され、協力するか死ぬかの選択を迫られる。
彼らはまるでWoFの上位ユーザーのように強く、手も足も出ないまま彼らの私兵になるしかなかった。
彼らの支配下に加わることで、キャラクターの反映の仕方自体は教授してもらえるものの、実際の戦闘は現地で行うか、余り物の“実験体“と呼ばれるモンスターを使っての、実戦さながらの訓練しかさせてもらえない。
中には、実際の攻撃を受けた痛みと恐怖に耐え切れない者もいたが、彼らは助けようとはしない。ユーザーが死ぬことに何も思っていないようで、死体だけが回収されるのだという。
回収された者達がどうなるのかは、彼らのような末端の兵には知る由もない。ただ、安らかな埋葬や処分をされていないであろうことだけは、何となく皆分かっているのだという。
「何だよそれ・・・。俺はそんな所へは行かないぞ!?」
「お仲間のところへ帰ろうってんだろ?やめておけ、奴らの組織は想像以上に大きく残虐だ。さっきのモンスターだって、WoFにはいなかっただろ?あれだって奴らが何かしたに違いない!その証拠に、奴らがこの下水を通る時は、あんなモンスターは出てこないんだ」
しかし、だからといって白獅らと勝手に別れることも出来ないし、この協力関係は断ち切りたくはない。もし利用されているだけだとしても、少なくとも彼らはシン達WoFのユーザーに危害を加えることはないのだから。
「なら、アンタが俺達と来ないか?彼らに説明すればきっと受け入れて・・・」
シンの申し出の言葉を遮るように、その男は悲しい表情を浮かべて断った。
「無理だよ・・・。私兵になった時点で、俺達の居場所は把握されてる。もし俺がついていけば、アンタとその仲間達の居場所が知られて、ただでは済まないだろう・・・」
「・・・なら、尚更一緒にはいけない」
そういうと、男はシンの腕を掴み命乞いをするかのように訴えかける。
「頼む・・・。アンタは戦えるんだろ?少しでも仲間が必要なんだ。それに・・・」
彼が執拗に勧誘してくるのには、ある理由があった。初めに言った通り、少しでも戦力が必要なのは確かだが、シンのように現実の世界での戦闘を行える者は、そう多くはないのだそうだ。
そもそもキャラクターの反映方法すら知らない者達がほとんどで、何も知らないまま戦地に放り出されても、現代で平和に暮らしてきた彼らに、すぐに対応できるものではない。
それでも徐々に力をつけ、少しづつ同じ境遇にある仲間達を集めていた彼らは、十分な戦力と人数、そして組織の信頼を得たところで脱走を試みようとしているのだと話す。
「今、この東京のセントラルには多くの組織の幹部クラスが集まってる。そいつらに見つかれば、ただでは済まない。アンタが一緒にいた奴・・・。WoFのユーザーなのか?」
「そうじゃないが・・・事情を話せば何か力になれるかも知れない」
「なら今すぐ彼を止めた方がいい。電力の供給を遮断したのは奴らだ。警察や現実に生きる者達の手で復旧させるには、時間がかかる筈だ。それを餌に敵対組織や、邪魔者を炙り出そうとしている・・・。勿論、施設にも幹部の連中がいる。いくらアンタの仲間が強くても、奴らを複数相手にして勝てるほど甘くはないぞ」
罠かも知れないということは、初めから想定されていたことだった。だからこそ隠密で事を成そうとしていた。用心していることには変わりないが、何の因果か相手側の兵から情報を受け取ったシンは、すぐに施設へ向かった朱影へメッセージを送る。
シンの視線がWoFのメニューを開く動きだと察した男は、なるべく面倒ごとが起きる前に引かせたいと焦らせる。
だが、彼らの杞憂も虚しく、既に外では何かしらの動きがあったようだった。
突如聞こえてくる大きな物音。それは地上からのものであるとみて間違いないが、下水道にもハッキリと聞こえてきたということは、朱影が表に出るところを狙われたのではないかと、二人に想像させる。
「今のはッ・・・!?」
「・・・遅かった。いいか?もう一度言う。この下水道も外も、完全に包囲されている。逃げ場なんてない。奴らは電力を復旧させに来た者を、敵対者として始末すると言っていた。もしアンタの仲間を助けにいけば、俺達の身も危ない。だが、俺についてくれば、アンタだけなら救える」
そんな事を言われても、シンにはどうするべきか即断するほどの余裕はなかった。朱影からの返事は返ってこない。そこで考えたのは、一度白獅に現状の報告と、今後の動きについて指示を仰ぐと言うものだった。
実際、この男の話がどこまで信用できるものなのかも分からない。だが、必死に訴えかけてくる様子からは、とても嘘をついているようには思えなかった。
しかし、シンは現実の世界で過去に、信じていた友人から裏切られ孤立し、自堕落の毎日を過ごすようになってしまった。人を信用するということに、臆病になっていた。
「もう一人、連絡を取りたい人物がいる。遠距離になるが、メッセージを送っても?」
「WoFのメッセージ機能なら、奴らに検知されることはないから大丈夫だ。俺達もそれで連絡を取り合っているからな」
WoFのメッセージ機能は、彼らにのみ使える通信機能だが、アサシンギルドはシン達らWoFのユーザーの協力を得て、同じようなシステムを仲間内のみで構築し使用している。
無論、外部からのハッキング対策もされており、暗号を知らなければその一切を盗み見ることは不可能。そのやり取りは、当事者同士にしか権限が与えられず、他者が抜き取ることも難しいのだという。
そしてシンは、それを使い今後どうするべきか。自分と仲間の命運を白獅に委ねる選択を取ったのだ。
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