694 / 1,646
貧富の差
しおりを挟む
飲み込みの早い瑜那がみるみる知識をつけ、全く環境に慣れていなくてもここまでのハッカーに育ったところを見ると、余程彼に才能があったのか、その先生と呼ばれる人物が教え方が上手かったのだろう。
「漸く都会らしい風景になってきたな」
高速を降り、一般道を走っていた彼らの車は、次第に民家の並ぶ光景から天に向けて大きく聳え立つビル群が増えて来た。
それぞれの建物に備えられている予備電源だろうか、これまでに比べ周囲の明るさも一目で違いが分かるほど変わってきている。
技術力の発展の差は、こういった面でも窺うことが出来る。技術が発展しても、その国の全ての領土で水準が上がる訳ではない。
一部の環境が整った地域が群を抜いて成長していき、それについていけない地域はまるでゴーストタウンのようになってしまうことも少なくなかった。
実際生活も変わり、より便利で快適な暮らしのできる地域に人が集まり、発展の遅れる地域からは若い世代が軒並みいなくなるという現象が起きた。
技術だけ流用するというケースもあったが、それでもそれを有効活用できる施設や環境が整っている都会での生活は、他とは比べ物にならなかったのだ。
そして何より、これは若い世代の者達だけの話ではなく、歳を重ねた者ほど重要な問題になっていった。
肉体の老化は全ての生き物に訪れる課題だ。どんなに健康に気を遣っていようと、どんなに運動に力を入れていようと、身体の衰退は誰にも止めることはできない。
近年、開発されてきた人間の動きをサポートする器具。所謂パワードスーツは、身体の衰えを補うだけではなく、人々の行動範囲や仕事内容を大きく変えた。
しかし、それらは全ての人間に与えられるものではなかった。一部の権力者や有権者の周りにしか行き渡らず、人々の生活の格差はより一層加速していったのだ。
不満は人々を非行に向かわせた。その代表的なものが、機械化が進む社会において大きな被害をもたらすハッキングだった。
「ここは電力が切れていないのか?」
「そうではありません。恐らくそれぞれの建物に備わっている予備電源でしょう。大元が断ち切られても、少しの間はそれで普段と変わらない生活が可能です」
都会の家には、それが標準で備わっているものらしい。慎は知らずとも、彼の住んでいたところにも、停電や予期せぬ事態に備え、予備電源は備わっている。
東京のセントラルと呼ばれる地域では、一瞬真っ暗な街並みとなったが直ぐに明かりが戻った。しかしそれも、大元の電源が復旧するまでの間のものでしかない。
それでも、復旧作業を見込んだ電力が備わっており、暫くの間は贅沢の限りを尽くさぬ限り、普段通りの生活が送れることだろう。
彼らの車がビル群を進むにつれ、空には幾つもの警備ドローンが上空を巡回していた。人々の安全を守るという名目だが、その実事件に便乗した犯罪や非行を抑制し捕らえる目的もある。
「騒がしいな・・・」
「原因自体は恐らく判明しているでしょう。ただ、復旧に時間がかかっているということは、原因が分からないのか、或いは・・・」
「或いは・・・?」
「犯人を誘っているのやもしれません。何故これほど大規模な停電を起こさせる必要があったのか。ただの悪戯にしては、手が凝っているようには思いませんか?」
瑜那は少し考えすぎではないのか。普段なら慎もそう思っただろう。だが、今こうして非現実的なことに巻き込まれている上に、何者かに命を狙われた身としては、これがただの悪戯でないことは明らかだった。
「これに乗じて、何かしようとしている。だろ?」
「えぇ。そして警察側は復旧に尽力し、あのエージェントのようなサイバー犯罪を専門とする者達は、この機を利用し何かをしようとしている者達の動きに耳を澄ませている」
「ハッカー達にとってこれほど美味しい状況はねぇしな!」
都市全体の電力を落とす程の被害。それは国や警察組織が保有する強力なシステムがダウンしていること。要するに、普段よりも守りが薄く、ハッキングしやすい状況下にあるということだ。
「これに乗じて騒ぎが起こる・・・?或いはもう起こっているのか?」
「恐らくはもう起こっているでしょうね・・・。彼らには視覚化されていないでしょうが、我々にはハッキリと見える筈です。それに注意しなければならないのは、我々を追ってくる“敵“だけではありません。サイバーエージェントなるものにも気をつけて下さい。あの“出雲“という男・・・。我々のような見えざるものを追っていると言ってましたから・・・」
出雲明庵の所有するドローンは、アサシンギルドやWoFのモンスターなどの異世界のものの存在を検知する能力が備わっている。
今のシンはあの時とは違い、異物側の存在。明庵の目に映ることはなくとも、彼のドローンには検知されてしまう。
「だが利点もある。ハッカーの奴らが動き出せば、俺達も姿を眩ませられる筈だぜ」
ハッカー集団が蔓延る昨今。彼らがこの機に乗じ暴れてくれれば、警察組織だけでなく、シン達の命を狙う者達の注意を逸らすことにも繋がる。
「漸く都会らしい風景になってきたな」
高速を降り、一般道を走っていた彼らの車は、次第に民家の並ぶ光景から天に向けて大きく聳え立つビル群が増えて来た。
それぞれの建物に備えられている予備電源だろうか、これまでに比べ周囲の明るさも一目で違いが分かるほど変わってきている。
技術力の発展の差は、こういった面でも窺うことが出来る。技術が発展しても、その国の全ての領土で水準が上がる訳ではない。
一部の環境が整った地域が群を抜いて成長していき、それについていけない地域はまるでゴーストタウンのようになってしまうことも少なくなかった。
実際生活も変わり、より便利で快適な暮らしのできる地域に人が集まり、発展の遅れる地域からは若い世代が軒並みいなくなるという現象が起きた。
技術だけ流用するというケースもあったが、それでもそれを有効活用できる施設や環境が整っている都会での生活は、他とは比べ物にならなかったのだ。
そして何より、これは若い世代の者達だけの話ではなく、歳を重ねた者ほど重要な問題になっていった。
肉体の老化は全ての生き物に訪れる課題だ。どんなに健康に気を遣っていようと、どんなに運動に力を入れていようと、身体の衰退は誰にも止めることはできない。
近年、開発されてきた人間の動きをサポートする器具。所謂パワードスーツは、身体の衰えを補うだけではなく、人々の行動範囲や仕事内容を大きく変えた。
しかし、それらは全ての人間に与えられるものではなかった。一部の権力者や有権者の周りにしか行き渡らず、人々の生活の格差はより一層加速していったのだ。
不満は人々を非行に向かわせた。その代表的なものが、機械化が進む社会において大きな被害をもたらすハッキングだった。
「ここは電力が切れていないのか?」
「そうではありません。恐らくそれぞれの建物に備わっている予備電源でしょう。大元が断ち切られても、少しの間はそれで普段と変わらない生活が可能です」
都会の家には、それが標準で備わっているものらしい。慎は知らずとも、彼の住んでいたところにも、停電や予期せぬ事態に備え、予備電源は備わっている。
東京のセントラルと呼ばれる地域では、一瞬真っ暗な街並みとなったが直ぐに明かりが戻った。しかしそれも、大元の電源が復旧するまでの間のものでしかない。
それでも、復旧作業を見込んだ電力が備わっており、暫くの間は贅沢の限りを尽くさぬ限り、普段通りの生活が送れることだろう。
彼らの車がビル群を進むにつれ、空には幾つもの警備ドローンが上空を巡回していた。人々の安全を守るという名目だが、その実事件に便乗した犯罪や非行を抑制し捕らえる目的もある。
「騒がしいな・・・」
「原因自体は恐らく判明しているでしょう。ただ、復旧に時間がかかっているということは、原因が分からないのか、或いは・・・」
「或いは・・・?」
「犯人を誘っているのやもしれません。何故これほど大規模な停電を起こさせる必要があったのか。ただの悪戯にしては、手が凝っているようには思いませんか?」
瑜那は少し考えすぎではないのか。普段なら慎もそう思っただろう。だが、今こうして非現実的なことに巻き込まれている上に、何者かに命を狙われた身としては、これがただの悪戯でないことは明らかだった。
「これに乗じて、何かしようとしている。だろ?」
「えぇ。そして警察側は復旧に尽力し、あのエージェントのようなサイバー犯罪を専門とする者達は、この機を利用し何かをしようとしている者達の動きに耳を澄ませている」
「ハッカー達にとってこれほど美味しい状況はねぇしな!」
都市全体の電力を落とす程の被害。それは国や警察組織が保有する強力なシステムがダウンしていること。要するに、普段よりも守りが薄く、ハッキングしやすい状況下にあるということだ。
「これに乗じて騒ぎが起こる・・・?或いはもう起こっているのか?」
「恐らくはもう起こっているでしょうね・・・。彼らには視覚化されていないでしょうが、我々にはハッキリと見える筈です。それに注意しなければならないのは、我々を追ってくる“敵“だけではありません。サイバーエージェントなるものにも気をつけて下さい。あの“出雲“という男・・・。我々のような見えざるものを追っていると言ってましたから・・・」
出雲明庵の所有するドローンは、アサシンギルドやWoFのモンスターなどの異世界のものの存在を検知する能力が備わっている。
今のシンはあの時とは違い、異物側の存在。明庵の目に映ることはなくとも、彼のドローンには検知されてしまう。
「だが利点もある。ハッカーの奴らが動き出せば、俺達も姿を眩ませられる筈だぜ」
ハッカー集団が蔓延る昨今。彼らがこの機に乗じ暴れてくれれば、警察組織だけでなく、シン達の命を狙う者達の注意を逸らすことにも繋がる。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~
神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!!
皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました!
ありがとうございます!
VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。
山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・?
それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい!
毎週土曜日更新(偶に休み)
【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)
みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。
ヒロインの意地悪な姉役だったわ。
でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。
ヒロインの邪魔をせず、
とっとと舞台から退場……の筈だったのに……
なかなか家から離れられないし、
せっかくのチートを使いたいのに、
使う暇も無い。
これどうしたらいいのかしら?
Sランク冒険者の受付嬢
おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。
だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。
そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。
「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」
その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。
これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。
※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。
※前のやつの改訂版です
※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。
練習船で異世界に来ちゃったんだが?! ~異世界海洋探訪記~
さみぃぐらぁど
ファンタジー
航海訓練所の練習船「海鵜丸」はハワイへ向けた長期練習航海中、突然嵐に巻き込まれ、落雷を受ける。
衝撃に気を失った主人公たち当直実習生。彼らが目を覚まして目撃したものは、自分たち以外教官も実習生も居ない船、無線も電子海図も繋がらない海、そして大洋を往く見たこともない戦列艦の艦隊だった。
そして実習生たちは、自分たちがどこか地球とは違う星_異世界とでも呼ぶべき空間にやって来たことを悟る。
燃料も食料も補給の目途が立たない異世界。
果たして彼らは、自分たちの力で、船とともに現代日本の海へ帰れるのか⁈
※この作品は「カクヨム」においても投稿しています。https://kakuyomu.jp/works/16818023213965695770
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる