639 / 1,646
少年の行方
しおりを挟む
街を歩く二人の男。レースで壮絶なトップ争いを繰り広げた二人は、まるで戦友のような関係になっていた。レースの時は順位を競って戦う敵ではあったが、前例のない出来事を力を合わせて乗り越えたことによって、エイヴリー海賊団からも決して悪くない評価を得た。
彼と繁華街を歩く中でシンは、もう一つ確認して起きたいことを思い出した。
それは、画家の少年ヘラルト・ドゥの存在だった。しかし、シンは彼の最後を見送った張本人。レイド戦にて、巨大な獣こと神獣リヴァイアサンとの決戦にて、その背中に乗り込んだシンを助けるべく馳せ参じたヘラルトは、彼と共にリヴァイアサンへ飛び乗り、背中の異変を調査。
しかし、黒いコートの男によって残された呪いのような装置は、世界を旅して周り様々な書物を読み漁ったであろうヘラルトでも見たことがなく、その文字の羅列を解読することは出来なかった。
異変に関与していると思われる、黒いコートの男達に関する手掛かりだったが、決死の行動も虚しくそこから何かを得ることは出来なかった。
それどころか、呪いの範囲が拡大し退避しようとしたところ、その速度を超えられず飲み込まれそうになってしまう。
シンとヘラルト、そしてミアの精霊ウンディーネは全滅を覚悟した。だが、ヘラルトの命がけの行動がシンの命を繋げた。
少年は黒々と広がる漆黒の呪いの中に飲み込まれていき、その後少年の姿を見ることはなかった。彼が何故そこまでしてシンのことを助けてくれたのか。だが、彼がまだ死んだとは断定できない。
リヴァイアサンに呪いをかけ、大幅な弱体化を施した黒いコートの男は、リヴァイアサンを始末するのではなく、在るべき場所へ帰すと言っていた。
つまり、リヴァイアサンの背中に広がった漆黒の穴は、神獣を殺す為のものではなく、何処かへ送るためのものだった可能性もある。
そうであれば、ヘラルトがまだ生きていると考えることも出来る。それにもう一つ、シン達がレースへ参加するきっかけとなった物。
このWoFの世界ではない、何処か別の異世界へと通じる転移ポータルを作り出すアイテム。幸か不幸か、そのアイテムもまた、何故かリヴァイアサンの元にあり少年と同じく穴の中へと飲み込まれていった。
黒いコートの男達を探る上で重要な手掛かりになるかも知れなかった代物だが、この世界の悪人であるロッシュやロロネーのような者達の手に渡るよりか、消失の現場を目撃できたことはシン達にとって幸運だったのかも知れない。
ヘラルトは死んだのではない。何処かへ消えただけかも知れない。或いは既にエイヴリー海賊団の元に戻っているかも知れないと思ったシンは、そのことをマクシムに尋ねた。
「なぁ、ヘラルトのことなんだが・・・」
シンが話を切り出すと、マクシムは少し視線を落とした。その反応だけで、何となくシンにはマクシムが口にしようとしていることが分かったような気がした。
あぁ、彼はやっぱり戻っていないのかと。シンの想像を確かなものにするかのように、マクシムは口を開きヘラルトについて語る。
「アイツは・・・戻ってこなかったよ。短い付き合いだったけどよぉ。ガキの癖に物分かりが良く、頭の切れる奴でもあった。きっと旅の途中で、いろんなモンを見て来たんだろうなぁ。それこそ、ガキが知らなくていい世の中の汚ねぇモンとかをさ・・・」
マクシムの言う通り、グラン・ヴァーグの街まで旅路を共にしていた時も、ただの子供のようには思えない落ち着きと、世間を渡り歩いていけるような言葉選びの上手さのようなものがあった。
故郷にいる友のために、世界の景色を見て回っていると言っていたが、その故郷の者達はそこを出られない訳でもあるのだろうか。何故ヘラルトにそのようなことを託したのか。当人である彼がいなくなってしまった以上、確かめる術はもうない。
「そうか、やっぱり・・・」
「アンタ達は確か、アイツがウチの海賊団に来る前に一緒だったんだろ?」
「あぁ、でもグラン・ヴァーグの街に向かうまでの間だけだったけど・・・。確かに、子供っぽくなかったな」
ヘラルトとの出会いのことを思い出しても、子供が一人で世界を見て周るなど、シン達のいた現実世界ではあり得ないことだ。そこからも彼の大人びた様子が窺える。何故こうもしっかりしているのだろうと。
「アイツのことは残念だったが、本人も理解し覚悟していたことだ。この世界に足を踏み入れるってことは、命の保証がなくなるってことをよ。海賊なんてやってりゃぁ、身に覚えのねぇことで命を狙われることなんざ、日常茶飯事だ。しっかり脅しはかけてやったつもりなんだがな・・・」
「ヘラルトは頭の回る奴だった。きっと分かっていたと思う」
「・・・だろうな」
すっかりお通夜のような雰囲気が二人の間を取り囲む。それから暫く無言が続いた。マクシムはエイヴリー海賊団が宴を開いている場所にシンを誘うが、彼はこれ以上遅くなってはミア達に心配を掛けると言い、それを断った。
それならせめて、その会場近くまで送るとマクシムは言い、二人は海賊になった経緯やレースに参加した理由などを話しながら、イベントの余韻に浸る煌びやかな街中を歩いた。
彼と繁華街を歩く中でシンは、もう一つ確認して起きたいことを思い出した。
それは、画家の少年ヘラルト・ドゥの存在だった。しかし、シンは彼の最後を見送った張本人。レイド戦にて、巨大な獣こと神獣リヴァイアサンとの決戦にて、その背中に乗り込んだシンを助けるべく馳せ参じたヘラルトは、彼と共にリヴァイアサンへ飛び乗り、背中の異変を調査。
しかし、黒いコートの男によって残された呪いのような装置は、世界を旅して周り様々な書物を読み漁ったであろうヘラルトでも見たことがなく、その文字の羅列を解読することは出来なかった。
異変に関与していると思われる、黒いコートの男達に関する手掛かりだったが、決死の行動も虚しくそこから何かを得ることは出来なかった。
それどころか、呪いの範囲が拡大し退避しようとしたところ、その速度を超えられず飲み込まれそうになってしまう。
シンとヘラルト、そしてミアの精霊ウンディーネは全滅を覚悟した。だが、ヘラルトの命がけの行動がシンの命を繋げた。
少年は黒々と広がる漆黒の呪いの中に飲み込まれていき、その後少年の姿を見ることはなかった。彼が何故そこまでしてシンのことを助けてくれたのか。だが、彼がまだ死んだとは断定できない。
リヴァイアサンに呪いをかけ、大幅な弱体化を施した黒いコートの男は、リヴァイアサンを始末するのではなく、在るべき場所へ帰すと言っていた。
つまり、リヴァイアサンの背中に広がった漆黒の穴は、神獣を殺す為のものではなく、何処かへ送るためのものだった可能性もある。
そうであれば、ヘラルトがまだ生きていると考えることも出来る。それにもう一つ、シン達がレースへ参加するきっかけとなった物。
このWoFの世界ではない、何処か別の異世界へと通じる転移ポータルを作り出すアイテム。幸か不幸か、そのアイテムもまた、何故かリヴァイアサンの元にあり少年と同じく穴の中へと飲み込まれていった。
黒いコートの男達を探る上で重要な手掛かりになるかも知れなかった代物だが、この世界の悪人であるロッシュやロロネーのような者達の手に渡るよりか、消失の現場を目撃できたことはシン達にとって幸運だったのかも知れない。
ヘラルトは死んだのではない。何処かへ消えただけかも知れない。或いは既にエイヴリー海賊団の元に戻っているかも知れないと思ったシンは、そのことをマクシムに尋ねた。
「なぁ、ヘラルトのことなんだが・・・」
シンが話を切り出すと、マクシムは少し視線を落とした。その反応だけで、何となくシンにはマクシムが口にしようとしていることが分かったような気がした。
あぁ、彼はやっぱり戻っていないのかと。シンの想像を確かなものにするかのように、マクシムは口を開きヘラルトについて語る。
「アイツは・・・戻ってこなかったよ。短い付き合いだったけどよぉ。ガキの癖に物分かりが良く、頭の切れる奴でもあった。きっと旅の途中で、いろんなモンを見て来たんだろうなぁ。それこそ、ガキが知らなくていい世の中の汚ねぇモンとかをさ・・・」
マクシムの言う通り、グラン・ヴァーグの街まで旅路を共にしていた時も、ただの子供のようには思えない落ち着きと、世間を渡り歩いていけるような言葉選びの上手さのようなものがあった。
故郷にいる友のために、世界の景色を見て回っていると言っていたが、その故郷の者達はそこを出られない訳でもあるのだろうか。何故ヘラルトにそのようなことを託したのか。当人である彼がいなくなってしまった以上、確かめる術はもうない。
「そうか、やっぱり・・・」
「アンタ達は確か、アイツがウチの海賊団に来る前に一緒だったんだろ?」
「あぁ、でもグラン・ヴァーグの街に向かうまでの間だけだったけど・・・。確かに、子供っぽくなかったな」
ヘラルトとの出会いのことを思い出しても、子供が一人で世界を見て周るなど、シン達のいた現実世界ではあり得ないことだ。そこからも彼の大人びた様子が窺える。何故こうもしっかりしているのだろうと。
「アイツのことは残念だったが、本人も理解し覚悟していたことだ。この世界に足を踏み入れるってことは、命の保証がなくなるってことをよ。海賊なんてやってりゃぁ、身に覚えのねぇことで命を狙われることなんざ、日常茶飯事だ。しっかり脅しはかけてやったつもりなんだがな・・・」
「ヘラルトは頭の回る奴だった。きっと分かっていたと思う」
「・・・だろうな」
すっかりお通夜のような雰囲気が二人の間を取り囲む。それから暫く無言が続いた。マクシムはエイヴリー海賊団が宴を開いている場所にシンを誘うが、彼はこれ以上遅くなってはミア達に心配を掛けると言い、それを断った。
それならせめて、その会場近くまで送るとマクシムは言い、二人は海賊になった経緯やレースに参加した理由などを話しながら、イベントの余韻に浸る煌びやかな街中を歩いた。
0
お気に入りに追加
310
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に飛ばされたら守護霊として八百万の神々も何故か付いてきた。
いけお
ファンタジー
仕事からの帰宅途中に突如足元に出来た穴に落ちて目が覚めるとそこは異世界でした。
元の世界に戻れないと言うので諦めて細々と身の丈に合った生活をして過ごそうと思っていたのに心配性な方々が守護霊として付いてきた所為で静かな暮らしになりそうもありません。
登場してくる神の性格などでツッコミや苦情等出るかと思いますが、こんな神様達が居たっていいじゃないかと大目に見てください。
追記 小説家になろう ツギクル でも投稿しております。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

前代未聞のダンジョンメーカー
黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。
けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。
というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない?
そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。
小説家になろうでも掲載しております。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる