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絶望の足音
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濡れた衣服が、水を吸った分だけ重さを増し、疲弊した身体に重たくのしかかる。圧倒的な数の暴力の前に、完全に包囲されたその男は危機を脱し、未だ蔓延る魔物達に気付かれぬよう、神経を尖らせ慎重に進んでいた。
視界の端にメッセージのアイコンが光る。歩みを進めながらすぐに内容を確認すると、それは共に戦っていたもう一人の男からだった。どうやら向こう側では、既に戦闘は終わったようだった。
先に目的地へ向かっていると、文章の他に一つの添付ファイルも添えられていた。彼にとってそれが少し意外でもあった。
仲間よりも任務を優先する粗暴な彼が、まさか道の分からないシンの為にマップを送ってくれていようとは、思いもしなかった。
「そうか、本当にやってのけたんだな・・・」
向こうが期待に応えた以上、こちらも無事に辿り着かねばと、心に力が湧いてくるようだった。彼からのメッセージは、自信にも繋がった。
それまであまり友好的とは言えない関係性だったが、先の一件で朱影の信頼を得ることが出来たのかもしれない。そんな思いに僅かな胸の高揚を感じていると、通路の曲がり角から今やすっかり聴き慣れてしまった魔物の足音が聞こえてくる。
「ッ・・・!」
意識を耳に集中させ、聴覚を研ぎ澄ます。音の大きさと遠さで、大方の距離と魔物の大きさを想像する。一体や二体程度なら何とかできる。だが、三体以上となると厳しくなってくる。
今のシンには、複数を一辺に暗殺するスキルは備わっていない。二体なら相手に出来るというのも、両手に持った投擲武器で確実に急所を狙えた場合の話だ。
人間や獣以上に動きの読めない不可思議な魔物に、果たして同じ感覚が通用するかどうかも怪しく、成功率は決して高くはないだろう。
そして聞こえてきた足音は、明らかに三体以上のものだった。この通路からは行けないと、進路を変えようと後ろを振り返ると、何とシンがやって来た道を辿るように、後方からも魔物の足音が聞こえてきたのだ。
「マズイッ・・・!もうスキルに余裕は・・・」
WoFの世界とは違い、スキルを使用することによる肉体への負担に、まだ彼自身の身体が付いていけていなかったのだ。
紙一重のタイミングを見計らって行った影の中に投身するスキルは、肉体的な疲労よりも精神的にかなり重たい技術となっていたのだ。
一歩タイミングを間違えれば死に繋がる、一瞬の隙を突いたスキル。もう一度あの絶妙なタイミングでスキルを使えと言われても、完璧にこなせる自信が今のシンにはなかった。
それに今を凌げても、移動した先に再び魔物が現れたら一巻の終わり。立て続けにスキルを連発することは出来ない。例えスキルが発動したとしても、不完全なものになるのは必至だった。
思わず後退りするシン。最悪なことに、後ろへと退いた足が下水に捨てられた缶を蹴ってしまった。空っぽの缶が転がる音が、下水道に響き渡る。
小型のモンスターは、彼らの住処である下水道以外の匂いによる敏感であるため、嗅覚による感知をしていたと推測していたが、多少の音であればそれにも反応を示すようだった。
耳を澄ましていたシンの聴覚に、僅かに音を聞きつけたのか小型のモンスター達が足を止めたのが分かった。
その音の発信源を探さんと言わんばかりに、魔物達の足音が早まる。ペタペタと這い回る足音は、それまで聞いていた足音とは比べものにならないほど一気に増え、シンの元へ向かってくる。
絶体絶命の窮地に、身体の内側から冷や汗が噴き出すように青ざめるシン。
すると、背にしていた壁が突然動き、何かに引っ張られるようにしてシンの身体は、壁の中へと吸い込まれていった。
全く想像だにしていなかった出来事に、理解が追いつかないシン。自分がどうなったのか、一体何が起きたのかさえ考える暇もなかった。ただ息を殺し、自分の心臓が飛び出さんばかりに鼓動しているのが伝わって来た。
「・・・・・?一体何が・・・」
すると、すぐ側で何者かの気配がした。視界に入った訳ではない。文字通りすぐ側に何か生き物がいるという気配だけがしたのだ。
だが、シンの身体を飛び起こさせるには、十分な出来事だった。即座に立ち上がり武器を構える。
そこには、シンと同じくWoFのキャラクターの姿をした人物が立っていた。その人物は、口に人差し指を当てながらシンに静かにするよう促すと、付いてこいというジェスチャーをして、狭い通路を先に歩いていってしまった。
下水道の通路の他に、壁の向こうにはまるでゲームのダンジョンのような狭い通路に、火の灯してあるランプが掛けられた通路が存在していたのだ。
視界の端にメッセージのアイコンが光る。歩みを進めながらすぐに内容を確認すると、それは共に戦っていたもう一人の男からだった。どうやら向こう側では、既に戦闘は終わったようだった。
先に目的地へ向かっていると、文章の他に一つの添付ファイルも添えられていた。彼にとってそれが少し意外でもあった。
仲間よりも任務を優先する粗暴な彼が、まさか道の分からないシンの為にマップを送ってくれていようとは、思いもしなかった。
「そうか、本当にやってのけたんだな・・・」
向こうが期待に応えた以上、こちらも無事に辿り着かねばと、心に力が湧いてくるようだった。彼からのメッセージは、自信にも繋がった。
それまであまり友好的とは言えない関係性だったが、先の一件で朱影の信頼を得ることが出来たのかもしれない。そんな思いに僅かな胸の高揚を感じていると、通路の曲がり角から今やすっかり聴き慣れてしまった魔物の足音が聞こえてくる。
「ッ・・・!」
意識を耳に集中させ、聴覚を研ぎ澄ます。音の大きさと遠さで、大方の距離と魔物の大きさを想像する。一体や二体程度なら何とかできる。だが、三体以上となると厳しくなってくる。
今のシンには、複数を一辺に暗殺するスキルは備わっていない。二体なら相手に出来るというのも、両手に持った投擲武器で確実に急所を狙えた場合の話だ。
人間や獣以上に動きの読めない不可思議な魔物に、果たして同じ感覚が通用するかどうかも怪しく、成功率は決して高くはないだろう。
そして聞こえてきた足音は、明らかに三体以上のものだった。この通路からは行けないと、進路を変えようと後ろを振り返ると、何とシンがやって来た道を辿るように、後方からも魔物の足音が聞こえてきたのだ。
「マズイッ・・・!もうスキルに余裕は・・・」
WoFの世界とは違い、スキルを使用することによる肉体への負担に、まだ彼自身の身体が付いていけていなかったのだ。
紙一重のタイミングを見計らって行った影の中に投身するスキルは、肉体的な疲労よりも精神的にかなり重たい技術となっていたのだ。
一歩タイミングを間違えれば死に繋がる、一瞬の隙を突いたスキル。もう一度あの絶妙なタイミングでスキルを使えと言われても、完璧にこなせる自信が今のシンにはなかった。
それに今を凌げても、移動した先に再び魔物が現れたら一巻の終わり。立て続けにスキルを連発することは出来ない。例えスキルが発動したとしても、不完全なものになるのは必至だった。
思わず後退りするシン。最悪なことに、後ろへと退いた足が下水に捨てられた缶を蹴ってしまった。空っぽの缶が転がる音が、下水道に響き渡る。
小型のモンスターは、彼らの住処である下水道以外の匂いによる敏感であるため、嗅覚による感知をしていたと推測していたが、多少の音であればそれにも反応を示すようだった。
耳を澄ましていたシンの聴覚に、僅かに音を聞きつけたのか小型のモンスター達が足を止めたのが分かった。
その音の発信源を探さんと言わんばかりに、魔物達の足音が早まる。ペタペタと這い回る足音は、それまで聞いていた足音とは比べものにならないほど一気に増え、シンの元へ向かってくる。
絶体絶命の窮地に、身体の内側から冷や汗が噴き出すように青ざめるシン。
すると、背にしていた壁が突然動き、何かに引っ張られるようにしてシンの身体は、壁の中へと吸い込まれていった。
全く想像だにしていなかった出来事に、理解が追いつかないシン。自分がどうなったのか、一体何が起きたのかさえ考える暇もなかった。ただ息を殺し、自分の心臓が飛び出さんばかりに鼓動しているのが伝わって来た。
「・・・・・?一体何が・・・」
すると、すぐ側で何者かの気配がした。視界に入った訳ではない。文字通りすぐ側に何か生き物がいるという気配だけがしたのだ。
だが、シンの身体を飛び起こさせるには、十分な出来事だった。即座に立ち上がり武器を構える。
そこには、シンと同じくWoFのキャラクターの姿をした人物が立っていた。その人物は、口に人差し指を当てながらシンに静かにするよう促すと、付いてこいというジェスチャーをして、狭い通路を先に歩いていってしまった。
下水道の通路の他に、壁の向こうにはまるでゲームのダンジョンのような狭い通路に、火の灯してあるランプが掛けられた通路が存在していたのだ。
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