674 / 1,646
調査の対象
しおりを挟む
「この少年、ヘラルトと言ったか?本当にその名で間違いないのか?」
白獅の口から出た言葉は、慎にとって意外だった。と、いうよりも信じられないといった様子だった。故にそれを聞いた時の慎は、思考の止まったまるで人形のように目を見開いて止まっていた。
「え?あ・・・あぁ、そうだけど・・・。どうして?」
「無いんだよ、彼のデータが。お前が転移しているというWoFの世界のデータベース上に・・・。つまり、存在していないんだ」
「ぇ・・・・・?」
その後に続く言葉が見つからない。頭が真っ白になるとはこういうことなのだろう。僅かな間だが旅を共にし、共に戦い、共に語らった人物、キャラクター、NPC。
今やその存在は不確かだが、確かにシン達はWoFの世界で彼の言葉を聞き、彼と触れ合い、確かにそこに彼はいた。
ではあの時の音や感触とは一体何だったのか。あれらが全て“無かったもの“とは思えなかった。
「これは妙だな・・・。確かに俺達もその少年の存在は、お前の映像データから確認している。だが、それが存在しないとはどういうことだ?」
白獅の言う通り、シン達だけでなく今ここにいる白獅らも、シンの映像データからその目で見ている。存在しない筈はない。
「幾つか候補はあるだろうが、有力なものをあげるのであれば・・・。黒いコートの男が作り出した、あの大穴に飲まれたことで存在ごと消滅してしまったのか。元より“ヘラルト“などという人物など存在していなかったのか。或いはこの映像自体、何者かによって偽造されたものなのか・・・」
彼は“何者か“と言っていたが、恐らくそこに当てはまるのは彼らにとっても慎達にとっても、全ての謎の根源とも言うべき黒いコートの者達のことだろう。
可能性としてゼロではないのが、慎が現実世界に帰って来て唯一出会った部外者である出雲明庵もその候補者に上がるだろう。彼がそのようなことをするとは思えないが、調べておこなければならない事には変わりない。
それに、事件現場にて現実世界に現れている異変について探っていると言うこともあるので、彼が何処まで知っているのか、どうやって探る手段を手に入れたのか。
今後、アサシンギルドにどのように関与するのかも含め、調査しておく必要がある。
「偽造・・・。俺がいない間に俺のデータをいじることが出来るのか!?」
もしそうだとするならばと、考えるだけでゾッとする。これまで自分が過ごした日々や記憶が、知らない何者かに弄られているなど想像もしなければ考えたこともない。
誰かにとって都合のいいようにすげ替えられた世界。もしそれが慎だけではなく、多くの人間を対象としたものならば・・・。だが、そんな不安を払拭するように白獅が続ける。
「いや、それはない。あちらの世界へ行っている間のお前のデータへはアクセス出来ないようだ」
「ようだって・・・。もしかして、試みたのか?」
慎の驚きと心配の入り混じった表情を見ながら、人の知りたいという好奇心は時にして歯止めが効かなくなるものだと、それらしいことを口にしながら白獅は笑った。
「どうやらお前達WoFのユーザーがあちらの世界へ行っている間、そのアクセス権限は本人にのみ有効になっているらしい。当然と言えば当然だな。だが、お前に渡したオーブのように本人とリンクさせたものであれば、外部からの連絡も可能だ」
WoFにログインしているユーザー同士や、運営からのお知らせ等による連絡手段は、システム上設けられているが、現実世界からの呼び出しに関しては、実際気付きづらいところではある。
それを可能にし補助しているのが、白獅のチュルプ・オーブというわけだ。ユーザーを補助しながら、WoFの世界の映像データを収集し、情報を集めている。
彼らが元の世界へ戻るための手がかりも、その研究から現実世界だけでなくWoFの世界にも関係しているかも知れないのだ、
それぞれの世界からやって来たという彼らが一丸となるのも、元の自分の人生を取り戻すためということで合致しているからなのだった。
白獅の口から出た言葉は、慎にとって意外だった。と、いうよりも信じられないといった様子だった。故にそれを聞いた時の慎は、思考の止まったまるで人形のように目を見開いて止まっていた。
「え?あ・・・あぁ、そうだけど・・・。どうして?」
「無いんだよ、彼のデータが。お前が転移しているというWoFの世界のデータベース上に・・・。つまり、存在していないんだ」
「ぇ・・・・・?」
その後に続く言葉が見つからない。頭が真っ白になるとはこういうことなのだろう。僅かな間だが旅を共にし、共に戦い、共に語らった人物、キャラクター、NPC。
今やその存在は不確かだが、確かにシン達はWoFの世界で彼の言葉を聞き、彼と触れ合い、確かにそこに彼はいた。
ではあの時の音や感触とは一体何だったのか。あれらが全て“無かったもの“とは思えなかった。
「これは妙だな・・・。確かに俺達もその少年の存在は、お前の映像データから確認している。だが、それが存在しないとはどういうことだ?」
白獅の言う通り、シン達だけでなく今ここにいる白獅らも、シンの映像データからその目で見ている。存在しない筈はない。
「幾つか候補はあるだろうが、有力なものをあげるのであれば・・・。黒いコートの男が作り出した、あの大穴に飲まれたことで存在ごと消滅してしまったのか。元より“ヘラルト“などという人物など存在していなかったのか。或いはこの映像自体、何者かによって偽造されたものなのか・・・」
彼は“何者か“と言っていたが、恐らくそこに当てはまるのは彼らにとっても慎達にとっても、全ての謎の根源とも言うべき黒いコートの者達のことだろう。
可能性としてゼロではないのが、慎が現実世界に帰って来て唯一出会った部外者である出雲明庵もその候補者に上がるだろう。彼がそのようなことをするとは思えないが、調べておこなければならない事には変わりない。
それに、事件現場にて現実世界に現れている異変について探っていると言うこともあるので、彼が何処まで知っているのか、どうやって探る手段を手に入れたのか。
今後、アサシンギルドにどのように関与するのかも含め、調査しておく必要がある。
「偽造・・・。俺がいない間に俺のデータをいじることが出来るのか!?」
もしそうだとするならばと、考えるだけでゾッとする。これまで自分が過ごした日々や記憶が、知らない何者かに弄られているなど想像もしなければ考えたこともない。
誰かにとって都合のいいようにすげ替えられた世界。もしそれが慎だけではなく、多くの人間を対象としたものならば・・・。だが、そんな不安を払拭するように白獅が続ける。
「いや、それはない。あちらの世界へ行っている間のお前のデータへはアクセス出来ないようだ」
「ようだって・・・。もしかして、試みたのか?」
慎の驚きと心配の入り混じった表情を見ながら、人の知りたいという好奇心は時にして歯止めが効かなくなるものだと、それらしいことを口にしながら白獅は笑った。
「どうやらお前達WoFのユーザーがあちらの世界へ行っている間、そのアクセス権限は本人にのみ有効になっているらしい。当然と言えば当然だな。だが、お前に渡したオーブのように本人とリンクさせたものであれば、外部からの連絡も可能だ」
WoFにログインしているユーザー同士や、運営からのお知らせ等による連絡手段は、システム上設けられているが、現実世界からの呼び出しに関しては、実際気付きづらいところではある。
それを可能にし補助しているのが、白獅のチュルプ・オーブというわけだ。ユーザーを補助しながら、WoFの世界の映像データを収集し、情報を集めている。
彼らが元の世界へ戻るための手がかりも、その研究から現実世界だけでなくWoFの世界にも関係しているかも知れないのだ、
それぞれの世界からやって来たという彼らが一丸となるのも、元の自分の人生を取り戻すためということで合致しているからなのだった。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる