World of Fantasia

神代 コウ

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黒いコート

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 突然態度の変わる明庵に、戸惑いを隠せない慎。それを傍観した朱影ら三人も安堵から一転、再び危険な状況へと叩き落とされる。

 このまま慎を確保されては、知っていることや本当のことを全て吐き尽くすまで解放しないといった、強い意志が伝わって来るようだった。

 「チッ・・・!やむを得ねぇ。この世界の人間が一人消えたところで、大した事件にぁならねぇだろ!」

 「それに彼は、仲間達からも変人扱いされるような人ですからね」
 「そいつぁ好都合じゃねぇの!んじゃ早速、バラしてアジトの研究材料にでもなってもらおうか」

 背に腹は変えられない。こうなってしまった以上、最早しのごの言っている場合ではないのだから。

 三人は武器を手に握り、慎を連行しようとする明庵に今にも飛びかかっていこうとしたところで、あるものを目にして踏みとどまる。それは彼らにとっては初めてお目にかかるものだったが、その気配にはどこか馴染みのあるものを感じていた。

 三人の感じた気配は、慎のすぐ後ろから姿を現した。それは蜃気楼のように歪んだ空間から突如現れ、漆黒の衣に身を包んだその者は、深くフードを被り中の様子が伺えない。

 「ッ・・・!?」

 如何やらその何者かの姿は、異界から来た者達や慎達のいう“異変“を見ることの出来ない明庵にさえも、視認できているようだった。

 彼は得体の知れぬその異形の者から、慎を遠ざけようと手を伸ばす。しかし、明庵の手が彼を掴むことはなかった。

 「えっ・・・」

 慎は突如現れた“黒いコート“に身を包んだ何かに引っ張られ、その者が現れた歪んだ空間の中へと消えていったのだ。

 何も分からず、その何者かに気づくこともなかった慎には、如何することも出来なかった。敵と呼ぶべき対象者もおらず、同じ“異変“について悩む謂わば同士のような明庵を前に、慎は完全に油断していた。

 リラックス状態にある身体で、突然強い力で引っ張られたような、そんな感覚だった。バランスを崩した身体を支える一歩を踏み出す間も無く、彼は倒れるように消えたのだ。

 唖然とする明庵と傍観するアサシンギルドの三人。いち早く我にかえり行動に移したのは、明庵だった。彼は自前のドローンをすぐに呼び戻すと、慎と黒いコートに身を包んだ何者かが消えていった場所をスキャンし始める。

 それを見て朱影らも、姿を捉えられる前に身を引いた。ドローンのスキャン範囲から大きく退いた三人は、先程感じた気配について、それぞれが感じたものを口にする。

 「・・・おい、お前ら・・・さっきの・・・」

 「はい・・・。姿は確認出来ませんでしたが・・・」
 「あの気配には覚えがあるんだが・・・?」

 黒いコートの何者かに感じた気配は、彼らにとって馴染みのある気配だった
。ただ、彼らがやって来たという元々の世界のものではなく、慎達や明庵の暮らすこの“現実世界“にやって来てから感じるようになったもの。

 「間違いねぇ・・・。ありゃぁ白獅のモンだぜ」

 朱影の言葉に、確認するように顔を見合わせる二人の少年。互いの表情を見た彼らは、同じ心境であることを読み取る。

 三人とも、あの黒いコートの何者かに感じた気配は一緒だった。アサシンギルドに集まり、共通の目的の為に動き出した時から共にあった白獅の気配と同じだったのだ。

 だが、別のアジトへ仲間達と共に避難している筈の彼が、ここにいる訳がない。忙しく手が離せないというのもあるが、それ以前に朱影らのいるアジトの転送装置は稼働していないのだ。

 助けに駆けつけるとしても、転送装置からみた別アジトとの距離はかけ離れており、とても飛ばしたからといって間に合うような距離ではない。そこに三人は疑問を抱いていた。

 いる筈のない、来れる距離ではないこの事件現場に、転送もなしに白獅が現れるなど誰も想像していない。それに気配だけで、白獅ではないのかも知れない。

 そして、黒いコートの何者かにつれ拐われてしまった慎が、一体どこへ消えたのか分からぬまま、彼らの元へとある人物からメッセージが届く。

 《熱りが冷め次第、こちらへ》

 メッセージの送り先は、彼らの話題の渦中にあった白獅からだった。危機的状況にも関わらず、随分と落ち着いた文面だった。メッセージから何かを読み取るには、あまりに短文ではあったが。

 「おいおい・・・今こっちがどんな状況か分かって言ってんのかぁ?」

 「如何でしょうか・・・。しかし、先程僕が送ったメッセージを読んでいるのであれば、この切羽詰まった状況を読み取れない人ではないと思いますが・・・」
 「まぁ、白獅さんがそう言うならそれでいいんじゃないスかね」

 瑜那の言っていることも一理ある。全く別の世界からやって来たと言うアサシンギルドの面々をまとめ、ここまで上手くやってきた白獅が全く状況を把握していないとは考えづらい。

 やや不安を残しながらも、彼らは明庵の動向を伺いつつ、捜査の手が緩むのを待ち転送装置によって、白獅らの後を追うことにした。
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