World of Fantasia

神代 コウ

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進化を見据えて

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 追跡者達の足が早まる。まるで獲物を追い詰めるハンターのように、金属がアスファルトの上を駆ける音が複数近づいてくる。

 普段であれば恐怖を抱くものではないのだろうが、その眼光が捉えているものが自分達の命だと分かっていると、心臓を掴まれているかのような感覚に襲われる。

 だんだん音が近づき、最も近いものはすぐ背後にまで迫っていた。

 瑜那は指示にしたがってハンドルを切ればいいと言っていたが、本当にそれだけで大丈夫なのか。慎と彼らとの間にはまだ、それほどの信頼関係はなく身を委ねられるほどの信頼もない。

 「来ます!慎さん、準備はいいですか?」

 「あっ・・・あぁ!」

 何故相手の仕掛けるタイミングが分かるのか、率直な疑問だった。これも戦闘経験の成せる技なのだろうか。だが、全く分からない慎には瑜那の言葉に従うほか、選択肢がなかった。

 すると間も無くして、瑜那の言ったように相手の一台が動きを見せた。一台だけ大きく足音のテンポが変わったことが、慎にも分かった。音は右側の後方から聞こえてくる。

 「後方右側から、今の僕達のいる位置へ来ます。合図したらハンドルを右へ」

 「分かったッ・・・!」

 ハンドルを握る手に、一層の力と汗が滲み出る。呼吸を整え必死に心臓の鼓動を落ち着かせようとするが、その時は慎を待ってはくれなかった。

 突然発せられた瑜那の合図で、彼の身体は電流が走ったかのように飛び上がるようだった。

 「右ですッ!」

 「うッ・・・!」

 慎は言われた通りに、勢いよく右へハンドルを切る。車体は大きく揺れ、身体が左に引っ張られるようだった。しかし、ハンドルを切ることだけに集中していた為、その後どのようなことになるのか考えていなかった。

 このままでは外壁に正面からぶつかってしまう。慌ててハンドルを戻そうとするが、高速を走るスピードでのハンドル操作は、通常の道路での比ではない。

 もう一度ハンドルを逆側へ切ろうとすれば、車はスリップしてしまうだろ。しかし、瑜那は慎がハンドルを逆側へ切るであろうことを読んでいた。

 「宵命ッ!」
 「あいよッ!」

 慎が知らぬ間に、彼らの車体からは両側の壁に向けてワイヤーが繋がっていた。慎の極端なハンドル操作に揺さぶられる車体を見事に制御し、車の向きを修正する。

 「ッ・・・!?よかった、何とか立て直した・・・」

 「馬鹿、お前の力じゃねぇよ。こいつらに感謝するんだな」

 そこで初めて、慎は車体と壁を繋いでいるワイヤーの存在に気がついた。物質を透過する能力で車体を通り抜け、彼らが手動でワイヤーを操作していたのだ。

 「さて、俺も迎撃してくっからよ。お前はこいつらのアシストがある内に運転に慣れろ、いいな?」

 「アシストがある内に・・・?ってどういう・・・」

 すると朱影は窓から身を乗り出し、外へと飛び出そうとしていた。

 「なッ何やってるんだ!?落ちたら死ぬぞッ!?」

 「お前らみたいな軟弱な身体なら、な?俺らはこの世界において、身体の作りがちぃとばかし違うらしい。その辺、お前にも心当たりがあんだろ?」

 朱影の言葉の意味が、慎にはすぐに分かった。慎達がWoFの世界で身軽で常識離れした動きが出来るのと同じように、彼らにとってこの世界は、元の世界とは違う異世界。

 慎達の身体にステータスの補正がかかっているように、彼らにも何らかの補正がかかっているのだろう。

 そして、朱影の言っていた慎にも分かるということは即ち、初めて現実世界でミアに出会った時のように、WoFのキャラクターデータを自身に投影するということだ。
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