661 / 1,646
窮地回避
しおりを挟む
二人が“異変“について語る。だが、朱影らにはそれがイマイチ何なのか分からなかった。慎と明庵の話に出てくる“異変“というワードは抽象的なものであり、アサシンギルドの面々のように最早日常となってしまっている者達にとっては、理解し難いもののようだった。
「アイツらの言う“異変“ってのは何だ?」
「視覚的なことですかねぇ・・・。彼ら・・・特にあの刑事風の男の方は、僕らやアジトのことは分かっていないようですし・・・」
「ん~・・・俺にはよく分からねぇなぁ。つまりどう言う事だ?」
「要は、俺達が起こす出来事が現実に影響を及ぼす事を“異変“っつってるってことか?」
「えぇ、恐らくは・・・」
「ふぅ~ん、面倒くせぇ奴ら」
彼らが再び二人の会話に戻ると、話は明庵の身の上話に入っていた。それほど詳しく話していた訳ではないが、明庵の職業と、その捜査の途中でWoFというゲームに出会い、“異変“を感じるようになっていったのだという。
それについて、妙に興味を持ち始めた慎の反応を見て、明庵が突っ込む。何故そこまでこの話題に食いついて来るのかと。
慎は僅かに口籠る。自分が置かれている状況を説明すれば、事態は好転するのだろうか。この出雲明庵という男は、本当に信用に足りる者なのか。
彼の意思の中にあったのかは定かではないが、白獅らとの出会いのことやアサシンギルドのことは口にせず、まだ迷っている様子だった。
そこを突くように明庵の問いが突き刺さっていた。このままではいつ口を割るか分からない。慎のもどかしい様子に、朱影の武器を握る手に力が入る。
すると、慎の開こうとした口を止めるように、彼の前にメッセージの表示が現れる。
その表示は、慎と明庵の二人の様子を伺っていた朱影ら三人にも、慎に対し誰かからメッセージが送られたであろうことが、すぐに見てとれた。
それを見た三人は目を丸くし、互いに顔を見合わせて、まるで何かを確認するかのように表情を変える。声は出さない。未だに周囲にいる明庵のドローンに音声データをスキャンされかねないからだ。
「あ・・・あぁ、いえ・・・俺もその話題のゲームをやってただけでして。特に深い理由はありません」
少しわざとらしくはあったが、慎はどうやらWoFのプレイ中に“異変“に巻き込まれ、現実の世界とWoFの世界を行き来出来る様になったことは口にしなかった。
「・・・そうか。それじゃぁついでだ。君にも彼らと同じ質問をするが、そのゲームをプレイして、私生活に支障をきたしたことはないか?何か・・・ありえないものを見るようになったり、感じるようになったことは?」
「いえ、ゲーム内で流れていた音楽が耳を離れず、VRを接続してなくても脳内再生されるくらいのことはありますが、それはどのゲームや動画なんかを見ていてもあり得るくらいの、取るに足らないことだと思いますが・・・」
上手くかわした様に見えるが、長年多くの犯罪者や容疑者から事情聴取してきた明庵には、慎の僅かな変化が見破られていた。
初めて会話をした時とは違い、急に何か触れられたくないものを隠すように饒舌になったのだ。確かに、事件に巻き込まれ意識を失っていたとするならば、脳の働きが正常に戻るまで少し時間がかかることも考えられる。
だが、慎にその兆候は見られなかった。その上での先程の言動と饒舌。小さな変化ではあるが、明庵にとって決して見過ごせるものではなかった。
「なるほど、そうか。それくらいの話なら、別段珍しい話でもないか」
しかし、明庵は何故かそれを伏せたまま、敢えて慎を泳がせるような言葉を続けたのだ。やはり一筋縄ではいかない様子の明庵だったが、それを傍観していた三人にはそこまで深く考察する余裕はなかった。
何者かからのメッセージと共に、慎の様子が変わるのを見た三人は、そのメッセージの送り主が白獅であろうことに気がつき、安堵していたのだ。
「ッぶねぇ~・・・。間一髪ってやつぅ?」
「如何やら僕らの意図が伝わったみたいですね!流石白獅さんです。だから
僕に直接返事を送らず、そのまま彼に送ったという訳ですね」
「なになに?どういう事よ?俺達助かったの?」
未だによく分かっていない様子の宵命の肩を、もう大丈夫だと言わんばかりに軽く数回叩く瑜那。張り詰めていた空気が緩和されたかのように、三人を取り巻いていた緊迫感が取り払われる。しかし・・・。
「さて・・・外では話せない話をいた訳だが。君にはそれとは別件で聴取しなければならないことがある。悪いが一緒に来てもらおう」
「・・・え?」
当然と言えば当然か。調査用ドローンが徘徊する中で、発見されることなく建物内部に取り残されていたのだから。何故、如何やって事件現場にいたのか。建物内にあったカメラと照合しながら事情を聞かなければならないのだろう。
「アイツらの言う“異変“ってのは何だ?」
「視覚的なことですかねぇ・・・。彼ら・・・特にあの刑事風の男の方は、僕らやアジトのことは分かっていないようですし・・・」
「ん~・・・俺にはよく分からねぇなぁ。つまりどう言う事だ?」
「要は、俺達が起こす出来事が現実に影響を及ぼす事を“異変“っつってるってことか?」
「えぇ、恐らくは・・・」
「ふぅ~ん、面倒くせぇ奴ら」
彼らが再び二人の会話に戻ると、話は明庵の身の上話に入っていた。それほど詳しく話していた訳ではないが、明庵の職業と、その捜査の途中でWoFというゲームに出会い、“異変“を感じるようになっていったのだという。
それについて、妙に興味を持ち始めた慎の反応を見て、明庵が突っ込む。何故そこまでこの話題に食いついて来るのかと。
慎は僅かに口籠る。自分が置かれている状況を説明すれば、事態は好転するのだろうか。この出雲明庵という男は、本当に信用に足りる者なのか。
彼の意思の中にあったのかは定かではないが、白獅らとの出会いのことやアサシンギルドのことは口にせず、まだ迷っている様子だった。
そこを突くように明庵の問いが突き刺さっていた。このままではいつ口を割るか分からない。慎のもどかしい様子に、朱影の武器を握る手に力が入る。
すると、慎の開こうとした口を止めるように、彼の前にメッセージの表示が現れる。
その表示は、慎と明庵の二人の様子を伺っていた朱影ら三人にも、慎に対し誰かからメッセージが送られたであろうことが、すぐに見てとれた。
それを見た三人は目を丸くし、互いに顔を見合わせて、まるで何かを確認するかのように表情を変える。声は出さない。未だに周囲にいる明庵のドローンに音声データをスキャンされかねないからだ。
「あ・・・あぁ、いえ・・・俺もその話題のゲームをやってただけでして。特に深い理由はありません」
少しわざとらしくはあったが、慎はどうやらWoFのプレイ中に“異変“に巻き込まれ、現実の世界とWoFの世界を行き来出来る様になったことは口にしなかった。
「・・・そうか。それじゃぁついでだ。君にも彼らと同じ質問をするが、そのゲームをプレイして、私生活に支障をきたしたことはないか?何か・・・ありえないものを見るようになったり、感じるようになったことは?」
「いえ、ゲーム内で流れていた音楽が耳を離れず、VRを接続してなくても脳内再生されるくらいのことはありますが、それはどのゲームや動画なんかを見ていてもあり得るくらいの、取るに足らないことだと思いますが・・・」
上手くかわした様に見えるが、長年多くの犯罪者や容疑者から事情聴取してきた明庵には、慎の僅かな変化が見破られていた。
初めて会話をした時とは違い、急に何か触れられたくないものを隠すように饒舌になったのだ。確かに、事件に巻き込まれ意識を失っていたとするならば、脳の働きが正常に戻るまで少し時間がかかることも考えられる。
だが、慎にその兆候は見られなかった。その上での先程の言動と饒舌。小さな変化ではあるが、明庵にとって決して見過ごせるものではなかった。
「なるほど、そうか。それくらいの話なら、別段珍しい話でもないか」
しかし、明庵は何故かそれを伏せたまま、敢えて慎を泳がせるような言葉を続けたのだ。やはり一筋縄ではいかない様子の明庵だったが、それを傍観していた三人にはそこまで深く考察する余裕はなかった。
何者かからのメッセージと共に、慎の様子が変わるのを見た三人は、そのメッセージの送り主が白獅であろうことに気がつき、安堵していたのだ。
「ッぶねぇ~・・・。間一髪ってやつぅ?」
「如何やら僕らの意図が伝わったみたいですね!流石白獅さんです。だから
僕に直接返事を送らず、そのまま彼に送ったという訳ですね」
「なになに?どういう事よ?俺達助かったの?」
未だによく分かっていない様子の宵命の肩を、もう大丈夫だと言わんばかりに軽く数回叩く瑜那。張り詰めていた空気が緩和されたかのように、三人を取り巻いていた緊迫感が取り払われる。しかし・・・。
「さて・・・外では話せない話をいた訳だが。君にはそれとは別件で聴取しなければならないことがある。悪いが一緒に来てもらおう」
「・・・え?」
当然と言えば当然か。調査用ドローンが徘徊する中で、発見されることなく建物内部に取り残されていたのだから。何故、如何やって事件現場にいたのか。建物内にあったカメラと照合しながら事情を聞かなければならないのだろう。
0
お気に入りに追加
305
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる