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アサシンの流儀
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僅かに光る建物と建物の間の路地。何か鋭い物によって引き裂かれたのだろうか。粗暴な男は不自然にならないよう、近場の横断歩道を渡り反対側の道へ移動し、路地で何があったのかを見える位置に向かった。
するとそこに見えたのは、耐えものの間を細く鋭いワイヤーのようなものが幾つも張り巡らされており、それが素早く動くことでモンスターを両断していたのだ。
男はその光景に見覚えがあった。場面というよりも、その所業にだ。この世界に転移してから多くの戦いを経験して来た。その中で何度か見てきた、姿の見えない刃。敵のものではない、男と同じアサシンギルドのメンバーによるものだった。
「あれはッ・・・!」
モンスター達に攻撃を察知し、躱すだけの知性はないようだ。細切れになったモンスターの身体から散らばった、先程食べた人間の血肉が飛び散る。その臭いに誘われ、次々にモンスターが路地へと入っていき、一網打尽にされた。
逃げた男は振り返ることもなく、後ろで何が起こっているのかも知らぬまま路地を抜け、別の道へと逃げていった。
地面や壁、そこら中に散らばったモンスターの肉塊と血液は、暫くすると何事もなかったかのようにノイズと共に消えていった。
戦いは行われた。攻め込んで来るなら、ここが最後のチャンスだろう。しかし、周りにはそのような動きをする気配もなければ視線も感じられない。
同じく周りの様子を気にかけていたのだろうか。路地でモンスターを一網打尽にした張本人が、ゆっくりとその姿を現す。
壁同士を繋ぐように張り巡らされていたワイヤーは、緊張の糸が切れたかのように一斉に地面へと垂れ落ちる。モンスターと同じようにノイズと共にワイヤーが消えると、何もなかったかのような風景に戻った路地の影から、二人の少年が現れた。
黒装束を纏った瓜二つの少年達は、それぞれ路地の出入り口から街の様子を覗き込むように確認している。すると、近づいて来る一人の男の姿に気がつく。
「あれ・・・?ベルシャーさん」
「おい、その名で呼ぶなよな」
「だって、こっちの名前の方がしっくりくるんですモン。なぁー?」
「なぁー」
二人の少年は顔を見合わせながら、互いに声を掛け合う。そして、その少年達に“ベルシャー“と呼ばれた粗暴な男。
ベルシャーの名は粗暴な男の本名であり、彼らアサシンギルドのメンバーはそれぞれ、コードネームという形で別の名前が割り振られている。
当然、シンをアサシンギルドへ迎えた“白獅“もコードネームであり、本名ではない。彼らはこちらの世界で、偽りの名を名乗る。それはここでの彼らは、本来在るべき存在ではないことと、各々の散らばった心を少しでもまとめようと、この世界の言葉で当て字を使って偽っている。
当て字を使っているのは、漢字自体は存在しようと、その読み方は存在しないという彼らの存在を示唆しているようだ。
「それよりお前ら、なんでここに?」
ベルジャーと呼ばれる男が二人の少年に尋ねる。男の様子から、少年らがここにいるとは思わなかったというのが窺える。彼らアサシンギルドのメンバー達は、シン達のようなプレイヤーを探すため、手分けして各地を捜索している。
どうやらここは、少年らの担当区域ではなかったようだ。
「巡回を終えたので、アジトに戻る途中だったんです。そしたら・・・」
「そしたら、街で騒ぎになってるのを見かけたので、目標を退治して今に至ります」
彼らは知っていたのか、それともただの偶然か。その戦闘スタイルが功を奏し、身を隠しながらモンスターを討つことができた。結果として、周囲に見張る者はいなかったが、相手に見られることなく獲物を仕留めるアサシンらしい行動が、見事にマッチしたのだ。
「そうか。お前ら、白獅の奴から話は聞いたか?」
「・・・?」
「・・・何のことでしょう?」
二人の反応にベルジャーは少し驚いた。
「最近話題になってる殺人と、行方不明事件のことだ。どうにもその犯人が、俺らのことを探ってるかも知れねぇって話だ」
「なんと!」
「そんなことが・・・」
ベルジャーの思った通り、二人はまだその事を知らなかったようだ。白獅やベルジャー達も、最近になってその疑問を持ち始めたのだ。暫くアジトを離れていた者達が、そういった事情になっている事を知らないのも無理はない。
「だから今後は、無闇矢鱈にモンスター共を狩るのはやめろってよ。要は目立つなって事だ」
二人の少年は目を丸くして驚くと、互いに顔を向き合わせる。すると片方の少年が、分からないといった様子で両手を横に広げながら頭を傾げる。彼らもベルジャーが粗暴で人の話を聞かないということを知っている。
そんな彼が、わざわざ自分達に忠告しに来てくれたことに驚いていたのだ。
「それで?“あの“ベルジャーさんが大人しく従ってるのですか?」
「そんなまさかッ・・・!?」
「朱影しゅえいだ。・・・ったく、生意気なガキ共だ。とっととアジトにッ・・・」
ベルジャーの口にした朱影というのは、白獅のように彼に与えられたこの世界での仮の名前だった。少年らの態度に苛立ちを見せつつも、早くアジトの白獅らに報告しに行くよう促そうとした時だった。
ベルジャーがやって来た方向から、先程のものとは別の大きな爆発音のような音がしたのだ。三人は顔を見合わせると、急ぎ音のした方へと向かった。
するとそこに見えたのは、耐えものの間を細く鋭いワイヤーのようなものが幾つも張り巡らされており、それが素早く動くことでモンスターを両断していたのだ。
男はその光景に見覚えがあった。場面というよりも、その所業にだ。この世界に転移してから多くの戦いを経験して来た。その中で何度か見てきた、姿の見えない刃。敵のものではない、男と同じアサシンギルドのメンバーによるものだった。
「あれはッ・・・!」
モンスター達に攻撃を察知し、躱すだけの知性はないようだ。細切れになったモンスターの身体から散らばった、先程食べた人間の血肉が飛び散る。その臭いに誘われ、次々にモンスターが路地へと入っていき、一網打尽にされた。
逃げた男は振り返ることもなく、後ろで何が起こっているのかも知らぬまま路地を抜け、別の道へと逃げていった。
地面や壁、そこら中に散らばったモンスターの肉塊と血液は、暫くすると何事もなかったかのようにノイズと共に消えていった。
戦いは行われた。攻め込んで来るなら、ここが最後のチャンスだろう。しかし、周りにはそのような動きをする気配もなければ視線も感じられない。
同じく周りの様子を気にかけていたのだろうか。路地でモンスターを一網打尽にした張本人が、ゆっくりとその姿を現す。
壁同士を繋ぐように張り巡らされていたワイヤーは、緊張の糸が切れたかのように一斉に地面へと垂れ落ちる。モンスターと同じようにノイズと共にワイヤーが消えると、何もなかったかのような風景に戻った路地の影から、二人の少年が現れた。
黒装束を纏った瓜二つの少年達は、それぞれ路地の出入り口から街の様子を覗き込むように確認している。すると、近づいて来る一人の男の姿に気がつく。
「あれ・・・?ベルシャーさん」
「おい、その名で呼ぶなよな」
「だって、こっちの名前の方がしっくりくるんですモン。なぁー?」
「なぁー」
二人の少年は顔を見合わせながら、互いに声を掛け合う。そして、その少年達に“ベルシャー“と呼ばれた粗暴な男。
ベルシャーの名は粗暴な男の本名であり、彼らアサシンギルドのメンバーはそれぞれ、コードネームという形で別の名前が割り振られている。
当然、シンをアサシンギルドへ迎えた“白獅“もコードネームであり、本名ではない。彼らはこちらの世界で、偽りの名を名乗る。それはここでの彼らは、本来在るべき存在ではないことと、各々の散らばった心を少しでもまとめようと、この世界の言葉で当て字を使って偽っている。
当て字を使っているのは、漢字自体は存在しようと、その読み方は存在しないという彼らの存在を示唆しているようだ。
「それよりお前ら、なんでここに?」
ベルジャーと呼ばれる男が二人の少年に尋ねる。男の様子から、少年らがここにいるとは思わなかったというのが窺える。彼らアサシンギルドのメンバー達は、シン達のようなプレイヤーを探すため、手分けして各地を捜索している。
どうやらここは、少年らの担当区域ではなかったようだ。
「巡回を終えたので、アジトに戻る途中だったんです。そしたら・・・」
「そしたら、街で騒ぎになってるのを見かけたので、目標を退治して今に至ります」
彼らは知っていたのか、それともただの偶然か。その戦闘スタイルが功を奏し、身を隠しながらモンスターを討つことができた。結果として、周囲に見張る者はいなかったが、相手に見られることなく獲物を仕留めるアサシンらしい行動が、見事にマッチしたのだ。
「そうか。お前ら、白獅の奴から話は聞いたか?」
「・・・?」
「・・・何のことでしょう?」
二人の反応にベルジャーは少し驚いた。
「最近話題になってる殺人と、行方不明事件のことだ。どうにもその犯人が、俺らのことを探ってるかも知れねぇって話だ」
「なんと!」
「そんなことが・・・」
ベルジャーの思った通り、二人はまだその事を知らなかったようだ。白獅やベルジャー達も、最近になってその疑問を持ち始めたのだ。暫くアジトを離れていた者達が、そういった事情になっている事を知らないのも無理はない。
「だから今後は、無闇矢鱈にモンスター共を狩るのはやめろってよ。要は目立つなって事だ」
二人の少年は目を丸くして驚くと、互いに顔を向き合わせる。すると片方の少年が、分からないといった様子で両手を横に広げながら頭を傾げる。彼らもベルジャーが粗暴で人の話を聞かないということを知っている。
そんな彼が、わざわざ自分達に忠告しに来てくれたことに驚いていたのだ。
「それで?“あの“ベルジャーさんが大人しく従ってるのですか?」
「そんなまさかッ・・・!?」
「朱影しゅえいだ。・・・ったく、生意気なガキ共だ。とっととアジトにッ・・・」
ベルジャーの口にした朱影というのは、白獅のように彼に与えられたこの世界での仮の名前だった。少年らの態度に苛立ちを見せつつも、早くアジトの白獅らに報告しに行くよう促そうとした時だった。
ベルジャーがやって来た方向から、先程のものとは別の大きな爆発音のような音がしたのだ。三人は顔を見合わせると、急ぎ音のした方へと向かった。
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