667 / 1,646
祈願の為の礎
しおりを挟む
最初に慎の視界に映し出された光景は、何処かの船の上だった。今の慎にとって、寧ろその景色の方が見慣れた景色になっていた。
周囲からは空気を震わせる大砲の音と、鉄同士が激しくぶつかり合う音が、その時の光景をより鮮明に思い出させる。
船上で戦う者達の格好を思い出すのに、少しばかりの時間がかかった。それほど多くの者達を目にして来たのだ。だが、共に戦ってきた者達の姿を忘れるはずがない。
白獅らアサシンギルドの装置によって蘇るのは、グレイス海賊団と彼女が持つ“アストレアの天秤“を狙うロッシュ海賊団との戦いの光景だった。
グレイス・オマリーは、裁定者という特殊なクラスを保有していた。そのクラスは特定の条件を満たした上に、ロッシュの狙っていた“アストレアの天秤“というアイテムの所持が必要不可欠となる。
条件が厳しいクラスということもあり、通常の上位クラスよりも強力なスキルやステータスを有している。
彼女の場合、どんなに悪条件の中でも裁定者のスキルによりステータスの差や現在の身体状態、周囲の条件などその全てを平等で公平な条件へとすることが出来た。
「ここまでは普通だな」
慎の記憶を映像データへ変換し見ていた朱影が、言葉を漏らす。WoFの世界観や設定、クエストや登場人物などのデータベースへアクセスしていた二人の少年も、これまでの映像内で疑問に思う点はなかったようだった。
対し、ロッシュ・ブラジリアーノは戦闘ではあまりお目にかかることのない珍しいクラスであるパイロットと、シンのアサシンにも近いトレジャーハンターのクラスに就く、ダブルクラスの海賊だった。
彼は後にシン達が戦うことになるロロネーと組み、クラスそのものの未知なる力を引き出す実験を、生きた人間から死体まで、非人道的なことを繰り返し行なっていた。
その結果としてロッシュは、パイロットのスキルで生き物を僅かだが操る術を手に入れる。
「どちらもデータ上にある人物のようだな」
「えぇ、グラン・ヴァーグという港町でのイベントによっては、このロッシュやロロネーという者達に加担するルートもあるようですが・・・」
「偶然、このルートを選んだってわけっスね」
プレイヤーによってクエストの進行内容が異なるマルチストーリーで描かれるWoF。
今回シン達は、グレイスやチン・シーと友好関係を結び、レースへ臨むルートとなった。だが、少年らが言ったようにイベントの選択によっては、ロッシュやロロネーらと手を組み、味方としてグレイスやチン・シーらと戦うルートも存在していた。
しかし、ルートによって難易度は大きく異なり、非人道的な者達や悪事に身を染める者達とのルートは、敵対する者や組織が多くなり非常に困難な道のりとなる。
「だが、このロッシュはデータベースにない能力を身につけていたようだ」
「このパイロットの能力ですね」
「あぁ。パイロットというクラスに“生き物を操縦する“能力なんてものはない。つまり・・・」
白獅と少年達の会話を聞いていた朱影も、興味を示したかのように壁に寄りかかっていたのを止め、映像の方へと歩み寄る。
「これがあっちの世界で言うところの“異変“ってやつか・・・」
「これを調べることで、我々が元の世界へ戻る手掛かりへと繋がるかも知れない。この世界に起きているとされる“異変“は、全てWoFというゲームに関係している。ならば我々の転移にも、何らかの関係があると見て間違いないだろう」
彼らアサシンギルドの者達も、目的は本来あるべき世界へ戻ること。慎達のように別の世界へ行き来できるわけではない彼らは、情報を得るために各地で仲間を探し、WoFのユーザーを保護し戦いを教える。
そして調査員としてWoFの世界へ送り、こうして見てきた光景を映像データとして記録し保存してきた。
中には、命を落としてしまった者達の最期の光景も多くあり、彼らが挑んでいたクエストの一部には、データベースにない異例の事態が起こっていた。
そして今回、慎の映像の中にあった異例の事態にも同じ反応が見て取れる。しかし、慎の見て来た映像にはまだ先があり、これまで以上に貴重なデータを彼らにもたらすこととなる。
周囲からは空気を震わせる大砲の音と、鉄同士が激しくぶつかり合う音が、その時の光景をより鮮明に思い出させる。
船上で戦う者達の格好を思い出すのに、少しばかりの時間がかかった。それほど多くの者達を目にして来たのだ。だが、共に戦ってきた者達の姿を忘れるはずがない。
白獅らアサシンギルドの装置によって蘇るのは、グレイス海賊団と彼女が持つ“アストレアの天秤“を狙うロッシュ海賊団との戦いの光景だった。
グレイス・オマリーは、裁定者という特殊なクラスを保有していた。そのクラスは特定の条件を満たした上に、ロッシュの狙っていた“アストレアの天秤“というアイテムの所持が必要不可欠となる。
条件が厳しいクラスということもあり、通常の上位クラスよりも強力なスキルやステータスを有している。
彼女の場合、どんなに悪条件の中でも裁定者のスキルによりステータスの差や現在の身体状態、周囲の条件などその全てを平等で公平な条件へとすることが出来た。
「ここまでは普通だな」
慎の記憶を映像データへ変換し見ていた朱影が、言葉を漏らす。WoFの世界観や設定、クエストや登場人物などのデータベースへアクセスしていた二人の少年も、これまでの映像内で疑問に思う点はなかったようだった。
対し、ロッシュ・ブラジリアーノは戦闘ではあまりお目にかかることのない珍しいクラスであるパイロットと、シンのアサシンにも近いトレジャーハンターのクラスに就く、ダブルクラスの海賊だった。
彼は後にシン達が戦うことになるロロネーと組み、クラスそのものの未知なる力を引き出す実験を、生きた人間から死体まで、非人道的なことを繰り返し行なっていた。
その結果としてロッシュは、パイロットのスキルで生き物を僅かだが操る術を手に入れる。
「どちらもデータ上にある人物のようだな」
「えぇ、グラン・ヴァーグという港町でのイベントによっては、このロッシュやロロネーという者達に加担するルートもあるようですが・・・」
「偶然、このルートを選んだってわけっスね」
プレイヤーによってクエストの進行内容が異なるマルチストーリーで描かれるWoF。
今回シン達は、グレイスやチン・シーと友好関係を結び、レースへ臨むルートとなった。だが、少年らが言ったようにイベントの選択によっては、ロッシュやロロネーらと手を組み、味方としてグレイスやチン・シーらと戦うルートも存在していた。
しかし、ルートによって難易度は大きく異なり、非人道的な者達や悪事に身を染める者達とのルートは、敵対する者や組織が多くなり非常に困難な道のりとなる。
「だが、このロッシュはデータベースにない能力を身につけていたようだ」
「このパイロットの能力ですね」
「あぁ。パイロットというクラスに“生き物を操縦する“能力なんてものはない。つまり・・・」
白獅と少年達の会話を聞いていた朱影も、興味を示したかのように壁に寄りかかっていたのを止め、映像の方へと歩み寄る。
「これがあっちの世界で言うところの“異変“ってやつか・・・」
「これを調べることで、我々が元の世界へ戻る手掛かりへと繋がるかも知れない。この世界に起きているとされる“異変“は、全てWoFというゲームに関係している。ならば我々の転移にも、何らかの関係があると見て間違いないだろう」
彼らアサシンギルドの者達も、目的は本来あるべき世界へ戻ること。慎達のように別の世界へ行き来できるわけではない彼らは、情報を得るために各地で仲間を探し、WoFのユーザーを保護し戦いを教える。
そして調査員としてWoFの世界へ送り、こうして見てきた光景を映像データとして記録し保存してきた。
中には、命を落としてしまった者達の最期の光景も多くあり、彼らが挑んでいたクエストの一部には、データベースにない異例の事態が起こっていた。
そして今回、慎の映像の中にあった異例の事態にも同じ反応が見て取れる。しかし、慎の見て来た映像にはまだ先があり、これまで以上に貴重なデータを彼らにもたらすこととなる。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」

Free Emblem On-line
ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。
VRMMO『Free Emblem Online』
通称『F.E.O』
自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。
ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。
そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。
なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる