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怪我人を連れたまま潜入することは出来ない。誰が瑜那と共に残るかという話になると、一番最初に声を上げたのは予想通り宵命だった。
当然だろう。いつも一緒だった彼が残るのは道理だ。だが、潜入には彼の透過の能力が必要となる。
かと言って、シンを残す訳にもいかず、シンの立ち位置は潜入する側で決まっていた。後は朱影が残るか宵命が残るかの議論となった。
「移動にはお前の力が必要だ。施設の守りは堅い。何の対策もなしに侵入すんのは不可能だぞ?」
「分かってるっスよ!ただ・・・瑜那を残していくのは・・・」
危険な場所に瑜那を残していくことに苦悩する宵命に、朱影は息が掛かるほど近づき見下すように鋭い視線を送る。
「任務が優先だ。ガキの我儘に付き合ってる時間はねぇ」
いつにもなく低い声で威圧するように、少年へ言葉を掛ける。しかし、少年も黙って従うほど物分かりのいい返しはしなかった。あんな言い方をされれば誰だってそうなるだろう。
彼にとってかけがえのない存在を邪険に扱われたのだ。感情的になり易い年頃である彼が反抗的な態度に出るのは必然だった。
「何だよ・・・その言い方は!まるで足手まといみたいに言いやがってッ・・・!」
「だから、そう言ったんだ。肝心な時に動けねぇんじゃ、仕方がねぇだろ。何も全員で行くこたぁねぇんだ。俺かこの新入りを残して行きゃぁいいだろ」
今にも手が出そうな雰囲気を漂わせる二人。これから息のあった連携で潜入しなければならないのに、チームの雰囲気は最悪だった。
だがそこで、シンはある提案をする。それは高速道路で、瑜那を救出して見せたように、移動するスキルはシンにもあるという事を。しかし、以前にも説明した通り、そのスキルは初見のところでは期待以上の能力を発揮できない。
視界にある景色や、一度見た場所などにある影に移動できるもので、壁の向こう側にある見たことのない通路や部屋には移動出来ないのだ。
しかし、シンには提案するだけの考えがあった。
「なっなぁ!ちょっといいか?」
「・・・何だよ。こっちにとっちゃ、お前もお荷物には変わりねぇんだぜ?新米さんよぉ・・」
いちいち角の立つ言い方をしてくる朱影の相手などしていられないと、感情を無にして話を続けるシン。彼の提案した方法とは、瑜那や宵命らとは違い一手間は掛かるものだが、それでもその方法なら、宵命の瑜那と一緒にいたいという願いを叶え、任務を果たすという白獅らから託された命令を実行することができる。
「ほう・・・。それが本当に可能なら宵命は必要ねぇな」
「そっそうだよ!旦那なら出来るじゃんか!俺が行く必要はねぇよ」
どうやら言い争いは鎮められたようだ。だがシンの持ち掛けた提案には、危険が伴った。それでもそれ以外に、全員が納得できる方法がないのなら、それを実行するしかないと、彼らは動き出した。
瑜那の乗る車へ向かう宵命を尻目に、朱影は車のサイドミラーをへし折ると、それをシンに投げてよこした。危うく落としそうになりながらも、渡されたサイドミラーを手に、シンは朱影の後を追った。
車で通ってきた道よりも更に入り組んだ路地を進むと、朱影は突然足を止めて腰を下ろした。何をしているのかと、そっと朱影の前を覗くように回り込んだシン。
すると朱影は、マンホールの蓋を開け、地下に降りる準備をしていたのだ。地上を通るのは、追手の目や警備の包囲網を掻い潜る為なのだろうと、シンは何も言わなかったが少し嫌そうな表情をしながら、渋々梯子を降りていく。
梯子に靴が当たる音が、規則正しく地下に響き渡る。下まで降りてくると、朱影が小さなライトを片手に、親指で進行方向をシンに伝えている。
頼りない光を辿り、二人は薄暗い地下水路を歩いていく。
当然だろう。いつも一緒だった彼が残るのは道理だ。だが、潜入には彼の透過の能力が必要となる。
かと言って、シンを残す訳にもいかず、シンの立ち位置は潜入する側で決まっていた。後は朱影が残るか宵命が残るかの議論となった。
「移動にはお前の力が必要だ。施設の守りは堅い。何の対策もなしに侵入すんのは不可能だぞ?」
「分かってるっスよ!ただ・・・瑜那を残していくのは・・・」
危険な場所に瑜那を残していくことに苦悩する宵命に、朱影は息が掛かるほど近づき見下すように鋭い視線を送る。
「任務が優先だ。ガキの我儘に付き合ってる時間はねぇ」
いつにもなく低い声で威圧するように、少年へ言葉を掛ける。しかし、少年も黙って従うほど物分かりのいい返しはしなかった。あんな言い方をされれば誰だってそうなるだろう。
彼にとってかけがえのない存在を邪険に扱われたのだ。感情的になり易い年頃である彼が反抗的な態度に出るのは必然だった。
「何だよ・・・その言い方は!まるで足手まといみたいに言いやがってッ・・・!」
「だから、そう言ったんだ。肝心な時に動けねぇんじゃ、仕方がねぇだろ。何も全員で行くこたぁねぇんだ。俺かこの新入りを残して行きゃぁいいだろ」
今にも手が出そうな雰囲気を漂わせる二人。これから息のあった連携で潜入しなければならないのに、チームの雰囲気は最悪だった。
だがそこで、シンはある提案をする。それは高速道路で、瑜那を救出して見せたように、移動するスキルはシンにもあるという事を。しかし、以前にも説明した通り、そのスキルは初見のところでは期待以上の能力を発揮できない。
視界にある景色や、一度見た場所などにある影に移動できるもので、壁の向こう側にある見たことのない通路や部屋には移動出来ないのだ。
しかし、シンには提案するだけの考えがあった。
「なっなぁ!ちょっといいか?」
「・・・何だよ。こっちにとっちゃ、お前もお荷物には変わりねぇんだぜ?新米さんよぉ・・」
いちいち角の立つ言い方をしてくる朱影の相手などしていられないと、感情を無にして話を続けるシン。彼の提案した方法とは、瑜那や宵命らとは違い一手間は掛かるものだが、それでもその方法なら、宵命の瑜那と一緒にいたいという願いを叶え、任務を果たすという白獅らから託された命令を実行することができる。
「ほう・・・。それが本当に可能なら宵命は必要ねぇな」
「そっそうだよ!旦那なら出来るじゃんか!俺が行く必要はねぇよ」
どうやら言い争いは鎮められたようだ。だがシンの持ち掛けた提案には、危険が伴った。それでもそれ以外に、全員が納得できる方法がないのなら、それを実行するしかないと、彼らは動き出した。
瑜那の乗る車へ向かう宵命を尻目に、朱影は車のサイドミラーをへし折ると、それをシンに投げてよこした。危うく落としそうになりながらも、渡されたサイドミラーを手に、シンは朱影の後を追った。
車で通ってきた道よりも更に入り組んだ路地を進むと、朱影は突然足を止めて腰を下ろした。何をしているのかと、そっと朱影の前を覗くように回り込んだシン。
すると朱影は、マンホールの蓋を開け、地下に降りる準備をしていたのだ。地上を通るのは、追手の目や警備の包囲網を掻い潜る為なのだろうと、シンは何も言わなかったが少し嫌そうな表情をしながら、渋々梯子を降りていく。
梯子に靴が当たる音が、規則正しく地下に響き渡る。下まで降りてくると、朱影が小さなライトを片手に、親指で進行方向をシンに伝えている。
頼りない光を辿り、二人は薄暗い地下水路を歩いていく。
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