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見守る者達
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シンが現実の世界へ戻って来たのとほぼ同時刻。明庵が建物の奥からした物音の原因を探りに向かうよりも先に、朱影ら三人は壁の透過を利用し、先に物音のした部屋へ到着していた。
そこで見たのは、白獅がアジト内を案内していた人物で、WoFという別世界への転移が可能で希少なサンプルでもある麻倉慎という人物だった。
何故このタイミングで彼が戻って来たのかは分からないが、ここで調査に訪れた明庵に身柄を押さえられてしまうのは、彼らにとって非常にマズイことだった。
それというのも慎は現実世界の、それも限られたこのアサシンギルドのアジトが隠されている建物で起きた事件や、今巷で騒がれている殺人や行方不明といった事件のことを何も知らない。
彼にとってまだ未知の部分が多いアサシンギルドの面々よりも、現実世界という同じ世界線に生きている人間の方が、彼にとっても安心でき信頼してしまい易いのも、朱影らにとって大きな問題点になってしまっている。
もし慎が明庵のことを信用してしまい、アサシンギルドのことや転移のこと、その他諸々の事情を正直に話してしまっては厄介なことになる。
明庵が信頼に足りる人物であるかどうか分からない以上、例え世界に起きている“異変“を調べるという共通の目的があったとしても、情報を共有することは出来ない。
「なッ!?どうやって入ったんだ!?アイツぅ!
「朱影さん、何かご存知なんですか!?あの人のことッ!」
二人の少年は慎との面識がなく、見たこともない。故に彼が何者であるかを知らないのだ。大人しい口調の瑜那の方が、これがどういう状況か、少なくとも二人よりは知っているであろう朱影へ問う。
「早く白獅の奴に連絡取らねぇと、マズイ事になんぞ・・・!アイツは白獅の奴が連れてきた、新しいサンプルだ。どこまで理解してんのか知らねぇが、多少なりともこっちの情報を握っちまってる・・・」
「えっ・・・それじゃぁ・・・!」
「あぁ、早く奴と連絡を取らねぇとベラベラ喋っちまうぞ!瑜那ッ、白獅に連絡を入れろッ!お前が連れて来たサンプルが取られちまうぞってよぉッ!」
「わ、分かりましたッ・・・!すぐに・・・」
「やっちまった方が早いんじゃないスか!?」
「馬鹿ッ!サンプルはそんなに多くねぇんだ!そう簡単に殺せるかよ。それにアレは白獅の連れてた奴だ。後で何言われっか分かんねぇぞ!」
慌ただしくアジトを去ったであろう白獅と連絡を取ろうとするも、なかなか返事が返ってこない。アサシンギルドが襲撃されてから、それほど時間も経っていない。
向こうもまだ、それなりに慌ただしくしているのだろう。生存者の確認や負傷者の手当て。追手をシャットアウトするシステムの構築や、別アジトのセーフティシステムの起動、並びに彼らの大々的な移動に伴う周囲への警戒等。
例を挙げればキリが無いだろう。だがそれでも、朱影らの目の前で起きる出来事の重要性を考えれば、優先順位はかなり高い方であることは間違いない。
「だッ・・・駄目です!通じません!」
「メッセージでも何でもいい!この状況を早く奴に知らせろッ!」
瑜那は、自身の身体の前方で右手を左から右へ払うような動作をする。するとそこに、ホログラムのモニターが現れ、次々に文字の羅列が表示されていく。
モニターは瑜那の脳内を参照し、彼の思い浮かべる言葉を文字に起こしていたのだ。白獅へのメッセージを作り上げた瑜那は、すぐにそれを送信する。
彼らの持つ技術には、リンクした人物との思考を通じた対話を可能にする、所謂脳内会話が可能なのだが、通信している間は外部からのスキャニングにヒットしてしまうデメリットもある。
メッセージもスキャンされない訳ではないが、思考のリンクよりかは遥かに短時間で済む。送信時、受信時でしか発生しないためだ。
「送ってはみましたが・・・」
「あぁ、こっちもタイムリミットだ・・・。野郎が部屋に入って来る」
足音と共に通路の先から姿を現した明庵。そして現実世界へ戻ってきた慎と、遂に対面してしまった。
「もう見守るしかねぇ・・・。野郎のドローンに気をつけろ。多分、俺達の存在を探知されちまうからよぉ」
「はい・・・」
「了解・・・」
こうして三人は、姿を消したまま明庵と慎の会話を見守る事になった。朱影は、万が一こちらの重要機密を慎が喋るようであれば、二人とも始末する結果となったとしても致し方無しと、息を呑んでその場面に立ち会うのだった。
そこで見たのは、白獅がアジト内を案内していた人物で、WoFという別世界への転移が可能で希少なサンプルでもある麻倉慎という人物だった。
何故このタイミングで彼が戻って来たのかは分からないが、ここで調査に訪れた明庵に身柄を押さえられてしまうのは、彼らにとって非常にマズイことだった。
それというのも慎は現実世界の、それも限られたこのアサシンギルドのアジトが隠されている建物で起きた事件や、今巷で騒がれている殺人や行方不明といった事件のことを何も知らない。
彼にとってまだ未知の部分が多いアサシンギルドの面々よりも、現実世界という同じ世界線に生きている人間の方が、彼にとっても安心でき信頼してしまい易いのも、朱影らにとって大きな問題点になってしまっている。
もし慎が明庵のことを信用してしまい、アサシンギルドのことや転移のこと、その他諸々の事情を正直に話してしまっては厄介なことになる。
明庵が信頼に足りる人物であるかどうか分からない以上、例え世界に起きている“異変“を調べるという共通の目的があったとしても、情報を共有することは出来ない。
「なッ!?どうやって入ったんだ!?アイツぅ!
「朱影さん、何かご存知なんですか!?あの人のことッ!」
二人の少年は慎との面識がなく、見たこともない。故に彼が何者であるかを知らないのだ。大人しい口調の瑜那の方が、これがどういう状況か、少なくとも二人よりは知っているであろう朱影へ問う。
「早く白獅の奴に連絡取らねぇと、マズイ事になんぞ・・・!アイツは白獅の奴が連れてきた、新しいサンプルだ。どこまで理解してんのか知らねぇが、多少なりともこっちの情報を握っちまってる・・・」
「えっ・・・それじゃぁ・・・!」
「あぁ、早く奴と連絡を取らねぇとベラベラ喋っちまうぞ!瑜那ッ、白獅に連絡を入れろッ!お前が連れて来たサンプルが取られちまうぞってよぉッ!」
「わ、分かりましたッ・・・!すぐに・・・」
「やっちまった方が早いんじゃないスか!?」
「馬鹿ッ!サンプルはそんなに多くねぇんだ!そう簡単に殺せるかよ。それにアレは白獅の連れてた奴だ。後で何言われっか分かんねぇぞ!」
慌ただしくアジトを去ったであろう白獅と連絡を取ろうとするも、なかなか返事が返ってこない。アサシンギルドが襲撃されてから、それほど時間も経っていない。
向こうもまだ、それなりに慌ただしくしているのだろう。生存者の確認や負傷者の手当て。追手をシャットアウトするシステムの構築や、別アジトのセーフティシステムの起動、並びに彼らの大々的な移動に伴う周囲への警戒等。
例を挙げればキリが無いだろう。だがそれでも、朱影らの目の前で起きる出来事の重要性を考えれば、優先順位はかなり高い方であることは間違いない。
「だッ・・・駄目です!通じません!」
「メッセージでも何でもいい!この状況を早く奴に知らせろッ!」
瑜那は、自身の身体の前方で右手を左から右へ払うような動作をする。するとそこに、ホログラムのモニターが現れ、次々に文字の羅列が表示されていく。
モニターは瑜那の脳内を参照し、彼の思い浮かべる言葉を文字に起こしていたのだ。白獅へのメッセージを作り上げた瑜那は、すぐにそれを送信する。
彼らの持つ技術には、リンクした人物との思考を通じた対話を可能にする、所謂脳内会話が可能なのだが、通信している間は外部からのスキャニングにヒットしてしまうデメリットもある。
メッセージもスキャンされない訳ではないが、思考のリンクよりかは遥かに短時間で済む。送信時、受信時でしか発生しないためだ。
「送ってはみましたが・・・」
「あぁ、こっちもタイムリミットだ・・・。野郎が部屋に入って来る」
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「もう見守るしかねぇ・・・。野郎のドローンに気をつけろ。多分、俺達の存在を探知されちまうからよぉ」
「はい・・・」
「了解・・・」
こうして三人は、姿を消したまま明庵と慎の会話を見守る事になった。朱影は、万が一こちらの重要機密を慎が喋るようであれば、二人とも始末する結果となったとしても致し方無しと、息を呑んでその場面に立ち会うのだった。
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