World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
687 / 1,646

起死回生の一手

しおりを挟む
 明かりの途絶えた暗闇の道路に、点々と燃え上がる炎が周囲を照らす。その先に小さな光で暗闇の中を照らし、道を切り開く一台の車があった。

 それは宛ら、狩人に追われる小動物のようにか弱く小さい。その後ろからは、黒く硬い外殻に覆われた四足獣が数匹、獲物の後を追いかけていた。

 アスファルトを擦るタイヤの音と、鋼が地を駆ける規則正しい音が響き渡り、バチバチと燃え上がる炎が彼らの姿を見送る。

 一定のリズムを刻む時の流れは、一人の男にだけではなく他の者達の耳にも届くほどに近づいていた。即ち、爆弾の位置が近いことを示している。と、同時に彼らの命運を分ける瞬間が間近に迫っていうことを知らせているようでもあった。

 二人の少年が車の窓から身を乗り出し、車体の上に乗り上がる。そして息を合わせるように頷いた二人は、屋根の縁を手で掴み足に力を込めて後ろに身体を傾け、その時を待った。

 間も無くして、彼らの走る大きな道は一瞬にして大きな爆煙に包まれる。

 爆発の衝撃に思わず身をかがめる慎。目を瞑り、頭を下げる直前に見た光景には、煙と炎の中へ突っ込んでいく中に、瓦礫がこちらへ飛んでくるのが一瞬だけ映っていた。

 フロントガラスを突き破るのではないかという程の勢いで飛んで来た瓦礫は、車体に弾かれ後方へと流れるように飛んでいった。技術が進化したのは、何もプログラムやAIだけではない。車の強度も、見た目以上に頑丈になっていた。

 一見では分からない技術の集大成が、彼の身を守ってくれたのだ。だが、車体の上の二人は違う。中にいる慎には、二人の様子を知る術はない。それどころか、自分の身の安全を考えることで精一杯だった。

 道の先は黒煙で見えないが、間違いなく崩落している。瑜那はそのままアクセルを踏み続け、車を走らせろと言っていたが、とても正気とは思えない。このままでは間違いなく、底なしの地へと真っ逆さまになってしまう。

 「ダメだッ!落ちるッ・・!!」

 脳裏に過ったのは、少年が車内で見せた最後の表情だった。自身に満ち溢れたものではなかったが、不思議と信じようと思えるような微笑みに見えた。

 どの道車を止めたところで、慎に追手を振り切る力はない。中途半端にブレーキをかければ、それこそ落下の運命に身を投じるのは必至。

 ならば少なくとも、同じアサシンの仲間を信じて身を滅ぼした方が後味が良さそうだ。後はどうにでもなれと、右足を置いたアクセルを目を瞑りながら勢いよく踏み抜く。

 車は飛んでくる瓦礫を跳ね除けながら黒煙の中を進み、そして遂にタイヤは道路から離れ宙を飛んだ。車内では慎の身体がシートベルトに抑えられるくらいに浮いていた。

 間も無くして車の上から、何かが飛び出していくような音と衝撃があった。少年達が動き出したのだろう。だが、こんなに視界が塞がれた中で、彼らの狙っている作戦とやらが上手くいくのだろうか。

 慎が覚悟を決め、瑜那に言われた通りアクセルを踏み抜き加速した頃、外に出た少年達は黒煙の中で移動すべきポイントを見据えていた。

 「どうだ?瑜那。繋げそうなところはあったか!?」
 「大丈夫、大方予想してた通りだね!爆弾は柱部分に取り付けられてたみたいだ。足場はある。それに車体の邪魔になるような物もない」

 それを聞いた宵命は口角を上げて笑みを浮かべると、車体に両手をつく。すると彼の手から黒い影のようなものが広がり始めた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

処理中です...