World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
650 / 1,646

痕跡を探して

しおりを挟む
 引き続きアジトの捜索を行う三人。通路や各部屋には、争いの後が生々しく残っている。転送装置を使ったとはいえ、無傷での脱出劇とはならなかったようだ。

 所々に血痕が付着している。中には引き摺ったようなものもあり、大きな怪我をしたことが伺える。

 サスキや白獅の報告から、襲撃してきた相手はノイズ一人と思われる。しかし、これだけ色んな場所に痕跡があると、本当に一人の犯行かどうか怪しく思えてくる。

 「なぁ、本当に敵は奴一人だったのかよ?」

 「え?えっと・・・そうですね、報告ではそうなります」
 「でもよぉ、流石にどっかで暴れりゃぁ他の連中だって逃げるか戦うかするだろ?なら、戦闘の痕跡はこんなに散らばらねぇんじゃねぇか?」

 ベルシャーが疑問に思っていたことを、二人の少年の片方が代弁した。そうなってくると、考えられるのはノイズが武器、或いは相棒のように使っていた機械蜘蛛の仕業とも考えられる。

 それに、ノイズは実体の壁やデータによって作られたアジトの床を透過できる能力がある。本人が素早い身のこなしで、片っ端から襲いかかったとも考えられるが、彼の能力を共有する武器や道具も透過できるとなれば話は別だ。

 ベルシャーですら、その気配を察知することができなかったノイズの道具。生物とは違い無機質な存在が故、気配や殺気を読み取るといった技術が通用しない相手。

 それこそ頼りになるのは聴覚や視覚による手段に限られてしまう。その上相手は機械。高性能なカメラやデータによって彼らの温度や微量な音まで聞き分け、先手を打ってくる。

 アサシンギルドのメンバーの中でも、ベルシャーはそういった所謂野生の感が特に働く方だったのでが、それでも至らぬだから相当なものだろう。アジトのあちこちに鋭利なもので抉られたような痕跡もある。

 ベルシャーの見た一機だけでないとするならば、考えられない話でもないだろう。しかし、あれほど高度なものをどこで手に入れたのか。ノイズ本人が作った代物ではなさそうだが。

 「どうだ、お前ら?何かそれらしきモンは見つかったかよ?」

 確かな手がかりを掴めぬまま、三人は最後の部屋へと辿り着く。そこは白獅らが移動に使った転送装置が置かれている場所で、彼らを狙う“敵“が調べるとしたら最も重要視する場所だ。

 「ここまでは何も・・・」
 「そうですね、ここまでは。ただ、相手側もこちらの移動手段には気がついていた筈です。何かしらの痕跡が見つかるとしたら・・・」

 二人も察しているようだった。ここまで見つけられたのは、物理的な痕跡に過ぎない。そこから推測出来るものには限りがある。

 ならば期待できるのは、端末へのアクセスによるデータ上の痕跡だ。目に見える以上の情報を得ることのできる可能性が望める。だが果たして、彼らの期待通りに手掛かりは見つかるのだろうか。

 戦闘であれだけキレのある動きやセンスを見せた男ノイズ。端末へのアクセスは恐らく、あの機械蜘蛛がしている筈。物理的な面は、本人であるノイズが。細かい面やシステム面に関しては、機械蜘蛛が。

 互いの足りない部分を補うように組んでいる、或いは暴走しがちな男を制御するために組まされているのか。

 何にせよ、装置にアクセスし調べれば分かることだ。三人は早速転送装置の端末へアクセスし、アサシンギルドの者ではない誰かが彼らのデータベースへ侵入したどうかを調べ始めた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...