World of Fantasia

神代 コウ

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共通の“異変“

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 明庵が軽い自己紹介を終えると、当然の流れだろうと今度は慎のことについて尋ねる。

 「それで?君のことも少し教えて貰えないか?」

 建物の通路を、慎の体調を気遣いながらゆっくりと歩く明庵。案内されるように慎は彼の後を、何も考えずただ無心で追っていた。

 「え?・・・あぁ、俺は麻倉慎です・・・」

 まだ意識が覚束ないのか、慎の口から語られた情報は自身の名前だけだった。彼を疑っている訳ではない。ただそれだけでは折角の情報源から、何も引き出せない。

 意識が覚束ないのなら、寧ろ好都合だと考えた明庵は、何か隠していることがあるのならうっかり口を滑らせないかと、更に質問を続ける。

 「そうか。では麻倉君、君は何をしている人なんだ?学生か?それとも何か仕事を?」

 明庵の質問に、慎は少し動揺し言葉を詰まらせる。しかし、別にその質問自体に何か隠したいことがある訳ではなかった。ただ、慎は少し言い出し辛かったのだ。

 同年代の者達が学校を卒業し、バリバリと働いている中、自分は高校もろくに卒業することなく、定職に就かないままバイトをしている自分に、後ろめたさを感じていた。

 自分が何をしたいのかも分からず、やりたいことも定まらず、半ば人間不信になってしまった自分が情けなく、また馬鹿にされ見下されるのではないかと、ネガティブになっていた。

 WoFの世界にいる時と、現実世界にいる時とで、慎の態度は大きく違っていた。強くてかっこいい理想の自分でいられるWoFの世界。どこで道を間違えたのか、人に自分を見せるのが惨めで嫌になる現実の世界。

 それは現実の世界でも、より身近な“リアル“を感じた時にハッキリと態度に出てしまう。アサシンギルドの者達や、WoFのモンスター、異形の者達の前では現実を忘れらるが、それら慎の“理想“から外れた一般人の前に出ると、急激に現実に戻されてしまい、彼の中のネガティブが前面に出てくる。

 「・・・フリーターです・・・」

 慎の表情と僅かな態度の変化から、明庵は彼が自分自身に後ろめたさのようなものを感じているのを察した。

 多くの容疑者や被疑者との聴取を重ねてきた明庵には、その経験上から同じような者達を幾人にも見てきた。彼もまた、過去に何らかのトラウマやストレスを抱え、そうなってしまったのだろうと。

 「・・・何も珍しい事じゃない。寧ろ、真っ当に生きているだけマシだよ。今のこの国には、良からぬ知識を身につけ、人を騙し利用することで生きているような奴が蔓延っている・・・。真面に働いているのが馬鹿らしくなるよ。奴らの中には、今も暗闇に潜み、その生き血を啜る輩がごまんといるんだから・・・」

 彼は惨めな自分に気を使ってくれた。そう感じた慎には、彼が悪い人間には思えなくなった。これもまた、騙されやすい人間の特徴なのかもしれないが、心の何処かで自分を理解してくれる人間を求めてしまう。

 心を開き始めた慎は、自分の方から彼に質問し始めた。彼がどんな思いで今の仕事をしているのか、純粋に興味が湧いたのだ。

 「出雲さんは・・・どうして今の仕事を?」

 「そうだな・・・。初めは父の影響だろうな。誠実で馬鹿が付くほど真面目な人だった。家族に心配をかけまいと、家では常に優しく明るかった。でもそれは、私や母のことを考えてのことだったと知った・・・」

 明庵は幼い頃、夜中にトイレへ行こうとしたところ、自室で思い詰めたように悩まされている父の姿を、扉の隙間から見てしまった。当然、それで父への気持ちが変わることはなく、寧ろ自分達の為にしてくれていたことを誇りに思い、同時に心配にもなったのだという。

 幼き頃の話を聞き、慎はまるで明庵が父親のことを、過去の人の話のように語るのが気になった。

 「もしかしてそのお父さんって・・・。それに“初めは“とは一体・・・?それから何かあったんですか?」

 「意識がハッキリしてきたのかな?君もよく聞いていたな・・・。そう、私の父は殉職した・・・。今の私と同じ、サイバー犯罪のエージェントをする中で・・・」

 「じゃぁそれから心境に変化があった・・・と?」

 慎が明庵に尋ねると、彼の表情はゆっくりと変わり、まるで何かを憎むように鋭い目つきへと変わる。そして彼が語ったのは、父親という眩い道標を失い、それを奪った事件への憎悪だった。

 「あぁ・・・。父や母、職場の仲間や私にとっての恩人を殺したサイバー犯罪に対する憎しみが、今の私の原動力といってもいいだろう。そして、犯罪を調べていくうちに、妙なことに気がついた・・・」

 「妙なこと・・・?」

 息を飲み明庵の話を食い入るように聞き入る慎。そして、彼の口から語られたことに、慎は驚きを隠せなかった。

 「事件現場の幾つかに、我々では目視出来ない何か妙なものがあるんだ。誰も信じちゃくれないが、私にはその“異変“が重大な事に繋がっているとしか思えないんだ」
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