683 / 1,646
現実と虚
しおりを挟む
人の生活を豊かにするものは、知らず知らずの内に人として大切なものを失わせていく。光は人から視力を、音は聴力を、強い刺激や匂いは触覚や嗅覚を。
生活水準の上昇は、肉体や身体能力を劣化させる結果となっていた。それに伴い、機械化による作業効率と絶対的な能力への信頼は、人から危機感を失わせていた。
瑜那の指摘で、この時深くは考えなくとも言わんとしていることは伝わった。ハッキングを試みたということから、後を追ってくる機械の獣は外部からのアクセスや、またアクセスキーを持つ者以外からの指令を受け付けないようプログラムされているのだろう。
AI技術の発展のおかげで、鋼鉄の肉体を持った命令に忠実に動くモンスターと言っても過言ではない生物が誕生した訳だ。
銃弾や刃物、生半可な力では傷一つつけられない鎧を纏っている分、生身の生き物より数段、厄介な存在と化している。
瑜那の指示に従い、機械獣の攻撃を避けていると、どこからかサイレンのような警告音が薄らと聞こえてきた。
「何の音だ・・・?」
耳障りな音で慎が咄嗟に連想したのは、警察の鳴らすサイレンの音だった。道路の下の方を見てみると、赤い光が木々の中から漏れ出しているのが確認できる。
そして、慎の予想は大方当たっていた。
騒ぎを聞きつけたのか、警察か或いは出雲の所属している組織の手のものか。無人偵察機のドローンが炎上する高速道路へとやって来ていた。
「警察の警備ドローンだ。追手の奴らの結界から離れたことで、この世界の全く関係のねぇ人間達にも確認できるようになったんだ」
何も仕組みについて理解していない慎の為に、朱影が大方の事情を説明してくれた。だが彼の言葉は、到底慎の理解が追いつける範疇をとっくにオーバーしていた。
あれ程大きく燃え上がり黒煙を立ち上らせているのに、これが一般の人々には見えていないとはどういうことなのか。
それに、突然見えるようになったとはいえ、その原因がなければこんな大惨事にはなっていないと疑問視されるだろう。火の無いところに煙は立たないとはまさにこのことだ。
「ちょっと待ってくれ!確認できるようになったって・・・。それじゃぁあそこには、俺達の見ているあの機械の獣が横たわっているのか?」
「俺達やモンスター共のように、本来この世界にいる筈のない連中の起こす事柄は、当人達がその場を離れることで辻褄が合うように都合よく結ばれるようでな。恐らく今あの現場には、タンクローリーのような大型車両と複数の乗用車が丸焦げになってるだろうよ」
「じゃぁ、何の関係もない人が死んだっていうのか!?」
「おいおい、人聞きの悪りぃこと言うんじゃねぇよ!成る可くして起こった“事故“や“災害“として処理されてんだよ。周りを見てみろ。高速道路なのに一般車両が見当たらねぇだろ?つまり俺達の戦いで一般の奴らが死ぬことはねぇが、何かしらの“現象“としてその場に影響が及ぶ。それだけだ」
慎の理解が追いつかないのは、ここでもだった。つまり、追手の機械獣との戦闘で高速道路が崩壊するようなことが起きれば、現実にも高速道路が崩壊するということ。
しかし、その原因は彼らの戦闘によるものではなく、事故や災害として片付けられるという、俄かに信じ難い仕組みになっているようだ。
「それだけって・・・」
「けど、警備ドローンが来てくれたのは好都合です!あれならハッキングが可能なので、僕らの助けになってくれますからね。宵命、ちょっとの間任せるよ?」
「おう!任せとけ!」
瑜那は窓の外へ視線を向けると、顔の前で一度手を横にスライドさせた。するとそこにモニターが現れ、何やら仕切りに指を動かし入力をしているような動作を取っていた。
「運転手の旦那、少しの間選手交代だ。ここからは俺がアシストするんで、よろしくっス!」
「あっあぁ、よろしく」
瑜那に代わり宵命の指示の元、機械獣の連携の取れた攻撃を辛うじて躱していく慎。その間にも、朱影は少しでも数を減らす為に窓から槍の投擲を行う。
車体が大きく左右に揺さぶられているからだろうか、なかなか攻撃を命ちゅさせることが出来なかったが、それでも相手の手数を減らす役割を担っていた。
「お待たせしました!ドローンによる援護射撃を行います。跳弾の恐れがあるので、遠くの標的から攻めさせますね」
ハッキングを終えた瑜那が、元の役割へ戻る。元々直感や本能で戦うタイプの宵命の指示よりも、相手を分析しスキャンするタイプの瑜那の方が安定する。
朱影の攻撃の命中制度を上げる意味でも、瑜那のアシストは必要不可欠だった。
安定した回避と操縦に戻ったが、一向に追手の数が減らない。警備ドローンによる援護射撃は、追跡の遅延にはなったものの、機械獣の数を減らせるほどの武装ではなかったのだ。
あくまで対人用の武装であり、装甲車や武装した兵器やモンスターに対する迎撃には向いていなかったようだ。
「しゃぁねぇ・・・俺も出るか」
小さく呟いた朱影が、再び窓から身を乗り出す。
「もう一度さっきのスキルを使うのか?」
「いいや。まだあの規模の攻撃は出来ねぇ・・・。だからその間、直接狙ってやろうってんだ」
そう言うと彼は、窓から身を乗り出し道路へ飛び降りてしまった。この速度で飛び降りれば、いくらステータスの補正を受けているとはいえ、無事では済まないだろう。
しかし、焦る慎の表情は一変して驚きのものへと変わる。なんと、飛び降りたはずの朱影は何もないところで、まるで何かに掴まっているかのように浮きながら並走しているのだ。
生活水準の上昇は、肉体や身体能力を劣化させる結果となっていた。それに伴い、機械化による作業効率と絶対的な能力への信頼は、人から危機感を失わせていた。
瑜那の指摘で、この時深くは考えなくとも言わんとしていることは伝わった。ハッキングを試みたということから、後を追ってくる機械の獣は外部からのアクセスや、またアクセスキーを持つ者以外からの指令を受け付けないようプログラムされているのだろう。
AI技術の発展のおかげで、鋼鉄の肉体を持った命令に忠実に動くモンスターと言っても過言ではない生物が誕生した訳だ。
銃弾や刃物、生半可な力では傷一つつけられない鎧を纏っている分、生身の生き物より数段、厄介な存在と化している。
瑜那の指示に従い、機械獣の攻撃を避けていると、どこからかサイレンのような警告音が薄らと聞こえてきた。
「何の音だ・・・?」
耳障りな音で慎が咄嗟に連想したのは、警察の鳴らすサイレンの音だった。道路の下の方を見てみると、赤い光が木々の中から漏れ出しているのが確認できる。
そして、慎の予想は大方当たっていた。
騒ぎを聞きつけたのか、警察か或いは出雲の所属している組織の手のものか。無人偵察機のドローンが炎上する高速道路へとやって来ていた。
「警察の警備ドローンだ。追手の奴らの結界から離れたことで、この世界の全く関係のねぇ人間達にも確認できるようになったんだ」
何も仕組みについて理解していない慎の為に、朱影が大方の事情を説明してくれた。だが彼の言葉は、到底慎の理解が追いつける範疇をとっくにオーバーしていた。
あれ程大きく燃え上がり黒煙を立ち上らせているのに、これが一般の人々には見えていないとはどういうことなのか。
それに、突然見えるようになったとはいえ、その原因がなければこんな大惨事にはなっていないと疑問視されるだろう。火の無いところに煙は立たないとはまさにこのことだ。
「ちょっと待ってくれ!確認できるようになったって・・・。それじゃぁあそこには、俺達の見ているあの機械の獣が横たわっているのか?」
「俺達やモンスター共のように、本来この世界にいる筈のない連中の起こす事柄は、当人達がその場を離れることで辻褄が合うように都合よく結ばれるようでな。恐らく今あの現場には、タンクローリーのような大型車両と複数の乗用車が丸焦げになってるだろうよ」
「じゃぁ、何の関係もない人が死んだっていうのか!?」
「おいおい、人聞きの悪りぃこと言うんじゃねぇよ!成る可くして起こった“事故“や“災害“として処理されてんだよ。周りを見てみろ。高速道路なのに一般車両が見当たらねぇだろ?つまり俺達の戦いで一般の奴らが死ぬことはねぇが、何かしらの“現象“としてその場に影響が及ぶ。それだけだ」
慎の理解が追いつかないのは、ここでもだった。つまり、追手の機械獣との戦闘で高速道路が崩壊するようなことが起きれば、現実にも高速道路が崩壊するということ。
しかし、その原因は彼らの戦闘によるものではなく、事故や災害として片付けられるという、俄かに信じ難い仕組みになっているようだ。
「それだけって・・・」
「けど、警備ドローンが来てくれたのは好都合です!あれならハッキングが可能なので、僕らの助けになってくれますからね。宵命、ちょっとの間任せるよ?」
「おう!任せとけ!」
瑜那は窓の外へ視線を向けると、顔の前で一度手を横にスライドさせた。するとそこにモニターが現れ、何やら仕切りに指を動かし入力をしているような動作を取っていた。
「運転手の旦那、少しの間選手交代だ。ここからは俺がアシストするんで、よろしくっス!」
「あっあぁ、よろしく」
瑜那に代わり宵命の指示の元、機械獣の連携の取れた攻撃を辛うじて躱していく慎。その間にも、朱影は少しでも数を減らす為に窓から槍の投擲を行う。
車体が大きく左右に揺さぶられているからだろうか、なかなか攻撃を命ちゅさせることが出来なかったが、それでも相手の手数を減らす役割を担っていた。
「お待たせしました!ドローンによる援護射撃を行います。跳弾の恐れがあるので、遠くの標的から攻めさせますね」
ハッキングを終えた瑜那が、元の役割へ戻る。元々直感や本能で戦うタイプの宵命の指示よりも、相手を分析しスキャンするタイプの瑜那の方が安定する。
朱影の攻撃の命中制度を上げる意味でも、瑜那のアシストは必要不可欠だった。
安定した回避と操縦に戻ったが、一向に追手の数が減らない。警備ドローンによる援護射撃は、追跡の遅延にはなったものの、機械獣の数を減らせるほどの武装ではなかったのだ。
あくまで対人用の武装であり、装甲車や武装した兵器やモンスターに対する迎撃には向いていなかったようだ。
「しゃぁねぇ・・・俺も出るか」
小さく呟いた朱影が、再び窓から身を乗り出す。
「もう一度さっきのスキルを使うのか?」
「いいや。まだあの規模の攻撃は出来ねぇ・・・。だからその間、直接狙ってやろうってんだ」
そう言うと彼は、窓から身を乗り出し道路へ飛び降りてしまった。この速度で飛び降りれば、いくらステータスの補正を受けているとはいえ、無事では済まないだろう。
しかし、焦る慎の表情は一変して驚きのものへと変わる。なんと、飛び降りたはずの朱影は何もないところで、まるで何かに掴まっているかのように浮きながら並走しているのだ。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる