638 / 1,646
報告と再会
しおりを挟む
シー・ギャングの元を離れたシンは、ダラーヒムに見送られながら宴の場を後にした。街は未だに賑やかで、まるで繁華街のような煌びやかな雰囲気と光に包まれている。
他国からも多くの人が押し寄せるイベント事。この時期になると店は時間帯を変え、漁師達は仕事を休みにする。街は眠らなくなるのだという。
シンが街へと消えていくのを静かに見送っているダラーヒム。だが、彼はシンとは交流がない筈。何故街にその姿を消して行くまで、その場に立ち止まり見送っているのか。
「・・・えぇ、何事もなく全員辿り着きました。・・・分かりません。ですが、何者かによって神獣リヴァイアサンの弱体化が謀られたのではないかと・・・。いえ、そのような者がいたようには・・・。それに、彼らがやってのけたようには思えません。・・・はい、分かりました」
ダラーヒムは虚な目をしながら、何者かと話しているようだった。しかし、彼の周りに怪しげな人影など見当たらない。まるで彼にしか見えていないような、空想上の人物に話しかけるかのように、感情もなく淡々と言葉を連ねている。
聞かれては都合の悪いことなのだろうか。小声で周りにいる者達に聞こえぬよう、独り言のようにぶつぶつと報告をしているようだった。
相手側の声は周りには一切聞こえておらず、側から見ても何も不自然には見えていない。何かを思い出しているのだろうくらいにしか見えない。
あまり長くはない報告を終えると、彼の目には再び光が戻り、いつも通りのダラーヒムへとまるで人格が変わったかのように戻る。意識を失っていたのか周囲を見渡し、自分が何をしていたのかを思い出そうとする。
だが、彼の中にあるのはシンを見送ったところまでの記憶だけで、それ以降の独り言を言っていた時の記憶はないようだ。
我に帰ったダラーヒムは、特に気にする素振りもなくキングの元へと戻って行った。
シンが街を歩いていると、意外な人物から声をかけられた。彼とは関わり合いもあったものの、そこまで友好的な関係ではない。だが、シンの方よりも相手側の方が特に彼に対し、恩を感じていた。
「お?アンタは確か、シンじゃないか!」
店の中から出てきた男が、シンを呼び止めるように後ろから声をかける。聞き覚えのある声に振り返ると、そこには共にレースの終盤で戦闘争いを繰り広げたライバルの一人、マクシムが立っていた。
「エイヴリー海賊団のところの。確か名前は・・・」
「マクシムだ。レースん時は随分と世話になったな」
男の言葉に対し、頭を傾げるシン。彼にはそこまで、マクシムを世話した覚えはなかった。それよりも印象深いのは、レース終盤でキングを止めるために共闘しようと声をかけられたことくらいだった。
「助かったぜ。あん時アンタに拾われなかったら、今頃俺はここにはいなかったからな・・・」
「・・・・・?」
「おいおい、忘れちまったのか?レイド戦の時に、俺がどでかい魔物から振り落とされたのを助けてくれたじゃねぇか!」
そこで漸く彼の言っていることを理解したシン。ミアの提案により、リヴァイアサンから落ちてくるマクシムを救出し、恩を着せようというとてもじゃないが本人には言えない事情があったことを隠しながら、シンは話を合わせた。
「あ・・・あぁ、そういえばそんな事も」
「船長からも、よろしく伝えておいてくれって言われてるんだ。そんなに大したことは出来ねぇかも知れないけどよ、何か力になれることがあったら言ってくれよ」
ミアの計画通り、エイヴリー海賊団のマクシムに恩を着せることには成功していたようだ。しかし、シン達もこの街に長居するつもりはない。また別の場所で起きているであろう“異変“について探さなければならない。
かといって、それを彼らに相談する事もできない。そもそも彼らに、異変を認知することが出来るかさえ分からない。
あくまで異変に感じているのは、WoFのゲームをプレイしていたシン達の目線でしかない。本来起こりうるイベントが、全く別のものに変わっていたり、推奨レベルでは到底攻略不可能なモンスターが現れたりと、明らかにクリアさせる気のない難易度になっている。
外の世界からやって来た者達にすれば異常な出来事かも知れないが、ここで生きている者達にすれば、運の悪い巡りあわせ程度にしかならないのかも知れない。
他国からも多くの人が押し寄せるイベント事。この時期になると店は時間帯を変え、漁師達は仕事を休みにする。街は眠らなくなるのだという。
シンが街へと消えていくのを静かに見送っているダラーヒム。だが、彼はシンとは交流がない筈。何故街にその姿を消して行くまで、その場に立ち止まり見送っているのか。
「・・・えぇ、何事もなく全員辿り着きました。・・・分かりません。ですが、何者かによって神獣リヴァイアサンの弱体化が謀られたのではないかと・・・。いえ、そのような者がいたようには・・・。それに、彼らがやってのけたようには思えません。・・・はい、分かりました」
ダラーヒムは虚な目をしながら、何者かと話しているようだった。しかし、彼の周りに怪しげな人影など見当たらない。まるで彼にしか見えていないような、空想上の人物に話しかけるかのように、感情もなく淡々と言葉を連ねている。
聞かれては都合の悪いことなのだろうか。小声で周りにいる者達に聞こえぬよう、独り言のようにぶつぶつと報告をしているようだった。
相手側の声は周りには一切聞こえておらず、側から見ても何も不自然には見えていない。何かを思い出しているのだろうくらいにしか見えない。
あまり長くはない報告を終えると、彼の目には再び光が戻り、いつも通りのダラーヒムへとまるで人格が変わったかのように戻る。意識を失っていたのか周囲を見渡し、自分が何をしていたのかを思い出そうとする。
だが、彼の中にあるのはシンを見送ったところまでの記憶だけで、それ以降の独り言を言っていた時の記憶はないようだ。
我に帰ったダラーヒムは、特に気にする素振りもなくキングの元へと戻って行った。
シンが街を歩いていると、意外な人物から声をかけられた。彼とは関わり合いもあったものの、そこまで友好的な関係ではない。だが、シンの方よりも相手側の方が特に彼に対し、恩を感じていた。
「お?アンタは確か、シンじゃないか!」
店の中から出てきた男が、シンを呼び止めるように後ろから声をかける。聞き覚えのある声に振り返ると、そこには共にレースの終盤で戦闘争いを繰り広げたライバルの一人、マクシムが立っていた。
「エイヴリー海賊団のところの。確か名前は・・・」
「マクシムだ。レースん時は随分と世話になったな」
男の言葉に対し、頭を傾げるシン。彼にはそこまで、マクシムを世話した覚えはなかった。それよりも印象深いのは、レース終盤でキングを止めるために共闘しようと声をかけられたことくらいだった。
「助かったぜ。あん時アンタに拾われなかったら、今頃俺はここにはいなかったからな・・・」
「・・・・・?」
「おいおい、忘れちまったのか?レイド戦の時に、俺がどでかい魔物から振り落とされたのを助けてくれたじゃねぇか!」
そこで漸く彼の言っていることを理解したシン。ミアの提案により、リヴァイアサンから落ちてくるマクシムを救出し、恩を着せようというとてもじゃないが本人には言えない事情があったことを隠しながら、シンは話を合わせた。
「あ・・・あぁ、そういえばそんな事も」
「船長からも、よろしく伝えておいてくれって言われてるんだ。そんなに大したことは出来ねぇかも知れないけどよ、何か力になれることがあったら言ってくれよ」
ミアの計画通り、エイヴリー海賊団のマクシムに恩を着せることには成功していたようだ。しかし、シン達もこの街に長居するつもりはない。また別の場所で起きているであろう“異変“について探さなければならない。
かといって、それを彼らに相談する事もできない。そもそも彼らに、異変を認知することが出来るかさえ分からない。
あくまで異変に感じているのは、WoFのゲームをプレイしていたシン達の目線でしかない。本来起こりうるイベントが、全く別のものに変わっていたり、推奨レベルでは到底攻略不可能なモンスターが現れたりと、明らかにクリアさせる気のない難易度になっている。
外の世界からやって来た者達にすれば異常な出来事かも知れないが、ここで生きている者達にすれば、運の悪い巡りあわせ程度にしかならないのかも知れない。
0
お気に入りに追加
305
あなたにおすすめの小説

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…


クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる