World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
645 / 1,646

アサシンの流儀

しおりを挟む
 僅かに光る建物と建物の間の路地。何か鋭い物によって引き裂かれたのだろうか。粗暴な男は不自然にならないよう、近場の横断歩道を渡り反対側の道へ移動し、路地で何があったのかを見える位置に向かった。

 するとそこに見えたのは、耐えものの間を細く鋭いワイヤーのようなものが幾つも張り巡らされており、それが素早く動くことでモンスターを両断していたのだ。

 男はその光景に見覚えがあった。場面というよりも、その所業にだ。この世界に転移してから多くの戦いを経験して来た。その中で何度か見てきた、姿の見えない刃。敵のものではない、男と同じアサシンギルドのメンバーによるものだった。

 「あれはッ・・・!」

 モンスター達に攻撃を察知し、躱すだけの知性はないようだ。細切れになったモンスターの身体から散らばった、先程食べた人間の血肉が飛び散る。その臭いに誘われ、次々にモンスターが路地へと入っていき、一網打尽にされた。

 逃げた男は振り返ることもなく、後ろで何が起こっているのかも知らぬまま路地を抜け、別の道へと逃げていった。

 地面や壁、そこら中に散らばったモンスターの肉塊と血液は、暫くすると何事もなかったかのようにノイズと共に消えていった。

 戦いは行われた。攻め込んで来るなら、ここが最後のチャンスだろう。しかし、周りにはそのような動きをする気配もなければ視線も感じられない。

 同じく周りの様子を気にかけていたのだろうか。路地でモンスターを一網打尽にした張本人が、ゆっくりとその姿を現す。

 壁同士を繋ぐように張り巡らされていたワイヤーは、緊張の糸が切れたかのように一斉に地面へと垂れ落ちる。モンスターと同じようにノイズと共にワイヤーが消えると、何もなかったかのような風景に戻った路地の影から、二人の少年が現れた。

 黒装束を纏った瓜二つの少年達は、それぞれ路地の出入り口から街の様子を覗き込むように確認している。すると、近づいて来る一人の男の姿に気がつく。

 「あれ・・・?ベルシャーさん」

 「おい、その名で呼ぶなよな」

 「だって、こっちの名前の方がしっくりくるんですモン。なぁー?」
 「なぁー」

 二人の少年は顔を見合わせながら、互いに声を掛け合う。そして、その少年達に“ベルシャー“と呼ばれた粗暴な男。

 ベルシャーの名は粗暴な男の本名であり、彼らアサシンギルドのメンバーはそれぞれ、コードネームという形で別の名前が割り振られている。

 当然、シンをアサシンギルドへ迎えた“白獅“もコードネームであり、本名ではない。彼らはこちらの世界で、偽りの名を名乗る。それはここでの彼らは、本来在るべき存在ではないことと、各々の散らばった心を少しでもまとめようと、この世界の言葉で当て字を使って偽っている。

 当て字を使っているのは、漢字自体は存在しようと、その読み方は存在しないという彼らの存在を示唆しているようだ。

 「それよりお前ら、なんでここに?」

 ベルジャーと呼ばれる男が二人の少年に尋ねる。男の様子から、少年らがここにいるとは思わなかったというのが窺える。彼らアサシンギルドのメンバー達は、シン達のようなプレイヤーを探すため、手分けして各地を捜索している。

 どうやらここは、少年らの担当区域ではなかったようだ。

 「巡回を終えたので、アジトに戻る途中だったんです。そしたら・・・」
 「そしたら、街で騒ぎになってるのを見かけたので、目標を退治して今に至ります」

 彼らは知っていたのか、それともただの偶然か。その戦闘スタイルが功を奏し、身を隠しながらモンスターを討つことができた。結果として、周囲に見張る者はいなかったが、相手に見られることなく獲物を仕留めるアサシンらしい行動が、見事にマッチしたのだ。

 「そうか。お前ら、白獅の奴から話は聞いたか?」

 「・・・?」
 「・・・何のことでしょう?」

 二人の反応にベルジャーは少し驚いた。

 「最近話題になってる殺人と、行方不明事件のことだ。どうにもその犯人が、俺らのことを探ってるかも知れねぇって話だ」

 「なんと!」
 「そんなことが・・・」

 ベルジャーの思った通り、二人はまだその事を知らなかったようだ。白獅やベルジャー達も、最近になってその疑問を持ち始めたのだ。暫くアジトを離れていた者達が、そういった事情になっている事を知らないのも無理はない。

 「だから今後は、無闇矢鱈にモンスター共を狩るのはやめろってよ。要は目立つなって事だ」

 二人の少年は目を丸くして驚くと、互いに顔を向き合わせる。すると片方の少年が、分からないといった様子で両手を横に広げながら頭を傾げる。彼らもベルジャーが粗暴で人の話を聞かないということを知っている。

 そんな彼が、わざわざ自分達に忠告しに来てくれたことに驚いていたのだ。

 「それで?“あの“ベルジャーさんが大人しく従ってるのですか?」
 「そんなまさかッ・・・!?」

 「朱影しゅえいだ。・・・ったく、生意気なガキ共だ。とっととアジトにッ・・・」

 ベルジャーの口にした朱影というのは、白獅のように彼に与えられたこの世界での仮の名前だった。少年らの態度に苛立ちを見せつつも、早くアジトの白獅らに報告しに行くよう促そうとした時だった。

 ベルジャーがやって来た方向から、先程のものとは別の大きな爆発音のような音がしたのだ。三人は顔を見合わせると、急ぎ音のした方へと向かった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

未熟な最強者の逆転ゲーム

tarakomax
ファンタジー
過労死したサラリーマンが転生したのは、魔法と貴族が支配する異世界。 のんびり暮らすはずだったアーサーは、前世の知識でスローライフを満喫……するはずだった。 だが、彼が生み出した「ある商品」が、世界を揺るがすことになる。 さらに、毎日襲いかかる異様な眠気――その正体は、この世界の"禁忌"に触れる力だった!? そして彼が挑むのは、 "魔法を使ったイカサマ" に立ち向かう命がけの心理戦! ババ抜き、人狼、脱出ゲーム…… "運" すら操る者たちの「見えない嘘」を暴き、生き残れ!! スローライフ? そんなものは幻想だ!! 「勝たなきゃ、生き残れない。」 知略で運命を覆せ! これは、未熟な最強者が"逆転"に賭ける物語――!

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

処理中です...