World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
666 / 1,646

記憶への旅・準備

しおりを挟む
 暫く進むと、ガラスの扉を開けた先に開けた場所へと辿り着く。何に使うか分からないような機材が多く設置されており、薄暗い部屋で魔あるで星々のように色とりどりのランプを点灯させていた。

 「ここは・・・?」

 「人の脳内にある記憶や知識をデータ化し抽出したり、ホログラムを用いて簡易的な模型図や設計図を表示したりする場所だ。俺達に尋問は必要ない。直接対象者の記憶を探り、必要なデータをサルベージする」

 「要するに、お前があっちで見て来た映像データをダウンロードするってことだ」

 白獅の小難しい言い回しを、より単純化させて慎に伝える朱影。彼の言う“あっち“とは、WoFの世界のことと見て間違いないだろう。

 白獅の目的を理解した二人の少年は、自ら進んで機材へ近づき、手際よくこれから使うであろう機械を立ち上げていく。パソコンが何かを読み込んでいるような音が、次から次へと重奏曲を奏でる。

 「慎、お前はそこでじっとしているだけでいい」

 そう言うと白獅は、慎の側にあった椅子を引っ張り出すと、背もたれを倒し、真っ直ぐとまでは行かずとも、身体を程よく伸ばし腰掛けられそうな可動式の椅子に寝かせられる。

 慎の身体には、医術や研究などで行われるような装置は取り付けられていない。白獅の言うように、真っさらな状態で背もたれの深く倒れた椅子へと横になる。

 慎の頭上には、彼を見下ろすように何かの機械が腕を伸ばしている。首だけ動かし周りを見渡すと、先程の少年達が機械に向かい忙しなく指を動かしているのが見える。

 反対側では、慎の側で白獅が同じく何かの機械を操作し、それに呼応しているのか、頭上の機械が僅かに反応を示している。

 面識のないメンバーの中で唯一慎に喋りかけた朱影は、特に何をするでもなく壁に寄りかかり、その様子を暇そうに傍観しているだけだった。彼はこの手の作業は専門外なのだろうか。

 そこまで深く考えることでもないかと、慎の意識はすぐそこから逸れた。考えるのは、これから自分の身に起きることだった。

 何もせず、ただ寝てるだけでいいとは言われたが、何か痛みを伴うものなのか。多少WoFの世界で痛覚には慣れたものの、あちらの世界ではステータスという概念が補正をかけている為、実際に感じる痛覚より遥かに和らいでいる。

 感覚的には久々の現実世界である慎は、肌に感じる空気や物に触れる感覚が、妙に敏感で合うように感じていた。今も尚、指を動かせば椅子の感触が通常よりも強く感じる。

 「さぁ、準備ができた。これからWoFで見たお前の記憶を、オーブを使って抽出する」

 「なっなぁ、これって痛みとかは・・・」

 「安心しろ、痛みはない。ただ・・・」

 「えっ・・・ただ?」

 「その時の光景がフラッシュバックする。それが目を背けたい記憶であっても強制的にな・・・。大丈夫か?」

 白獅の言葉に安堵した慎は、みっともないところを晒してしまったと少し後悔した。

 確かに痛い思いや辛い光景は目にしてきたが、精神が壊れるほどの衝撃的な場面はなかった筈と、慎は白獅の質問に僅かに首を縦に振った。

 「大丈夫、やってくれ」

 少し強張った表情を浮かべ天井を見つめる慎を見て、白獅は僅かに口角を上げて笑った。この空気を引っ張り過ぎるのも彼に悪いと、白獅は二人の少年に合図を送り、装置を起動させる。

 すると、慎の頭上にあった機械が動き出し、彼の頭の上へと近づいてくる。そして青い光を放ち慎の頭を照らし始めると、彼の視界は徐々に白い世界へと変わる。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...